《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-28:トリックスター
神様の活躍で戦闘は終わった。『野生の心』で魔力探知しても、もうくゴーレムはいない。
風が鳴るだけの、靜かな夜に戻っている。
――――
レベルが20になりました。
――――
神様の、そんな聲が聞こえた。
ずいぶん久しぶりだったから、ぽかんと口を開けてしまう。
レベルアップ――中級者のり口ともいわれる、レベル20だ。
「や、やったっ」
ミアさんが眉を上げた。
「レベルが上がったのかい?」
「うん!」
レベルが一度に2つも3つも上がっていた頃と比べると、最近は控えめだった。
人によっては足踏みする時期があるらしい。
もちろん、の戦士団――つまり魔力を山分けするパーティーが増えたとか、狼やスコルが規格外だったってこともあると思う。
でも足踏み狀態だったことは確か。だとしたらこれは大きな一歩だ。また1つ、が強くなったってことなんだから。
「おめでとうリオン!」
ソラーナが祝福してくれる。神様の言葉はいつもがふわりとして、溫かくなる。
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「ありがとう……でも」
けれども、喜んでばかりもいられない。
僕は周囲に目を移す。
霧で囲われた戦場に殘るのは、折れた木々やえぐられた地面。
王都と同じで、戦の傷跡は生々しい。広場の一部だった場所は、巨人が耕したみたいになっていた。
ゴーレムも強いけど、神様の力もとんでもない。角笛がもし吹けたら、もっとすさまじいことになるんだろう。
「さて……」
ロキがふわりと地面に降りてくる。
月が黒髪とローブを薄青く照らしていた。
「おやおや。せっかく戦いを隠しても、これだけ痕跡が殘っては大差がないねぇ」
それは……そうだ。大混よりはマシだけど……。
「ふふ、わかるよ。これを殘したまんま霧を解いたら、結局はパニックになるだろう。これほどの破壊をした存在が――魔がいたってことだからね」
ロキはふふっと笑い、赤い瞳を輝かせた。
「このまま魔法の霧を解いて、観衆の驚きを楽しんでもいいのだが」
「ロキ!」
「はいはい」
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ソラーナに叱られて、ロキは肩をすくめた。
神様が手を振ると、あちこちに赤いが燈る。壊されなかったゴーレム核だ。
その數は8つほど。
はだんだんと青く変わっていく。
「きちんとやるさ、最後まで」
目を見張った。
ゴーレムを構していた土や巖が、地面に戻っていくんだ。抉られてできたは何事もなかったかのように消えてしまう。
ロキが得意げに解説した。
「魔神の、ほんの手みさぁ。ゴーレム作りは、周りから巖石や土を取り込む作業。その式を逆転させれば、土や巖は元の大地に戻るってワケ」
僕はオーディス神殿の書斎で學んだことを思い出した。
ゴーレムは核のそばに取り込んだ質によって、質を変える。
西ダンジョンにいたミスリル・ゴーレムはミスリルが材料。
さっき暴れていたのは、木や巖、あるいは武の鉄を取り込んだ種類だったのだろう。
「ええと……」
だからゴーレム発生を逆回しすると、もとあった場所に土や巖が還っていく……てこと?
フェリクスさんが額の小冠(コロネット)を押さえていた。
「……パンから小麥を取り出すような離れ業ですね。規格外、といいますか」
シグリスがふわりと舞い上がる。
「では、命ある木々はシグリスが」
大きな匙がの粒をまく。激戦で折れた枝や、傷ついた幹が元通りに癒される。
ロキが僕に向かって片目を閉じた。
「これで、痕跡はナシ」
魔神様はぱちんと指を鳴らした。
「さて、後は……」
楽しそうに言って、ロキはに人差し指をあてた。
呆然とする僕らの前で、ローブを首元まで引き上げ、フードを目深にかぶりなおす。
「次は、ちょっとしたイタズラをしよう」
戦闘エリアを覆っていた霧が薄くなっていく。
外にいる冒険者やの戦士団もうっすら見えてきた。
遠目でも、見守っている人達の張が伝わる。武を構えている人がほとんだ。
こんな狀況で、パニックをしも起こさないで場を納めるなんて、できるんだろうか。
ソラーナやトール達は金貨へと戻ってくる。
外へ出たままなのは、ロキだけ。魔神様はうそぶいた。
「あと必要なのは、ストーリー。みんなが納得して夜に眠れる、そういうオ(・)チ(・)をつけてやればいい」
ロキは「うーん」と大きく背びをしながら、霧の外へ出ていく。
あまりの自然さに僕は固まってしまった。みんなの視線がロキを追う。
神様、ばっちり見えてる……。
「あの」
