《12ハロンのチクショー道【書籍化】》番外編:だから始まる最終戦爭-5 通常版

同じような容の話を二つ投稿しています。

レースシーンが異なる実況版と通常版二種類用意しました。

競馬の持つあっさりや勢いを重視したい方は実況版をオススメします

本筋的には変わりません。

妙なモンだなぁ、と小箕灘は一段低い位置から中山競馬場のスタンドを見上げて一人ごちる。

超満員。話によればオグリの時の來場者數をも越える有様らしい。中山のスタンドが崩れるんじゃないか。冗談めかしたその話も、実際に目の當たりにするとあながち冗談であると笑えない。

彼らは世代の俊英達のガチンコバトルを観戦にきている。俊英の中に、むしろ代表格としてサタンマルッコの名前は刻まれている事だろう。

変なじだ。あの、マルッコがオグリやテイオーのような扱いをけている事が。

「センセイ、そろそろパドックですよ」

廄務員のクニオが小箕灘を呼ぶ。

ふと思い立って小箕灘はクニオに尋ねた。

「なあクニオ。こりゃ夢か?」

「はあ? 夢じゃないですよ」

「見てみろよ。凄い人だぞ」

「どれどれ……うおっ、ゴール板前どころかスタンドまでぎっちり人が詰まってますよ。本気で地獄絵図だ……」

「これ、マルッコを見に來た客なんだとよ」

「本當ですかぁ? いやまあ、今やうちのマルッコは凱旋門賞馬だからおかしくはないのか」

「それがなぁ。なんだか今更信じられなくなっちまって」

「なんか、こんなやりとり、ダービーの時もしましたっけ」

「全て羽賀の事務所で見てる夢ってか?」

「そうそう。一年半前のことなのに、なんだかとても昔の事のようにじますね」

「そうだな。そうかもな」

自分と自分を取り巻く環境は、サタンマルッコというふざけた競走馬によって全て変えられてしまった。それはほとんどが良い変化だった。だが、戸うことも未だに多い。

來年の夏は何をしているのだろうか。秋は、冬は。一年後の有馬記念を迎えた時、その時自分は何に想いを馳せているのだろう。

に白い丸が見たくなった。毎日見ているはずの、手塩にかけて育てたようで水だけやったら勝手に育った自慢の馬。

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マルッコ。己が信じた規格外の一頭。見立てが正しかった事はとうに証明されている。しかし、その限界は未だに把握できていない。それらしきには何度も行き著いた。その度に限界を超え、理外の長を続けている。

どこまでいけるのか。どこまでもいけるのか。

勝ってもいい。負けてもいい。だけど見せてしい。夢の続きのそのまた先。果てしない道の向こう側を。

「有馬記念なんだなぁ」

呟きは、喧騒に溶けて消えた。

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《――さて、間もなく第NN回有馬記念出走各馬の本馬場場が始まろうとしています。

改めて、出走各馬のご紹介と參ります。

世界を震わす無二の王者。

七星輝く葦の馬。西の彼方より訪れた白い箱舟、

1枠①番セヴンスターズ L・フランコフ!

ランスランソナタの最後の脈。

破れども未だ墮ちず。

見せるか逆襲の狂詩曲、

1枠②番ラストラプソディー 川澄 翼!

世代の暴れん坊が摑んだ二冠の栄

果て無き野は次の獲を求めるか。

2枠③番ウーサワイアー J・デリトリ!

長すれども牙は抜けず。

草食らしからぬ攻撃は未だ健在。

噛み付かせろ!

2枠④番グリムガムジョー 本田義弘!

どこか笑いを含んだ拍手に迎えられて。

今年は良い枠を引き當てた選會。

狙うは當然一等賞。

今日がその日か、

3枠⑤番キャリオンナイト 八源太!

世代の英雄、そういうならば彼もまたそうなのでしょう。

二年前、英雄の誕生はこの有馬記念からでした。

戦い抜いたその。見せるは今ぞ。

今日でラストラン!

3枠⑥番クエスフォールヴ ダミアン・ロペス!

勝ちきれない日々の続く苦境。

しかし止まない雨がないように、あがく者にこそ神は微笑む。

努々油斷召されるな、何かあるならこういう馬だ!

4枠⑦番モデラート 遠坂文雄!

痺れる末腳武にして、戦い抜いた25戦。

勝利が遠ざかって久しかれどその意気しも衰えず。

4枠⑧番グレーターミューズ 大平健一!

