《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-4:最初の

深い眠り。

夢の中でさえ自分が眠っていると、それも深く深く眠っているのだと、すぐに気づけたほどに。

「リオン、聞こえるかい」

ソラーナの聲がした。

夢と知りながら目を開くのは、不思議な気持ちになる。すぐ近くに大きな金の瞳があって、どきりとした。

「そ、ソラーナっ」

「うむ。さ、さっきは……すまなかったね」

神様は気まずそうに頬をかく。

「なんとかみんな金貨に戻れたが……母君には悪いことをした」

「あ、あの、ここは……」

ソラーナはちょっと目を泳がせていたけれど、やがてオホンと咳払いした。

「お疲れ様リオン。君は今、深い眠りにある。つまりここは君の夢だ」

あのあと家を出て……だめだ、頭がぼんやりする。がヘトヘトでそのまま寢てしまったのかも。

「安心して。今の君は安全な場所で眠っている」

ソラーナが移すると、流れ星みたいに金の軌跡が過ぎった。

「さて。今ならば――夢ならばこそ見せられる景もある」

途端、ごうっと風音がした。

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をすくめてしまう。でも僕のをさらう大風はいつまで経っても來なかった。

「安心してくれ。昔のことを見てもらうだけだ」

「昔……?」

「何千年も昔のこと。世界が、神々が、生まれてくる頃の語。そして……おそらくはなぜ君が狙われるかの語だ」

風はまだごうごうと吹いている。

でもソラーナの聲ははっきりと聞こえた。

僕が立っているのは現実の場所じゃなくて、大昔のどこかを、ソラーナの力を借りてただ見せられているだけなんだろう。

暗闇に目を凝らす。浮かび上がってくるのは、氷原。

でも氷はしずついて、終わり際で滝のように崩落していくようだ。

「ひょ、氷河……?」

見たことも想像したことすらない、巨大氷河だ。

だんだんと目が慣れてきても、その大きさが想像もつかない。僕とソラーナは宙に浮いて大地を――大地と呼べるものが、はるか下の暗闇にあればだけど――広く見渡している。

「氷河の大きさはわたしでも正しく表現できない」

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「ソラーナ、でも?」

「うむ。『大きい』と何かを呼ぶには、何か『小さい』ものが必要だ。だけど、これはわたし達の世界が創世する前の景。だから『小さい』と呼べるものが何もない」

頭がくらくらする。ソラーナなりの、いっぱいの説明なんだろう。

「氷河は、端で落ち込んでいるだろう」

「うん」

何度も、氷の塊が暗闇の底へ落ちていく。氷河から氷が切り離される音が、割れ鐘みたいに響いていた。

底も見えない。無限に、果ての果てまで落ち込んでいる。

『無』を挾んで氷河の反対側に、かすかに淵がかすんで見えた。うっすらと赤いのは火が燃えているからだろうか。

氷と火に挾まれた、本當の意味での狹間。

その上に僕らは浮かんでいる。

「ギンヌンガ・ガップ――ギンヌンガの裂け目と呼ばれる、この空隙が世界の大半を占めていた」

氷河は、裂け目の淵に氷塊を育て始めた。周りにある霧やみぞれを巻き込んで、氷塊はどんどん育っていく。

「……すごい」

當たり前のことだけど、それしか言えなかった。

スケールが違う。氷河は幅広くて果てが見えない。氷塊をなぞる霧は僕らが住む國中を、どころか世界中を覆ってしまえるんじゃないだろうか。

僕が知るどんな差しも當てられない景。

もしこの場にソラーナがいなかったら、頭が変になってしまったかもしれない。

「目覚めた時は、これだけのものを君に見せられるほどには記憶が戻っていなかった。今ならば、君に知るべきことを見せられる」

話すうちに、氷塊に変化が起きる。

霧やみぞれが溫かい風に吹き散らされた。時折、夏みたいな熱風が山脈のような氷塊に吹き付けるようになったんだ。

「裂け目の反対側は熱く、炎が燃えていた。そこから熱風がやってくるんだ」

火と氷の出會い、といえばいいんだろうか。

氷が溶けだし、やがて一つの雫が裂け目へ落ちる。

雫は人間の形をとった。目が開き、髪が生え、裂け目の中に漂う。

「冷たい魔力と、熱い魔力の衝突だ。この存在が、裂け目に生まれ落ちた最初の生き。ユミールと呼ばれる巨人だ」

巨人の産聲が裂け目に響き渡った。

が泡立つ。これは夢だって言い聞かせても、原始の気持ちがかき立てられた。

「最初に生まれたユミールは、何かを生み出す『創造の力』を持っていた」

ユミールの手にが集まっていく。

「彼は裂け目に漂いながら、自分に似たものとして、巨人を生む。そして、より小さな存在として神々の祖先を生み出す。だけど」

ソラーナの聲が震えた。

「ユミールは、原初故に傲慢な巨人でもあったんだ」

巨大な腕で、ユミールは自分が生み出した神々を摑んだ。そのまま口に運ぶ。

「食べ……た?」

息をのむ。

「そうだ。作っては、食らう。優しさのなさが、彼の命運を決した」

