《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》1-18:異変の迷宮
救援に辿り著いたとき、魔の群れが男の人を追いかけまわしていた。
「こっちです!」
聲を出して、僕とミアさんで群れを引きける。男の人はこちらに逃げてきた。
「た、助かった!」
「さっさと後ろに下がりなっ」
僕が対峙したのは、コボルトだ。剣筋を読み切る。
「ふっ」
父さんはいなくなったけど、書置きを殘してくれていた。僕に教えた、あるいはその予定だった技の數々がそこにある。もう1年以上、毎日それを見て復習していた。
もちろんスキルが、つまりは能力がなければ無意味な學習。でもそれがになっていた。
<太の加護>で能力が上がっているから。
「ガァ!」
コボルトが剣を旋回させる。
僕自も反対方向に回転。逆手持ちのまま勢いで、相手の剣を弾き返す。
短剣を使った防だ。
攻撃線を外して、コボルトのを短剣で突く。
「リオン、もう一匹がくるよ」
ミアさんがそう告げるときは、僕に任せてもいいと判斷しているとき。
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「はい!」
すぐに振り向き、振り下ろされる剣を避ける。
もう一が來るけれども、こっちは腕で攻撃をブロック。勢いを削いでから、足で思い切りひっかけた。
転倒は一時的な無力化だ。
頭で何度もイメージしたきが、実戦で引き出せてる。まるで開かなかった引出しの鍵が開いたみたいに。
苦戦していた魔の群れも、今の僕なら『黃金の炎』なしで切り抜けられる。
コボルト2にトドメを刺すと、ミアさんも最後の一匹、巨大蟻を斧投げで仕留めていた。
奧に隠れていた冒険者が出てくる。パーティーは組まずに、一人きりみたいだ。
「た、助かったよ」
何度か見たことがある顔。意外そうに目が見開かれる。
「君……起こし屋のリオンか。は、外れスキルって聞いたけど」
ミアさんが鼻白む。
「リオン、おいていくか?」
「ま、待ってくれ。助かった、助かったよ……」
その人は足をさすりながら、散らばった魔石を見つめた。
「あれ、巨大蟻(ジャイアント・アント)だろ……おかしい、ぜったい、おかしい……!」
自分のを抱いて、がたがたと震えている。落ち著いてくるまでは話が聞けないかもしれない。
「……あれ?」
よく見ると頭に紫のが乗っていた。
ミアさんが指さす。
「それ、巨大蟻(ジャイアント・アント)のフェロモンだね。魔が集まってくるわけだ」
「うわっ」
男の人はばたばたと頭を拭い、紫のを落とした。つんとした臭いがする。
「ふ、ふぅ、すまん。落としの罠を、探索層で踏んじまってな」
首を傾げてしまった。
「罠ですか? 1階にそんなのなかったはずですけど……」
「だよな!? おかしいだろ? ダンジョンの難易度が上がったってのは本當だよっ」
どうやら罠で下に落とされたところ、大量の魔に囲まれたようだ。
この人は探索層でよく見かける、採集を専門にしている冒険者。コボルトでも厳しいのに、それが群れとなっては逃げるしかできないだろう。
震える指が、壁にぽっかりと開いたを指す。
「あそこだ……あそこから落ちてきた」
僕は落としの出口に近づいた。
奧はり臺になっていて、上の階層までつながっていそうだ。
ミアさんが顎に手を當てる。
「ふむ、確かに落としの罠だ。巨大蟻(ジャイアント・アント)は西ダンジョンの魔だし、難易度はあがっているな」
ふと、心配になってしまう。
ダンジョンの難易度は明らかに異常だ。稼ぎは増えているけれど、このダンジョンを宛てにしていた、かつての僕のような冒険者は困っているだろう。
「どうして……?」
呟いたとき、ソラーナの聲が聞こえた。
『……リオン』
「ん、なに?」
『近くから、妙な気配がする』
ちょっと辺りを見回してみる。
散らばったままの魔石、そこからし離れた壁際に袋が落ちていた。ドロップアイテムじゃない。冒険者が使う手のひらサイズの袋だ。
口は開いて、黒い、灰のような何かが地面にこぼれている。
『……なんだこれは? ひどく嫌な気配がする』
