調や気分の変化によって、が重くじることや反対に軽くじることがある。

実際に重が変化しているわけではない。ただそうじるというだけ。

それだけのことが、運能力(パフォーマンス)に影響を與える。

だとすれば、極度に高まった集中力によって思考が鮮明(クリア)になり、が羽のように軽くなることもあるのか。

ヤクモはこの覚を知っていた。

最も新しいものは、クリード戦。

あの時は父の死が引き金となった。

今回は前回のような深く大きな怒りがあったわけではない。

あれ以降、んでこの狀態に移行出來たことはなかった。

自在に到れる境地ではないのだろう。

そんなものを武の一つに數えるわけにはいかない。妹の魂を魔力爐に接続するのと同じくらい、それは論外だった。

だが今、踏み込んだその領域に対して戸うことはしない。

端から頼ることなど出來ない力ではあるが、使えるならば使うまで。

投擲した棒手裏剣は九本。

『両斷』付きが一本、非実在化が三本、それ以外が五本。

『両斷』は棒手裏剣を用意している過程で遠距離からツキヒ達が纏わせてくれたものだ。事前の打ち合わせなどしていなかったが、最高の瞬間(タイミング)を狙った補助。

幸運というべきか、アカツキが剣で弾いた一本が、赫焉粒子によって寸前まで『両斷』を隠匿していたものだった。

剣を覆っていた魔力のが一枚、割れて散る。

一瞬、アカツキの瞳が揺らぐ。

驚きからではない。逡巡か。

次の瞬間には、剣の柄から剣が生える(、、、、、)。

柄の長さが倍になり、両端に刃が延びる特殊な形狀。

アカツキはそれを廻す。まるで円を描くように。

それによって実を持つ五本が弾かれる。

非実在化を施した三本は通過したが、アカツキは読んでいたのか機敏に回避行をとる。

それでも一本は左腕を掠めた。

「幾つも怪我をこさえてしまった。これじゃあ格好がつかないな」

頬、右脇腹、左腕。いずれも致命傷には程遠いが、出している。

彼にとってはその程度の負傷も稀なのだろう。

ヤクモのきが変わった、だけではない。

ヤクモ組とアカツキ組の差を埋めているのは、アカツキ側に募る負擔も大きい。

アークトゥルスへの対処、ランタン救援、赫焉粒子の固定、魔力の消費。

アークトゥルスの魔力を使い切った彼は、自前の魔力でヤクモと戦っている。

空中戦闘では移に魔力による足場が必須。

れる赫焉粒子の総量が減ったという點を除けば、ヤクモはただ目の前の戦闘に集中するだけでいい。

それに対しアカツキは思考が圧迫される要素が重なっている。

そんな狀態でもなお、ヤクモの攻撃に対応しているのだ。

「今のお前と空中戦を続けるのは得策じゃないかもしれないな」

言われて思い返してみると、戦いの舞臺が空になってからの方が優位に立てている。

なるほど確かに、地上と空中では戦いの自由度が桁違い。

見て、考えて、対応する能力の極めて高いアカツキからすれば、自由度の高さは想定される展開の増加を招く。

それが、ほんの僅かではあるが彼の反応に遅れを生じさせているのかもしれない。

そして、そうだとしても彼は地上に降りないだろう。

止めなければならないアークトゥルスが空にいるのだから。

であれば、これは好機だ。

これが試合であれば相手の全力にこちらも応じるのがましいが、これは戦い。

相手が全力を発揮出來ない狀況を攻めるのは正しい。

だが――。

アカツキが喋っている間にもヤクモは距離を詰め、追撃を仕掛けていた。

「……を出すのはやめるか」

一瞬の出來事だった。

彼の意識が変わるのが、ヤクモには分かった。

アカツキはランタンを気にかけるのをやめ、赫焉粒子固定の為に維持していた魔力を解き、ヤクモの相手を放棄した。

代わりに何重もの箱型魔力防壁にヤクモを閉じ込め、アークトゥルスに向かって駆ける。

彼はと言ったが、自分の中にある執著やプライドを捨てるのは容易くなかった筈だ。実際、これまではそれこそが彼を衝きかしていたように見えた。

集団としての目的か、あるいは『彼』と呼ぶ者への忠義の方が、自己に勝るということか。

『な、逃げたっ？』

アサヒの戸いの聲。

魔力攻撃で兄妹とグラヴェル組を吹き飛ばした時とは違う。

排除してから別の敵に向かうのではなく、相手すべきではないと判斷して方針を転換した。

それまで余裕を持った態度でこちらをいなしていたアカツキを思えば、その判斷は予想外ともいえる。

ヤクモはアサヒほど驚きはしなかったものの、代わりに悔しさをじていた。

相手が全力を発揮出來ない狀況を攻めるのは正しい。

だが、そんなことは相手も承知の上。

自分が全力を発揮出來ない狀態ならば、一時離も選択肢にるだろう。

そして空中戦に移行してから彼が多用するようになった『回避』による移は、アークトゥルスとの距離を徐々にめるものであったと気づく。

――深くり(、、)過ぎていた。

集中力が高まる反面、視野は狹くなる。クリード戦の時などは、目の前の勝利の為に妹や自分のに掛ける負擔を考慮しなかったくらいだ。

『五重です。側と外側から対処を』

妹の聲。すでに冷靜さを取り戻している。

そうだ。一刻も早く箱からし、戦線に復帰しなければ。

解放された赫焉粒子を回収し、綻びを見て、防壁突破にあたる。

アカツキとアークトゥルスの距離が急速にまる。