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若き帝が毆りこみ。

牡馬との経験未知なれど、かちこむ姿は男勝り。

5枠⑨番サミダレミヅキ 福岡祐一!

狙い済ました乾坤一擲。

止めて落とした日本ダービー。

なるか二度目の會心打。

5枠⑩番ホクトケンシン 海馬英俊!

今年もこの枠と番號で登場。

奪還した王の座、次なる狙いは至尊の玉座。

6枠⑪番ヴェルトーチカ 後藤正輝!

今年は有馬にやってきた!

暮れの中山に嵐を呼ぶか!

中距離王者、

6枠⑫番ストームライダー 竹田

磨き上げたるその刀

王者を切り裂き、魔王を切り裂き、鋭さ未だに衰えず。

新進気鋭の若手ジョッキーがる現王者、

7枠⑬番スティールソード 細原文昭!

泣いた馬券ファン數知れず。

人の思いざ知らず。

今日はどっちだ大

歴史に蹄跡を殘した短距離絶対王者、

7枠⑭番ダイランドウ 國分寺恭介!

日本競馬の夢をかなえた白い丸。

夢を戴くこのレース、狙うは當然頂か。

羽賀が生んだ奇跡の怪馬。

西から來た魔王!

8枠⑮番サタンマルッコ 橫田友則!

さあ今年も笑いに包まれて!

ピンクの帽子が似合う男がやってきた!

膝は付いたが勝負は投げない。

詩!

8枠⑯番コトブキツカサ 海老名外志男!

以上16頭のご紹介でした――……》

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「こらこらこら」

ターフに立つ下の相棒は、普段の姿からは想像が出來ないほどしく絵になる立ち姿をしているのだという。外柵からカメラのスコープに狙われる事はよくあるのだが、何を思い立ったのか、返し馬中に突然カメラマン目掛けて突進し「なにしてんだー?」とでも言わんばかりにカメラを覗き込み、無邪気な好奇心を発揮していた。

どこぞの雑誌記者なのだと思うが、苦笑いを浮かべている。

「ほら、そろそろスタート行くぞ」

「ひーん」

はいよーとでも答えるように小さく啼いた。

パドックではきが固かったが、馬場に出てからというものすっかりリラックスしている。

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まあ、々、いやかなりリラックスしすぎている気もするが、固くなるよりはマシだ。それにいい時のこの馬は発走が近づけば自ら集中を作っていく。直近のやる気を考えれば問題は無いはずだ。斷言できない辺りにマルッコらしさをじる。

「有馬か」

ターフに立つと改めて思う。もう一年経ったのか。

ステップの存在も含め、有馬記念はサタンマルッコにとって転機の一つとなったレースだ。世代の評価を確固たるにし、古馬との力関係も示した。

俺にとっても一つの転機。俺も現役を続けるにはかなりギリギリの年齢だった。そして殘りない騎手生活の中でマルッコ以上の馬と出會えるとは思えない。だったら、こいつの引退にあわせてやめるのも手か。そんな風に考えた瞬間、スッとの中で落ちるがあった。不思議なほどに抵抗がなかった。なら、それがいいんだろうなと、納得があった。

とはいえまだまだマルッコは現役で、俺としてもまだまだ彼との戦いを楽しみたいと思っている。

「お前はどうだい相棒。ここ最近は隨分やる気じゃないか。今日はどうだ。勝てるつもりか?」

「ふるっ」

當たり前だ。

言葉が通じているとは思わないけど、そう言ってるようにしか思えなかった。

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《タレント揃いの競馬界。

各界の英雄達が鎬を削った秋競馬。

春の勝者スティールソードと短距離王者のダイランドウそして中距離に覇を唱えんとするストームライダー、それらが激突した天皇賞秋。

悲願を達した凱旋門賞帰りの栗の魔王。そして世界王者たるセヴンスターズ。

それらを迎え撃つ國戦線を戦い抜いた歴戦の猛者たちが激突したジャパンカップ。

どれも夢でも見ているかのような、素晴らしいレースでした。

お忘れではありませんか?

