《12ハロンのチクショー道【書籍化】》番外編:そして魔王は西より來る-4

ポエム難しい

【熱闘! 寶塚記念直前SP各陣営直撃インタビュー!】

『と、いうことで本日は寶塚記念に出走予定のダイランドウが所屬している須田廄舎にやってまいりました。須田調教師、今日はよろしくお願いします!』

『はい、よろしくね』

『いやーダイランドウ、國古馬短距離GⅠ完全制覇ということで、おめでとうございます!』

『ありがとうございます。去年の今頃は世代の中では面白馬の一頭だったダイスケが、あーこのような偉業を達出來るとは、まあ恐らく私含めて誰も考えては居なかったと思うのでね。そういう予想を裏切る活躍をした本人を褒めてやってほしいですね。

あとそんなわけの分からん馬に乗ってくれる國分寺騎手にはいつも頭が下がります。同一馬、同一騎手による完全制覇なんて恐らく二度と無いと思うんでね、この栄譽に與れた事を調教師として誇りに思います。えー、メディアの方々にはもっと稱えていただきたいと思っております』

『あはは。最後、実に須田調教師らしいコメントをいただけました。

さて、話は変わりまして寶塚記念についてお伺いいたします。

ダイランドウは安田記念から寶塚記念への出走と、ローテーション的にはそれなりに短い間隔での出走となりますが、その辺りの調整は順調に進んでおりますでしょうか』

『確かに安田からの間隔は短いけど、今年は春全の出走レースが控えめだったのでね。前走後も疲れは見られなかったので予定通り春シーズンの祭典に出走する運びとなりました。

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調子そのものはね、やっぱり大目標にしていた安田記念のお釣りで走る部分があるんでね。前走程の仕上がりとは行かないけど、十分力を発揮できる程度には調子を維持してますよ。なんかねぇ、こういうコメントするとパドック解説みたいだねぇ』

『究極的には馬を見るのですから、似た部分はあるのかもしれませんね。

それでは本番、注目している他馬はどの馬になりますでしょうか』

『ダイスケが出る以上はレースがハイペースになるわけだけど、そういう適で見るとキャリオンナイトなんかが怖いね。JC、有馬、大阪杯ととんでもないペースの中上位に食い込んできてる訳だし。

とはいえ出走する馬はどれもチェックするよ。やっぱ今年の寶塚はレベルが高い。本當に久しぶりなんじゃない? こんだけメンツが揃ったの。

まあそんな中でこっちはスプリント、マイル王者だしね。王者の走りで迎え撃ちますよ』

『頼もしいお言葉をいただきました。以上、須田廄舎からお送りいたしました』

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開催最終週の阪神競馬場は、どこか「やれやれこれで一區切りか」といったウィークエンドのような雰囲気に包まれる。長らく続いた春競馬。その締めくくりとなる寶塚記念をその日に迎え、殘す所は出走のみ。気が抜けるのかもしれない。