やがて、ひときわ目を引く神様が生まれた。

髭をたくわえた悍な神様だ。鋭い目がユミールを見據える。

「ある神が戦いを仕掛け、ユミールをついに殺す。そして『創造の力』を奪った。そうしてからようやく、神々の手で世界の創造が始まった」

神々はユミールから奪った『創造の力』を行使する。

ギンヌンガの空隙にが満ちた。

「後の主神は、ユミールの功と失敗をみていた。功とは、神々を生み出したこと。失敗とは、神々に殺されたこと」

ソラーナは言葉を切る。

「つまり……『我ならばもっとうまくやれる』と思ったということ、なのかな」

虛無だった場所に生み出されていく、海、陸、そして星々。

他の神々や、人間もこの時に生み出されたみたい。

最果てから太が昇り、生まれた世界を祝福するように照らし出した。

「神に宿った特別な力をスキルと呼ぶなら、巨人ユミールの『創造の力』は最初のスキルとよべるだろう」

何百年、何千年、あるいは何萬年という歳月が、夢の中で展開されていく。

生み出されたばかりの陸地には、最初は巖しかなかった。だけど神々が木を生み出せば、人間がそれを育てる。

海に魚を放てば、人間は木から船を作って航海する。

聡明な神々の恵みを、人間たちは努力し、工夫し、やしていく。

「……すごい」

「生きが増えるほど面白いということを、たぶん、主神は知っていたのかもね」

世界はかな緑に包まれた。

巨大な裂け目が口を開けていた場所には、今や多くの生きが棲んでいる。

「……ソラーナ」

「うん?」

僕は目をこすった。大地のほとんどは人間だけれど、時々、小さな姿が現れる。子供くらいの背丈のもの。人形サイズで、背中に羽をもったもの。

「ああ、あれは小人だ。アールヴ、ドヴェルグ――妖ともいうが」

大昔には人間以外の種族もいたみたい。

神々の國、人間の國、小人の國。どれもかに輝いてみえたけれど、僕は世界の片隅に黒い國があるのに気づいた。

「あれは巨人の國だ」

世界の片隅にある黒い部分は、ひたすらに不吉だ。まるでから追い出された何かが固まっているように。

「ユミールは完全に力盡きたわけではなかった。裂け目で生み出された巨人達が、かに匿い、長い年月をかけてついに蘇生させた」

巨人の國から赤黒い炎が吹きあがる。波紋が広がるように、黒い波が押し寄せてきた。

角笛が響き渡る。

これ、『目覚ましの角笛(ギャラルホルン)』の音だ。

「魔もいる……?」

「人間と一緒に増えたのは、いい生きだけじゃないということだ」

ゴブリン、スケルトン、コボルト、オーク。

を引き連れ、巨人が神々と人間に迫りくる。大地はあっという間に戦火に包まれた。

「人間と神々は必死に守ったが、やがて追い詰められる。神々も、人間も、小人も、それぞれの國をなんとか守り切るのがせいぜいだった」

僕は勇気をもって目を凝らした。

波に飲み込まれるように、人間の抵抗が消えていく。崩壊する城壁。踏み荒らされる畑。

「ひどい……」

躙は徹底的に、そして當然の権利であるかのように行われる。

人々にとって、最後の拠點は地下だった。多くの人が逃げ込んでいく。

「戦うっていうより……」

「そう。隠れて、生き延びるための場所」

ごくりといた。

今のダンジョンのことだろう。迷宮は戦爭から生き延びるための地下避難所(シェルター)だったんだ。

「結局は地下も魔らに攻め込まれたのは、君も知るとおりだ」

もう世界は真っ黒だ。

神々と人間が育てた緑はどこにも見えない。

中心で赤黒い炎が揺らぐ。熱気の渦中に、おぼろげな人型が無數。

「ユミールの尖兵、炎の巨人達だ。トドメとして怒りと憎しみで世界を焼き盡くそうとしていたが――そうならなかったのは」

空から投じられたのは、一振りの槍。

槍は巨人たちの中心に突き刺さり、大地全へ封印の氷を張り巡らす。

「最後の最後、主神の決斷だった」

世界は、氷に包まれた。炎ではなく、氷に。

「封印による敗北の先延ばし。アスガルド王國が生まれたのはこの後だ」

僕は長い間、氷に閉ざされた世界を見つめていた。僕が生まれる何千年も前にあったこと。

に勝利した神々が大地を人間に譲ってくれた――そんな誇りに満ちた神話とは、ぜんぜん違う。

もともと『アスガルド』は神々の國のこと。アスガルド王國はその名を神様から引き継いだっていう話も、母さんから聞いている。けれども神々の國も、人間の國も、同じように滅んだ。

緑に包まれていた大地は、氷におおわれている。本當の神話は、ここで終わりなんだろう。

封印の氷が世界を覆った後、太から小さなが産み落とされる。それは大地にしみ込むように消えてしまった。

「……あれがわたし」

ソラーナは寂しげに笑った。

「太を司っていた母さんは、この戦いで魔に食べられてしまった。わたしは金貨に殘され、眠りについた」

神々は魔に勝てなかった。それが『神話』なんだ。

続きを、今に引き継いで――。

「あの時、君に起こしてもらうまで、ね」

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