《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月19日:奇跡はこの手に

大聖者は命を奪うことが出來ない。

街と街を移するためにはエリアボスを倒す必要がある。

大聖者は必ず徒歩で全ての街を移する必要がある。

一見して、それらをすべて立させることは本的に不可能である。なにせエリアボスの打倒が街と街を徒歩で移する手段である以上、「不殺」を條件とする大聖者とは絶対に噛み合わない。

そしてそれは事実であり、同時に一つ間違いがある。

───大聖者はエリアボスを殺さず超える。

その為の力を、聖者の手(こぶし)は持っている。

「【猛りを諫める手(リモンストレイト)】……効果はシンプル、理攻撃力を減衰させる代わりにスタミナにダメージを與えるエンチャント」

「スタミナ削り……か」

シャングリラ・フロンティアにおいてスタミナパラメータは戦闘に関わる行のほぼ全てに関わっていると言っていい。スキルをメインとして戦う剣士など、その最たるものと言っていい。そんなスタミナパラメータを削る、カイソクはそんなものがあることを初めて知った。

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「なら、それに當たらなければいい……と、言いたいけれど」

「ふふふ、あまり攻撃しなかったのは別に加減していたわけじゃないのよ? ただ………時間が來る(・・・・・)のをちょっと待っていただけ」

カイソクは決してアージェンアウルを侮っていたわけではない。だが、見積もりが甘かった、と言わざるを得ないだろう。

アージェンアウルはシルヴィア・ゴールドバーグであり………彼は全米一(ゼンイチ)である前に、一人の格ゲーマーであり、そして何よりゲーマーである。彼し遂げた偉業、その看板から発せられる偉大なに目が眩むほどにその簡単な事実を人々は視認できなくなる。

シルヴィア・ゴールドバーグとて別にギャラクシア・ヒーローズシリーズ以外のゲームを遊ぶことだってあるし、そのゲームに準じた「最強」を目指すのだ、と言う事。そして何よりも、簡単な事実から”逆算”することもできない。

「シャングリラ・フロンティアは一本先取、それにラウンドにタイムリミットも無い………だったら、最高(MAXボルテージ)のタイミングは何分後でもいいのよ」

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一人のゲーマーであり、対人に秀でた格ゲーマーであり、その中でも全米一(ゼンイチ)という高みに至ったシルヴィア・ゴールドバーグという人が本気でビルドした「アージェンアウル」というキャラクターの強さを。

十中八九宿(・・・・・)命のライバル(・・・・・・)であろう、この世界(ゲーム)最速のプレイヤーに勝つために鍛え上げられた、大聖者の能をカイソクは今この瞬間より存分に思い知ることとなる。

「十五分、【聖者の歴程《ザ・セイント・オブ・レジェンド》】のリキャストタイムが終わる。さぁカイソク! ここからが本番よ、脳のスタミナはまだ殘っているわよね?!」

「っ!」

十五分。人によっては短いとも長いとも言える、だがなくとも十五分間ゲームとはいえ戦闘行を続けてきたカイソクからすれば十分すぎるほどに”長い”と言える時間だ。流石に息切れこそしないが…………ここからがスタートラインだ、と言わんばかりのアージェンアウルを前にすれば僅かに怖気の影が差す。

だが、ここで退けばなんのために戦っていたのか。屆かぬ頂に”ズル”をして手をばしたのだ、なくともカイソクの側から退くことだけは……許されない。誰よりもカイソク自が許せない。

「おおおおおおお!!」

両手の剣を構え、スキルを発していく。スタミナは二割削られているものの、逆に言えばまだ八割は殘っている。そして前衛剣士である以上、スタミナ消費を抑えるスキルは習得済みだ。それらを用いて削られたスタミナを補いつつ、その他のパラメータを強化しながら一歩前へと踏み込む。

(ザ・セイント・オブ・レジェンド? もはや魔法なのかスキルなのかも分からないっ! だが、シルヴィア・ゴールドバーグなら最後に選ぶのは徒手空拳! 剣のレンジを押し付けながらイニシアチブを取る!)

