《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》1-26:目を覚ませ!
第1層には、どうしてか東ダンジョンの冒険者たちが集まっていた。
出口近くが騒がしい。ギルド付のお姉さんや、他の職員さんの聲がそっちから聞こえてくる。めているのか「出てけ!」とか「るな!」とかの怒鳴り聲も響いてきた。
ギデオンはいきなり剣を抜き放つ。
「リオン、僕と決闘をしろ」
突きつけられる切っ先。周りに取り巻きがゾロゾロと集まってくる。
みんなが僕をニヤニヤと見つめて、見世を楽しむ目つきだ。
「ギデオン……」
思わず『さん』を付け忘れてしまう。
「栄に思うことだ。平民と貴族が、決闘をできるなど、名譽なことだぞ」
ギデオンはこちらを見下ろして、鼻で笑う。
僕は呼吸を落ち著けてまっすぐに問うた。
「どうしてですか?」
あの神話の景を見たからか、それとも狼を倒したからか、今までとは比べものにならないくらい平靜でいられる。
前まではあんなに恐ろしい相手だったのに。
「お前にチャンスをやるんだ」
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ギデオンは切っ先を揺らした。
「決闘で僕に勝てば、今後の返済はナシにしてやろう。いいチャンスじゃないか?」
「……お金のことだったら、きちんと返す」
「信用できんなっ」
ギデオンがひと言を放つたびに、周りでは笑いが起こる。
「お前は外れスキルなんだぞ? たまたま上手くいっているようだが……心は不安なんじゃないか? 本當は目途なんてないんじゃないか?」
僕はミアさんと目線をわしあう。
狼の魔石を見せることにした。
ミアさんがポーチから取り出したのは、高純度の魔石だ。
「それは、なんだ?」
「ボスから手にれた」
「……人狼から? そんな大きなものが?」
僕はできるだけを張った。渉のやり方は、もう學んでいる。
「妹への薬の代価は、完全に返す! だから、決闘なんて必要ないよ」
「くく、なるほど? しかし本當のところをいうとな、もう借金のことなんてどうでもいいんだ」
え、と聲をらしてしまった。ギデオンは立てた親指で後ろを示す。
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「り口は命じて閉じさせてある。僕の命令がなければ誰もダンジョンから出すな、とね」
リオンさん、とり口から聲が聞こえた。やっぱりギルドの人がり口にまで來ているのは、本當みたい。
「お前には、僕と決闘して、そして無殘に負けるしか道はないんだよ」
「僕が負けたら?」
「ふふ、五満足で負けられるとは思わんことだ……だが、こいつに署名してもらおう。強制労働の誓約書――奴隷契約書ともいうがな」
し変に思う。
まるで奴隷にすること自が目的であるような。
ギデオンはやっぱり何かを企んでいる。大嫌いだった父さんの息子へ嫌がらせする――それ以上の思をじた。
「前から気に食わない一家だった」
ギデオンはぽつりと言った。
「ああ、やっぱり気に食わない……特に目だ。単に弱いことを、優しいだのなんだの、化している目だ……」
じゃらり、と金屬音。
ミアさんが前に踏み出した。
「クズだね」
ギデオンを睨み、ばっさりと切り捨てた。
「……前から何かあると思ってたけど、本當のクズってのもいるもんだね。あんた評判ってのを考えないの?」
「ふ! お前がリオンの協力者か、斧貓のミア。スキル<剣豪>のレベル35と、<剣士>や<斧士>のレベル30には絶対の差があることは言っておこう!」
ギデオンは歌い上げるように、言った。
