《たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)》290◇夜の明けない朝はないと信じる者達と常闇の住人

複數都市によって正式に認められた《黎明騎士(デイブレイカー)》は、現在七組。

が失われる前の世界では遠く距離の隔たる相手と報をやり取りする手段があったというが、現在は失われている。そういった技失技(ロストテクノロジー)に分類される。

都市ABCが認定した《黎明騎士(デイブレイカー)》がいたとして、それを世界に點在するD以降の都市が知らないということは當然ある。

だが実際には都市Aが流のあるDに伝え、都市Bは流のあるEに……という風に遅れはあるものの報は広がっていく。

都市にとって《黎明騎士(デイブレイカー)》がいるということは、防衛力の大幅強化の他に周辺都市へのアピールにもなる。どうしても強力な戦力を保有する都市の方が影響力が強くなるものだ。

とにかく、都市単位で伝言ゲームを行うようにして、《黎明騎士(デイブレイカー)》の存在とその功績は遙か遠くの都市に住む者の耳まで屆くのだ。

その所屬都市も。

それは人類にとって希である。

だがだからこそ、魔人にも彼らの人數とおよその強さと所在が知られることになった。

適當に捕まえた領域守護者の記憶を覗けばその程度の報は手にる。

《耀卻夜行(グリームフォーラー)》が支配下に置く《ファーム・タカマガハラ》に建てられたヤマト風の建造

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ザシキと呼ばれる、タタミなる床材が敷き詰められた空間。

魔王の座す空間とは別。

そこに《耀卻夜行(グリームフォーラー)》所屬の魔人・人間・《偽紅鏡(グリマー)》が集結していた。ほぼ全員である。

明かりなき暗闇の中で、それは行われていた。

長い説得の末に、魔王・プリマより作戦の許可が下りたのだった。

その容とは――。

「《アヴァロン》所屬・第一格《騎士王》アークトゥルス=レア

《エデン》所屬・第二格《朧鋒鋩》ダモクレス

《カナン》所屬・第三格《黎き士》ミヤビ=アカザ

《ユートピア》所屬・第四格《熾天使》ミカエル

《アルカディア》所屬・第五格《夜叉姫》リティ=ハガラ

《ベンサレム》所屬・第六格《道化》オーギュスト

《カナン》所屬・第七格《地神》ヘリオドール=スマクラグドス

また……この者達は認定をけていないが《黎明騎士(デイブレイカー)》相當の脅威であるとして加える。

《カナン》所屬《雪華の燈火(ファイアスターター)》ヤクモ=トオミネ

同じく《カナン》所屬《黒曜(アンペルフェクティ)》グラヴェル=ストーン

以上九名及びその《偽紅鏡(グリマー)》を殄滅せよ」

これまで人類が生き殘ってこれた理由は単純。

弱いからだ。

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魔人のほとんどは強さにしか興味がない。

人類領域に手を出すのは三種類の魔人。

殺した者の魔力爐能分進化出來るという能力を、魔人同士の殺し合いではなく人類殺によって加速させようとする弱者。

そういった魔人でも人類にとっては脅威。

ただし長い時の中で見抜かれているのか、奴らは人類にさえ半魔人などと呼ばれる。

もう一種類は、退屈した者。

魔人には個ごとに長限界があり、それを越えて強くなることは出來ない。強くなる為に、強者と戦う為に生きる魔人だというのに、無限には進化出來ないのだ。そういった者のほとんどは他の魔人との戦闘で命を落とすが、あまりに強くなり過ぎた者は対等な敵さえ失ってしまう。

敵を求め闇の世界を歩くことさえ無意味と悟った魔人は、人類領域にを下ろす。野ざらしよりは快適というただそれだけの理由で都市を支配する。

クリードなどが該當する。

最後は、いかれた者。

戦い以外を求め、都市を支配する魔人は稀にだが存在する。

不滅を求めたカエシウス、なるものに価値を見出すセレナなどが該當する。

いや、《耀卻夜行(グリームフォーラー)》もまたそこに含まれるのだろう。

集団としてだが、魔王が休める場所としてこの都市を前支配者である魔人から奪った。

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とにかく半魔人を除けば、人類領域を襲う魔人など滅多にいない。

