《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-12:シグリスの槍

休憩場所から出発して、僕はすぐに能力『野生の心』を使った。

覚が階層に行き渡る。

同じ過ちを繰り返さないよう、足音で敵を正確に捉えていく。

大きいのか、小さいのか。近づいているのか、遠ざかっているのか。

音の違いに気を配れば、さっきよりも格段に索敵が進む。

でも要所要所では魔力を使い、による探知に切り替えた。

「次の部屋、赤いが5つ見えました。大きさは全部同じで、隠れてはいません」

戦闘前、こんな風に教えるんだ。

『野生の心』は魔を赤いとして探知する。

その範囲は近くからだんだんと広がっていく。だから、周囲に敵が隠れていないかを探すくらいなら、ほんの一瞬、魔力を込めるだけでいい。

これなら魔力の使いすぎも起こらないだろう。

フェリクスさんは微笑する。

「了解。索敵に慣れたようですね」

フェリクスさんは杖をつき、指だけで戦士団に指示を出した。4人の冒険者は靜かに頷いている。

のサインなんだろうけど、僕には意味が読み取れない。

Advertisement

「あの、今のは……?」

「蹴散らして進むという意味です。リオンさん、実力は十分わかりましたから、攻略速度を上げていきますよ」

敵との遭遇を最低限にしつつ、僕らはどんどん階層を進めていった。

やっぱり『野生の心』は便利だ。

『……ボクの加護、使いこなしてるね』

『ああ。確かに溫存も大事だわな』

ウルとトールが金貨でそういいあっていた。

神様の聲も聞こえる。

『リオン、気をつけてなっ』

「うん!」

今、僕のレベルは18。

迷宮が推奨する20よりし低い。でもこの調子で進んでいけば、またすぐにレベルがあがるかもしれない。

「やぁっ!」

僕は地面を蹴って、レイスと呼ばれる魔を斬りつける。

足音がしない浮遊タイプの魔。けれど、奇襲がくる前に探知済みだ。

「オオ……オッ……!」

霧が吹き散らされるように、レイスは薄くなって消滅する。

小さな魔石が結晶して、カツン、と地面に落ちた。

すでに何度も繰り返してきた戦闘。この迷宮は冷えるけれど、さすがに汗を拭ってしまう。

Advertisement

進む方向に目をやる。

下へとつながる階段は、今まで降りてきたものよりも幅広で、左右には崩れた臺座があった。大昔には石像でも飾ってあったんだろうか。

金貨が震えて、シグリスの聲がする。

『……そろそろですね』

この先は、迷宮の最深部。

第8層――ボスがいる場所だ。

「うん、行こう」

階段では、僕らをい込むように燭臺が青白い炎を燃やしている。

降りた先は円形のホールだ。真っすぐな道が何本も放狀に延びている。

その先にボス部屋があるんだろう。ほとんどの迷宮ではボスと戦える部屋は複數あって、何パーティーかが同時に挑めるようになっていた。

……考えてみれば、こうした冒険者向けの工夫も、神様の采配なのかもしれない。

「道の數は……13か」

えっと、どこに進むのがいいんだろう。

シグリスの聲がした。

『私の記憶では、どの部屋からも同じ空間にいけるはずです』

なら、一息に決めてしまおう。

フェリクスさんに向かって僕は言った。

「どのボス部屋でも、未踏エリアにはいけると思います」

「では直進しましょう」

の戦士団が僕の前に出てくれる。1人が扉を開けて、僕は最後衛としてボス部屋へった。

――――

塚の主(ドラウグル・ロード)が出現しました。

――――

頭に響く、神様の聲。

ボス部屋には椅子が置かれている。

空間の闇が収束し、そこに1の魔が現れた。

金銀の豪奢な裝束。眼窩はうつろで、まるで骨だけになったのと引き換えに、財寶を新しいにしたみたいだ。大きな杖を持っていて、先端には悪魔の爪のような鉤がついている。

シグリスが教えてくれた。

『神話時代、巨人に降り、死に著けた邪法の使い手がいたのです。彼らは自さえもアンデッドにし、この迷宮に攻めてきた……』

赤黒い炎が目の位置に燃えている。唸るような聲は古代の詠唱だろうか。

広い部屋のあちこちに魔法のが生まれていく。スケルトンやドラウグルが、沼から這い出すように現れた。

「……東ダンジョンのように、特段の強化はされていないようですね」

フェリクスさんは冷靜に指示を出している。

「リオンさん、いけますか?」

僕は小さく頷いたまま、這い出てくるアンデッドを見続けていた。

たぶんこれが、大昔の南ダンジョンで起こったことなんだろう。

塚の主(ドラウグル・ロード)がやってきて、仲間を呼び出したり、倒れた戦士から新たに同類を作りだした。そして、ここを『暗闇の聖堂』に変えたんだ。

「オオ、オオ……!」

塚の主(ドラウグル・ロード)が笑っている。

かない僕らが、怖がっていると思ったんだろうか。

「ソラーナ、いいかな?」

確かに悲しい神話だけど、まだ終わったわけじゃない。

