《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》1-6:優しい最強
『信徒』とは、神様と人が絆を結ぶこと。
だから僕とソラーナは、しお互いについて話をした。
といっても、僕が語る方が多かったけれど。目覚めたばかりのせいか、ソラーナはし記憶があいまいになっていた。
何より僕は、家族以外の人に話を聞いてもらうことに飢えていたのだと思う。
2年前から僕の話をした。
父さんが死んで家族の暮らしは暗転する。
ギルドで父さんのことを不満に思っていた人達が、僕たちを目の敵にしたからだ。さらには僕の外れスキルと、妹ルゥ――ルイシアの発病。
一生分の災難が一年で降りかかってきたように、暮らしは真っ暗な谷へ転がり込んだ。
僕も稼ぐために々やった。ビラり、ドブ掃除、起こし屋――。
東ダンジョンを保有することになった貴族、ギデオンが僕をパーティーにれてくれた時は、やっとうまくいくと思った。
その頃はまだ、東ダンジョンが貴族の手に落ちてから間もない。僕は『指導してくれる』というギデオンの優しさをあっさりと信じた。でも、そんなうまい話がないことは、僕はで知る。
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貴族が僕をパーティーにれたのは、大嫌いだった父さん、その息子をいたぶるためだった。
さんざんバカにされて、半年もしないうちに追放されて。
それでも最後にギデオンへ請うた。
――治療アイテムを、売って下さい!
妹の病狀が死んでしまうくらい悪かった。ギデオンはその時、レアな回復アイテム『世界樹の霊薬』を持っていた。
萬能薬とも呼ばれる貴族もしがる一品。もっとも貴族の用途はお酒や茶に混ぜる『珍しい調味料』くらいのものらしいけど。
父さんが生きていた頃でも1年分の生活費が溶ける代。ギデオンはそれを倍の値段で僕に売り、すぐに払えない部分は家族で話し合って借金にした。
妹の病狀は一時的にはよくなった。だからギデオンには謝もあるけど、それと暴行や嫌がらせは別のことだと思う。
「その、すごいアイテムでも治らなかったのか?」
僕とソラーナは2階へ移っていた。
神様はふわふわと浮いて妹を覗き込む。
「はい。ソラーナ様は――」
「ソラーナ、でいい」
神様はけろりと言った。
僕たちは苦しんでいるルゥを見守る。
「普通の病気ではないと思う。魔力をじるんだ」
ソラーナは辛そうに目を細めた。
「……かわいそうに。病ではなく、狀態異常。枷がはまっているようなものだ」
魔力による、原因不明の狀態異常。古くは『呪い』と呼ばれていたそうだ。
「古代でも近くに魔が多いとこうなる人がいた。ダンジョンがあるなら、原因の可能があるね」
「でも……」
僕は言葉を飲み込んだ。
なんでルゥだけ?
神様は床に降りて僕を見た。太のようにきらめいた、大きな瞳にさえない僕が映っている。
「リオン、わたしも目覚めたばかりだ。だからこの時代のことは分からない。でも、君は善良で、努力家で、いい子なのだと思う」
神様は自分のに手を置いた。
「君を助けさせてほしい」
僕は混した。まるで語の一ページだ。
父さんから聞いていた英雄譚。何度も読み返した本。
憧れて――でも決して到達できないとわかっていた語の一ページ。
「そしてもしよければ、わたしの……わたしの、信徒になってほしい」
ソラーナが僕にばしてきた手は、真っ白で、本當の神様みたいにって見えた。
いや、この人は本なんだろう。
僕はソラーナの手を取った。なんだか握ってしそうで、寂しそうで、どこかルゥの手に似ていたからかもしれない。
「神様、ルゥを……妹を、助けて。そのためには、僕、なんでもします!」
ソラーナは頷いた。
「手を握ったまま、目を閉じて」
瞼を下した。暗い中にソラーナの聲が響く。
「わたし達の力は、信徒の數と、その絆で強くなる」
ソラーナの手から溫かい力が流れ込んでくる。
「昔話をしよう。かつて、多くの神々がいた。けれども神々は、魔に攻め立てられ世界の終末(ラグナロク)が起きた。わたしの記憶は途中で途切れているが、人も神も健在だということは、わたし達が冥府を撃退したのだろう」
閉じた目の先に、が見える。
僕はいつの間にか夜空を――宙(そら)を見ていたようだ。
燃え盛る太。その向こうに無數の星。
星が次々とつなぎ合わされて、々な形を描き出していく。
巨大な槌。鋭い槍。どこへでもゆける船。魔力がこめられた腕。
「なに……これ……」
「わたしの記憶を見たのかも知れない。人のイメージする神話は、星座の形をしている」
宙を舞臺に、神話は次々と描き出された。
竜を退治した英雄。
世界を覆うほどの蛇を釣り上げた巨神。
彼らはやがて一同に會すると、鳴り響く角笛で緑かな丘陵に集結し、闇と立ち向かうために消えていく。そして世界は封印の氷に包まれた。
「神々は傷ついた。今は、封印の魔法が世界を覆っている。そうだったね?」
「はい……」
僕は、この國――アスガルド王國の神話を思い出した。
封印。神々。
いずれも、キーワードだから。
かつて神々と魔の戦いがあった。最後には神々が勝利したわけだけれど、主神オーディス様は傷ついた神々を封印の眠りにつかせた。
魔もまた、人間に資源を殘すため封じられる。その場所こそ、王都にもあるダンジョンなんだ。
封印が世界を覆う前。
今は迷宮にだけ痕跡を殘す、『大封印時代』の語だ。
「リオン、なにか約束できる?」
「約束?」
「わたしが君と妹に力を使うにあたっては、絆が必要だ。そして神と人の絆を結ぶには、誓(・)い(・)が必要」
強くなれる。
そう思うと、がかっと熱くなった。
貧困。不遇。屈辱。黒い思い出が僕のに押し寄せて、熱になる。
ふと、父さんとの思い出が過ぎった。剣を教えてくれた父さんが最初に教えてくれたのは、攻撃のけ方だった。
たとえ剣を持っていても、それを振るって傷つけるだけじゃ魔と変わらない。攻撃をけ止めて、仲間を守れる防力が実戦では生き殘る訣になるって。
ただ強いだけじゃだめだ。そういう風には、なりたくない。
ルゥを――家族も、守りたいみんなを守れる、溫かい強さがほしかった。
最強だけじゃ、足りない。
「優しい……」
「ん?」
「『優しい最強を目指す』じゃ、ダメですか?」
ソラーナは首を振った。
「君の語(サーガ)は、君のものだ」
かちっと頭で何かがはまるような音がして、太のぬくもりが全を包んだ。
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