《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》1-30:魔の侵攻

火の手は城門からだった。

から梯子を駆け降りる。その間にも、遠くから悲鳴が聞こえた。

まだ夜は始まったばかり。だというのに、恐ろしいほどの騒がしさ。

「冒険者は、城門へ! 城門へ!」

いつも気な売りさんまで聲を枯らしている。

「冒険者は、城門へ!」

「城門へ!」

「早く、早く來てくれぇ!」

準備を急ぐけど、手は震えた。

革でと関節を補強したいつもの服に、青水晶の短剣を持つ。父さんの赤いスカーフが壁で揺れていた。

本當は、短剣は採集用で、しでも軽いものを選んでいるだけ。冒険者として本當に強くなろうと思ったら、『剣』がいいといわれていた。

攻撃も防もこなせる長剣は父さんも使っていた憧れだ。でも、今の僕には、短剣にしか手が屆かない。

慣れた武でいくべきだろう。

「リオン」

玄関から振り向くと、母さんがランプを持って立っていた。

「行くの?」

「うん。何か起こったみたいだから」

そう、と母さんは短く言った。2階からルゥが下りてくる。

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「お兄ちゃん、帰ってきてね」

既視

こんな景を、昔に――2年前に見たような。

今の景は、父さんが死ぬ前の、最後の出発と同じだった。

違うのは僕が見送られる側にあるというだけ。

「いってきなさい」

母さんは落ち著いた聲だった。

「あなたが思うとおりに。今まで頑張って、努力してきた。振り返らずに駆けてらっしゃい」

神々の加護を。

そう言う母さんに頷いてから、泣きそうなルゥへを屈める。

「必ず帰るよ」

コインに封印解除を施した。

――――

<スキル:目覚まし>を使用しました。

『封印解除』を実行します。

――――

ルゥにだけは、朝日のように輝く神さまの姿が見えているだろう。

「黙ってたけど……僕には、神様がついてるから」

母さんは不思議そうな顔をしているけれど、ルゥは息をのんでいた。やっぱり今も妹には神様が見えている。

「お兄ちゃん、あの人……」

「いってきます」

僕は家を出た。

軒先はいつもと同じしんと冷えた夜。でも空気が違う。焦げ臭いんだ。

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ソラーナが金髪をなびかせて空へ舞い上がる。

「東は大火事だ」

「た、大変だよ、それ……!」

冬で空気は乾燥しているし、雪だってしばらく降っていない。

集した王都の木造建築には大慘事の予しかなかった。

「それに魔の聲もした。とんでもなく強い気配も……」

ソラーナは宙を舞いながら言った。

「リオン、迷わずスキルを使え。わたしを盾にしていい」

「た、盾って」

「できることをやるんだ」

言葉を失ったまま足を回した。

起こし屋で行き來した街が、もう見納めになるかもしれない街が、視界を過っていく。

そんな風に辺りへ目が泳いでいたからだろうか。視界の端にあったものを、僕は見逃さなかった。

「……の戦士団?」

のマントに負った、2頭の紋章。

裏路地にたたずむその人は、僕に気づかない。

戦士は夜空を見上げてすぐに壁を登りだした。屋上に敵でも見つけたんだろうか。

「どうしてここに……」

ルゥ達が待つ家も近い。

僕はどうしようもなく不安になった。戻って、家族だけを守りたくなる。

でもの戦士はすでに見失ってしまったし、追いつくこともできないだろう。腕利きの能力は僕とは段違いだ。

「……追おうか?」

「いや。行こう、ソラーナ」

今できるのは、魔の進軍を食い止めること。

母さんの言う通り、振り返らずに駆けよう。

「ソラーナ、力を節約して」

「わかった」

コインに神様が舞い戻る。

さらに駆けて大通りへ出た。そこは想像を絶する景だった。

「……ひどい」

城門や冒険者ギルドへと通じる大通り。でも今は、左右どちらの建にも火が放たれていた。城壁でも兵舎が燃えて、煙が月を隠している。

び聲がした。

「た、助けてくれ!」

人がゴブリンに襲われてるっ。

當たりし、魔が起き上がる前に首を刺し貫いた。

「ありがとう!」

その人は逃げて行ったけれど、かなりの魔が城壁を超えているようだ。熱に揺らぐ前方から、數十の影がやってくる。

冒険者の數は限られていた。必死に見回しても、ここに集まったのは10人にも満たない。

「他の人は……!」

覚えのある聲が魔の列を吹き飛ばした。

「城門だとか、他の區畫だとか、あちこち散ってるよ! それか、逃げちまったかだな!」

ミアさんだった。

鎖斧が一閃。魔達を退ける。

「だが、城門が破られたせいで敵の數が多い。それに」

赤髪を揺らして見つめるのは、都の中心にある王城。

「指揮するやつがいないんだ。冒険者ギルドはめちゃくちゃだし、東ダンジョンの冒険者はもともと頼りになんないだろ」

「それは……まずいですね」

「ああ、まずい」

ごくりといた。

次の希は、王都の衛兵や騎士だ。貴族は強い戦闘スキルがある。

「言っとくけど、王都の騎士だとかしばらく來ないだろうさ」

「これだけ燃えてるんですよっ?」

「どうせ、やつら今日もパーティーだ。宴會を切り上げて、隊長だか大臣だかを引っ張り出す。で、そいつら貴族が出にサインする――それまで出てこないさ」

ミアさんの言葉は絶そのものだった。こんな大慘事なのに、僕らは僕らだけで――?

