《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-36:霊もパワーアップしました

「目覚ましっ」

斬撃が、飛んだ。

そうとしか表現しようがない。

ただの突風とは違う切れ味を持った風がロック・ワームに飛んでいく。

「シャアアアア!」

サポーターのリュックに揺られて逃げるサフィ。

追うロック・ワーム。

小人と魔が睨めっこしながら、同じように大口を開けている。

「キキキ!」

「いっやぁああああ!」

片方は真っ赤な一つ目で、もう片方は涙目。

地中からびる魔、その真ん中を風の刃が通り抜けた。

ロック・ワームがぴたりと靜止する。サフィも涙目のまま、ぶのをやめていた。

「……あれ?」

サフィが黒目がちの目をぱちくりさせる。

ロックワームのが上下にズレた。ごとんと切斷された上半分が地面に落ちて、灰になって消える。

しんとした。

これ、シルフの――<目覚まし>された霊の力だよね?

「い、今のって……」

靜寂のダンジョン。頭の中で、ウルの聲が弾んだ。

『ははっ! すごいねぇ』

「え……」

霊がこんなにやる気を出すなんて。ボクでもなかなか見たことがない』

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手放しの譽め言葉が続く。僕は斬撃を放った刀を呆然と見つめた。

霊も君を応援したくなったのかもしれない。小人が刻んだ風の魔法文字(ルーン)もあるだろうけど、霊が起しないとこうはならない』

青水晶の短剣、そこに宿った輝きを見下ろす。わん!と霊シルフの得意げな聲が聞こえた気がした。

フェリクスさんも腕を組む。

「……中級以上の魔法に見えましたが」

また金貨が震える。引き取ったのは魔神ロキだ。いつものおどけた調子は引っ込んで、心から心しているみたい。

霊がリオンの思いを読んだのだろう。それを再現したから、魔法みたいに複雑な効果が表れた』

「ま、魔法……? 僕が?」

確か、以前は僕には才能がないといわれていた。魔力はそれなりなのだけど、火をつけるとか、生活魔法が限界だって。

『魔法は、想像力。想いが像をなす力だ』

ロキは続ける。

霊が、その足りない部分を補ってくれたんだ。おそらく威力部分――攻撃だと思うけど、よほどシルフは君を気にったんだねぇ』

手にらないと思っていた魔法の力で、仲間の危機を救えた。

がすくってこういう気持ちなんだろうか。

「ありがとうっ」

短剣に向かっていうと、得意げに水晶が輝いた。

「サフィも、ありがとうね」

が強くなったおかげだとしたら、小人の鍛冶屋さんにも謝しないと。

サフィはリュックから飛び出した顔を、得意げな笑みにした。

「……ふん、どうもね! でも、別の子も忘れないでよ」

もちろん、と僕は左手を確かめる。

手甲のクリスタルは赤くなっていた。

とある霊をサフィがれてくれたんだ。

旅の間は、アルヴィースから鉱石を運ぶ馬車とたくさんすれ違う。そんな中の一臺に「いい霊石を載せてる!」ってサフィが反応してくれた。

『炎の霊』らしいんだけど……。

ミアさんがじゃらりと鎖斧を揺らす。

「倒したのはいいが、これはちょっと警戒がいるんじゃないのかい?」

をかいて、ミアさんは辺りを見回している。

僕も<狩神の加護>で周辺を捜索した。もう近づいてくる気配はない。

サフィの悲鳴で魔が集まってしまう危険もあった。けれど戦闘層の最上部ということで、もともとそこまで魔がひしめているわけではないみたいだ。

「確かに、そうですね」

僕は落ちた魔石を拾う。拳大で、スケルトンやオークよりさらに一回り大きい。

こんなのを落とす深層の魔が現れたのは、危険だと思う。

みんなにも聲をかけた。

「迷宮を管理するギルドに、伝えた方がいいと思います」

階層を超えて大型の魔が出るのって、かなり大きなトラブルだから。淺層専門の冒険者が思わぬ危険に遭ってしまう。

丁度、東ダンジョンの僕みたいに。

フェリクスさんがサポーターの2人に目くばせする。

