《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》1-31:角笛

『黃金の炎』で能力も、覚も、何倍にも強化される。だからだろうか。

回り込んで足を切りつけようとした時、悟ってしまった。

――堅い!

拡大された知覚が告げる、絶対的な力量差。

鎧に切っ先がれただけで、どうしても揺るがないほど相手の幹が強いことがはっきりした。

相手は全鎧。それも、長3メートルの全鎧だ。

腰を屈めれば鎧の隙間はほとんどない。しかもの半分は常に黒の大盾が守っている。

「くっ」

苦し紛れに切りつけたのは、膝の部分。

攻撃したのはこっちなのに手首が砕けそうな衝撃が來た。

一人で世界樹に挑んでいるような絶じる。

「犬っころだな」

巨大な目が三日月形になった。

スコルは右腕の棒を振り上げる。

「ま、けっこう速いじゃないかぁ!?」

大柱のような質量が僕の眼前で旋回する。暴風だ。

かすれば全が砕けてしまう。

「リオン、こっちが気を引く!」

ミアさんがスコルに斧を投げていた。鎖をり、ミアさんはスコルの腕を絡めとる。

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「なんだ、こりゃ」

それだけだった。

<斧士>の能力『不』があっさり破られていた。ミアさんが鎖ごと持ち上げられ、地面にたたきつけられる。

「がっ!」

スコルは完全に鎖を摑んでいた。

「もう一回だ!」

僕は霊を目覚ましして、ミアさんの下に風のクッションを生む。

連撃を防ごうと、ミアさんとスコルの間に割りった。

「へぇ! 面白い!」

振り上げられた大盾が、夜空を覆い隠す。

地面に打ち付けられると石畳が砕けた。無數のつぶてが襲い掛かる。額が切れ、流が視界を悪くした。

「リオン、平気かっ」

「はいっ」

ミアさんは鎖斧から手斧に持ち替えた。スコルにはまだダメージさえ與えられていない。

今度は棒が振り上げられる。

「リオン!」

「下がって、ミアさん!」

膂力が段違いだ。

咆哮が走ると空気が揺れる。

橫薙ぎの棒を避け、しでも懐へもぐりこむ。前へ、前へ。

臆病な僕が逃げることを囁く。でも、ここは王都だ。逃げられない。

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立て、立て、それだけを考えた。

『強い――』

ソラーナは震える聲で言った。

『わたしを封印解除してくれ』

「でも、それでも、今じゃ――」

『時間を稼ぐことはできる。その間に、君とミアが逃げることも、勢を立て直すことも』

スコルは大きな口を開けた。

「くはは! 太の娘、お前の気配が濃くなったぞ!」

スコルが近寄ってくる。

『リオンっ』

促されるまま、僕はソラーナに頼った。

<目覚まし>の力が神様を呼び覚ます。ソラーナが金貨から飛び出て、僕らとスコルの間に立ちふさがった。

の腕が、こんな時でもきらりとする。

「……不可解だな。お前、なんでこの街を助ける?」

ソラーナは応じなかった。狼に向けたを、スコルに向けて放つ。

けれども將はの大部分を大盾に引きけさせた。

「魔を滅ぼす太か。だが……弱ってるな? お前、自分がどれほど弱ってるかも気づいていねぇだろう」

スコルが首をばし、ソラーナに迫った。ばくん、と裂けた口が神様の半を飲み込む。

心臓が凍り付いた。

「ソラーナ!」

は瞬時に再生する。けれど……一度は、の半分が闇に飲まれた。

「へ、平気だ」

そういうけれど、顔は悪い。いつも輝いている金髪は、一瞬、闇とせめぎあうように黒い領域に冒されていた。

が輝いてを冒す闇を押し返す。それがなかったら――真っ黒になって、消えていたんじゃない……?

スコルは口をかみ合わせた。

「ふむふむ、見えるぞ。うめぇ魔力だ、お前の記憶は――」

兜の下が、不気味な笑みに歪んだ。

「優しい最強ぉ?」

げらげらと哄笑が響き渡る。ぐるんと巨大な目が僕を見た。

「なんだそれは! こいつが信徒なのか!?」

棒を地面に突き立て、スコルは僕を指さした。

「弱い奴が! 誰かを守る! それを愚かという!」

裂けた口が嘲る。

「それに、スキル……だと? なるほど、今はそう呼んでいるのか」

大聲は、稲妻が間近に落ちてきたかのようだ。足が震える。でも怖くて、逃げることさえできない。

スコルは巨大な目で僕を捉え続けた。

「だがそりゃもともと、神々の力だろう」

めた希が暴かれ、一つ一つが丁寧に潰されていく。

「剣の能力、斧の能力、いずれも見たことがある。俺らに負けそうな神々は、自分らの力を手下の人間に分け與えた、それがスキルだろう? 神々の力を、人間にばらまいたんだ」

思い浮かんだのは、神話や、そこに出てきたアイテム。

巨大な槌。鋭い槍。神々と魔との戦い。

その力をオーディス様は人間にばらまいた?