<目覚まし>を使うと、ソラーナが金貨から飛び出した。人形くらいのサイズで、おまけに僕以外には見えない。注目される心配はないだろう。
「灰に見えるけど」
「うむ、そうだな。だが……何(・)の(・)灰だ?」
ソラーナが袋に近づいた。
「焦げ臭いな……まるで、ついさっきまで燃えていたかのようだ……」
ぴくり、と小さな肩が震える。
「……なんだろう……し、覚えがある。大きな影――巨人、か? 封印の氷が……火を……」
聲をかけようとしたところで、後ろから呼ばれた。
「リオン」
「「うわっ!?」」
ミアさんだ。
2人そろって聲が出る。いや、ソラーナの方は聞こえていないのだろうけど。
地面にあった灰は、まるでもう一度燃え上がるように赤熱して、消える。
「どうしたんだ?」
「いえ……そこに何か落ちてたんです」
ミアさんが袋を拾い上げる。すでに中は空で、灰の正はわからない。
ただ袋は貴族が使うような、見事な絹製だった。
ミアさんは袋をつまんだまま言った。
「落としか……?」
顔を見合わせても仕方がない。
落ちてきた人を上に送り屆けて、僕らはもうしだけ修行をする。
力がついてきた。そんな実がある。
今日もポーチをいっぱいにしてギルドを出ていく僕らを、他の冒険者が呆然と見送っていく。
職人街での換金も済んでしまうと、ミアさんが聞いてきた。
「なぁリオン。ギデオンへのカネはどれくらい借りたんだ?」
いつかは聞かれると思っていた質問。夕焼けが近くなって、だんだんと寒い。
ふぅと息をはいて、ミアさんは頭をかいた。
「実は気になってたんだ。噂にはなってるんだが、一応、本當のところを聞いておきたくてね」
僕はミアさんに耳打ちした。
「400萬ゲントです」
往來で、ミアさんの目が點になる。
「は、はぁあああ~~~??」
「せ、世界樹の霊薬……ええと、買ったアイテムにはそれだけの価値があるんです。どんな病にも効くってコトで、貴族も買いますから」
「へ、平民にそんなカネ要求したのかよ……人の形したオーク、いや悪魔だな……」
結局、ルゥはその薬では治らなかったんだけど。二、三日はよかったけど、すぐにぶり返してしまったのだ。
「よく返せたな……」
「1年間必死で働いて、半分だけは。倹約して、あと家族みんなで働きました……」
それでも、まだ半分近く――150萬ゲントが返済額として殘っている。
たとえ法外でも、不利な取引だと分かっていても、売ってもらえるだけいい。それが僕たち家族の結論だった。
父さんがいなくなった後、家族が欠けるなんてことを繰り返したくなかったんだ。
ルゥ、元気かな――。
「期限は2年で、本當ならまだ1年近く返済に余裕はあります。けど……ギデオンの様子が気になります」
急に返済を迫ってきたり、襲ってきたり。
一応、冒険者ギルドが契約の証人になっている。けど、買い叩きといい、ギデオンの無茶なやり方が目立った。貴族の力がさらに増しているのかもしれない。
「しかし、そりゃ大金だ」
ミアさんが難しい顔で腕を組む。
「鍛冶屋のおやじも霊石がそんなに要らないかもしれないし、別の店も教えてやるよ。貴族に振り回されない、バックがしっかりしてる店は限られてるけどね」
やっぱり、ミアさんに出會えてよかった。
ちらりと不安もよぎる。
あんまり考えないようにしていたけれど、ミアさんは貴族に敵対して、大丈夫なんだろうか?
「ミアさんは……」
「あたしは心配しないで。仮に王都で睨まれても、辺境でやってくさ」
憧れてしまうのは、こういうところだ。王都を飛び出しても、自由に冒険者をやれる。
ミアさんはもともとが辺境の出みたいだ。お金を貯めているのも故郷のため。村を守る木の柵を、石壁に補強する費用を集めているそうだ。
父さんも辺境出であったというし、冒険者の『冒険』という部分をミアさんは知っているのだろう。
「王都の、外か……」
ミアさんと別れ、僕は家路についた。
母さんとルゥが待っている。
斷罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第三章完結)【書籍化、コミカライズ決定】
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