《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月19日:機機相搏つ
◇
GUN!GUN!傭兵団所屬配信者エコー。彼らのきを研究する中で、ルストの記憶に一番強く焼き付いているのはやはりこの人だった。
如何なる銃であっても突撃しながら使いこなし、互いに目があった狀態での撃ち合い……すなわちタイマンの勝率はルストが見た畫の中だけでも実に九割近い勝率を叩き出している。流石に三人以上から狙われた場合は普通にキルを取られている場合も多いが、その時ですら三人中二人をキルしていた、なんてことは珍しくない。
(……あのプレイヤーだけは別格。他がプレイヤースキル的に劣ってるわけじゃないけど………とにかく強い)
大砲が自分を狙っていようが、橫から車が自分を踏みつぶすべく猛スピードで迫っていようが、狙った獲から絶対に目を逸らさない。その恐るべき膽力が1v1における常人離れした勝率を実現している……などと、このイベントに參加する前のルストは推測していたが、実際に相対して分かった。
「……強い」
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余計な理屈など無い、撃った弾丸が必ず相手に當たれば大抵の戦いに勝てる。それを素で実行できるタイプなのだろう。
一瞬見えたエクレアの機。高速機なんて全くできません、といったボールメンであるにしても妙に丸々とした戦機であったが、シャンフロで誰よりも戦機にかぶりつきで取り組んでいると自負しているルストは、その形狀からある程度の能を看破していた。
(……殲顎緋砕(センガクヒサイ)と同じ、限界までブースターの點火時間を絞る代わりに発的な加速力を搭載している)
戦機を1からフルスクラッチで構築する場合、手をれることが出來る要素は多岐にわたる。搭載する武裝やカラーリングは當然の事ながら、基本裝備である裝甲を全て取り除いてフレームをむき出しにすることも可能であり、さらには推進の質や裝甲の材質、果ては演算機まで味することが出來る。
ゲームのいち要素にしては深すぎるコンテンツとしての大きさだ、ルストでさえその全てを理解しているわけではない……が、それが「強さ」を追い求めるものである以上、生態系がピラミッドの形狀となるように上位になればなるほどその數は絞られ、先鋭化するというもの。
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丸っこい裝甲は「伐斬凱青」に用いた流し、弾くためのもの。特徴的なブースターは短距離走に特化したもの、カウボーイのような裝飾は……多分趣味。蔵型の武裝はいくつかあり、だが殆どは外付けの銃火ホルスターに火力依存。
(狙撃をアシストするような機能はついてない、OS側である程度アシストをれているとしても………まさか、腰撃ち(・・・)で狙撃した?)
スコープを覗かず、目視で狙いを定めて撃する。あるいは戦機と同期することで腰撃ちの狀態でもスコープを覗き込んでいる狀態と同様の條件を揃えることは出來る……が、やはり撃勢は狙撃には向いていない不安定なものだ………ただ。
(それが出來る(・・・)なら……)
もしもを想像しつつも、恐らくそれは當たっているのだろうとルストは煙の中で細心の注意を払いながら展開した戦機を纏っていく。
相手はきっとルストの位置を正確に把握している。それは音であったり、煙であったり、あるいは勘であるかもしれない。しかしその上で撃ってこない、考えられる可能は………
(……こっちが出てくるのを待っている。決闘のつもり?)
