《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-16:スキル<神子>
スキル――それは一般的には主神オーディスからすべての人に與えられる加護のことだ。
僕の場合は<目覚まし>。ミアさんは<斧士>。フェリクスさんは<賢者>。
神様との絆は、基本は一生に一つきり。
それはほとんどの人が主神オーディス様以外の神を知らないまま、一生を終えるという意味でもあるんだろう。僕は他の神様に出會えたから、たまたま複數の加護をもらっている。
「ルゥに、スキルができたの?」
そう訊くと、ルゥは困ったように笑った。
「うん、でもね……」
ルゥはまだ一個もスキルを持っていない。だから主神から頂く加護をまだもらっていないということで、確かに必ず一つは生まれるはずだった。
し言いよどんだ後、ルゥは瞼を半分に下ろす。
「まだどんなスキルかわからないの……」
パウリーネさんが引き取る。
「非常に珍しいことです。普通であれば、スキルは獲得と同時に神様の聲が聞こえますから」
「そうなの。だから、魔力を集中させる練習をしていたんだけど」
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言いながら、ルゥは手をの前にかざす。これからどん、と何かを押すみたいな姿勢だった。
どうやら一杯、魔力を出そうとしているみたい。
「……あれ」
一瞬、僕はありえないものをじてしまった。
もう一度、今度はスキルを使って確かめる。
<目覚まし>に宿った封印を鑑定する能力だ。
――――
<■■■■■■■>が封印解除可能です。
――――
が泡立った。初めてソラーナに出會った時にも、読めないスキルがあった。それは<太の加護>だったのだろうけれど……それと同じ読めない加護が、ルゥにある。
「……封印、されてるんだと思う」
僕は妹の両手を握った。手枷を砕くイメージで、力を呼び起こす。
「目覚ましっ」
ぱぁん、とルゥの手首からが散った。
の飛沫は宙に舞い、消えることなく部屋全を包んでしまう。
「……ルゥ?」
ルゥは空を見て固まっていた。天井を抜けて、さらにその向こう――ずっと空高くにある天上の世界から、誰かの聲を聴いているみたいに。
「スキル<神子(みこ)>」
ルゥの薄いが、つぶやいた。
「能力『創造』を使います」
ルゥが円卓の上に手を掲げた。両掌の下にが集まっていく。
「……ここに魔石を」
妹の聲なのに、どこかいつもと違う。まるで誰かがルゥと一緒に話しているかのように、聲が重なって聞こえるんだ。
「魔石を」
フェリクスさんと視線が重なり、首肯しあう。
「リオンさん、言うとおりにしましょう」
僕らはルゥの手の下に魔石を置いた。今日潛ったダンジョンで回収したものがあったから。
ソラーナがさっと飛んでくる。
「……創造? ルイシアはそう言ったのか?」
神様も見守る中で、魔石からの粒が溢れ出す。
の粒はルゥの手元に集まっていき、どんどん大きさと輝きを増し始めた。
微かに鼓が聞こえる。で何かが脈打っているみたいだ。
短く息をはく音。ぼんやりしていたルゥの目が、焦點を結んでいる。でも呼吸は荒かった。
「……守って」
呟いて、ルゥはぎゅっと目を閉じた。
「神様、兄を、お兄ちゃんを守って……!」
魔石から放たれた魔力は、一つの球になっていた。
まるで種から芽が出ていくように、輝きがゆっくりと形を変える。手袋を思わせる形狀がの糸で編まれていった。
やがて円卓の上に、銀にる防が顕現する。
口が勝手に呟いた。
「ガントレット……だ」
肘から先を、指まできれいに保護してくれる高級防。
両手の甲には明な水晶が埋め込まれて、『青水晶の短剣』ともし似ていた。もしかしたら、ここにも霊を宿せるのかもしれない。
普段著をちょっと補強しただけの今までの防とは比べにならないし、の戦士団が貸してくれたグローブさえこれにはとても及ばない。
持ってみると金屬とは思えないくらい軽かった。短剣を持っていても、まったく負擔にならないだろう。
ミアさんが口笛をふく。
「5本指か……騎士の鎧並みだねえ」
他の冒険者でも、例えば指が分かれていない、鍋摑みみたいなガントレットを持っている場合はあった。でもそれは安だ。
「……驚いたな」
トールも唸っている。
「これは、創造の力だぞ」
「そう、ぞう?」
ルゥが顔をあげる。
「魔力から質を作った。世界を創ったスキルなんだ。神々でさえオーディンしか持っていなかった、特別も特別、唯一であるはずの力だが……」
僕達は顔を見合わせた。
「なんで、ルイシアに……」
もちろん誰も答えられない。
トールはさらに言った。
「これは、逆かもしれないぞ」
「逆って……?」
「リオン。今まで、リオンが敵に狙われていて、その妹としてルイシアが狙われていた……そう思っていたが」
頭が急速に冷えていく。
「逆だ。敵は『創造』を――ルイシアを探していて、お前を見つけたんだ」
ふらっとが揺れてしまった。
「ルゥ、そんな――」
落ち著こう。
狀況が変わったわけじゃない。僕ら兄妹は、どっちも敵に狙われている。
でも敵のより大きな狙いが、僕じゃなくてルゥにあるんだとしたら、ルゥは僕よりももっと危険ってことになる。
「ダメ……だよ」
言葉が口をついた。
「ルゥがそんなに危険なら、僕はルゥから離れちゃいけないんだと思う」
「ですが」
言いさすパウリーネさんに首を振った。
「<目覚まし>は……ルゥを守るためにもらったかもしれないんだから」
今思うと、主神オーディス様が――もうオーディンって呼んだ方がいいんだろうか――スキルを與えるんだとしたら、僕に『封印解除』を與えたのにもきっと理由があるんだろう。それはとんでもない力を宿したルゥを、守るためなのかもしれない。
「僕、ルゥとは離れたくない」
「……お兄ちゃん」
ルゥがふらつきながら立ち上がった。
「私は大丈夫」
「でも」
「言ったでしょ。元気になるって、お兄ちゃんもお兄ちゃんのこと考えてって」
でも、でも、と思考がまとまらない。ルゥが一番大事だって、守らないとって、ずっと思ってきた。
こんなすごい力まであって――。
「でもお兄ちゃんが王都にずっといたら、他の神様が出てこれないんでしょう?」
「それは、そうだけど……」
「私は大丈夫。すごい力みたいだし、私なりに使えないか、考えてみるよ」
それでも、僕の足はかなかった。レベルも上がった。スキルも増えた。なのにがこんなに重いなんて。
「夢だったんでしょ?」
「……ゆ、夢?」
「お父さんみたいな、世界にでていける冒険者になるのが」
父さんから聞いた、たくさんの語。北ダンジョンで見た、大昔の森。
世界にはまだ知らないことがある。行ったことがない場所がある。
「お兄ちゃんは、々な人を起こしてきた。だからもう、お兄ちゃんが起きる番なんだよ」
行ってきて、とルゥは言った。
「強くなって――待ってるから」
すごく小さな時から知っている、見慣れた妹の手のひら。それがとん、と僕の背中を押してくれた気がした。
前に行くようにって。
振り返らないで、駆けられるように。
母さんは目を伏せ、もう何も言わなかった。
「……わかりました」
小さな家族に勵まされて、起しない男がいるだろうか。
一人の冒険者として、僕は宣言した。
「神様の起こし屋。その依頼、おけします!」
パウリーネさんが顎を引く。
「謝します。こちらはワールブルク家と奴隷商人の繋がりを洗います。では、最初に行っていただく迷宮をお話ししましょう――」
それはすぐ近くの、あの迷宮だった。
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