騎手待機所にもそのような雰囲気は漂っていた。ただし、それはこの後の寶塚に騎乗しない人間の話で、親友との絆が懸かっている文昭にとってその空気は気に障るだった。

虛空を睨み足先をゆする文昭は見て取れるほど神経質になっていた。そんな文昭に近づく人間が一人。

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「やっほーフミっち。なんか元気ないね?」

競馬學校の同期、同い年の八源太(はち げんた)はそんな文昭の様子をまるで気にした様子もなく、気の抜けた聲をかけた。

「源太か。そりゃレース前だからな」

「そんなんじゃくなってけないんじゃない?」

「うるせーいろいろあんだよ」

「ふーん」

それでどこかに行くのかと思いきや、八は文昭の隣に腰を降ろした。遠巻きに様子を伺っていた人間も、當の文昭もこれには面食らった。

「スティールソード、なんか調子悪いの?」

「いや、んなことないけど」

「じゃあなんでそんな暗い顔してるの?」

「俺、そんな顔してた?」

「フミっちが昔好きだったアイドルが熱発覚したときくらいには」

「噓吐け俺はアイドルなんか興味ねえよ」

「ふーん。Jカップアイドル篠崎くらま、だったかなー?」

文昭は己が膝に突っ伏した。そして搾り出すように、

「なぜ、それを……」

「フミっちムッツリすぎるんだよ。この話、同期じゃ結構有名だったよ」

「知りたくもない事実を知らされたわ」

「元気出てきた?」

「いや全然。むしろお前はヨユーそうだな」

「僕はほら、荒らす側だから気楽っていうか? その様子じゃフミっちはオーナーさんサイドから突っつかれたってじかな。フミっちあの馬にれ込んでたもんねぇ、大変だ」

「うるせーな、お前何しに來たんだよ。あっちいけあっち」

「邪魔しにきたんだよ。ライバルはないほうがいいからね! じゃ、本番までその調子でよろしくー」

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現れた時同様、飄々と八は立ち去った。

文昭はその背中を睨みつけ、やがて大きく溜息を吐いた。

気を遣われた、そうじたからだ。

「いつもそうだなあいつは。余計な気を回しやがって」

それでいていい所だけは絶対に譲らない。腹が立つ野郎。でも憎めない奴で、そこがまた一段と腹が立つ。

八は文昭たち同期の中では最も騎乗技を評価されていた。18で卒業、今年で5年目。昨年のJCでGⅠ初騎乗してからメキメキと頭角を現しつつある。同期の中では最も早くGⅠジョッキーとなった文昭だが、八との間に騎乗技とレースの流れを読む才覚について差があることは認めていた。それがそのまま騎乗回數という數字で現れている事も。

(見られているんだ。評価されているんだ。いつだって、どこだって、誰かから)

八だってそのはずだ。キャリオンナイトは元から派手な戦績を持つ馬ではなかった。今年は6歳のシーズン。長くともあと一年、恐らくは年で引退だろう。そうなれば是が非でもGⅠがしかろう。八に乗り変わってから全走複勝圏であり、どれも相手が強かったとしか言いようの無い惜しい容の負け。だからこそ騎手にかかる期待は増す。

文昭は知っていた。八は張している時、周囲の人間と會話して気を紛らわせることを。

そんな事は誰にだってある。ストームライダーの竹田ほどのベテランでさえ負けた後散々叩かれていたし、距離延長に懐疑的なダイランドウの國分寺にだって発炎上(ぜんか)がある以上重圧がかかっている。他の馬だって、騎手だって、みんなそうだ。

(誰だってそうだ。勝ちたいんだ。それを俺は何様だ、負けられないだなんて)

走る以上、勝つのは一頭と一人。二著三著は好走であっても勝利ではない。

そうであるならば。勝つのは一番純粋な奴であるべきだ。

そうであればいいと文昭は思う。

細く、長く息を吐く。

開いた膝に肘を乗せる。前かがみになれば、自分のでややる床だけが映る。

余分を削ぎ落とす。

負けられないだとかいう傲慢な雑念。

負けた後の処遇。

勝った後の事。

勝ちたい理由。

削って叩いて。

そうして殘った馬と騎手。

そうだ。俺はスティールソードの細原文昭だ。二分間だけ切れればいい。

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《雨には至らぬ曇り空、さりとて晴れるは人の心。

春の仕事を一つ終え、やってきたるは夢舞臺。

今年もこの日がやってまいりました。第NN回寶塚記念でございます。

なんと、と言うべきなのでしょうか。今年の寶塚記念は海外遠征中の2頭を除けば人気投票の上位10頭が全頭出馬という、創設の理念からすればましく、さりとて寶塚記念としては異例の事態となりました。

GⅠ勝利馬が5頭。そして長距離路線からはスティールソードが、短距離路線からはダイランドウが、中距離路線からはストームライダーが、それぞれを代表するエキスパート達までもが集っております。