ルゥが元気になって一緒に生きられるようになった世界は、『神様が守ったんだよ!』ってを張って話せた方が何倍も素敵だって思う。

『もちろんだ』

僕は短剣を確かめて、口を開いた。

「目覚ましっ」

金貨からソラーナを解放する。太を振りまいて、空中に浮かび上がった。

塚の主(ドラウグル・ロード)が直する。

きっと何百年、何千年ぶりの、太だ。

「リオンよ。君の思いには、わたしも応えよう!」

金貨が短剣にくっつき、一化。スコルを倒した時のような、黃金のが切っ先から迸る。

――――

<スキル:太の加護>を使用します。

『太の娘の剣』……武に太の娘を宿らせる。

――――

による、アンデッドへの特攻。呼び出されたスケルトン達は、全が這い出る前に黒い灰へと戻っていく。

塚の主(ドラウグル・ロード)が恐れたように後ずさった。

あんぐり開いた下顎が『話が違う』なんて焦っているみたい。

念のため『黃金の炎』も発して、加速、跳躍。短剣を肩の位置に掲げると、天井までの大剣が屆いていた。

悪い夢を、朝日が醒ませますように……!

「オオオ……!?」

塚の主(ドラウグル・ロード)がにのまれて消える。

拳大の魔石がいくつか、重たい音を立てて石の床に転がった。

「……い、一撃ですか……」

眩しさのせいかフェリクスさんが目をこすっている。

「フェリクス殿。俺達、要りました?」

「やめなさい。しかし、これではむしろ我々が彼に守ってもらったのかもしれませんね……」

ボスの魔石を回収して、次は未踏エリアの調査だった。塚の主(ドラウグル・ロード)が座っていた椅子の裏側に、封印解除できそうな気配がある。

「この壁だね……目覚ましっ」

――――

<スキル:目覚まし>を使用しました。

『封印解除』を実行します。

――――

南ダンジョンの未踏エリアは、この迷宮では一番聖堂らしい空間だった。

高い天井がうっすらとり、數百人がれそうなほどの空間を照らしている。床も壁も白くて、もっと明るければ荘厳なんて言葉が似合ったんだろう。

ただ、今は足元に武や骨が散らばっていた。周りの壁にも魔が氷漬けになっていて、ボスのような塚の主(ドラウグル・ロード)も何か閉じ込められている。

『……このような高位の魔が攻めりました。倒れた戦士から次々とアンデッドが作り出されたのです』

シグリスの言葉にが痛くなる。

散らばっている骨は、魔に倒されながらもスケルトンになるのを免れた人……なんだろうか。

「祈りを捧げましょう」

フェリクスさんが杖をついた。

「神殿の祈りには、アンデッド化を防ぐ効果もあります。今更、そして迷宮でどれだけの効果があるかはわかりませんが……」

の戦士団は聖堂の中を確かめる。

やがて中央に集まると、一人一人が膝をつき弔いの言葉をささげた。

「オーディスの戦士として、神々と共に戦った英霊へ捧ぐ。今は剣を置き盾を休め、栄と思い出の中に安んじられますように」

薄暗い未踏エリアに、祈りの言葉が満ちていった。

『リオン。シグリスを外へ出していただけますか?』

「え、でも……」

しの間だけです』

そう願われて、封印解除をする。

青いを散らして、片目を髪で隠したシグリスが現れた。初めて見る神様の姿に、戦士団も目を見張っている。

力を抑えた人形サイズじゃない。本來のシグリスはすらりと背が高かった。

「皆様、ありがとうございます」

神様は一禮し、未踏エリアの奧へ歩いた。

そこには小さな祠があって、一本の槍が突き立っている。

「ここは私が封じられていた場所です。ヴァルキュリアと稱される神は他にいましたが――やはり今は、私だけのようです」

シグリスは手を組み合わせて、目を閉じる。この人も、仲間に祈ったのかもしれない。

「全員の無念を晴らせるかはわかりませんが……シグリスはまた、戦いを始めましょう」

神様は槍を手に取り戻ってきた。

「それは……」

「當時の神です。ここはヴァルキュリア達が魔を防ぐために戦った場所ですが、殘っていたのはこれだけ」

金貨に戻る直前、シグリスのが青くって僕に笑いかけてくれた。

「行きましょう。そして、私たちの意思を汲んでくれてありがとう、リオン」

――――

『シグリスの槍』を使えるようになりました。

――――

南ダンジョンが、その日に潛る予定の最後だった。レベルがあがったし、神様のこと、の戦士団のこと、しわかったような気がする。

僕たちは神殿へと戻ることにした。

そろそろパウリーネさんの用事も終わって、父さんや、敵のことについて話してくれるはずだから。

お読みいただきありがとうございます。

ここまででブックマーク、☆評価、想、レビューなどで応援いただけましたら幸いです。

    人が読んでいる<【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの少年は、眠りからさめた女神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください