《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-18:ゴーレム

押し殺した息を、僕はゆっくりと吐き出した。

視線は前方。

対象は巨大。

地面を揺らしながら、敵はゆっくりと僕へ迫る。

それは大雑把な人型で、巖と鉄でできた足が迷宮の床を踏みしめていた。頭の高さは5メートルあって、目の代わりなのか、一つの赤いが揺らいでいる。

アイアン・ゴーレム。

西ダンジョンのボス層を守る、神話時代の魔法生だ。

『気を抜かずにね』

「うん」

ソラーナの聲に顎を引く。

僕のは、すでに『黃金の炎』に包まれていた。

ざり、と後腳を下げて力を貯める。

構えた短剣をゴーレムへ向ける。ルゥからもらったガントレットで、クリスタルが僕を勵ますようにきらりとした。

が腕を振り上げた。

「ウオォ」

巖山を打ち付けるような振り下ろし。

攻撃チャンスだ。

振り下ろされた腕は地面から肩、そして頭へと続く絶好の通り道になるんだから。

「はっ」

僕はゴーレムの腕へ飛び乗った。一気に頭にくらいつく。

――――

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<スキル:狩神の加護>を使用しました。

『野生の心』……探知。魔力消費で、さらなる効果。

――――

魔力を消費し、ゴーレムを一瞬だけ探知した。首の奧に赤いオーラが見える。

「見つけたっ」

探していたのは、このゴーレムを維持している核だ。

父さんから教わった知識だけど、ゴーレムには魔力を全に送る中樞部がある。だから核を壊せば、大きなも瓦解してしまう。

「核は、首筋です!」

即座に仲間へ伝達。

「任せるぞ!」

ミアさんの言葉に頷いた。ゴーレムの前に躍り出て注意を引いてくれる。

僕は謝しながら、短剣の刃を橫に。

一気に、薙ぐ!

「ウォ! オオ、オオォオ……」

ゴーレムの頭で、赤いが強まった気がした。

積み木を崩すように、足から順番に巨が崩れていく。

僕がいる頭部もぐらりと揺れて、急いで地面に著地した。転びそうになるのを、ぽんと誰かが支えてくれる。

「やるな、リオン」

ミアさんは笑いかけた。

「西ダンジョンのボスもほとんど単獨(ソロ)だったな。戦闘のレベルは、30くらいはあるんじゃないか?」

「は、はい……」

スキルには持っているだけで能力を強化するものがある。<太の加護>もそうだし、<雷神の加護>や<狩神の加護>も同じだ。

僕は普通の人の何倍もスキルの恩恵をけているわけで、考えてみると規格外だ。

推奨レベルが25の迷宮、そのボスに単獨でも遅れを取らないんだから。

「……『黃金の炎』の時間限定、ですけどね」

アイアン・ゴーレムの殘骸では赤いオーブがむき出しになっている。ルーンが刻まれたこの球が、ゴーレムの核なんだろう。

しばらく眺めていると、殘骸もオーブも黒ずんでいき、やがて灰のように崩れた。

フェリクスさんが、かつんと杖をついた。

「……我々は肝が冷えましたがね」

額の小冠(コロネット)を押さえている。

西ダンジョンでは、ミアさんに加えての戦士団も一緒なんだ。

ミアさんが腕を広げて口を曲げる。

「なんだい。倒せたんだから十分だろ? あんたらもあたしも、リオンをべったり守るわけにもいかないんだから」

僕は頬をかいてしまった。

みんな仲間なんだけど……ミアさんとフェリクスさんは、ちょっとぶつかることが多い。

「ふぅ。在野の冒険者というものは……」

「あんただって冒険者じゃないか」

「ですから」

フェリクス殿、と他の戦士団にたしなめられている。小さく息をはいてフェリクスさんは引き下がった。

う、うん、戦闘はもう終わりだもの。

僕は無理やり明るい聲を出した。

「さぁ、未踏エリアを探しましょう」

ちょっとわざとらしかったかな。

でも、大事な目的なのは噓じゃない。ここへ行くように指示したのは、パウリーネさん。戦士団に伝わっている『重要なもの』があって、他の神様を探すときのヒントがあるみたいなんだ。