『しっ』
言いかける僕をソラーナの聲が制した。
ロキはびびと手を広げた。
「いや~、実験ができてよかったなぁ! 楽しかったぁ!」
騒を取り囲む冒険者。
數は30以上。
ロキは見せつけるように、ローブを翻しながらくるくると回る。
「はは! 野外って最高ぉ! いやぁ、多大きな音は出たけれど――」
そこで、ふと気づいたように集まった冒険者の方へ顔を向けた。
「……おや。お騒がせでしたか?」
靜けさは一瞬。
溫度が一気に吹きあがった。
「ふっざけんなぁあ!」
「魔法使いの実験かよ!」
「睡眠時間返しやがれ!」
「でかい音がしたと思ったけど……」
「見間違いだろ、ゴーレムなんてどこにいるんだよ!」
罵聲と文句。
ロキはそそくさと逃げ出した。すっと闇に消えたように見えたけど、あれ、多分ホントに魔法で消えてるよね……。
「誰か衛兵に通報しろ!」
「とんでもねぇやつだ!」
ロキは、僕らが逃げられるように霧を殘してくれていた。死角を辿るだけで、黒小人がいた位置に帰れる。
フェリクスさんが細い目をさらに細めて、呆れ顔だった。
「な、なるほど……これで騒は素不明の魔法使いの不始末になったというわけですか」
金貨が震える。ロキがコインに帰ってきたんだ。
『ま、多は不安を呼ぶだろうが、ゴーレムが暴れたよりはよほどマシだろう。後日、魔法使いは捕まって罰をけたとでも神殿が告知すればいい、ふふふ』
ゴーレムの軍勢なんて、最初から存在しなかった。
そういうことにしてしまった。
実験で夜に大騒ぎを引き起こす――そんな間抜けな魔法使いを演じることで。
『僕らの行程は、アルヴィースまでは隠行だ。目的にもこっちが適うだろう』
そうか、そこまで考えてたんだ……。
ロキはイタズラ師(トリックスター)の神様かもしれない。
『はは、まぁみんなを驚かせるのも楽しそうだったのだけどねぇ?』
『……そういうことをいうからですよ』
あの時も、とシグリスが続けかけて、口をつぐんでしまう。
なんだろう。神様の空気が、し変わった。
「……どうしたの?」
応えを待つうちに、僕は金貨に1人いないことに気づいた。
「あれ、ウルは……?」
◆
男は逃げていた。鼻にある古傷をかくのは、焦っている時の癖だった。
「くそっ、くそっ」
簡単な仕事なはずだった。何度もやってきた仕事のはずだった。
アルヴィースにいる魔法使いから、ゴーレム核や魔石の移送を請け負う。ゴーレム核、それも強力なものは王國が管理するいわば制品で、の輸送はカネになる。
慣れていた。
だが油斷していた。見張りを怠った。
何よりも悔やむのは、仲介者のいを真にけたことだ。
――茶髪で金貨を持った子供の冒険者。
――わずかな報でも見つければカネになる。
確か、『目覚ましの年』とか呼ばれていた。
雇い主との間には仲介屋が何件もり、下りてくる報は限られる。
だがカネの臭いだけは覚えていた。
だから、それらしい子供がいた時、金貨を持っているか確かめたのだ。
ポケットに手を突っ込み、金貨があればよし。なくてもスリなんて今までもやってきた。その戦歴に一つ加わるだけだから。
幸か不幸か、男はアタリを引いていた。
「あんなヤバイ連中だって知っていたら……!」
顔も知らぬ雇い主に、毒づく。
金貨を奪ったとき、れをバカにした。その時の妙な威圧が怖くなる。
子供なのに、すさまじい力をめているような。
あんな汚いコインケースがなんだっていうんだ?
「ちくしょうっ」
仲間は全員捕まっている。男だけが運よく、ゴーレムが暴れた隙をついて逃げたのだった。
疾走する頭上に矢が刺さる。
「ひぃっ」
頭を下げた拍子、男はバランスを崩して転倒した。
背中に幹を背負う。
「なんだ、これ……」
リス、コウモリ、フクロウ、ウサギ、キツネ――逃げ込んだ森にいるありとあらゆる生きが、男を見ていた。まるで逃がさないと監視しているように。
「子供の頃、言われなかったかい? 悪いことすると、神様が見ているって」
目の前。
狩人風の男が木から降りてきた。
直後、太い枝が男の頭に落下し、意識を狩りとる。
「さて、獲は捕まえたし、戻るかな。そろそろ、封印で寒くなってきたしね……」
狩神ウルは男を擔ぐと、大切な年のところへ戻るため歩き出した。
「ところで……誰もボクを迎えには來ないのかな……?」
ひゅうと寂しい風がふいて、フクロウの聲がした。
「うん、斥候ってそういうものだよね……ていうかみんな、僕がまだ働いていることくらいには気づいてくれてるのかな……」
肩を落としてウルは進む。
偵察、撹、き寄せ、そして後始末――最前衛は、いつも昔もちょっとブラックだった。
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