「調査の趣旨からすれば黙っておきたいですが……そういうわけにもいかないでしょうね」

のサポーターが首肯して、最上部まで戻っていった。冒険者ギルドにダンジョンの異変を伝えるのだろう。

カルマルのように、僕の特徴が探されていることがあるかもしれない。だから、できるだけ連絡は戦士団任せがいいと思う。

アルヴィース・ダンジョンにるための手続きも、戦士団が裏にやっていた。彼らには各地の冒険者ギルドに協力する人がいるみたい。

「……『巨人の灰』、思ったよりもまかれているかも、ですね」

言いながら、火耐マントのフードを下ろす。

ロック・ワームの炎弾は高威力だった。視界をし犠牲にしても頭を守った方がいい。

それに強い魔と戦うとどうしても人目を引くし、戦闘層では人混みに紛れるのも限界がある。

耐火マントとフードなら、自然に正を隠せると思う。

『確か、迷宮に慣れるのは明日までであったか……』

金貨から、今度はソラーナが言った。

『急いだ方がいいかもしれないね』

「うん……」

迷宮に多くの灰がまかれているとしたら――それだけ相手が悪だくみが進展しているか、重要な場所ってことだろう。

「おい、こっち來てくれ」

ミアさんが僕らに手招きした。

壁に寄りかかるようにして、ずんぐりした人型が倒れている。大きさは3メートルくらい。

「これ……」

「ゴーレムだろ」

ミアさんは腰に手をやって、口を曲げた。

「灰になってない。迷宮から出現したやつじゃなくて、西ダンジョンみたいにゴーレム核が持ち込まれたやつじゃないか?」

「ちょっと失禮」

フェリクスさんが地面にしゃがみ込んだ。

「ふむ。なるほど、なるほど……実験でしょうかね」

額の小冠(コロネット)がきらりとした。

し、アルヴィースの奴隷商人のことが読めてきました」

僕とミアさんは顔を見合わせた。

杖の先であせたゴーレム核をつついて、フェリクスさんは解説する。

「おそらく、ここには読み通りゴーレムを使役している者がいます。それは、奴隷商人から何らかの役目――もしかすると『巨人の灰』の採掘やそれに類することを任されているのでしょう。それくらいの力量はゴーレムからじます。しかし」

フェリクスさんは言葉を切って、指を立てた。

「その人もまた獨自に悪だくみをしているようです」

「……なんでわかる?」

ミアさんに、フェリクスさんはこれ見よがしに首を振ってみせた。

「カルマルで接してきた冒険者は、明らかに『格』が落ちていました。裏の運搬だったはず、しかし見張りを怠り、小金に目をくらんでスリに及ぶ――奴隷商人が関わっているなら、そんな冒険者は決して使わない」

そうであれば、とフェリクスさんは引き継いだ。

「おそらくカルマルでみつけたゴーレム運搬は、ここにいるゴーレム使いが獨斷でやっている、副業のようなもの――そう考えられるわけです」

「ふ、ふくぎょう……?」

顔が引きつってしまう。なんて騒な仕事なんだろう。

フェリクスさんは肩をすくめた。

「奴隷商人は、各地にある種の人脈を持っているのでしょう。悪事を働く人間と、それに対して力や奴隷を供給する商人――それなら利害も一致します」

ギデオンも、もしかしたらそんな風に目を付けられたのかもしれない。

王都の東ダンジョンが、あのままだったら、たとえば奴隷が送り込まれてきたり――。

ぶるりと震える。

このアルヴィース・ダンジョン、下の方はどうなっているんだろう。

「……僕、早く、強くなります」

しでも早くレベルアップして、ダンジョンの未踏エリアに行かないと。

やがて表に出ていた戦士団が帰ってくる。冒険者ギルドの回答はシンプル。

『対応中』――つまりアルヴィースの領主がいてくれないってこと。

ますます王都の東ダンジョンに似てきた。

「グルル……」

修行を続ける僕らに、やがて遠くから唸り聲が聞こえた。

<狩神の加護>、『野生の心』。

もう慣れっこになった魔力探知は、四本足の巨大な魔が駆け寄ってくるのを捉えていた。

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