《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-2:戦士団総長パウリーネ
ゆらり。
遠くに現れた姿は、そんな表現がぴったりだ。
まるで亡霊。
月明りと冒険者の松明に照らされて、揺れるはときどき大きな影をばす。
猛烈に不吉な予がした。
「ぎ、ギデオン……?」
遠目にも正に気づけた。スキルのおかげかいつもより夜が見通せる。
ソラーナが囁いた。
『様子が変ではないか?』
頷く。
明らかに重癥だ。腳をかばいながら歩いているし、左腕はだらんと下がっている。夜風にの臭いもじた。
僕らの10メートルくらい手前で、ギデオンは足を止める。
金髪も貴族裝束も、と泥に汚れて見る影もない。ただ目だけは三日月みたいに弓型だった。
「はは、ははっ! ずいぶんとすっきりした街になったじゃないか」
空虛な笑いをふりまいて、ギデオンは何かを取り出した。
小さな、袋……?
「やっぱり、すごい。この灰はすごいぞ……! 僕もダンジョンを目覚めさせたんだ……!」
つまんだ袋を見上げて、ギデオンはを揺らす。
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異様なふるまい。雰囲気にのまれて、僕もミアさんもけなかった。
『リオン……注意してみてくれ。ギデオンから、いやな魔力をじる』
ソラーナが教えてくれる。
目を凝らすと、袋から黒い煙があがっていた。
『あの袋は東ダンジョンに落ちていたものと同じだろう。じる気配がそっくりだ』
「……じゃあ、あれはギデオンが?」
くすくす、と耳の奧に笑い聲が聞こえた。
『あれは灰――それも、魔力を帯びた灰に見えるな』
その神様は言った。上著の右ポケットをると、コインの固いがある。
聲はやっぱりここから聞こえてきた。
「い、灰……?」
『巨人どもの灰さ。魔神ロキが教えてあげよう』
歌うように言葉が紡がれる。
魔神ロキは、封印から目覚めて僕を助けてくれた神様の一人。やっぱり、ソラーナと同じ金貨に宿っているんだ。
『古代、魔と同じく巨人も神々の敵だった。とびきり強力で炎をる巨人もいた。しかし彼らが神々への憎しみを解き放ち世界を焼き盡くす寸前に、封印の氷がやってきた』
だから、とロキ神は続けた。
『いわば不完全燃焼さ。巨人どもは灰となって、今もくすぶり続けている――僕にはそう見えるな』
ふらつくのは疲れのせいか、それとも話の大きさのせいだろうか。
ミアさんが肩を支えてくれる。
「……そこにいるのは、リオンか。くく、貴族には手出しできまい」
ギデオンは話すのをやめて僕らを見據えた。
僕達と、街を守った冒険者。みんなに睨まれても、ギデオンは街並みを嗤う態度を崩さない。ダンジョンを管理するという『の戦士団』が、それとなくギデオンを囲うようにいていた。
『封印の氷に対する、炎。もし魔が蘇ったというなら――あの袋が無関係とは思えないね』
ギデオンがやってきたのは城門の方――ダンジョンの方角だ。
そして確かに『ダンジョンを目覚めさせた』と言っていた。
「ギデオン、君が魔を……?」
心臓が凍ったみたいだ。
貴族は笑う。
「だとしたら?」
が熱くなった。本當に、本當に、どうしようもなく熱い。
短剣にびかける手をぎゅっと握りしめた。
「ギデオンっ!!」
一歩を踏み出す。
雷鳴。
ギデオンが真っ青な顔でへたり込んでいた。
「お、お前……本當にリオンか?」
そんなに怯えた顔ができるなら、どうして他の人が魔を怖いってじること、わかってくれないんだろう。
ギデオンは口を震わせた。
「う、後ろにいるのは誰だ……?」
大きな手に肩を叩かれる。振り向くと、燃えるような赤髪が見えた。
『下衆を斬るな』
2メートルはありそうな巨から、その神様は僕へ告げた。
『いかな名刀も、下賤のがついてはなまるものだ』
雷神トール……?
