その日の晝も、ヤクモは校庭の端に生えている巨木の側で晝食を摂るつもりだった。

で魔力を生み出す能力に乏しいことから、この都市では《偽紅鏡(グリマー)》が差別されている。

人々は模擬太の輝きを浴びることによって魔力を生み出し、その魔力を稅として納め、納められた魔力を力に模擬太は輝く。

《偽紅鏡(グリマー)》が差別されるのは、この仕組みに參加出來ないからだ。

同様の理由で、魔力生能力の低い者も蔑視される傾向にあり、ヤマト民族がこれに該當するのだが――今は関係がない。

とにかく《偽紅鏡(グリマー)》は差別されており、人より下の存在として扱われることが多い。

學舎でもそうで、食堂の利用は《導燈者(イグナイター)》にしか許されていないのだ。

《偽紅鏡(グリマー)》は自分達で食事を賄わねばならない。

ヤクモはそんな理由で妹と食事を別にする、ということがけれられず、共に摂ることに。

同居人であるモカの力を借りて、彼の手料理を頂くのが日常となった。

今日もそのつもりだったのだが、珍しいことに先客がいた。

それも複數。

大きな敷の上には、沢山の料理。それを囲むようにして、集団が円座になっている。

「おう、ヤクモ、アサヒ、それにモカ。來たか」

最初にヤクモ達に気づいたのは、翡翠の髪を後ろで一つに結んだ長のだ。引き締まったに凜とした振る舞い、そしてそれを引き立てる翠の瞳。

厳しい訓練教のような雰囲気を纏うだが、実際の彼は公正で仲間思い。

學ランク六位《劫風(ごうふう)》コスモクロア＝ジェイドだった。

彼の隣には、パートナーのノエが座っている。こちらは腰のらかい年だ。

「スファレ様？」

モカが思わず聲を上げる。

そう、彼のパートナーであり、風紀委の長であるもいたのだ。

「いらっしゃい、モカ。事前に伝えられずごめんなさい。ヤクモとアサヒへのサプライズも兼ねていたものですから」

そう言って、彼はたおやかに微笑む。

金糸のようなしい長髪と、寶石のような青い瞳をしただ。高貴さをじる整った顔の造形に、白磁の、付きのいいに加え、アサヒが憎しみを向ける満な部。

學ランク第三位《金妃（きんき）》スファレ＝クライオフェン。

スファレの隣には、茶髪で前髪の隠れたパートナーチョコがいる。

チョコはヤクモを見ると、ぺこりと頭を下げた。

ヤクモが微笑みを返すと、照れたように顔を伏せてしまう。

何故かアサヒがヤクモの右腕に絡みついてくる。

スファレ、モカ、チョコの三人を指して、アサヒは以前『巨ぐるーぷ』などと稱していたか。

確かに三人とも、部の膨らみに富んでいる。

「そんなあからさまに巨に目を奪われたとしても、わたしから貴方への好意は些かも薄れないことを明言しておくわ、ヤクモ」

「奪われてないよ……」

気づけば、ヤクモの左腕にを絡ませてくるがいた。

紫を帯びた青の長髪に、同の瞳。れれば壊れてしまうのではないかと不安になるほどの細いをしているが、不健康というわけではないようだ。

絡みついてくる彼のはしなやかで、らかい。

常に湛えている薄笑みは、以前はの読めないものだったが、大會予選を通して変化があった。

ヤクモを見る目は彼が明言しているように、好意が浮かんでいるようにじられる。

學ランク第九位《氷獄》ラピスラズリ＝アウェイン。

パートナーであるメイドのイルミナとリツは、敷の上に座っている。

二人の間に隙間が空いているので、そこにラピスがいたのだろう。

「信じるわ。大事なのは大きさなどではなく形とハリの良さだと言ってくれたヤクモ」

「言ってないね」

「あら、ではわたしのは醜く崩れていたかしら？」

「いや、あの……」

「いつものごとく、導尋問的に兄さんからむ言葉を引き出そうとするのはやめなさい！」

アサヒが怒る。

「ごめんなさい。でも、好きな人が自分をどう思っているか、魅力的に見られているのかどうか、気になるのだもの。貴は違うの？　アサヒ」

「んぐぐぐぐ……」

アサヒはラピスが苦手なようだ。

こう、まっすぐぶつかっていくアサヒの言葉を、ラピスは幻するように躱す。

それでいて、重要な部分はブレない。

この場合、ヤクモへの好意は一貫しており、アサヒ自、その気持ちを大きく否定したり拒絶したりは出來ないのだろう。したくないのかもしれない。

それはそれとしてヤクモに近づくへの反発があるので、ラピスをけれることも出來ない。

「ラピスラズリも、隨分と変わりましたね」

「ヤクモのおかげで変われた者は多いよ。もちろん、私も含めてね」

二人の年がそんな言葉をわしている。

一人はを抜いたような白い髪に赤い目をした、病弱の剣豪。

一人は左分けにした栗の髪に同の瞳をした、魔力作の達人。

學ランク四位《雲耀》ユークレース＝ブレイク。

學ランク第七位《無謬公（むびゅうこう）》トルマリン＝ドルバイト。

の二人だった。

それぞれのパートナーである、年ダン、マイカの姿も確認できた。

『白』の風紀委勢揃いだ。

「そうだねー。トルなんか、ヤクモがいなかったらいまだに意気地なしのままだったかもだし」

ほんのりと黃を帯びた灰の髪をした、一見おとなしそうな印象のマイカが、悪戯っぽく笑いながら言った。

トルマリンとマイカは馴染で、予選で兄妹とぶつかったあと、関係が進展したようなのだ。

妹がなにやら悔しげだったので、よく覚えている。

ヤクモはラピスのまっすぐな好意に顔が熱を持つのをじながら、スファレに聲を掛ける。

「さぷらいずと言ってましたが、これは……？」

並んでいる料理は、みんなで作って持ち寄ったのだという。

「ヤクモとアサヒの勝利を祝い、ラピス、イルミナ、リツ、ユークレース、ダンの勝利を願おうと思い、集まったのです。ここにはいませんが、グラヴェルとツキヒの勝利も」

つまり、『白』の本戦參加者だ。

予選通過者四組の、三組が風紀委なのである。

これは確かに快挙だし、祝うべきことかもしれない。

友人に祝われる、という経験に乏しいので戸いもあるが、のに溫かい気持ちが広がっていく。

「アサヒの妹ということで呼んでもよかったのだが、今日は風紀委の集まりということでやめたのだ。また別の機會を設けてもいいし、貴様が祝ってやるのもいいだろう」

コスモクロアの言葉に、アサヒが「そうですね」と答える。

アサヒもヤクモ同様、慣れない催しにそわそわしているようだった。

「さぁ、座りましょうヤクモ？　よければ、わたしが食べさせてあげるわ」

ラピスに腕を引かれ、みんなのの中にっていく。

「兄さんに『あーん』していいのはわたしだけです！」

調子を乗り戻したアサヒがぶ。

モカもとてとてとついてきた。

不思議な関係だな、と思う。

風紀委の同僚。共に戦う仲間。競い合う好敵手。

それらが同時に立する、友という関係。

大會でぶつかれば、絶対に負けられない。

それでも、彼ら彼らの勝利を願う気持ちも噓ではない。

ここにいるみんなが同じだろう。

それがくすぐったくて、同じくらい、誇らしかった。

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