《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》1ー32:太の娘の剣

大きなリュックを背負ったふくよかな老人が、夜の王都を急いでいる。火災と魔の襲撃から逃れようと、周りでも多くの住民が走っていた。

が彼らの顔を照らす。

城壁から飛び出した燈りが、夜空に虹の橋をかけた。人々は足を止め、東の夜空を指す。

老人もまた、やってくる雷鳴と雨雲に目を細めた。

「……目覚めたかのう」

老人は、リオンに金貨を渡した古道屋だった。

「よかった、よかったのぉ」

ほっほ、と笑いながら老人は避難を急ぐ。2羽のカラスが夜だというのに上空を飛んでいた。

東の空に轟くのは、雷鳴。雲はみるみる大きくなり、空全を覆い盡くした。

ぽつり、と鼻に水が當たる。

「雨……?」

豪雨が來た。

稲妻に僕らを取り囲んでいた狼たちは逃げ去り、雨が火の手を弱まらせていく。

周囲が暗くならないのは、僕の手からが生まれているからだった。

「虹、だ……」

角笛から発する、七。それは四方向にびていた。

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東西南北――王都4つのダンジョンがある方角へと。

やがて東の虹の頂點に、赤いが見えた。輝きが、流れ星みたいに僕らのもとへやってくる。

「わわっ」

ずん、と僕の足元に著地したのは、大槌。

次の瞬間、槌から雷が飛び散った。周りを囲んでいた魔が一瞬で焼け焦げ、炭になる。

槌の取っ手を握ったのは、大きくて、たくましい腕だった。

「1000年と何日ぶりだろうな」

赤髪を振りした、筋骨隆々とした青年。今まで見たどんな像よりも神々しくて、豪雨もそのだけは避けて通っていた。

ソラーナが震える聲で呼ぶ。

「トール……?」

「久しいじゃないか、太の娘」

にっと笑い、大きな手が僕らをなでた。

「よくやった。火災程(・)度(・)は引きけよう。後は、神と信徒の務めを果たすがいい」

トールはすっと薄くなり、消えた。ポケットのコインが熱く震える。

――――

<雷神の加護>を手しました。

『雷神の槌』を使えるようになりました。

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――――

南にも青いが宿る。

こちらも瞬く間に僕らのもとへ降り立った。

虹をたどってやってきたのは、鎧にを包んだ。青の髪が涼しげになびいてる。鎧の裝飾が銀で縁取られていて、こんな時でも目を引いた。

「あなたに忠義と謝を」

は膝をついた。

「私はヴァルキュリアのシグリス」

青い瞳が僕らを見る。

――――

<薬神の加護>を手しました。

『ヴァルキュリアの匙』を使えるようになりました。

――――

「傷を治した方がいいでしょう」

言われるがままスキルを使うと、青いが僕とミアさんを包み込んだ。効果は他の冒険者――(カラス)の戦士団にも伝わり、仲間全が急速に回復していく。

シグリス、そう名乗ったが小さく笑うと、またコインが熱くなっていた。

姿はすでに消えている。

「ど、どういうこと……?」

「あの角笛は、古代の神が持っていたもの。神を戦いのために呼び起こす、神なんだ」

僕がそれを封印解除して、鳴らしたから……。

「も、もしかして、ダンジョンにいた神様が……」

「ああ、起きてきた。東ダンジョン、そして王都の他の方角にいた神々が、目覚めてきたんだ」

次のは、北から來る。

革鎧にを包んだ青年だった。

おさげにした茶髪を揺らして笑いかける姿は、普通の狩人のよう。けれども肩に擔いだ白木の弓は、自然の枝のようでいて、うっすらと輝いている。

青年が弓を構えると、が強まり、矢へと変わった。

次々と魔抜かれる。

「ボクはウルという。よろしく、目覚ましの君」

――――

<狩神の加護>を手しました。

『野生の心』を使えるようになりました。

――――

西に紫のが生まれると、ソラーナは顔を引きつらせた。こっちに近づいてくるけれど、なんだか雰囲気が禍々しい。

「ロキ、か……」

「久しぶり、やっと僕に會えたね♪」

現れたのは、黒髪の青年。

にっこりと笑って、僕とソラーナの肩を抱く。

僕は戸うばかりだったけれど、ソラーナはとっても嫌そうな顔をしていた。

「いきなりの狀況で混しているだろう? わかるよ……だが安心してほしい、僕は常に君の味方だ、他の神々もいいけど、ロキも忘れないでね……」

――――

<魔神の加護>を手しました。

『二枚舌』を使えるようになりました。

――――

「は、はぁ……」

「早速、そらそこだ」

ロキさんが指先から火を放つ。穿ったのは殘骸と化した建だ。

何発目かの炎が切り払われる。

やっと、僕はそこに人がいたのだと気づいた。

「あら、殘念」

フードを目深にかぶったの人。自分の指を噛んで、スコルを見上げた。

「見つかってしまったわ……スコル、あなたが弱らせておかないからよぉ」

の戦士団がそこに殺到し、の人はを引く。蛇のように隙間を抜け、瓦礫の向こうへ逃れたんだ。

「ああ、この分だと妹の方もダメねぇ……せっかく見つけたのにぃ」

ルゥの、こと――?