「そう、か……」

考えてみれば當然だ。

神様と人間が出會う時に発現するのって、そういう意味。スキルは神様からの贈りなんだから。

スコルはにやっとした。

「オリジナルの神々が勝てなかったんだ。神から授かったスキルで、神を下した俺に勝てるわけがねぇ」

勝てるわけがない。

どんな反論も封じる絶対の理屈。

それはそうだ――だって、相手はそもそも、神様よりも強いんだから。

ソラーナは事実さっき敗けかけた。

『黃金の炎』が時間切れになる。

「勝てない……?」

スコルがにんまりと笑ったのが視界の端に映る。周囲に魔の気配。

集まった闇の狼――ワーグたちが遠吠えを放っていた。

スコルが指を振ると、彼らは僕らを囲うように展開する。スケルトン、ゴブリン、次々と魔は増えた。

「そうだ。勝てねぇ」

ぐっとが熱くなる。

「ち、違う……!」

認めてはいけない。守られるだけの僕だったかもしれないけど、だからこそ、ここで退くな。

父さんは技を殘してくれた。母さんとルゥは勵ましてくれた。

振り下ろされる棒をくぐる。

一歩、一歩でもいいから前に。

が巨大でも仕組みは同じだ。手元付近には安全なエリアができる。

「守られていたって……無力なわけじゃない!」

それを認めたら、今まで頑張ってきたものが、々に砕け散ってしまいそうだった。

本當に泣きたいとき、ルゥと母さんは僕に力をくれた。

だから僕は誰かが――ソラーナが辛いときは立たなければいけないんだ。

「ふん!」

スコルは大盾を掲げ、足元の地面に打ち付けた。

ギリギリで逃れたけれど、燃え盛っていた建がいくつも、衝撃だけで倒壊する。立っていられないほど地面が揺れた。

「……神よう、お前も悲しいな?」

「なに」

「まるっきり敗殘じゃないか。こんな這いつくばる犬っころしか殘ってねぇ!」

スコルは続けた。

「俺にはいるぜぇ? こいつら魔と、支配をやり直すんだ」

ソラーナは巨人を睨み返した。

「ふん、なにが敗殘か」

「……あん?」

「まだ敗れたわけでなく、殘されたわけでもない。わたし達は、ここから、新しく始めるのだっ」

『白い炎』で傷を癒す。

もう完治とはいかないけど、ミアさんと二人でなんとか立ち上がる。

能力『黃金の炎』を、もう一度使えるように願った。魔力が急減。それでも、連続使用ができた。

「面倒だな。やっちまうかい?」

スコルが舌打ちして、どこかを見た。

將の遠吠えを合図に魔が一気に襲い掛かってくる。

ミアさんと互いの背中を守るように戦ったけども、包囲は刻々と狹まっていた。

「では喰われるといい。あの時の太のようにな!」

その時、前に何かが放り込まれた。反的に摑む。

黒ずみ錆びついただったけれど、不思議と魔力をじた。<目覚まし>に宿った鑑定能力が、僕に教える。

「角笛――?」

焼け殘った家屋の上に、灰のローブがみえた。

――――

<スキル:目覚まし>を使用しました。

『封印解除』を実行します。

『目覚ましの角笛(ギャラルホルン)』を封印解除しました。

――――

「リオン、どうした!」

僕に殺到する魔を、ミアさんの斧が止める。

それでも數が多い。抜けてくる。止めきれないところに、新しい冒険者が立ちはだかっていた。

背中に負った2頭の紋章。

黒髪の男が振り返る。東ダンジョンにいたの戦士団が、僕らを守っていた。

「遅れてすまない……! 東ダンジョンの最下層にいたものでね」

男の人は、僕が持つ角笛に手を添える。

あの未踏エリアで、僕らを逃がしてくれた人だ。

「使うといい」

ぐっと押し付けられた角笛は、どうしてかとても熱かった。

「これは……」

「それというのも、もともとは君の父上が見つけられたものだからだ」

封印解除で目覚めた角笛から、聲が聞こえる。他の神様と同じくらいはっきりと、でも、それらよりもよほど強く。

――これは驚いた! 俺の角笛がまた鳴るとは!

大きな手が雲からびてきて、僕の頭をなでてくれた気がした。

――しかも子供だ。それも、正しい心を持った子供だ!

聲と幻はすぐに消える。大きな手も、聲も、一瞬だけ見えた幻影だったのかもしれない。

けれど輝く角笛はそのまま手の中にある。

息を吹き込むと、闇空に虹がかかり、東西南北へと繋がっていった。

4つの、王都にあるダンジョンの方角へと。

――――

<スキル:目覚まし>を使用しました。

『封印解除』を実行します。

――――

角笛が響き渡る。

ダンジョンに封じられているのは、魔だけじゃない。スコルと向き合うように氷に封じられていた存在を思い出す。

轟く雷鳴は、巨神の笑い聲のようだった。

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