それでも人類領域は緩やかに數を減らし、魔人の支配下である《ファーム》へと形態を変えていた。

と暗闇が互に訪れていた時代ならまだしも、闇一の現狀では人類に勝ち目などない。

「黎明をまれた騎士、その刃全てを破壊するのだ」

魔王麾下の魔人は百を越え、特級相當だけでも十二が揃っていた。

人類は《ファーム・タカマガハラ》に辿り著くこともなく、希を絶によって押し潰されるだろう。

それはヤクモが《アヴァロン》を後にしてから、魔王討伐へと向かうまでの間に起こった話。

真なる楽園とも呼ばれる第七人類領域《エデン》に、來訪者がいた。

「久しいな、ダモクレス老」

「……まさか本當にお主が來るとはな、アークトゥルス王」

そう、修練場と思しき空間に立っている二人は、どちらも《黎明騎士(デイブレイカー)》。

アークトゥルスはヤクモらが《アヴァロン》を去ってから、旅に出た。

目的は――《黎明騎士(デイブレイカー)》の勧

《黎明騎士(デイブレイカー)》第二格《朧鋒鋩》ダモクレス。

とても當年とって七十の老人とは思えぬ引き締まったに、決して歪まぬ芯が通っているかのようにピンとびた背。

白に染まった髪は後ろにで付けられ、皺の刻まれた皮だけが彼の重ねた年を語る。

赤い眼に貫かれた――アークトゥルスは楽しげにを歪める。

アークトゥルスは事をざっと説明してから、言う。

「魔王を殺すぞ、余についてまいれ」

ダモクレスは悲しげに目を伏せ、肩を震わせる。

を震わせ聲となったのは、返答ではない。

「アカツキ……何故魔人になどついた」

ダモクレスは、ミヤビとアカツキの師だ。

彼はこの世界では珍しくヤマトへの差別意識がない人間で、かつては様々な都市を訪問しては才能のある者に戦うを教えていた。彼の言う才能は魔力ではなく『生き殘る力』だといい、実際彼の弟子達はみな素晴らしい功績を挙げている。