いや、決闘のつもりなのだろう。なにせエクレアを抜いた他メンバーを翻弄した謎の戦機使いだ、それとのタイマンとなれば大層な取れ高になるだろう。
(程)
そしてそれは、ルストもまたむところだ。力を誇示し、理解させること………それがルストがかに目論んでいたもう一つの目的でもあるのだから。
「……いいよ、けて立つ」
『お?』
「……1v1(タイマン)、けて立つと言った」
『………いいねぇ~、こういう時だからこそノってくれるとありがたいよね~。だってさ~!』
『そりゃありがたい、こっちはもうメンバー半壊してるからな………いやマジで、強すぎるんすよアナタ』
『ま、流石に後ろから刺してタイマンの邪魔はしないさ………遠慮なく本陣を攻めさせてもらうだけだ』
『……なんで俺まだ死んでないんだろうな、先にチョコの奴が死んだし』
ルストもちょっと驚くほどに生き延び続けている左腕の無い戦機(ドーナツ)を始めとして、殘った三人のGUN!GUN!傭兵団のメンバーがルスト達から離れていく。どうやら本當に後ろから不意打ちをするつもりはないようだ。
『さ~て………よーいドンの合図はどうする~?』
「……背中合わせで五歩歩いてからとか?」
『いいねぇ~!』
本當にそのようになった。ただ単純に底抜けの能天気なのか、それともどんな條件だろうと勝つという傲慢か、あるいは…………勝ちも負けも、等しく楽しめるが故の寛容さなのか。
煙の中から”緋”の戦機を纏って現れたルストは、二丁拳銃をわざわざ腰に戻したエクレアの戦機……電撃菓子(エクレア)3號@GGMCと背中合わせに立つ。
それはエクレアが展開している隕鉄の鏡越しにその戦いを見る者達からすれば、隨分と奇妙なものに見えるだろう。見ようによっては満にすら見える青銅のカウボーイと、あまりに巨大な”拳”を備えた緋の拳闘士が背中合わせで早撃ち勝負をしようとしているのだから。
『い~ち』
一歩、進んだ。
「……2」
二歩、進んだ。
『3』
三歩、進んだ。ガゴン、と緋の拳が機巧の音を響かせる。
「4」
四歩、進んだ。ギャリ、と青銅の拍車がかかとで鳴った。
その一拍は、まるで一時間の靜寂にも似て──────
『「5』」
次の瞬間、振り向かずに(・・・・・・)腰部の拳銃を抜き放った青銅の電撃菓子3號@GGMCが真後ろへと発砲した。
「……ッ!!」
だが、全く同じタイミングで全に搭載されたブースターを全力で右回転をすよう噴し、恐るべき加速力と遠心力から放たれた巨大な緋の拳による裏拳が弾丸を橫から毆り飛ばした(・・・・・・)。
『ひゅうッ! やるねぇ~!』
「……曲蕓」
『隠し蕓なんだな~これが!』
今度こそ振り向き、いつの間にかもう一方の手にも握った二丁拳銃を構えた電撃菓子3號@GGMC。
そして、異様な前傾姿勢によるファイティングポーズで拳を構えるRS:◇「殲顎緋砕(センガクヒサイ)」。
最強の侵略者と最強の防衛者。鋼と鋼の一騎打ちが今、撃と打撃の音と共に始まった。
・RS:◇「殲顎緋砕(センガクヒサイ)」
対戦機特化かつ、近接格闘特化というあまりに尖りすぎたコンセプトで製造された拳闘戦機キューブメン。サンラクがネフィリム・ホロウで作ったコーラシアス・ライラックと同様に全にブースターと攻裝甲を搭載しており、攻撃の際にブースターを起することで格闘技の出力を劇的に向上させる。要するに「斃れず、倒す」というあまりにシンプル過ぎる毆り合い上等のタイプメンである。攻撃範囲は2メートルだが程距離は10メートル。理由は10メートル圏であればブースターのフル稼働で2秒以に距離を詰められるため。
あとついでに
・RS:◇「玉石紺攻(ギョクセキコンコウ)」
殲顎緋砕程ではないにせよ、対戦機に特化した撃型キューブメン。外付けの撃武「石」で相手をけん制しつつ、本命となる本搭載の大火力砲「玉」でトドメを刺す、というシンプルながら使い手の技量が問われるコンセプトで設計されている。大火力砲「玉」は背部から腰部にかけて搭載されたレールの上をスライドすることで肩部砲撃と腰部砲撃を可能としており、さらには砲を真後ろに向けることで不意打ちの砲撃も可能とする。
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