それを迎え撃つ前年度覇者モデラート。強力牡馬勢力にどう立ち向かうか牝馬代表コトブキツカサ。

それぞれの王者が鎬を競います。勝つのは一頭。ここ、阪神競馬場2200mにてまもなく決戦の火蓋が切って落とされようとしています。

実況は私、塩沢浩二(しおざわ こうじ)がお送りいたします。

まさにドリームレース。國の優駿が集う超一流のレースとなった第NN回寶塚記念。

古馬牝馬マイル戦を征し、スピードの絶対値を示した3歳王コトブキツカサ。

年末、香港の舞臺で世界を相手に圧倒し、大阪杯にて王者サタンマルッコと激闘を繰り広げた中距離の猛者ストームライダー。

そしてそれらと歩みを共にし、何度も追い詰めた歴戦の古馬キャリオンナイト。

史上初となる古馬短距離戦線完全制覇をし遂げた韋駄天の申し子ダイランドウ。

世代戦で鎬を削り著実なる長を積み重ね、ついに戴冠した春の長距離覇者スティールソード。

迎え撃つは前年度覇者、昨年の天皇賞秋をも征した中距離の王者モデラート。

他にも虎視眈々とそれらを狙ういずれ劣らぬライバル達。

これほどの名馬達の中から勝者を決めてしまってよいものなのでしょうか。

レースへの出走を決斷した各陣営に、私は一競馬ファンとして敬意を表したい。

そして、これほどのレースを観戦できる喜びを噛み締めたいと思います。

海外遠征中の2頭が加われば最強決定戦と謳ってよいでしょう。しかし欠けた夢だからこそ、その先を見たいと追い求めるのかも知れません。

春から秋へ。ドリームカムオータム。まずは春の夢を共に見守りましょう。

正面スタンドから右手側奧、2200mコースの発走地點にてゲートりが順調に進んでおります。寶塚記念は直線奧の発走地點よりスタートし、回りを一周するコース。

果たして二度目の直線を先頭で駆け抜けるのはどの馬なのか。

現在偶數番號の馬がゲートに収まっているところです。

最後、⑯番スティールソードが収まって勢完了。

第NN回寶塚記念。

…………。

スタートしました!

⑬番ダイランドウが勢い良く飛び出していきます。

まずは阪神競馬場第一コーナーまでの直線500mのポジション爭いですが、の方スーッとストームライダー今日は前目の競馬を選択した様子、先頭のダイランドウが猛然と駆けていきます1馬2馬差が開いてグングン加速。

⑩番ハルランマンがへ寄せて二番手、その橫ラチ沿い⑤番ストームライダーがつけて②番コトブキツカサ前目のやや珍しい位置取り、切れて馬群が固まり①番グリムガムジョー、⑨番オリジナルランク、④番グレーターミューズ、そして昨年王者③番モデラートは馬群の中! このあたりぞろぞろっと固まっています。

そんな中、外! 直線大外を直進するのは⑯番スティールソード、ゲートを出たまま真っ直ぐ進んでいったじでしょうか、橫に8馬程あけて、どのあたりでしょう中団かそのあたりを走っているようです。

先頭ダイランドウが早くもコーナーを曲がり向こう正面へ差し掛かります。あれよあれよと10馬以上、いやこれはもう15馬近く差が開いているのでしょうか。猛烈な、というよりこれは大丈夫なんでしょうかダイランドウ。1000m通過が57秒0と尋常ではないスピード!

間を10馬程あけて追走するのは⑤番ストームライダー。1000m通過からじわじわと先頭との差が詰まって……いや、ダイランドウが再び差を開きます。

うん? 一どうなっているんでしょうダイランドウ。大丈夫でしょうか今日は2200mあるぞ? ゴールまではまだ結構ある。ダイランドウはかなり張り切っている、鞍上國分寺騎手これで大丈夫なのでしょうか。

後ろに戻りまして二番手ストームライダー追走、こちらもハイペース、その後ろ3馬程切れて隊列が形されています。⑩番ハルランマン、②番ヴィクトリアマイル覇者コトブキツカサ、①番グリムガムジョー、有馬と違って今回はかからずに上手く行っているじの本田騎手。

やや間が空いてラチ沿い④番グレーターミューズ。追走③番モデラート。

おっとどよめき、大歓聲、後方スタートだった⑪番キャリオンナイトが今日も上がっていった。3コーナーの手前、今回も殘り1000mの地點からのスパート、大阪杯のようなきを見せている!

これを見て各馬手がいていく!

後ろからは⑥番ラストラプソディーが⑯番スティールソードを引き連れて外を上がっていく、ペースが上がり前との差が全的に詰まってきた!

3コーナーに差し掛かります。

見えない勝負所の3コーナー、ポジショニングが激しくなっていきます。

グレーターミューズやモデラートはどうだ、包まれてやや進路が苦しく見える!

先頭ダイランドウはどうだ、どうにも腳が上がっているように見える。心なしか馬も「あれ?」といった顔! ずるずる後退して二番手ストームライダーにわされるか、間もなく4コーナーというところでわした先頭がれ替わります。

ダイランドウ、これはどうやらペース配分を間違えたか!

