《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-15:神様の起こし屋

敵は、世界最初の生き

原初の巨人ユミール――。

パウリーネさんは言葉がしみ込むのを待つみたいに、しばらくの間、口を閉ざしていた。

「もちろん、推測によるものではあります。ただ発言の容、戦士団さえ圧倒した強さ、なにより――」

フェリクスさんが引き取った。

「ここからは私が。迷宮から蘇った魔は、どれもその男に従っているように見えました。そのような魔は見たことがありませんし」

眉間にしわを寄せて、額にはめた小冠(コロネット)をなでる。

「何より、明らかに普通の魔とは違いました。人間の男、それも膨大な力をめた――そんな存在に見えました。魔と呼ぶには、あまりにも『私達』に似すぎているように思えたのです」

フェリクスさんはそこで言い淀んでしまう。

僕達に似ていたっていうのは、ちょっと曖昧な言葉だけれど、すとんと腑に落ちた。

神話時代の夢では、最初の巨人は自分に似せて神々を作っていた。

僕らに似ているっていうのは、僕やルゥが父さん母さんに似ているのと同じことなのかもしれない。

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「この戦いで、の戦士団は大きく數を減らしました」

パウリーネさんは言った。

「ですから、王都の東で貴族の権力が増大しても、そこに奴隷商人がいるとわかっていても、しばらく泳がせておくしかできなかったのです。灰という決定的な証拠を摑むまでは、貴族の力に対抗できませんでした」

