《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-34:アルヴィースの迷宮
アルヴィースのダンジョンには、他のダンジョンにはない特徴がある。
それは本當の『鉱山』であるということ。
『踴る小人亭』で準備を整えてから、僕らは迷宮へと向かう。
り口は鉱山の中腹にぽっかりと口を開けていて、馬車が何臺もすれ違えるほど立派だ。石造りなんだけど、まるでさっき切り出されたみたいに巖の表面はすべすべしている。
「ここ……」
フェリクスさんの背中で、サフィが聲を出した。
小人は目を引いてしまうだろうから、迷宮でもサフィはリュックに隠れている。
『守護の指』のおかげで、しばらくは封印にも対応できるはずだけど……。
「どうしたの? なにか変?」
「な、なんでもない……」
もっと問いたかったけれど、迷宮部に目を奪われてしまう。
「わぁ……!」
高さ10メートルはある天井。そこに魔石燈がたくさん吊られて、ダンジョンなのに真晝のように明るい。
見渡すほどの大広間には、売り買いの聲が響いている。
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なんと、馬車で乗り付けて買いしている人もいた。
「こ、ここ、ダンジョンの1層目ですよね?」
「そうさ」
ミアさんはにんまり笑う。驚かせたのが楽しいみたいに。
でも、こんなのキョロキョロするなっていう方が無理だよ。
「アルヴィースのダンジョンは、1層目に市場がある珍しい迷宮なんだ。スライムぐらいは出ることあるけど、みんな承知さ」
「えっ……え!?」
フェリクスさんが補足する。
「なお、冒険者ギルドもオーディス神殿も公認です」
父さんからし聞いていた。けれど、現実は想像を超える。
だって太い柱の周りには、店を開いている冒険者がいて。
その合間を馬車が橫切っていて。
「どいてくれえ!」
「道を開けろぉ!」
採掘されたであろう超大型な斧が、臺車に乗ってやってくる。引いているのは屈強な冒険者達だ。
ドォン!と一際高い舞臺に巨大斧が置かれた。
人がわっと集まる。
壇上の人は、太いお腹と腕で存在抜群だ。
「さぁさぁ! アルヴィースの第2層から発掘された、このゴーレムサイズの巨大斧! 材質はグラン鋼、現代の技では製不可能、溶かして鋳固めるだけで逸品確実なレアだぁあ!!」
口上はここまで響いてくる。手を打ち合わせる音が甲高い。
「では8萬ゲントから!」
せ、競り、だ――!
ここ、ダンジョンから出たを、ダンジョン中で競りに出しちゃうんだ!
呆然としていると、歩いている冒険者パーティとぶつかりそうになる。
「第5層では主(ヌシ)が出たらしいぞ」
「ちょっと早いな」
「魔の強さが上がってるのか?」
「全メッセージどおりだな……」
耳がそんな會話を拾ってしまう。
盛況にみえるこの迷宮でも、『巨人の灰』で魔の強さが変わってきてるんだろうか。
『終末』を予言した神様の全メッセージも、ここではカルマルよりも切実に捉えられているみたいだ。冒険者の街だからだろう。
『……灰の気配はする。かなり下の方から、とても強く』
ソラーナが金貨から教えてくれた。
『サフィが目覚めた時にじた嫌な気配というのは、これかもしれないね』
巨人がいるかもしれない迷宮ってことになるよね……。
事前報で予想はしていた。でも冒険者の聲を聞くと、差し迫ってじる。
賑わいと、危機。
「はい! 10萬ゲント! 10萬ゲントで妥結です!」
競りが終わる聲で、現実に引き戻された。
ミアさんが笑っている。
「魔石はギルドが買い取るし、鉱石なんかも別に市場がある。だけど、迷宮でとれた掘り出しものなんかは、ここですぐに鍛冶場が買い上げちまうのさ」
馬車に巨大斧が積み込まれ、あっという間に口へ消えていった。