ラチ沿い位置を下げるダイランドウをわす形で外に膨れる後続各馬。

早くもストームライダーが先頭、追走するコトブキツカサ、グリムガムジョーはその差3馬

後ろの方ではキャリオンナイトが一足速く外を回って馬込みを突き抜けてきた、そしてその後ろを通って⑥番ラストラプソディーと⑯番スティールソードも追い込み制!

二頭は外に回した形!

さあ混戦狀態のまま阪神競馬場の直線を向いた!

先頭はストームライダーリードいまだ3馬

懸命に追うコトブキツカサ海老名外志男!

GⅠがしいグリムガムジョー本田義弘必死に追いすがる!

しかし先頭はストームライダーリード保ったまま!

殘り200m!

馬場の真ん中を一気にキャリオンナイト、キャリオンナイト!

突っ込んできた凄い腳!

大阪杯とは立場が逆になったかストームライダー、キャリオンナイト!

差が詰まる! キャリオンナイトッ!

1馬

並んだ!

ラスト阪神の坂!

抜いたか!? 半分キャリオンナイト! キャリオンナイト先頭!

ここで大外一気にラストラプソディー!

ラストラプソディー!

坂ののぼりで凄い腳! もう一頭⑯番! ⑯番スティールソードも居る!

外の腳がいい!

わした! 先頭ラストラプソディー! ラストラプソディーッ!

先頭ラストラプソディー川澄翼1馬抜けたッ!

だが更に外にはスティールソードがぴったり付いている!

坂の頂上もう殘り50mもない!

ラストラプソディー! スティールソード!

ラストラプソディーか! スティールソードか!

外の二頭! 外の二頭の勝負になった!

ストームライダーが再びびるが外の二頭!

どっちだ!

どっちだ!

外の二頭が並んでゴールインッ!

最後は外の二頭の追い比べ!

⑥番ラストラプソディー、⑯番スティールソードこの二頭!

では最後⑤番ストームライダーがもう一度差し返したか!

しかし、しかし手を上げている!

左鞭で大きなガッツポーズ! 手応えあったかッ!?

――――…………》

----

『放送席放送席。勝利ジョッキーのインタビューです。

スティールソード鞍上、細原文昭ジョッキーです。

どうでしたか。細原さん。最後のゴールした瞬間、やはり差しきった確信がお有りでしたか』

『はい。あの、はい。最後首の上げ下げになったんですが、一完歩前からタイミングが完璧だったので、後は腳をばすだけでした。テツゾ、あいやスティールソードも頑張ってくれたおかげで差しきる事ができました』

『今日はいつものスティールソードのレース展開らしからぬ位置取りでしたが、そうした指示が事前に出ていたのでしょうか』

『いくつかあるパターンの一つではありました。そもそもスティールソードは位置取りに拘りのあるタイプの馬ではないんで、今日はまぁ、ダイランドウがいたので絶対ペースが速くなるとは思っていたので、後ろから差しに行こう、と考えていました』

『なるほど。最後は首の差でしっかり差しきりましたが、デビュー以來のタッグということで、末腳に至るまで完全に把握していたという事でしょうか』

『そうですね。あの位置からなら屆くと信じて騎乗していました。けど最後は馬場の差だったと思います。スタート直後、真っ直ぐ走ってみて改めてじたんですが、やはり開催最終週での方は結構荒れてたんで。正直ラストラプソディーが外に出すとは思っていなかったので、その分外を回らされてそこは計算違いで焦りました。

けど最後の最後は馬が勝たせてくれたと思っています』

『奇策に思われたスタート直後の橫獨走にそんな意味があったんですね』

『や、そんなに考えてないですよ。必死だったんで』

『と、照れ隠しの細原文昭騎手。見事な差しきり勝利、おめでとうございます』

『ありがとうございます。関係者の皆様、ファンの皆様のおかげを持ちまして勝つことが出來ました。これからも応援よろしくお願いします』

『最後に何か一言を』

『……これで挑む資格を得たかな、と思います。秋には海外遠征勢が帰って來ます。

サタンマルッコにはやられっぱなしなんで、中長距離の國覇者としてそれらを迎え撃ちます。引き続きのご聲援、どうぞよろしくお願いします』

『ありがとうございました。第NN回寶塚記念、勝ち馬のスティールソード鞍上、細原文昭ジョッキーにお話を伺いました』

古戦場が終わったのでちょっとずつ書き溜めていきます。

更新日についてはちょっとまだわからんです。

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