「スキルにはレベル依存で能力が長していくものもあれば、スキルを多く使えば能力が向上するものもある。<剣豪>も<斧士>もレベル依存のスキルだが、レベルに応じて得られる能力の強さも、種類も、<剣豪>が圧倒的に上だ!」
ギデオンが手を振ると、冒険者たちがミアさんを取り囲んだ。僕との合流ができないようにするつもりだ。
「ミアよ、そこで見ていろ」
「嫌だと言ったら?」
「一緒に打ちのめす」
ソラーナの聲が聞こえた。
『リオン、どうする?』
「……考えてる」
不利な狀況。でも不思議なことに、前までじていた怖さが消えていた。
貴族で、強くて、借金という絶対的な弱みを握られていて。
前に出るだけでが強ばって、僕は自分から頭を守るために這いつくばっていた。
でも今の僕は違う。
しずつだけど、強くなっていた。
「ミアさん」
「うん?」
「さっきのボス、強さはレベルどれくらいだったと思いますか?」
「……30から40ってところじゃないか」
ギデオンのレベルが35。
もちろん無策で挑めば慘敗だ。でも、スキルの援護があれば僕は狼とも互角以上に戦えた。
なによりギデオンの雰囲気に、僕はチャンスをじる。戦い、倒すとすれば、今しかない。
「わかった」
一歩前に出ると、すとんと腹落ちした。
この男との対決は避けられないって、前から分かっていたんだろう。
僕が戦わなければいけない相手だ。
「ミアさんは、離れていてください」
ギデオンが顔をしかめた。
「……不遜だな」
青水晶の短剣を抜き、ギデオンを真正面から見返す。それが向こうには不服みたいだ。
「苛立つ。不愉快だ。なぜお前ら親子は、そうなんだ?」
取り巻きの1人が近づいてきて、ルールを説明した。決著は片方の戦闘不能か、降參が宣言された場合。
戦闘エリアは第1層。そこから一歩でも離れたら敗けとする。
「勝敗の條件は、それでいいんだね?」
僕が勝てれば、借金の返済はもう不要。代わりに負ければ――奴隷、か。
理不盡にが熱くなる。
もう弱いだけの僕じゃない。
「行くぞ」
言葉と同時にギデオンが切り込んできた。を反らして避ける。
狼のような毒もなければ、速くて鋭いだけの単純な攻撃だった。何度も避ける。何度も、何度も。
「……恐くない」
「なに」
「恐くないぞ、ギデオン!」
僕は相手の懐に踏み込んだ。逃げると思っていたに違いない。
だって明らかに揺していたから。
定まらない攻撃を短剣で弾き、思い切り頭突きをしてやった。
ギデオンが顎を押さえてたたらを踏む。
「また、顎……! 貴様らぁ!」
「加減してるだろう」
ギデオンの剣は、僕がダンジョンでじたものとは違う。
狼のように鋭くない。殺さないように、痛めつけるように、加減された力だ。
ギデオンは本気じゃない。
僕のことを見てもいなくて、遊んでいるんだ。
そんなのもう恐くない。
「……外れスキルめ!」
ギデオンがスキルを使った。<剣豪>は剣での攻撃を強化する。
「もういい! 死ね!」
ぶわっと冷や汗が浮き出る。
斬撃が増し、けきれなくなってくる。けれども、僕にも新しいスキルがあった。
「目覚まし!」
霊が起きて、力を貸してくれた。
「起きてっ」
「わん!」
短剣から猛烈な風。ギデオンが姿勢を崩す。まだ能力『黃金の炎』を使うまでもない。
相手の剣筋は知っているけれど、向こうは今の僕を知らない。
「強くなるって決めたんだ」
ソラーナの力をもらって、どこまでも続く、神々の語を、星座を見た。
スケルトンや狼という怪を見た。
氷に封じられた巨神の決戦を見た。
世界が優しくないのなら、僕自が、優しく、強くあればいい。
守ると決めたから、僕は踏み込んだ。前へ、前へ。
ギデオンの揺が手に取るようにわかる。
大上段からの振り下ろしだけど、レベルがあがった今ならぎりぎりで防が間に合う。階段上りとダンジョンとで鍛えた足で、全を押し上げる。