あのまま鍛冶場に直行しちゃうんだろうか。
「……なんというか、すごい、ですね」
「ああ、すごい。最上の原料を誰より先に手にしたい――そんな鍛冶屋のコダワリってやつだろうね」
ダンジョンから武を見つけて、誰かが売って。
それをまた誰かが買って、ダンジョンに潛る。
武を使うのも、生み出すのも、この迷宮ってことか……。
フェリクスさんが杖をついた。
「さて、我々も下へ向かいましょう」
僕は両頬を叩いて、浮わついた自分を叱りつけた。
顎を引いて応じる。ここからは実戦だから。
「修行ですね」
「しゅ、修行?」
フェリクスさんはちょっと驚いたみたい。だけど、すぐに肩をすくめる。
「確かに。修行ですね」
「ええと。2日を迷宮での修業に費やして、最後の1日で最下層つまりボス層へ向かう……そうですよね?」
事前に決めた予定(ルート)を確認した。
攻略に3日をかけるのはし悠長にみえる。
ルゥを守るための力がここに眠っているかもしれない。サフィの仲間だってきっといる。
本當はすぐにでもボスに挑みたい。
でもそれを制するのが、フェリクスさんとミアさんの経験だった。
「リオン、焦るなよ。最初は特にだ」
見上げると、ミアさんの目は真剣だ。
フェリクスさんも額の小冠(コロネット)を直す。
「ここは火を使う魔が出ます。リオンさんのレベルは20ですが、最低でも22、高みでは25くらいまでは上げて挑みたい。迷宮の推奨レベルが25ということもありますが――」
フェリクスさんは言葉を継いだ。
「魔の炎は本能を刺激します。つまり『熱』です。恐怖に平常心を失い、恐慌、きがれて死んでしまう――実際に起こりうる話なのです」
「それで裝備も変更なんですね」
「その通り」
僕達は、アルヴィース・ダンジョン用の裝備に切り替えていた。
ガントレットはルゥからもらったものをそのままに著けている。ただ、左手甲にあるクリスタルはが赤く変わっていた。
小人の鍛冶屋さんサフィの仕事だ。
旅用のマントも、炎に強い素材へ替えている。さらに防にも、サフィは魔法の文字(ルーン)を刻んでいた。
『炎(ケン)』と『氷(イス)』――炎よ停滯せよって意味らしい。
「このダンジョンには、最下層のボス以外にも、中間ボスという大がいます。実力を試す意味でも、事前に戦うといいでしょう」
そこで、僕達のところに男の冒険者が歩いてきた。
がっしりした男は大きなリュックを背負っている。もう片方のは、何も負っていない。
2人は足を揃えて止まった。
「フェリクス殿」
「到著しました」
突然でびっくりした。でも、よく見るとどっちも旅で一緒だった、の戦士団だ。
ダンジョン用の裝備になっているから分からなかった。
フェリクスさんが紹介する。
「彼らはここで合流します。サフィも背負ってもらいましょう」
言いながら、フェリクスさんはサフィのったリュックを2人に任せた。
「ここでは魔石以外にも、重たい鉱石やが出ます。そのため、アイテム運搬――いわゆるサポーターが2人いることも珍しくはない」
サポートの専門家ってことかな。階層が深いダンジョンでは、そういう人が必要になるって聞いたことはある。
僕はぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いします」
さて、準備は整った。
いよいよ探索開始。
左腰の短剣を確かめる。サフィは武にも魔法文字(ルーン)を刻んでいた。
神様の聲を思い出すと気持ちがう。
――――
青水晶の短剣〔迅(ラド)〕
――――
小人の加治屋さんは、宿った霊と同じ風の魔法文字(ルーン)を武に授けてくれたんだ。
「行きましょう!」
戦闘層へ降りる。
新しい迷宮で、神様や仲間からもらった新しい力を試そう。
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