《シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜》12月19日:艱難真紅にこそ笑う

〆切が

ああ〆切が

〆切が

梨菜

右が盡きれば左を、左が盡きれば右を。隙を曬せば両方を。

機を砕くに充分すぎる火力が恐るべき度で撃ち込まれ続ける。ルストが守勢に回るのにそう時間はかからなかった。

(悔しいけど、殲顎緋砕(センガクヒサイ)じゃ勝ち目が無い……)

兎にも角にもひたすらに相が悪すぎるのだ、こればかりはルストをしてどうしようもない。

『さぁどうするよ〜? 悪いけど、お著替え(・・・・)はさせねぇぜ〜?』

既にルストが複數の戦機を換裝して戦っていることは知られている。故に現在の有利狀況を維持するためにエクレアは隙を作らない、むしろ絶妙に「毆れそうな」位置にあえてを置くことでルストの心理的油斷すらっている。

『……その手には乗らない』

『ありゃ』

ガードの構えで弾丸の猛攻からを守りつつ、どうにか活路を見出すべくルストは思考を巡らせる。

(十秒。最低でも十秒は隙を作る必要がある。戦機を解除した狀態であの弾丸をけたら多分一撃で死ぬ)

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に秀でたステータスであったならばあるいは耐えられるかもしれないが、ルストは戦機をメインの武裝としている都合上、それを剝いでしまえは殘るのは生だけだ。プレイヤー裝備の強化裝甲のみでは弾丸を防げない。

(不甲斐ない)

こうも劣勢に追い込まれたのはひとえにルストの慢心が故だ。敵機が殲顎緋砕(センガクヒサイ)と同系統のコンセプト故に、相が不利になる事は事前に分かっていたはずだ。

ルストは防の構えでエクレアの猛攻を凌ぎながらも周囲に視線を向ける。十秒の隙を生み出すためには周囲にあるオブジェクトを利用しなくては難しい。

(不甲斐ない……)

何もかもがクリーンな、埃一つ立てない戦いなどできはしない。そも、エクレアが放つ弾丸がめり込んだ家屋が數えきれないほど存在する時點で既に街を無傷とする戦いなどというものは破綻している。故に、ルストが戦機を換裝するために家屋を盾にしようと発想するのは自然な事であった。

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(リボルバータイプ、タイプメンの重裝甲にある程度有効打を與えられる威力はある。半端に家屋にっても壁抜きされる)

元より殲顎緋砕(センガクヒサイ)は前のめりな攻めの機、長時間の守勢に向いたカスタムではない。要所を守っていたが故に守りが疎かになっていた肩のパーツが弾丸によって弾け飛ぶ。

タイプメンは戦を羽織る(・・・)変形をするため、外裝の破損は時にプレイヤーへのダメージ貫通以上に戦闘続行に支障をきたす。

既に殲顎緋砕(センガクヒサイ)は"勝てない"から"持ち堪えられない"領域まで追い詰められていることを自覚したルストは、脳をフル回転させながら活路を探す。

(相手もこちらが逃げに転じたいのは理解している。フェイントを仕掛ける? いや、拳一つ分でも距離を空けられたらフェイントは意味をなさない。損傷覚悟で壁をぶち抜いて家屋に逃げ込む?)

ルストは本當は分かっているのだ、この狀況からリスクを最小限にして逃走する方法を。

───急廃裝《エマージェンシーパージ》。

例外なく有人式であるが故に、急時に際して戦ぎ捨てる(・・・・・)事で裝著者を危機から出させる戦機乗りの最終手段。

ルストはロボのロマンについて人並み以上に熱意を持っていると自認している。故に自だとか出力120%だとか、そういった「保全と真逆の破滅的な行」に"華"がある事も理解している。

この狀況から逃れる最も簡単な方法。それは殲顎緋砕(センガクヒサイ)をぎ捨て、距離を稼いだ後に別の戦機……対エクレアに有利なものを選ぶ事。

(不甲斐ない……!)

この戦いにおける勝敗はルスト一人の「結果」だけに留まらない。故にこそ、ルストは勝利を最優先としてかなければならないのだ。

悔しさと、不甲斐なさと、しかしそれでも勝利を考え続ける冷靜さが急廃裝を発させようとした瞬間………

『───……』

ふと、視界の端に赤い輝きを見た。

直前の衝撃がそれの正を伝える、それはエクレアによる撃によって砕け、飛び散った殲顎緋砕(センガクヒサイ)の裝甲片だ。

なんてことはない、既に限界を迎えようとしている殲顎緋砕(センガクヒサイ)の打撃拳がひび割れ、その一部が吹き飛ばされただけのもの。シャングリラ・フロンティアの恐るべきリアリティが描いた損傷の描寫だ。

だが、それはこのギリギリの防の中で目まぐるしく思考を続けていたルストの目には、やけにスローモーションに映った。なんてことはない、ただの金屬片。それが………真紅の、羽のように見えたのだ。

