日間推理ランキングで一位になりました！ありがとうございます

沢山の方に読みに來て頂いているので、慌てて語尾や表現を修正中です。容はかわりませんが、しでも読み易くなればと思っています。

華やかな裝、豪華な簪、麗しき香り。

様々なと匂いとが詰まった小さな籠の中。

帝の寵をけるため、他の妃嬪を出し抜く為、実家の為、様々な思が飛びかっている。

……んだろうけれど、明渓(メイケイ)には関係ない事だった。地方ではそれなりに有力な役職に就く親を持ってはいるが、高の娘が幅をきかすここでは後ろ盾などないも同然。そもそも寵そのものに興味はない。

では、何故ここにいるのか。それは、昔、後宮で上級妃の侍をしていた叔母から聞いた話のためだ。

後宮の北のはずれには、誰も立ち寄らない古びた建があり、その中には夥しい數の蔵書が埋もれている。中にはかなり希価値のあるも。

心付く前から本が好きだった。

を躍らせながら次々と紙をめくった。溢れてくる活字とそれらがもたらす知識や語。時間が経つのも忘れて、放っておけば飲食どころか寢る事も忘れてしまう。周りの音が耳にらず、返事もしないので、次第に誰も構わなくなっていった。そんな明渓がすると言い出した時、家族は騒然となった。

今の帝は超が付くほどの合理主義だ。政策は無駄がなく結果も出しているが々に薄い所がある。必要ないと判斷した場合はバサバサと切り捨てて行く。

そんな帝の為に作られた後宮も合理的だ。四年過ごしても帝の訪れがない場合は退廷を促される。妃嬪は五十人ぐらいおり、一回でも訪れがあったのは三分の一、頻繁に通いがあるのは片手の數程だ。勿論四年以下で実家に帰される者や下賜される者もいる。

明渓はそれを狙った。帝の興を引かず地味に過ごしながら四年のうちに蔵書を読み漁る。

から一か月、今のところ順調な日々を過ごしている。

――――

「明渓様、そのように侍のような姿をなさらないでください。帝に出會う可能もありますから、妃嬪らしく著飾って切っ掛けを摑んできてください」

侍長の魅音(ミオン)がいつものように小言を言う。二十歳半ばで人ではあるが口うるさいのが玉に傷だ。後宮では達にも位が與えられており、上位の位の者は名前の後に妃、位の低い者は嬪をつける。後宮にってまだ月日が淺い明渓は一番下の位だ。

明渓は、北にある蔵書宮に行く時はいつも侍の服を著る。

妃嬪が後宮を歩く時は必ず侍をお供に付けるのが習わしだ。そのため妃嬪の裝いでの一人歩きは悪目立ちする。しかし、誰にも邪魔される事なく気兼ねなく本を読み漁りたい。

いろいろ考えた結果、侍に変裝して一人でこっそり出かけるのが一番よいと結論づけたのだ。

「しかも、どうして帝好みの白いをわざわざ濃く見せるのですか。前髪もそんなに厚くおろしては、形の良い目を隠してしまいます」

小言は止まらない。五十歳になる帝は白い餅がお好みらしい。明渓は父より年上の帝のお眼鏡になんてかないたくない。清いのまま故郷に帰りたいとか、貞観念が強いというより、帝なんかに割く時間が勿ないと思っている。

「すぐに戻るわ」

魅音の要も質問も華麗に無視(スルー)して、北に向かって足速に立ち去って行くのはいつもの事だった。

（あぁ、いつ來てもなんと素晴らしい）

天井近くまである本棚にはびっしりと本が詰まっていて、歴史、地學、天文學、易、語まで様々な種類が揃っている。

その古びた背表紙に指をれながらゆっくりと歩いて行く。すぅ、息を吸い込むとカビと古びた紙の匂いがして、それは明渓にとってどんな香よりも香(かぐ)わしかった。

どれにしようかと、はやる気持ちを抑えながら歩き回っていると、天文學の棚の前に辿り著いた。田舎では十數冊手にれるのが一杯だった本が、所狹しと並ぶ様は圧の景だ。明渓の形の良い目が輝き始める。

とりあえず、パラパラとめくりながら、初心者向けの本を十冊ばかり手にとる。そのまま辺りをぐるりと見回し、三方を本棚に囲まれた機のさらに一番隅の席に座ると、ゆっくりと本ををめくり始めた。

頭の中にどんどん本の文字が吸い込まれていく。周りから音が消える。この時間があれば他に何もいらない。瞬きさえ惜しいぐらい目をこらし、次々に紙をめくっていく。

これが全ての始まりだった。

その夜、明渓は靜かに窓を開けるとひょいと窓枠を越え地面に著地した。月明かりが明るく、星も綺麗に輝いている。蟲の聲が季節をじさせるがし寒いぐらいなので気にせず歩いていく。

明渓はただ読書が好きなだけはない。本で知った事を自分の目で見たり、試すのも大好きだった。

秋の夜空は夏に比べると星はない。しかし、空気が乾燥しているので、夏の間は霞みがちだった空も明度が増し、星の輝きが綺麗に見える。

本の容を思い出しながら、夜道をゆっくりと歩いていると、どこからか甘い香りがしてきた。始めは金木犀の香りだと思っていたのだが、それらに混じって妙な甘さが混じっている気がする。

ふと、実家で読んだ本の一文が頭に浮かんできた。

（いや、まさか、ここは後宮だし）

実際にその匂いを嗅いだことはない。でも、でも、

（……阿片？）

そう思った時にはもう遅かった。足は自然と金木犀の匂いの方へと向かっていた。そっと覗くと、三人の人影が木の下に見える。明渓が目を細め、よく見ようとを乗り出したその瞬間、そのの一人と目が合ってしまった。

（やばい！）

咄嗟にそう思って走って逃げようとしたとたん、木のに足をとられ転んでしまった。

こんな時語なら皇子(ヒーロー)が……と思うけれど、現実はそうも行かない。男の一人がのしかかり、口を押さえてきた。目が走っていて正気でないのが分かる。

「どこの侍だ？まさか妃嬪ってことはないだろうな」

「どっちみち、やるしかないんだし関係ないだろう」

両手を押さえられてきがとれない。

その時だった。ぶん、と風を切る音が聞こえたと思ったら、男の顔面に木がめり込んでいた。

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