刃がギデオンの剣を押しのけた。
「短剣で、僕の剣と……!?」
短剣とロングソードではリーチに絶対の差がある。
でも極至近距離なら、柄の近く――刃の一番『剛(つよ)い』部分のぶつけ合いになる。力押し。
僕とギデオンは刃を挾んで睨み合った。
「僕たちの家族は、お前のオモチャじゃない! 目を覚ませ、ギデオン!」
ギデオンがスキル<剣豪>を使い、後へ逃れた。
『仕切り直し』という能力だ。バックステップ。広い間合い。
――――
<スキル:太の加護>を使用します。
『黃金の炎』……時間限定で能力を向上。
――――
それを不意打ちのスキルで追いかけた。
「お前、スキルが……!」
ギデオンはずっと揺していた。僕が強くなっているということが、計算外だったんだろう。
勝算はそこにあった。というよりそこにしかない。
揺に付け込んで一気に勝つ。
強化された力に任せて、思い切り短剣を振るった。
「なめるな!」
ギデオンの剣。
向かって右から旋回してくる。
僕は左回転から短剣で思い切り打ち払った。飛び散る火花と金屬音。どうしてだか刀が熱を帯びた気がした。
靜かになった。
一人を除いで、誰も何も言わない。
「――馬鹿な、僕の剣が」
ギデオンの剣が半ばで折れていた。地面に切っ先から半分ほどが突き刺さっている。
『……決著は明らかではないか?』
ソラーナが言うけれど、誰も聲を出さない。ギデオンは俯いて、自分の手を見ている。痺れたのか、それとも怒りか、ぶるぶると震えていた。
「その短剣。リオン……ダンジョンで何を手にれたんだ?」
核心を突いていた。
黙っていると、ギデオンは急に笑い始める。
「そうか、そうか、やはりダンジョンには何かがあるんだな! 僕も、僕も、解き放ってやれば……!」
がらんどうの箱に響き渡るような、恐ろしくなる笑い方だ。
「はは! おい、この剣を用意したのは誰だ」
見回すギデオンが一人の冒険者をとらえる。いつもギデオンについている冒険者だった。
「あっしですが……」
「お前のせいで負けたぞ」
ギデオンはその男を思い切り蹴った。上位の戦闘スキルが繰り出す一撃が、最弱ダンジョンの冒険者に打ち込まれる。
その人は壁まで吹き飛び、かなくなった。腕がびくりびくりと痙攣するのが、ひどく痛ましくて顔がゆがむ。
「なんてこと!」
「……リオン、しきり直しだ」
「でも勝負は」
「僕はまだ『參った』とは言っていない。おい、誰か僕に代わりの剣を投げろ、あれはゴミだった。そのせいで手がった」
むちゃくちゃだ……。
ギデオンは折れた剣を投げつける。僕は目覚ましで霊を起こし、突風で撃ち落とした。
「続行か……!」
『さすがに業腹(ごうはら)だな。手を貸すかい』
「……そんな必要もありません」
ソラーナにはそう言ったものの、スキルの効果時間が気にかかる。連続使用すると、掛けなおしに隙が生まれてしまう。
じりと後ろに下がった時、頭に神様の聲が響いた。
――――
<スキル:目覚まし>を使用しました。
実績を達。
『封印解除』に新しい能力が付與されます。
――――
「……スキルが、長?」
スキル<目覚まし>が、もう一段階長したみたいだ。
「こ、こんなタイミングで!?」
最初のようにただ使うだけではダメみたいで、使用回數もカウントされなくなった。だから手探りだったのだけど……どうやら<目覚まし>の長の鍵は、ただの使用回數じゃなくて、『封印解除』をした回數になったのかもしれない。
霊とか、神様とか、起こす存在によって長度が違うとすれば、カウントが止んだ説明もつく。
回數じゃなくて経験値になったってこと。
「ま、まだ長できるかもっ」
大急ぎでステータスを確認する。
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