《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》1-24:神話と真実
戦いが終わったせいか、ボスエリアは靜かだ。迷宮の冷たい風が汗まみれのに當たって、ひどく寒い。
僕の目の前にあるのは、なんの変哲もない石壁だった。でもよく見ると、左右にうずまった柱がある。
なにかの門が埋められた――そんな風にも見えた。
『この先から強い魔力をじる』
ソラーナの言葉に、が鳴った。
昨日までだったら思い切って封印解除したかもしれない。でも狼という魔が僕を迷わせた。
能力『封印解除』。
今までは、ソラーナや青水晶の短剣、そして霊のようにいいものばかりが復活していた。
けれど王國の神話を考えると、封印されたものは『いいもの』ばかりではないはずで。オーディス様が封じた過去の悪者だって、まだダンジョンには眠っている。
「どうした、リオン?」
ミアさんが尋ねてきた。アイテム探しが終わったんだろう。
「いえ……」
壁の前で立ちすくんで、一歩もけない。
どうする? 開ける?
ルゥが夢に見て、呪いを再発させた原因。それがこの先に眠っているのかもしれない。他にも無限の可能がある。
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たとえば、ソラーナのような大昔の神様。青水晶の短剣のようなアイテム。
あるいは、狼のような恐ろしい怪。
期待と不安。
ここで引き返したら、次來た時、またさっきの魔と戦うことになる。そんな無駄な危険は冒したくない。けど、でもだからといって――。
僕はぐるぐると思い悩んだ末、選んだ。
「開けるよ、ソラーナ」
たとえ引き返したとしても、いつか戻ってきてこの壁の封印を解くだろう。
家族を自由にするには、リスクがないなんてこと、ありえない。
――――
<スキル:目覚まし>を使用しました。
『封印解除』を実行します。
――――
ダンジョンが目覚める。
全が震え、地鳴りを響かせ、やがて止んだ。
壁にヒビがる。まるで何百年もの老いが一気にきたかのように、石壁が黒ずみ、割れて、背後にあった道をさらけだした。
瓦礫の向こうに開かれた道。
正真正銘、東ダンジョンの未踏エリアだ。
「なんだ、こりゃ」
ミアさんが呆然とり口を見上げた。吹き込む風で赤い髪が揺れている。
「これが僕の力です、ミアさん」
向き直り、スキルについて告げた。
「<目覚まし>は、つまり眠りを覚ますスキル。それは眠っているもの――封印を解くスキルなんです」
ミアさんも僕のスキルについてイメージがわいたようだった。
目をまん丸に見開いて、ぽかんと口を開ける。
「……封印ってのは、ダンジョンの幹の幹だろ。リオン、あんた……」
「それを解けます」
この力がいいものなのか、悪いものなのか。
それさえも確信がなくなってきた。
だから僕は言わないといけない。
「あ、あの。この先は、多分、誰もったことがない場所です。ですからミアさん、もし気が進まないなら……」
「ばか」
ミアさんは片手で僕の頭を叩いた。
「いたっ」
「そんな泣きそうな面でいうな。帰らせようたって、あたしは一緒に行くぞ」
ソラーナも加勢する。
『リオン、今のはわたしも薄だと思うぞ』
「お、あんたとは気が合いそうだね」
『うむ、うむ』
なんだか意気投合してる……。
『さて、リオン。すまないが、わたしを外へ出せるか? 今なら試したいことがある』
「え、でも……」
『封印についていえば、問題ない。今ならば』
スキルを使うと、ポケットの金貨からソラーナが飛び出してきた。
人形サイズのソラーナは、金の髪と腕をきらめかせる。
「うん。やはり、強力な魔を倒したせいか、魔力が辺りに満ちている」
確かに狼を倒したせいか、まだ辺りにはキラキラした輝きが浮かんでいた。これ、ひょっとして魔石にりきらなかった魔力――?