今年の競馬は、まだ終わっていません。

そう、有馬記念です。

第NN回有馬記念。師走の晴天に迎えられ、中山競馬場は超超超満員のお客さんで埋め盡くされております。

紛う事無きドリームレース。クエスフォールヴが今回でラストランのため、正に、正に二度とは見れないレースとなります。

この世紀の一戦を見逃さんとするお客さんが詰め掛けております。報によれば場者數は18萬人を越えているそうであります。凄い熱気でこの中山競馬場周辺だけ気溫が2度か3度、高いのではないかとじてしまうほどです。

既に出走各馬、外回りコースの途中に設置されておりますゲートにて、ゲートりを始めております。この発走地點が様々なドラマを生み、今年もまた、何かが起きるのでしょう。

奇數番號の馬がすんなり収まり、偶數番號の馬がっていきます。

8枠⑮番で走るサタンマルッコ橫田友則の心境は如何だ。

ひとつ側で発走のダイランドウ國分寺恭介は如何だ。

各馬それぞれ運命を背負ってこの場に臨んでおります。

目指すのは勝利の栄冠唯一つ。

皆さんこの日を迎えるにあたって様々な予想を立てたことでしょう。

そして、どれか一つでも確証に至る予想は立てられたでしょうか。

私はこの後に及んでまるで想像が付きません。

二分と三十秒々。結末までにかかる時間ですが、そんな僅か先の事がしも分かりません。だから競馬はこれほどまでに人を惹きつけて止まないのかもしれません。

さあ最後⑯番コトブキツカサがゲートに収まりました。

第NN回有馬記念。

歴史に殘る伝説の一戦、勝つのはどの馬か……

…………

スタートしました!

飛び出していったのはやはり外の馬! ⑭番ダイランドウ⑮番サタンマルッコがコーナーに向かって先頭で駆けて行きます!

ダッシュのつかないキャリオンナイトは平常運転、他⑩番ホクトケンシンもやや出遅れたのある立ち上がり。ほかはまずまず橫一線のスタートとなりました!

さあ注目の先行爭い!

1コーナーを曲がる所で半分ダイランドウが前! サタンマルッコは前を譲るかダイランドウの外目をやや遅れて追走している!

を行く①セヴンスターズは順調に前目、ラストラプソディーもその外並んで前目を行く、③ウーサワイアーは目を走ってやや後方、被さる形で⑥クエスフォールヴや⑦モデラート、⑫ストームライダー⑬スティールソードと前を伺う形になった。

さあ一週目の正面スタンド前!

大歓聲に見守られる中貴方の馬が走ります!

その先頭、ダイランドウが今日も後続を……ん? それほど引き離していない。ダイランドウに1頭開けて現在先頭。その1馬後ろにサタンマルッコ、そこから連なって後続各馬が鈴なりになっております。

クエスフォールヴは中団の真ん中、クエスは中団。スティールソードストームライダーもこれを見る形で外目、注目のセヴンスターズ今日は順調先頭4、5番手側につけている。

おや、おや、おやぁ?

會場からもどよめきとざわめき。

何やらコレは、どうやらコレは、ペースが遅いのではないでしょうか。

うんやはり何だかとても緩いペースであるように見えるそんな有馬記念正面スタンド前を通過していきます! 次にこの直線に來た時どの馬が先頭を走っているのか。どのような運命が待ち構えているのか!

1コーナーをカーブするところで1000m通過、タイムが、61秒ッ!

なんということだスローペースだダイランドウ!

そんなペースで走れたのか! 鞍上國分寺まさかの奇策ッ!

だがどうだ馬が行きたがっている、いやそんな風には見えません今日は上手く行っているそんな様子!

おおっとぉ! 凄まじいどよめきの中果敢に先頭を奪ったのは②番ラストラプソディー!

2コーナー途中で単獨先頭! 1馬2馬差をつけてこれは勝負に出たか川澄翼!

馬群が向こう正面に差し掛かりますここで一度先頭から整理しましょう!

②番ラストラプソディー果敢に先頭。そこから2馬間を開けてにぴったり今日は不気味に⑭番ダイランドウ。並ぶように外⑮番サタンマルッコはこの位置これもやや珍しいを見ている気分、二頭を壁に①番セヴンスターズ4番手その後ろ④グリムガムジョー追走そして、その後が一塊となって馬群を形しております。

から外へ広がって⑥番クエスフォールヴ⑬番スティールソード⑫番ストームライダー先頭までは7、8馬といったところ。これを前に見て⑧番グレーターミューズ⑦番モデラート⑯番コトブキツカサ、⑨番サミダレミヅキ⑩番ホクトケンシンの3歳勢はラチ沿い最後方⑪番ヴェルトーチカと外目に⑤番、ここにいました⑤番のキャリオンナイトは定位置か。

ラストラプソディーが後続を引き離し始めている、その差が6、7馬は開いたところで殘り1000mの標識を通過しました。

さあペースの上がる3コーナーここで一どの馬が行くのか。

さあ手がいているのは最後方⑤番キャリオンナイト、今日も殘り1000mからスパートを開始している! 八騎手外へ出し前のスティールソード、ストームライダーをわしに……とぉ!