「90秒、ショータイム!」

「なっ………!?」

速い、距離を詰められた、今まで使っていなかったスキル。それらの報を整理して理解するよりも先に、

「Rise(昇) up(れ)!……「シ竜魚里才丁(トウリュウモン)」!」

「ぐ、ぶぁ……!?」

アージェンアウルが突き出した掌がカイソクの顎に突き刺さり、その勢いのままにカイソクのをカチ上げた。

【聖者の歴程《ザ・セイント・オブ・レジェンド》】。大聖者のみが習得可能な魔法であり、自のHPが0になることをトリガーにオート発する究極蘇生魔法【殉神聖誕《アルマ・リザレクション》】と、もう一つ(・・・・)も含めて大聖者のジョブを隠し最上位たり得る能とする三つの柱の一つだ。

大いなる試練の中で巡った十五の巡禮になぞらえ、戦闘開始から十五分という長すぎるリキャストタイムを生き延びることで初めて使用可能となる。

では、十五分……九百秒というともすればその間に決著しかねない長いリキャストを経て、大聖者は一何が可能となるのか。

まず最初に、魔法の発時間はリキャストタイムの十分の一、すなわち九十秒。

次に、効果時間中に発する全自己強化スキル及び自己強化魔法の効果時間経過(タイムカウント)を0にする……すなわち、九十秒間、あらゆる強化バフが永続する。

そして最後に、発者のあらゆる攻撃行によって與えられるダメージの置換。この九十秒間、大聖者の放つあらゆる攻撃はHPを削らず、MPとSTM(・・・・・・)を削る。

ではなく、神を、魂を削る大聖者の奇跡。それを前に戦意を削り切られた者は命はあれど、戦意を喪う。あるいはそれは、”戦う者としての死”を意味すると言っていい。

特殊狀態「調伏(ちょうぶく)」、HPの殘存を無視して対象を「死んだもの」として戦闘を強制終了する。

それこそが奇跡を握る者、大聖者唯一の勝利手段なのだ。

・大聖者

スタミナとMPを削って戦闘の強制終了を狙う超変則特殊勝利ジョブ。原理的には聖杖アスクレピオスと同じでダメージを別のものに置換している。

これだけ書けば凄く強そうに思えるが、當たり前だが【聖者の歴程《ザ・セイント・オブ・レジェンド》】にはデメリットもあり、使用した後は再び十五分のリキャストがるがこれは【聖者の歴程《ザ・セイント・オブ・レジェンド》】の効果適用中に使用したスキル、魔法にも同じだけのリキャストタイムが「加算」される。つまりそれぞれのリキャストタイム+十五分の追加リキャスト。

さらに言えば、「調伏」は確かにHPを削らずに実質的な勝利を得ることができるが、そもそも強いモンスターというのは総じて莫大なスタミナとMPを持っており、それまでHPを削っていた中、いきなり90秒間MPとスタミナを攻撃できるとしてもたった一分半で莫大なMPとスタミナパラメータを削り切るのは相當に困難。

そしてMPとスタミナを同時に攻撃できるのは大聖者くらいであり、パーティを組んだとしても他のプレイヤーは普通にHPを削るので噛み合いが悪い(スタミナとMPを削る、という點だけを出すれば十分貢獻してはいるがバフ強化は自対象のみ)。

大聖者の「調伏」を一番達しやすいのは自のパラメータにステータスポイントを振って自を強化する質上、スタミナとMPに特化するのが難しいプレイヤー相手だが、大聖者というジョブの質上プレイヤーに毆り掛かれば高確率でジョブ剝奪なため、迎撃という名目で武力行使が許容されるプレイヤーキラーや、HPが0になる前に待ったがる闘技大會のような限られた狀況に限られる。

大聖者就職ユニークシナリオを自発したプレイヤーは聖ちゃんから「調伏」の勝利條件を付與され、「聖者の奧」とされるMP削り、スタミナ削りの魔法を習得することができる。

つまり【聖者の歴程《ザ・セイント・オブ・レジェンド》】無しでも大聖者はMPとスタミナのパラメータそのものを削ることはできる、と…………やっぱりぶっ壊れでは?(パーティプレイの場合はトドメが大聖者でなければアウト判定にはならない)

大聖者の設定解説で文字數稼ぎ過ぎたので余計な文字は無しで簡潔に。

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