ただし、確認出來る限り現在生きているのはミヤビ組とアカツキのみだ。

彼の弟子はみな強く、しぶとく、そして――優しかった。

自分とパートナーだけならば生き殘れる。でも人を助けようとした。

自分とパートナーだけならば逃げられる。でも人を助けようとした。

能力は確かだったが、その格や信念が死地へとを留め、命を失う結果となった。

《黎明騎士(デイブレイカー)》まで上がってこれたのは、ミヤビ組だけ。

「聞きたければ自分で聞くことだ」

ダモクレスは《エデン》に來てから弟子をとらなくなった。

これ以上我が子同然の弟子を失いたくなかったからだ。

最後に殘った三人の弟子。ミヤビ、チヨ、アカツキ。

ミヤビとチヨは魔王を殺しに。

アカツキはそれを阻もうとし。

殺し合うのだという。

無視することは、出來ない。

それに、どうやら自分には孫弟子がいるようなのだ。

ヤクモとアサヒ。その兄妹もまた、魔王討伐に參加する程の強者なのだとか。

「……よかろう。我が子に先立たれる苦しみは、もう沢山だ」

涙を止め、アークトゥルスを見據える。

彼は気づいているだろうか。

彼の弟子は一人の例外もなく、技だけでなく――師の優しさを継いだのだと。

アークトゥルスはその人間離れした無限に近い魔力によって都市間に広がる距離を走って飛ばす。

湖の乙された彼にだけ出來る離れ業であった。

そうして彼は、《黎明騎士(デイブレイカー)》を保有する都市を巡った。

「……申し訳ありません。わたしはこの都市から離れるわけにはいかないのです」

第一人類領域《ユートピア》にて、第四格《熾天使》ミカエルの勧に失敗。

「ふぅん、いいわね。殺しましょう」

第二人類領域《アルカディア》にて、第五格《夜叉姫》リティ=ハガラの勧功。

「魔王殺し? 無理だね」

第五人類領域《ベンサレム》にて、第六格《道化》オーギュストの勧に失敗。

ヤクモ組を含めた八組中、參加は六組。

これまでのことを思えば、多すぎるくらいだ。

アークトゥルスを含め、都市の防衛、つまり現狀維持が最優先だった。

「……アークトゥルス様ですか?」

「確か貴様は……」

とある都市でアークトゥルスが再會したのは、元《黎明騎士(デイブレイカー)》第三格《羽纏》、その《導燈者(イグナイター)》だった。

「魔王殺し、ですか……。素晴らしい、是非私も協力させて頂きたく」

「ふむ……。だが貴様は確か……」

《黎明騎士(デイブレイカー)》の資格が失われるのは死した時と、片割れを失った時。

生きている以上、彼は後者。

「いいえ、アークトゥルス様。今の私は確かに《黎明騎士(デイブレイカー)》と呼べる戦士ではありません。ですが彼を失ったとは考えていないのです」

を見て、アークトゥルスは顔を顰める。

は長い襟巻きを、巻くことなく首から垂らしていた。

それは彼の相棒が武化した時の姿によく似ていた。ふわふわと神的に浮遊してもいないし、き通る水のような青でもない。亀裂のようなものが無數に走った、錆の襟巻き。

死んだ《偽紅鏡(グリマー)》は、武ではなく人間のとして世界に殘る。

例えば、壊れた武として死ぬようなことは有り得ない――否。

正確には、これまで確認されたことがない。

「私は必ず彼を取り戻します。ですからどうか、魔王殺しへの參加をご許可願いたい」

《カナン》で年に一回開催される大會があった。

四つの領域守護者組織の育機関から選りすぐられた合計百六十名で予選を行い、それぞれ上位四名が本戦へと駒を進める。

純粋に強さのみを競う大會。

優勝者は學年を問わず即時正隊員となる。

予選は終わり、ついに本戦が始まろうとしていた。

通過者と第一回戦の組み合わせは以下の通り。

《皓(しろ)き牙》學ランク四十位《雪華の燈火(ファイアスターター)》ヤクモ=トオミネ

《燈(ひ)の燿(ひかり)》學ランク一位《極(きょっこう)》アルマース=フォールス

《皓き牙》學ランク四位《雲耀》ユークレース=ブレイク

《蒼の翼》學ランク一位《地祇》エメラルド=スマクラグドス

《燈の燿》學ランク四十位《月暈(ヘイロー)》ラブラドライト=スワロウテイル

《紅の瞳》學ランク三位《人形師》コース=オブシディアン

《蒼の翼》學ランク六位《無傷(むしょう)》アンバー=アンブロイド

《燈の燿》學ランク二位《銀雪》クリストバル=オブシディアン

《皓き牙》學ランク一位《黒曜(アンペルフェクティ)》グラヴェル=ストーン

《燈の》學ランク四位《夢想》ターフェアイト=ストーレ

《皓き牙》學ランク九位《氷獄》ラピスラズリ=アウェイン

《蒼の翼》學ランク十七位《蒼炎》シベラ=インディゴライト

《紅の瞳》學ランク一位《抹消域》ネイル=サードニクス

《蒼の翼》學ランク二位《狂飆》ユレーアイト=ジェイド

《紅の瞳》學ランク五位《現在視》ルチル=ティタニア

《紅の瞳》學ランク八位《斷罪者》ロード=クロサイト

「じゃあ、行こうか」

「はいっ」

朝食を済ませたヤクモ、アサヒ、モカ。

「行ってらっしゃいませ。頑張って応援させてもらいますっ!」

モカが見送ってくれる。ぐっ、と両拳をまで上げていた。

ヤクモとアサヒがに纏うのは『白』の訓練生の制服だ。

戦いへの不安は、昨日の夜に払拭済み。

本戦に限り、通常の訓練は無し。

「ふっ、誰が相手だろうと、兄さんとわたしの前に敗北はないのです!」

「……そうだね」

なくとも、それぐらいの気概で挑まねば。

努力を怠らぬ天才達の中で、ただ一組無才の二人なのだから。

《黎明騎士(デイブレイカー)》に相応しいと何者が褒め稱えようと、過信はしない。

格上に臨むつもりで、格上に勝つつもりで戦う。

「勝ちに行こう」

自分達以外の本戦出場者は誰もが秀絶な才能と魔法を有する。

ヤクモとアサヒの相手は、『耀』の第一位アルマース組。

達とは《エリュシオン》奪還で共に戦った仲間でもある。

を強く求める彼の想いは尊く、ヤクモ個人としては応援もしている。

だが、勝負は勝負。

負けるつもりはない。

ただ一組を除き全員を敗者とする大會本戦が、始まろうとしていた。

ここまでお読みくださりありがとうございます。

ようやく本戦ですが結構期間空いてしまったので

次話投稿する時にざっくり人紹介つけようと思っています。

來週は人紹介+最新話となるかと。

引き続きよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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