もう今日何度目かわからない場のどよめき! 鞭! 前につけている⑮番サタンマルッコ3コーナーで鞭! 前のラストラプソディーを捉えられないとの判斷か橫田!

いやしかしどうだ、手応えがどうだ、サタンマルッコ手応えが悪い!

後方集団のペースも上がる! 4コーナーへ向けて隊列が橫に広がっていきます!

追い上げているのは中団の三頭、クエスフォールヴ、スティールソード、ストームライダー4コーナーから外へ持ち出す構えか!

ダイランドウはラストラプソディーに詰め寄りセヴンスターズは後ろから追走しこれに並びかけようかという様子!

んな念渦巻いてぇ! 何がどうなる有馬記念!

先頭はラストラプソディー! ラストラプソディー単獨先頭で最後の直線!

――……》

----

あの馬に。

去年は並ぶ事もできなかった。きっと戦いの資格が無かったのだろう。

だが今はどうだ。

左手側には記憶に無いほど超満員の大観衆。音ではなく波。波のような大歓聲が俺とラストラプソディーに向けられている。

先頭だ。俺たちは前に何者も立ちはだかる事の無い先頭を走っている。

有馬記念で。化ひしめき合うこの有馬記念で!

足音はすぐそこまで迫っている。

だけど、あと300m。たったの300mで俺たちの勝ちだ。

俺たちは、今、中山の、有馬の先頭を走っている!

――『あの馬は最後、二の腳を使う時』

それは竹田が言っていた。

いつだったか。酒の席だった記憶がある。

何故今?

何故今思い出す。

どうして、今。

『こう、存在が発するっていうの? ぶっ殺してやるっていうか、ぶち抜いてやるっていうか、絶対負けねーみたいな?

そういう発するんだ。すごいよねああいうの。見てなくてもわかっちゃうんだ。俺思うんだけどね、たぶんあの馬に勝とうと思ったら前にでちゃいけないんだ。抜くのは最後。ぎりぎりまで待って、最後の瞬間に差す』

ああ。

ああ。

ちくしょう、こういうことか。

俺は今まであの馬の橫には並べていなかった。

ダービーで、で、だから知らなかった。

こういうことか。

こういうことか!

くる。

ラチ沿いだ。何でだよお前外を回して來るんじゃないのかよ。中山の4コーナーだぞ。

でかい。とんでもなくでかい何か。

でかいわけない。馬ならラストのほうがでかい。

ちがうんだ

存在、存在がでかい。

そうか。

ちくしょう。

視界の端に栗がうつる。

あの位置取りでから來る馬なんか居ないと思った。だからを閉めなかった、それが仇となった。

並ばない。

あっというまに前に出た。

どうなってんだ、ちくしょう。

勢いが違う。ラストにこれ以上はない。広がった差はそのまままることは無い。

いやまだだ。このまま維持すれば、相手が垂れれば、鞭を打てば。

一完歩、二完歩。

まらない。むしろ広がる差。

ちくしょう。

見せ付けてくれるじゃねぇかよ。

これが才能の差だってか。

たかだか1秒未満の差がちっともまらない。

鞭を打てばこの差がまるのか?

こんなに頑張ってるラストにまだ鞭を打てというのか?

出來ねぇよ。

クソが。

認めてやる、もう全部やった。もうこれ以上は無い。

だから認めてやる。お前は強い、サタンマルッコ。

殘酷な差だ。一生かかっても埋まりそうに無い。

だから。

坂の手前。

左後ろ、外から大きな存在達が次々に名乗りを上げ、俺たちをわしていく。

ダイランドウが、

セヴンスターズが、

クエスフォールヴが、

スティールソードが、

ストームライダーが、

キャリオンナイトが!

手綱を引く。まだいけると手綱が伝える。もういいんだと強く引く。戸いと共に背中から力が抜けた。

行けよ天才共。

負けんじゃねーぞ。丸いの(アイツ)に勝たれると悔しいから。

いや、やっぱどの馬が勝っても悔しいか。

ちくしょう。

ちくしょう!

「チクショオオガアアァァッ!」

俺はこの道を走り続ける。

だから一生忘れない。奴らの背中を見た事を。

----

《……――さあ先頭は依然ラストラプソディー!