『───ッ!!』

ただそれだけの目の錯覚が、ルストのプライドを灼熱に燃え上がらせた。

瞬間、ルストのきから迷いが消えた。目測のみで狙いをつけたルストの拳が電撃菓子3號@GGMCに突きつけられる。

先程までは電撃菓子3號@GGMCとの相不利故に勝てないから(・・・・・・)使わなかったそれ……推進機構付き出鉄拳(ロケットパンチ)を今は勝つために(・・・・・)使用する。

『飛んできたぁ〜!?』

銃弾並、とは言い難いもののそれでも高速で放たれた鉄拳がエクレアを狙い飛ぶ。だがこの程度の攻撃で戦況を覆せるのならば、もっと早い段階でルストはこれを使っていた。

『當たんないだなこれが~』

ガギン! と飛翔する拳の軌道が不自然にブレる。それは迎撃として放たれた弾丸が拳を穿った音であり、そして度重なる弾丸に対する防によってついには砕け散ってしまった。

だが、

『……々作れたものだから、初志を忘れていた』

ギャリリリ! と地を這う金屬の爬行音が撃直後のエクレアの耳朶を打つ。何が、と思うよりも……そして何が、と視線を向けるよりも”速く”それは電撃菓子3號@GGMCの腳部に巻き付くと、この戦いが終わるまで……あるいはどちらかがこの場より死を以て去るまで決して外れることは無いと言わんばかりに、ガチンと施錠(・・)された。

『……結果として負けるなら、それはそれで良い。結果として勝つならさらに善い』

『おいおい………チェーンデスマッチ(・・・・・・・・・)かよ~!』

電撃菓子3號@GGMCに食らい付いた鎖、直線にびているもう片方の先端は殲顎緋砕(センガクヒサイ)の拳を失った左腕に巻き付いている。

対大型モンスターを想定した捕獲用、あるいは鎖で捕縛した対象との純粋な膂力勝負による行阻害を目的とした戦機裝【施錠縛鎖(ロックチェーン)】。ある規格外武裝を源流とするそれは、しかし今極めてシンプルな用途のために用いられていた。

『……でも。過程で(・・・)負けるのは、この緋に……真紅にかけて許せない』

使ったのなら、を預けたのなら。どれだけボロボロになろうと勝ってから死ね。ましてや勝利のためとはいえ戦いのさなかに乗り捨てるなど………イベントシーンならともかく、自らの意志でそれを選ぶのは言語道斷。そもそも相不利程度で多カスタムした程度の量産品にフルカスタムオーダーメイドの自信作が負けてたまるか。端的に言えばルストはキレた(・・・)。

これまでずっと引き締められていたルストの口の端が、吊り上がる。賢い勝利を捨てて馬鹿な勝利を目指す

、迷いを振り切ったのならばあとは燃え盡きるまで走るだけだ。

『なぁ~にか逆鱗踏んだかな、これは~………』

逃げない(・・・・)。だが、逃がさない(・・・・・)。

左の拳を失い、全に亀裂を走らせながらも殲顎緋砕(センガクヒサイ)と電撃菓子3號@GGMCは鎖で繋がって相対する。

『……木っ端みじんにしてやる』

窮地でこそ笑う。故にこそ、ネフホロ最強の真紅は勝利者であり続けたのだから。

・【施錠縛鎖(ロックチェーン)】

規格外武裝:鋼線型【キープアウト】は帯型の半理魔力構を適宜生することによって攜行及び再展開による継戦力を高めた傑作であったが、高能故に規格外エーテルリアクターを前提としたものであった。

故に、【キープアウト】の設計思想をけ継いだ量産型とでもいうべき【施錠縛鎖】はキープアウトを高コスト化させていた要因である「発の度に帯を新たに生する」という質をオミットした純質の鎖型の武裝となった。

當然【キープアウト】と比較すれば耐久などには劣るものの、量産型の戦機による運用が可能となった事で複數運用による大型敵の捕縛などが可能となった。

とはいえ、【キープアウト】直系の子孫とも言えるこの【施錠縛鎖】の耐久力は並大抵のものではなく、戦機が攜行可能な通常火力で破壊することは難しい。

結構な速度で対象に微ホーミングで飛んでいき、巻き付いた後に自を施錠(・・)するクッソウザい捕縛武裝。外付け武裝なのでルストは拳を飛ばした瞬間に裝著して出した。

「エクレアならただ真っすぐ飛んでくるロケットパンチを回避するのではなく撃墜するだろう」という分析に賭けた起死回生の一手。

というわけでコミカライズ版シャングリラ・フロンティア九巻が発売されました。

表紙は「実はお前そういうじのだったんだ」ことAnimaliaです。実はお前そういうじのだったんだ………まだ拳に相互理解を見出す前の姿ですね、鷲摑む冥府の腕《ハンズ・オブ・タルタロス》も握り拳にしてやろうかなとか思ってたんですけどお前は非実在の実証されていない死の概念が実在して認識されている生命に対して死の側に招こうとしてるけど出力不足でレジストされてるから押さえつけるにとどまってるんだから握り拳にしちゃダメだろって事でねハイ関係ない話ですね省略。

それはそうと、アニメ化とゲーム化というでっけぇ発表が出ましたがそれは大魔導師不二先生の極大魔法畫力によるコミカライズ版があっての事、是非是非皆様お手に取って見てください。

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