一瞬だけ姿を見せた雷神は、すぐに虛空へと溶けた。金貨に戻っていったんだろうか。
腰を抜かした貴族と、一歩踏み出したままの僕。
――本當に優しいやつもいるけど、本當に悪いやつもいるもんだ。
決闘後にミアさんから言われたことがに染みた。あの場で僕がギデオンよりも圧倒的に強ければ、しは何かが変わったんだろうか。
「バカ……お前はバカだよ……!」
ふいに、車の音がした。馬達のいななき。
立派な四馬車が現れて、僕たちの左側に停止した。の戦士団がさっとその馬車へ近寄り、扉を開く。中の人に一禮したように見えたのが、ちょっと不思議だった。
「ワールブルク家のギデオン」
そう言いながら、が降りてくる。
白い服を著た人だ。長と同じくらいあるロッドをついて、高い帽子をかぶっている。
段を降りているせいで、目線は下。でもとてもきれいな顔立ちをしているんだって、なぜかわかった。
顔をあげると緑の瞳が僕らをとらえる。
「あなたの悪事もここまでです」
制圧。
聲は高くて、この人は歳は15、16歳くらいかもしれない。でも神殿みたいな厳かさが全にある。短い言葉だけですべての冒険者をのんでいた。
の銀髪が風になびいていく。
「き、貴様は……まさか」
ギデオンが起き上がれないまま、足をバタバタさせて後ずさった。
はロッドをつきながら歩く。ちらと僕とミアさんを橫目で見た気がした。
「あれ……」
不思議なじがした。この人、どこかで見たような。
「あなたを庇う貴族はいない。東ダンジョンの管理失敗で、あなたは権力の源泉を失った」
の人は、近くにいたの戦士団に何かを告げた。
すると1人がギデオンに近寄り、手から小袋をもぎ取っていく。
明らかには戦士団を従えていた。
「大だね」
右腕の鎖を揺らして、ミアさんが呟く。
「……はい」
「逃げよっかな」
「え? ……えっ」
「冗談だよ。でもなんだか、怪しいなりゆきじゃないか?」
ミアさん、やめてくださいね……。『逃げる』って言った瞬間にの戦士団が近寄ってきたので。
袋を手にしたは、眉をひそめている。
「……灰。あなたが出どころでしたか」
「僕のものだぞっ」
立ち上がれないまま、ギデオンが剣に手をかける。
はギデオンに向かって腕をばした。白い手袋の先に、冷たいが集まっていく。
「スキル<封印>」
氷のような、白く凍てついた風が辺りを駆け抜けた。ギデオンがを震わせる。
「あ、ああぁ!」
貴族が無理やりに抜いた剣。
手から抜け落ちて、地面に落ちた。
からんからん。乾いた音が転がる。剣が自分から逃げ出したみたいだ。
「ぼ、僕のスキル<剣豪>が……?」
「封(・)印(・)させていただきました」
の人は、ロッドを地面についた。
「鍛錬を欠かさなければ、スキルがなくなってもが覚えているものです。しかしあなたはすべてをスキルに頼っていたようですね」
ギデオンは蒼白で項垂れる。
「知っている全てを話すことが、せめてもの償いになるでしょう」
の戦士団がギデオンを引き立たせ、連れていく。
僕とミアさんがその姿を見送っていると、はこっちへ振り向いた。
「さて」
心なしか顔つきが和らいでいた。
「きっと驚かせてしまいましたね」
真っ白い手袋をに當てて、ゆっくりとした一禮。高い帽子が揺らいで、おっととと慌てて直していた。
「あの時の、正式なお禮もまだでした。私はパウリーネと申します」
さっきの覚がもう一度來た。
やっぱりどこかで會えたような気がする。
「東ダンジョンでは助かりました」
僕はミアさんと顔を見合わせた。白い服に、真っ白な手袋、それにこの聲。
「あ、あんた」
ミアさんがぽかんと口を開けていた。
「ぱ、パリネか……?」
東ダンジョンで逃げていた、新米冒険者。ミアさんが案していたところを、危なくなって、僕が助けたのだけど……。
「そうです」
パリネ――いや、パウリーネさんは頷いた。
「お禮が遅れて申し訳ありません。改めて、本當の名を名乗らせてください」
翡翠の目で、パウリーネさんは僕らに笑いかける。
「私はパウリーネ。アスガルド王國の第9番目の王であり、オーディス神殿『の戦士団』、63代目の総長です」
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