逃げる逃げるしかし外を回してダイランドウセヴンスターズの腳がいいぞ!

捉えるか! 捉えるか!

いやだ! から強襲サタンマルッコ!

ロス無く運んだか橫田友則! 今度は猛烈な追い足! ステップ炸裂!

抜いた! もう抜いた! 単獨先頭サタンマルッコ! リード2馬

坂の手前さらに外からスティールソードとストームライダーも追い込んでくる! キャリオンナイトも付いているぞ!

中山の坂!

並ぶか!

並んだ!

7頭並んだ大混戦!

ラストラプソディーは後退!

先頭まだサタンマルッコだが半分出ているだけだ!

外橫一線!

これは凄い事になった!

セヴンスターズ一歩でたか!

だがまだサタンマルッコだ! サタンマルッコ頑張っている!

中を割れるかストームライダー!

ダイランドウ一歩遅れた!

キャリオンナイトは取り付くがそこまでか!

100mを切った!

混戦だ!

暮れの決戦最終段階! 大混戦だッ!》

『なあ、あんた、馬になったことがあるか』

それは、誰かの獨白。

人のより人ならざるへ変えられた、とある男の獨白。

『お前は馬だって? それは違う。馬ってのは生まれたときから馬なんだ。俺はな、違うんだぜ。馬になったんだ。

俺はな、知っているんだ。俺たちがどうしてこんな場所で競走しているのかを。

人間たちが、誰が一番になるかで金を賭けているって。

飯一回分の金を賭ける奴もいれば、人生丸々を賭けてる奴だっている。

誰にだ?

俺にだ。

俺たちにだ。

俺はなぁ、人間だったんだ。

今となっては殆ど覚えていねーけど、どーという事の無いしみったれたおっさんだったんだぜ。

誰にも待たれず、

誰にも期待されず、

誰にも願われず、

ただただ毎日死なないように生きて、

口だけを開けて気持ちいい事や楽しい事が飛び込んでくるのを待ってたんだ。

それだけは覚えてる。ああ覚えているとも。

一度しか言わねーぞ。

馬になれてよかった。

初めてだったんだよ。

誰かと本気で競り合ったり、

誰かに本気で期待されたり、

誰かに祈られたりしたのは。

走るだけしか出來ない馬になれてよかった。

しだけの痛みを我慢すればいい。しだけの苦しみを我慢すればいい。

しだけ、頑張ればいい。それならグズの俺にだって出來る。

褒めてくれよ。

はっきり言ってあいつ等スゲーよ。人間が中にってる俺と渡り合うんだぜ。

だから褒めてくれ。

もしも勝ったら、一杯褒めてくれ。

稱えてくれ。名前を呼んでくれ。

俺に夢中になってくれ。

だから二度目だ橫田君。

俺は。

今!

どうしても!

橫に並んでいる!

クソ生意気な野郎共に!

勝ちてぇんだよ!

だから、よく見とけよ、チクショオオオオがあああぁぁぁッ!』

《だがどうだ!

サタンマルッコまだ先頭!

抜かせない! 抜かせないサタン!

差は僅差!

ダイランドウスティールソードもう一度!

だがサタンマルッコまだ粘る!

サタンマルッコ!

中山の直線が長い!》

何をむ?

超常の存在の問いに彼はを願った。それは確かに彼の願いの一部だった。

しかし本當は。

本當は、何でも良かったのかもしれない。

誰にも相手にされない寂しさや、何者にもなれない己への不甲斐なさ。

ただ漫然と暮らしているだけでは決して埋まる事の無かった心の欠損。

それが満たされるのなら。

満たされた一つの命でありたい。

それこそが彼の願い。彼の願った生きる道。

《まさかのもう一度!

サタンマルッコ!

サタンマルッコびてくる!

差が開く!》

闘爭、競爭心、克己心、言葉にすればいくらでも言い換えられるその熱量。

彼がして已まなかったそのたちが、栗の馬を輝かせる。

《サタンマルッコだ!

サタンマルッコだッ!

サタンマルッコだぁッ!

ねじ伏せた!

やっぱり強かった!

サタンマルッコ、

一著でゴールインッ!

やっぱり強かったサタンマルッコォッ!

凱旋門賞馬、日本の魔王は伊達ではない!

外枠発走もなんのその!

直線半ばで先頭に立ち一度も先頭を譲らず捻じ伏せました!

外枠だから、地方馬だから、統が、そんな些末な理屈を一切無視して!

ただ強い王者が誕生しました!