『起こし屋』として駆け回った街並みが焼けている。ダンジョンから外へ飛び出した魔達は、見慣れないオモチャを壊すように、火をつけまくっていた。

コボルトやゴブリンは僕らが目にってるはずだけど、町への放火を優先してる。

明らかにダンジョンの魔とは違った。

より邪悪に、狡猾になっている。

「封印のせい……?」

ダンジョンが魔を閉じ込めておくためのものなら。

解き放たれた魔は、かつての知恵さえ思い出すのかもしれない。

『リオン!』

ソラーナに呼びかけられて、はっとした。

「ミアさん、やりましょう。しでも、魔が遅くなるように」

「ああ! 囲まれないよう、背中は任せる」

鎖斧を回し、ミアさんが応じた。

ゴブリン、スケルトン、コボルト、ワーグ。次々とやってくる敵に対する、壁になった。

頼りになるのが、魔法だ。

「わん!」

クリスタルに宿る霊は、魔力ゼロで使える。僕は次々と空気の壁を叩きつけた。

周りから聲。

「すげぇ……」

「リオンかあれ!?」

「外れスキルじゃ――なかったのかよ!?」

冒険者達が驚き、たじろぐのがわかる。

「あなたたちも、戦ってください!」

「だが俺たちは……なぁ?」

弱いから。卑屈な笑みに、んだ。

「じゃあ、できることを! 避難呼びかけたり、燃えそうなところを助けたり!」

冒険者たちは顔を見合わせたけれど、幾人かは助けを求める聲に駆け出していく。その中には、僕が落としに落ちたのを助けた人もいた。

は次々と押し寄せる。大波が飲み込んでくるように。

短剣を振るい、鎖斧がなぎ倒し、風がはじき返す。

息が切れかかった時、魔の層が薄くなるのをじた。

「これなら……いけるっ」

息を吸った。

「ミアさん、前進しましょう! 今なら、城門へ押し返せますっ」

あたりが急に暗くなった。

月が、欠けた?

「よけろっ」

ミアさんにばれなければ死んでいた。

鉄塊。そうとしかいいようがないものが、跳び去った地面に打ち付けられる。

轟音と振。立っていられない。

「ぐぅっ」

きをこらえて、勢を立て直した。自然とミアさんとカバーにる。

狀況はまだ分からない。それでも、が勝手に戦闘勢にっていた。

恐れをなしたような、短い息。

僕のものかと思ったけれど、隣にいるミアさんからだった。

ゆっくりと、その何かはを起こす。

「巨人……?」

月を背負って立つ巨。黒りするのは鎧と、城壁のような大盾。

あまりに大きすぎて、一瞬、それがヒトガタだって気づけなかった。

長は3メートルはあるだろうか。

頬まで裂けた口がはっきりと笑う。

『狼骨、スコル……』

ソラーナが言った。東ダンジョンの地下にいた魔の將だ。

スコルは空に向かって聲を放つ。まるで遠吠え。

怖気が全を這い上がり言葉がれた。

「あの氷の中にいた……」

ソラーナが金貨の外へ飛び出した。

さっき<目覚まし>をしたからまだ時間は殘っているだろうけれど、負擔になることは変わらない。

それでも上空へ舞い上がり、様子を告げてくれる。

「周りでも魔がもっと暴れてる。あいつが、スコルが現れて、魔が昂っているんだ」

スコルは裂けたを吊り上げた。

「懐かしい気配がすると思えば、お前……!」

聲で空気が鳴する。

「あの、太の娘がいるじゃないか! あの神の娘かよ!」

大盾が構えられる。砦に挑むような気持ちになった。

「うまかったぜ……極上だった! 神の力ってのは、すげぇもんだった……」

ソラーナのお母さんを倒し力を吸収した相手――つまり、神殺しをした魔

短剣の切っ先が定まらない僕を、ソラーナは守るように立っていた。

「ソラーナ、周りに人は……」

「目の屆く範囲には。わたし達以外は、スコルを見て散ったのだろう」

戦うしか、ない。

神殺しをなしたこの魔と。

この人を置いて逃げることだけは、絶対にしてはいけない。

「戦おう、一緒に」

――――

<スキル:太の加護>を使用します。

『黃金の炎』……時間限定で能力を向上。

――――

狼と同じように、最後に一撃をお願い……!」

ソラーナが金貨に戻ってから、僕は前に踏み出した。

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