「やっぱり、とんでもない魔だったんだ……」
そのおかげでソラーナは地下深くでもコインの外に出られているみたい。
神様はミアさんに向き直った。
「初めまして、斧士のミア。挨拶が遅れてすまなかった。わたしを助けてくれて、ありがとう」
ミアさんは妖サイズのソラーナに目を點にした。
「さ、さっきの聲か……?」
「そう、太の神、ソラーナだ」
ミアさんはぽつっと言った。
「か、可……」
「ん?」
「な、なんでもない。よろしくな」
ミアさんの手と、ソラーナの小さな手がアンバランスな握手をわす。
僕はごほんと咳払いし、仕切り直した。
「よし、行きましょう!」
その先は燈りがない。
一歩踏み込むだけで溫度が一気に下がったように思えた。寒すぎて匂いもしない。ただ閉ざされた空間特有の、しんと靜まり返ったじがある。
「わたしが先行しよう」
ソラーナがうっすらとって、暗がりを照らしてくれた。
「ありがとう」
ドキドキしながら、僕らは進む。
何百年もずっと閉ざされてきたエリアだ。ダンジョンでは希にこういう場所が見付かる。
やがて、冷気が強まった。耳たぶが痛くなってくる。
ミアさんの息も白い。
「寒いな」
「ええ……」
明るい空間に出る。
一面が氷に覆われた、青く輝くだった。
「すごい……!」
すぐに魔法の氷だとわかった。壁も天井も氷に包まれて、しかも一つ一つが星を閉じ込めたように輝いている。
「こ、こんなでかい氷、初めて見たぞ」
ミアさんも度肝を抜かれたみたいだ。氷自が薄くっていて、燈りが必要なくなるくらい。
僕らは圧倒されながらも足を前に進める。
窟の最奧部に、それは姿を現した。
「ど、銅像?」
明な氷に封じられているのは、2つの巨だった。
片方は炎のような髪を振りして、大槌を掲げている。もう片方は大盾でそれをけ止めようとしていて、狼のような大口はいまにも雄たけびを走らせそうだった。
向かいあう巨大な人型は、太古の人が殘した荒々しい蕓品にも見える。
「像じゃない。本だ」
ソラーナが聲を震わせた。
「知っている。わたしは、この者どもを知っている……!」
金の軌跡を殘して、小さな姿が氷に近づく。
「氷に閉じ込められているのは、神々の一柱。雷神トールだ」
長は2メートルを優に超えるだろう。巨神はそんな長と同じ大きさの槌を振り上げている。波打つ筋は、に山脈が走っているみたい。
「もう一人は、スコル。神々と戦った魔の軍勢、その將だ」
僕は変に思った。正確にいえば、不安に。
スコルと呼ばれた氷漬けの巨人。その後ろにも何かが伺える。
近づいて、ぞっとした。
「これ、魔だ……!」
ワーグ、コボルト、そしてスケルトン。東ダンジョンに今まで現れていた魔のほとんど全種類が、巨神の後ろで氷漬けになっていた。
氷は天井まで覆い、奧にも、さらに地下深くにも繋がっていそうだ。
「ここから、魔が出てきていたのか……」
くミアさんに、ソラーナは空間を一周する。
「狼骨のスコル。そう呼ばれている、魔を束ねた將。わたしの母と信徒たちを倒し、力を吸収した相手でもある。彼が率いた魔達だろう」
2人の決闘者は見上げるほど大きい。
これが現実なんて思えない。
いや、実際に、神話なのか――。
「リオン、神話だと神々の勝利といったね。わたしは、苦戦していたと思い出した。でも……この世界には人が栄えているし、主神もいるから、わたしは最後には魔に打ち勝ったのだと思っていた」
信じていた、とソラーナは言葉を継いだ。
「それでも楽観的だった……」
僕もソラーナと同じ思いだった。
「引き分けってこと?」
その瞬間、狼骨スコルの目がぎょろっといた。
慌てて短剣を抜いて後ずさる。
でも我に返った時、氷の中の將は微だにしていなかった。幻覚、みたいだ。
「どちらも、まだ生きている――大量の魔力を殘して」
ソラーナの言葉に、信徒になった時の景が思い起こされた。
角笛の音とともに神々は魔と戦った。
戦いを呼び覚ます角笛の音が、僕の耳にまだ聞こえているみたい。
「戦いはまだ終わっていない。主神オーディスは、ダンジョンに神々と魔を封じた。その理由は、勝利のためじゃない、負けそうだったからだろう」
「どういう……」
「先延ばしだ。すべてを氷に封印し、決著を1000年か2000年、先延ばしにしたんだ」
僕らがダンジョンで戦う魔は、氷が溶けて抜け出てきた相手ってことだろうか。
「そんな……」
ルゥを治す、そのヒントをもらいにここに來た。
でもこれだけの魔が東ダンジョンに隠されていたなんて。
後ろで足音がして、僕らは振り向いた。
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