疑う余地はない!

これが日本の最強牡馬だ!

力強い勝利はぁ、ドォ派手な馬のサタンマルッコに一番お似合いですッ!

さあやってきましたこの時間ッ!

勝ち名乗りだ!

1コーナーから勝者が帰って來ます!

勝者を稱えようではありませんか!

彼が競走馬である事など些細な事です!

『ヒイイイイイイィィィンッ!』

テレビの前の、ラジオの前の皆様!

聞こえますでしょうか!

去年もこの暮れの中山競馬場に響き渡ったこの嘶きが!

『ヒイイイイイイイイイイイイイイイィィィンッ!』

『オオオオオオオオォォォイッ!』

稱えましょう!

『ブルイイイイイイイイイイイイインッ!』

『オオオオオオオイッ!』

超満員のお客さんと共に!

『ヒイイイイイイイイインッ!』

『オォォォオオオイッ!』

これこそがサタンマルッコ!

の魔王が降臨いたしましたッ!

――……》

----

「……――橫田友則さんにお話を伺ってまいります。橫田さん! おめでとうございます!」

「はい、ありがとうございます」

「あれ、なんだか思ったよりも嬉しくなさそうですね?」

「いや、すみません、キツイレースでね、歳なもんでもうヘロッヘロで……」

「お疲れのところ申し訳ありませんが、こう、ね。ファンの方々もまだまだ収まらない雰囲気なのでね、そこを押してお話を伺ってまいります」

「あはは。どうぞどうぞ」

「レース序盤、誰もが予想外だったダイランドウのスローペース先行策。如何でしたか」

「あれは困りましたね。スタンド前で行くかどうか迷ってたんだけど、川澄君の馬が行ってくれたんでね、番手の競馬で行こうとそこで腹をくくりました」

「予定されていたプランではなかったということでしょうか」

「そうですね。一週目のゴール板前で頭真白になりかけましたよ。そこから事前に組み立てたプランの一つを使って、といったじでした」

「はい。ありがとうございます。続きまして、まあたぶんご覧になっていた方皆さん思ってることだと思うんですが、3コーナー前ですか? 一度鞭を打っていた場面があったと思うんですが、あれはどういう事だったんでしょうか」

「ああ。あれね、小細工ですよ」

「小細工?」

「実はあれ、鞭打ってるようで打ってないんですよ。いやには當ててるんだけどね。だから追ってる様で追ってない。VTRで確認すれば分かると思うんで、皆様お家に帰られたら畫で確認してみてください」

「え、ええー?」

「皆引っかかったみたいでね、いやー練習した甲斐がありましたよ。あはは。

マルッコは賢いんでゴーサインかどうかはちゃんと分かってくれるんでね。

まあでもね、やっぱどの馬も強くて。正直最後はダメなんじゃないかと思ったんだけど、マルッコがね、最後もう一び頑張ってくれて。乗るたびに思うけど本當に強い馬だね」

「そんな駆け引きがあったんですね。ありがとうございます。

では橫田さん。サタンマルッコの今後の予定はどうなるのでしょう?」

「オーナーさんと相談でしょうけど、間違いなく現役続行ですよ。皆さんご安心ください」

「現役続行! 期待が膨らみます。ドバイ、イギリス、アメリカ、日本での再戦、まだまだ私達はサタンマルッコの走る姿を見る事が出來るんですね!」

「ええ。変な馬なんだけど、本當に可い奴なんでね。ファンの皆様のご聲援に応えられるよう、これからも頑張っていきます」

「ありがとうございました。最後に、何か一言を」

「え? んー……よし。

勝ったぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

インタビュー中の橫田の奇行が呼び水となり、前代未聞のインタビュー後コールが発生。人馬共に破天荒な伝説を殘し、幕は下りる。

カーテンコール。

それは永遠の終わりを意味しない。

年が明けて。

暖かくなったら。

もしかしたら冬の間にも。

貴方の馬は走り出す。

競馬は終わらない。彼らの競走生活は終わっていない。

チクショー道に終わりは無いのだから。

これにて完結?

今後も単発でエピソードの追加はあると思いますが、それは別作品として投稿しようと思います。

いつまでもこれにダラダラ投稿するのも完結した作品なのにおかしいかなと

日報にて完走した想をそのうちかこうとおもいます。詳細はそちらで

長らくのご読ありがとうございました。

ご評価、ご想いただけると大変喜びます!

新作の、「中ボスから見るヴァーサスヒーロー」もよろしかったらご覧になってください。

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