様は僕達に頭を下げる。高い帽子が傾いて、塔が倒れるみたいだった。

「……十分な力があれば、東ダンジョンにももっと早く踏み込んでいたでしょう」

ミアさんが口を開く。

「……あんた、いや、総長が東ダンジョンにった理由も、人が足りなかったからかい?」

「それもありますが、一番は、私自の目で東ダンジョンの現況を確認する義務があると思ったからです。王都の東側については我々の責任ですから」

パウリーネさんがそこまで話してしまうと、沈黙がやってきた。

僕達が戦う敵についてかなりわかってきたけれど、それって狀況がよくなったわけじゃ……ないよね。

敵は大きい。の戦士団でも勝てなかった。魔を蘇らせる力を持っている。

こっちにあるのは――。

宙に浮いているソラーナと視線が合った。

神様は勇気づけるように頷いてくれる。

「神様、か」

僕の呟きに被せるように、ミアさんがぱんっと手を叩いた。

「……わかった。とにかく只者じゃないわけだ」

ミアさんがざっくりとまとめてしまった。

パウリーネさんが目をまん丸にしている。はぁあ、ととっても深いため息をついていた。

「ええそうです。本當に冒険者って……」

軽くなったのを試すみたいに、パウリーネさんはちょっと肩をすくめてみせた。

「まぁ、とにかく敵は只者じゃない……そういう話です」

ミアさんは、目線をちらりと僕に向けてくれた。

あ、と気づく。

これ、今から『渉』だ。

「終末という言葉は、神々と人を滅ぼす――いや、滅ぼし直す。そのような意味かと思います」

スコルを倒した直後に屆いた、神様からの全メッセージ。それもきっと、冒険者にこの終末を防げっていっているんだろう。

「リオンさん」

パウリーネさんは僕を見ていた。

「あなたが『封印解除』を見いだしました。神を起こす角笛も、あなたが目覚めさせました」

だから、とパウリーネさんは続けた。

「冒険者リオンに依頼をしたい。王都の起こし屋であったあなたに……他のダンジョンへ向かい『神様の起こし屋』をやってほしいのです」

ミアさんに目で謝する。

事前に渉が始まると思っていなければ、雰囲気にのまれてしまっただろうから。

「お兄ちゃん……」

「ルゥ、大丈夫だよ」

できるだけお腹の辺りで息を整えて、落ち著いてから答えた。

渉なら、まずは絶対に譲れない條件から。

「僕と妹は敵にすでに狙われているみたいです。もちろん、家族は守ってもらえるんですか?」

「無論です。ここには魔を遠ざける封印がダンジョンと同じように働いています。敵が魔だとすれば、攻めにくい場所でしょう」

僕は頷いて、ポーチから角笛を取り出す。

次は前提の確認だ。

「この目覚ましの角笛(ギャラルホルン)を頼りにされてるのかもしれません。けど今、この角笛は力を失っているみたいです」

機に置かれた角笛は、きれいではあったけど、使えた時みたいに側から輝くようなはない。

僕の<目覚まし>だけで神様が起きるかはわからない。だから、角笛が力を取り戻すのかどうかは、とても重要なことだ。

神様、トールが円卓を歩いて近づいてくる。人形サイズなのに一歩一歩で円卓が揺れた。

燃えるような赤髪は角笛の前で止まる。

「……ヘイムダルの神か」

懐かしそうに目を細めて、太い指で表面をなでる。

「確か、その『の夕焼け』でこいつも見つかったんだろう?」

「その通りです」

パウリーネさんが頷くと、トールは目を細めた。

「ヘイムダル、こいつを持っていた神は、神々の門番だ。遠くを見張っていて、戦いが始まるとこいつを吹いて神々の力を高めたもんだ。一流の戦士でもあったが……」

トールの言うことはなんとなくわかる。

「その、ユミールと戦っていたのかしれないね」

「ああ。やられてなければ強い味方だし、角笛についても聞けるんだが……」

この神にも持ち主がいたんだ。

ふと、スコルと戦っていた時のことを思い出す。

「あ、あの」

「ん? なんだ?」

「その角笛から、人の聲がしたかもしれないです。ええと、『俺の角笛が』……て聞こえた気がして」

「な、なにぃっ?」

トールは目覚ましの角笛(ギャラルホルン)をしげしげと眺めた。

「そ、それを早く言えよっ」

「で、でも、本當に一瞬だったから……」

聲を聞いたのはスコルとの戦い、まっただ中。

あの時は本當に、戦士団がやってきたり、いろんな神様が出てきたり、ソラーナが新しい力をに著けたり、一生分の驚きが行列でやってきていた。

正直なところ、今でも全部は整理できていないかも。

「ま、まぁリオンの立場じゃそうかもな。すまねぇ、だがこれはでかい報だぞ」

トールは顎をなでていた。赤い目は冷靜で、頼りになる戦神の顔。

「あの神は早々に倒れるやつじゃない。そうすると……だ」

トールは腕を組んで考えこむ。

角笛から離れて、灰をれた袋を背もたれにして腰かけた。

「……あの角笛からは確かに力をじる。中に神がいるとすれば、使えなくなったんじゃなくて、使うべきタイミングがあるんじゃねぇか? 普通じゃ『封印解除』できないような――特別な何かを目覚めさせる時だけ、とかな」

空中からソラーナが引き取った。

「うむ……実際にスコルとの戦いではそうだった。予斷はだが、希は十分にあると思う。側に神がいるとあらば、狀況を選んでいるというのも説明がつく」

「他の神様の封印を解くときなら、使えそうってこと?」

「そうだ」

テーブルに置かれた角笛は、さっきと同じようにを失ったまま。

でもまた神様と出會えれば、力を取り戻して、起こしてくれるかもしれない。

ソラーナは角笛の傍に降り立って、僕を見上げた。

「スキルの多くは、神の能力が人間にばらまかれたもの。だとすれば、君はそもそも角笛の主、ヘイムダルの力をけ継いでいたのだろう。君の目覚ましが、正しい神で100パーセントの力を発揮する……それが君とこの角笛の関係だと思う」

ロキやトール、それにシグリスやウルも、ソラーナの言葉に同意しているみたいだった。

冷え切っていた心が、ちょっと溫かくなる。

小さな希の火だけど、今はそれでも十分だ。

「……やれるかもしれないね」

神様の目覚まし。

他の冒険者みたいに、外へ出ていくことになる。

「……いいでしょうか」

母さんが手を挙げた。

「息子や、娘がその商人に狙われているのは、確かなのでしょうか?」

母さんは背筋をばして、パウリーネさんや神々を見據えている。

「母さんそれは……」

「リオン、まずは母さんに聞かせて。あなたは今まで頑張ってきた、だから……ちゃんと聞いて納得しておきたいの」

母さんは僕が危険な目にあうのを、よく思っていない。

心配してくれているんだ。王都を出ると、當然だけどルゥや母さんともしばらくは會えなくなる。

応えたのは、パウリーネさんだ。

「殘念ながら、その可能は高いです」

「確かにリオンはなにかの力を持っていると思います。ではルイシアは……」

「お母様。その點ですが」

パウリーネさんが言いさした。

「リオンさんの妹君についても、もうただのではないかもしれないのです」

僕と母さんは驚いてルゥを見た。

妹はこくりと頷く。

今更だけど、ルゥが神殿の服を著て、『魔力の練習』と言っていた意味に思い至った。

「お兄ちゃん、私も……スキルが使えるようになったかもしれないの」

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