僕は一番詳しい人――いや、詳しい神様に聞いてみる。

「ロキ。あなたがいたダンジョンだけど……本當に次の目的地がわかるようなもの、あるの?」

『もちろん』

すぐにロキは請け負った。

『次の目的地を決めるのに、不可欠なものさ』

ただ、教えてはくれないのもロキらしい。

「うーん……」

『神様の起こし屋』を引きけたはいいけれど、次の目的地は不明なまま。

その目的地が決まるとなれば、足に力もる。

「行きましょうっ」

気合をこめてずんずん歩く。ゴーレムとの戦闘エリアなせいか、西ダンジョンのボス層は広々としていた。

<目覚まし>を意識しながら、壁に沿って歩いていく。もし『封印解除』できる壁があったら、うっすらとって見えるはずだった。

全部調べていくのは、けっこう長く歩かないといけないかもしれない。

だんだんと意識がそれ、ある出來事がに浮かび上がってくる。

後ろから聲がかかった。

「心配しすぎるなよ」

ミアさんだ。びっくりして振り向く。

「……え?」

「妹さんのこと考えていたんだろ」

ミアさんをすごいって思うのが、こういうところだ。僕が悩んでいたり、ぼうっとしていたりすると、聲をかけて現実に戻してくれる。

白銀の手甲を眺めていたからミアさんにばれてしまった。

「ずっと考えても仕方ないんじゃないか? 妹さんの力をユミールが狙っているっていうのも、まだ推測なんだろう? 向こうがそう言ったわけじゃない」

「ですが」

フェリクスさんが言いさした。

封印を探すのは<目覚まし>の能力だから、會話をしていても探知は大丈夫だろう。

「狀況としては、案じない方がおかしい。そもそも創造の力は、神々がユミールから奪って、そのうえで世界を創ったというもの。ユミールが失われた力を取り戻したがるのは頷けます」

靜かになったボス層に僕らだけの足音が響いていた。

「……確かにルイシアさんに力があるかどうかは、ユミールにもわかっていないかもしれません。ですが、リオンさんと合わせて有力候補――くらいにはなっているのではと思うのです。敵が奴隷を集めてまで『珍しいスキル』を探している理由も、まさに探しにそれだけの価値があるからでしょう」

そう。

敵が『創造の力』を探しているって考えると、彼らのきがぴたりと説明できてしまうんだ。

奴隷商人は珍しいスキルを持つ人を探していた。『創造の力』以上に珍しいスキルって、ちょっと思いつかない。

「そんな大事な力なら、神様が持っておけよ」

「それは――」

フェリクスさんが言い淀んだ。

「――そうですが、それこそ我々でも、ここにおられる神々でもわからないことです」

たしかに。

創造の力がルゥにあるって分かった時は、神様の反応もすごかった。

トールはトールで『オーディン、なんで地上にそんな大事なものを置いてるんだ!?』って頭を抱える。

シグリスは『ま、まさか落とした? それとも紛失したのでしょうか……?』なんて途方にくれて。

ウルが『落とすか普通っ?』と突っ込んでいた。

神様にとっても想定外だったんだろう。

ロキだけは『……封印のあと、何か起きたね』って分析していたけれど。

確かなのは、ルゥを守らなくちゃいけないこと。誰かを守るためには、どれだけ強くなっても足りないのかもしれない。

「……ミアさん、あなた何でも聞きますね」

フェリクスさんが遠い目をしていた。

「ああ。ついでに、スキルを集めたとして敵はどうするつもりなんだろうなぁ」

「それについては」

さすがにちょっと尖り聲でフェリクスさんは応えた。

……ミアさん、ちょっと楽しんでません?

「敵は他人のスキルを奪ったり、逆に與えたりできるようなのです。未確認、そしてあり得ない力なので長く保留にしていましたが、ユミールという存在であれば可能かもしれません……」

ルゥから力を奪うこともできるのか……。

外周をかなり長く歩いて、ようやく僕らは封印解除できそうな壁にたどり著く。

――――

<スキル:目覚まし>を使用しました。

『封印解除』を実行します。

――――

地鳴りと共に壁がひび割れ、文様が刻まれた門が現れる。

門が奧に向かってゆっくりと開くと、ひんやりした空気が流れてきた。

「……あれ?」

ふと、視界の端、何もいないはずのボス層に赤いが見えた気がする。『野生の心』で探知できる敵魔力によく似ていた。

けれど、力を使ってもう一回見渡しても何もない。

薄暗い戦闘エリアが広がっているだけだ。

ミアさんが怪訝な顔をする。

「どうした?」

「いえ、行きましょう」

僕らは未踏空間に踏み込んだ。

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