《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月19日:屆かぬ高みに手をばすための麗字句

イレベンタル。王國騒が巻き起こす風が吹き荒れる範囲に含まれながらも、激戦區からは離れているが故にそこまでの騒々しさは無い街。そんなイレベンタルに今、二人のプレイヤーがいた。

「ハジメマシテ、でいいのかしら?」

「ええ。直接會うのはこれが初めてですね………アージェンアウルさん」

この邂逅をんだ男がこの邂逅を承諾したへと聲をかける。

それは裏切りの報酬、男はただこの一瞬の為に己が陣営の報を売り渡したのだ。

「私と戦う為だけに々やった、って聞いてるけど?」

「ええ、まぁ………」

男はふ、と苦笑する。自分がこの狀況に至るまでにしたこと………きっとそれは彼の”學”に反する事だろう。あるいはその”學”故に自分のような行いも許容するのか………果たして、眼前のはそれを責めるでもなく、さりとて褒めるでもなくただ何故?とばかりに首を傾げていた。

「ケイと知り合いなんでしょ? だったら普通にプライベートマッチにでもってくれればいいのに」

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至極真っ當な疑問だった。魚臣慧(オイカッツォ)との接點があるというなら、わざわざ非格闘ゲームであるシャングリラ・フロンティアでの1対1をむ必要はない。今最もホットなギャラクシア・ヒーローズ:カオスであれ、その前作であるバーストであれ、格闘ゲームで戦えばいい。

「………GH:Bの日本ランキングを知ってますか?」

「……?ええ、もちろん知ってるわ」

ゲームにおけるレートマッチの戦績ではなく、オフィシャルな大會の戦績に基づいたランキング。何故その話題を出すのか? とさらに疑問符を浮かべるアージェンアウルだったが、男はそれこそが疑問に対する答えなのだとばかりに答えを続ける。

「世界大會の出場條件は日本ランキングベスト8以上………自分の最高戦績は二年前の八位。一回だけギリギリでり込めたのが最後です」

アージェンアウル………あるいは、格闘ゲームプ(シルヴィア・)ロの頂點たる(ゴールドバーグ)は目の前の男……カイソク(改崎速手)の報を思い出す。

改崎(カイサキ) 速手(ハヤテ)。日本で活するプロゲーマー、活種目は格闘ゲーム……その中でも特にギャラクシア・ヒーローズシリーズをメインとしている。活期間は………初代ギャラクシア・ヒーローズである「A(アタック)」の頃には活していたはず、つまり最低でも十年以上はプロゲーマーとして活しているベテランという事だ。そしてその戦績は本人を前に考えるのも々失禮だが、とほんのしだけ息を吐きつつ口を開く。

「そうね、平均(アベレージ)は十位前後……ここ數年は二年前以外だと十一位以降の方が多かったわね」

「ははは………”1”だけ覚えておけばいい貴と違って、結構バラけてるんですが……覚えてもらっていて栄というかなんというか」

だからですかね、とカイソクは深いため息をついた。それは世界最強と名高いプレイヤーに自分の戦績をきっちり記憶されていたことに対する恥じらい以上に……重く積もったものが込められていた。周囲を見渡し、他にプレイヤーがいないことを確かめた上でカイソクはその名を口にした。

「シルヴィア・ゴールドバーグ。貴に憧れない格ゲーマーはいない」

「バッドマナーね、別にいいけど……それはどうも?」

「貴がデビューする以前に、「絶対王者」なんて看板を本気で掲げられる奴はいなかった……まさしく、絶対に勝つヒーローだ」

シルヴィア・ゴールドバーグが本格的にプロゲーミングの世界にデビューした時、「そこで時代が変わった」とまで言われる最強の格闘ゲーマー。

誰もが目指し、手をばした一等星。だが……人の手は無限にびはしない、一等星に手が屆くのは、その近くまで到達できる者だけなのだ。

「誰だって貴とのマッチングを夢見てきた、貴に勝つことを目指してきた。だけどね……やっぱり、越えられない壁ってものは確かにある」

二年前の世界大會、アージェンアウル(シルヴィア)はその容を思い出す。記憶が間違っていなければ、その時自分は目の前の男とは対戦していない。確か……そう、思い出した。

「確か………ええ、そう。貴方は初戦でアメリアと……」

「お恥ずかしながら、コテンパンにされましたよ」

もし決勝まで上がってくるならこの中の誰かだろうと彼が予想していた一人、"宿敵(ライバル)"ならずとも"好敵手(ライバル)"ではあるアメリア・サリヴァンが一回戦で撃破したのが確か彼であったはず。そしてそれはカイソク自が肯定した。

「あるいは、トーナメントで運良く貴と當たることはあるかもしれない。でもそれは……もう、ただの寶くじだろう?」

それに、とカイソクは寂しげな笑みを浮かべた。

「ずっとやってると分かる事もある。自分の全盛期をもうとっくに過ぎた事とか………ね」

それはベテランゲーマーの嘆きだった。全盛の時期を過ぎ、あとはただ衰えゆく事を自覚してしまった事への。

それは避けられない事だ。人は衰える、それは脳とて例外ではない。子から老人まで同じフィジカルを得られる電脳の世界であっても反神経には大きな隔たりがある。

「シャンフロ(ここ)を選んだのは……プロゲーマー改崎速手としての最後のプライド、かな。知り合いのツテがあるからと……誰もが目指した貴への挑戦権を、格闘ゲームで得るのだけは許せない。そんなちっぽけなプライドだ」

千載一遇のチャンスは既に逃した、きっと次は無い。

この対面が知り合いのツテによるただの幸運だとしても、せめて格ゲー以外で。

る程ね」

気持ちは分からないこともない(・・・・・・・・・・)。

故に。

「じゃあ、やりましょうか」

アージェンアウルはカイソクを一切の遠慮なく、手加減なく、徹底的に、完無きまでにぶちのめす事にした。

漢字二文字で済む言葉を長い文章にする天才カイソク

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