「ま、待って!」

思わずんだけれど、は姿を消していた。いや、逃げたのかもしれない。

戦況は一変していた。

大雨で火災が和らぎ、雷鳴が狼たちを退かせる。の戦士団がスコルと戦っているから、ミアさんと態勢を立て直す余裕もできていた。

「リオン、こりゃ、なんだ……?」

ミアさんが言う。

僕は手に持った角笛を見下ろした。

の戦士団、その笛を渡してくれた黒髪の人が、僕へ振り返った。

「自信を持つといい! 父ルトガー氏は、勇敢に、多くの仲間と王都を守るために罷られた! その時に、君の父親が見つけられたのがその角笛だ」

「これ、を……?」

「うむ。使い手がいなかったが君のスキルであれば、と我々は思い立ったのだ」

スキル? 目覚ましのこと?

「今は詳しくは言えない、だが、君の父上は王都だけじゃない! もっと大きなものを守って果てられた」

父さんのスキルは<覚醒>というものだった。

僕がかつて絶したのは、僕自のスキルが役に立たなかったから。

父さんは、僕達家族だけじゃない。

いろいろなものを守って散ったんだ。

「……すごい」

短剣を握りなおす。

父さんは、僕に角笛を殘してくれた。

強いだけじゃなく、優しくなければ何かを殘すこともできないから。

「ソラーナ……」

神様の右手で、金の腕がきらりとした。

での會話がを過る。

金は魔力が宿るもの。

「どうした、リオン?」

僕はソラーナと目線をかわし、腕をぎゅっと摑んだ。

スコルは敗殘なんて言い方をしたけれど……

「きっとソラーナも、ただ殘されたわけじゃないよ」

僕は腕に力をこめた。

父さんが僕に角笛を殘してくれたように、ソラーナに、ただ一人黃昏に殘される娘に、お母さんも――。

「リオン……?」

「お母さんが君を一人で、それだけで殘すなんて、きっとするはずなかったんだ」

目を覚ました思いだった。

答えは最初から見えていたんだろう。

――――

<スキル:目覚まし>を使用しました。

『封印解除』を実行します。

――――

金は魔力を宿す。

コインでソラーナが守られていたように。

右腕にはめられた金の腕。まばゆく輝いて、膨大な魔力を解き放った。

金貨に守られていたソラーナだけど、さらに『封印解除』すべき贈りを持っていた。

「母さんが殘してくれた、魔力――!」

ソラーナのお母さんは、娘に寶を殘していたみたい。それは、魔力を封じた腕。かつての太神の、娘に與えた贈り

輝きは空に向かって立ち上る。雷雲さえ貫いた。

はやがてソラーナに向かって集まり、彼の金髪がしくる。

「リオン……」

ソラーナは僕を見つめて言った。

力が戻った神様。

家の屋で見せたような、それ以上の輝きが、僕らを包み込んでいた。

「太の娘として、君に、新しい加護を」

どんな能力がほしい?

そう聞かれたとき、僕の頭に思い浮かんだのは、剣だった。

目の前を塞ぐ大盾。それを退け、みんなを守れる、未來を切り開く大きな剣。

「わかった」

涼やかな音を響かせて、金貨が短剣にぴたりとくっつき、一化。

「リオン、今ならば、オーディスという神が人間にスキルを與えた理由もわかる」

ソラーナは言う。僕らの手で輝きが増し、スコルはまぶしさに目を覆っていた。

「君たちは神よりも長が速い。そして、『け継ぐ』という群を抜いた特がある。親から子へ、スキルや、アイテム、そして想いを」

短剣がみるみる熱を帯びていく。

の刀が形され、黃金の熱を発した。

「不思議だった。オーディスは魔を1000年間封じ、その間にどんな策を練ったのだろうって」

ソラーナは僕の手をぎゅっと握った。

「彼は人間に賭けたんだ。人間が神に與えらえたスキルを長させ、子にけ継ぎ、いずれ魔を打倒できるほどに育つのを」

熱いものが沸き上がる。

「神は、人間が持つ『継承』と『長』という特に、神でも為せなかった魔退治を賭したんだ」

――――

<スキル:太の加護>を使用します。

『太の娘の剣』……武に太の娘を宿らせる。

――――

霊が宿る、水晶の短剣。そこにソラーナが宿ると、水晶がり輝いた。

融合したんだ。

眩しい輝きがあふれ出す。

神話時代の、本來の、太神の力――。

の余波だけで集まったスケルトンを消し飛ばす。

「すごい……!」

『本來は、アンデッドへの特攻だ』

スコルの大盾がの剣をけた。

でも、止まらない。大盾を焼きながら、刃が進んでいく。

「ぜ、絶対防の大盾が……!」

熱だ。

の大盾を、が裂く。

朝日が早暁を割るように。

「鎔斷による、防不能……!?」

スコルがに飲まれた。

音が消える。

目が慣れると、瓦礫の中に魔はいなかった。巨大な魔が殘す魔力の殘滓が、として漂っているだけ。

辺りが快哉に包まれていた。

僕はを放った自分の手と、短剣をみる。

ちりん、と涼やかな音を立てて、金貨が短剣から剝がれ落ちた。

拾い上げると表面には――ソラーナ。

ただし裏面には、4人の新たなる神様も彫り込まれていた。

「本當に起こしたんだ――王都のダンジョンから、新しい神様を」

いつの間にか雨は上がっている。雲の切れ目から、熱を冷ます夜風が心地よく吹いてきた。

勝った。

守れた。

「やった……!」

ぎゅっと手を握り、僕は小さく、でも確かに聲を上げた。

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