《【書籍化決定】読家、日々是好日〜慎ましく、天無に後宮を駆け抜けます〜》23.夏夜の宴 事件
僑月目線です。
◾️◾️◾️◾️
池の近くまで來ると、妃嬪達が青い顔で右往左往している。刑部の武や宦が妃嬪達に自分の宮に戻るよう説明したり、または送って行ったりしている。近くにいた宦を引き留め、何があったか聞いた所、東宮の船に矢がられたらしい。隣で聞いていた明渓の顔が変わるのが、行燈の明かりの下でもよく分かった。
「それで、東宮達は?」
「お二人ともご無事だ。船は今、北の詰所に停まってる」
とりあえず安心するが、弓がられたとは一大事だ。
「明渓様、貴は宮に戻ってください。こちらの宦に送らせましょう」
何か言いたげな明渓を無理に宦に預ける。預けられた方も、何故こんな子供に指図されなければならないのかと不服そうだが、気にしてはいられなかった。
幾人かと肩がぶつかり、何度か怒鳴られながら北の詰所まできた。ここには韋弦がいるはずだが、詰所と船を大勢の武が取り囲んでいて韋弦の姿は見えない。小柄なを恨めしく思いながら、背びして探していると詰所の左端にそれらしき人影が見えた。
Advertisement
「韋弦様(・)」
聲を上げ、大柄な武達を掻き分けながらぶと、向こうから慌てた様子で近づいてきて、手を摑まれ比較的人がない木の下に連れて行かれる。
「どちらに行かれていたのですか?留守番をしていない、姿が見えないと聞いてどれだけ心配したかお分かりですか」
低く、小さな聲で言ってくる。聲を荒立てたりはしていないが、長年の経験からかなり怒っているのが分かる。
「すまない、勝手な事をした。それより、何があった?」
それより、とは何だと言う顔をしながら早口で説明をしてくれた。
船は反時計回りにゆっくりと池を周遊していた。それが東の詰所から北の詰所に向かっている時に、船から達の悲鳴と警護の武の怒鳴り聲が聞こえてきた。慌てて外に出てみると、船が詰所の橫の停留所へと向かって來るところだった。
詰所にいたのは、韋弦、宇航(ユーハン)と武が3名で、船から出てきた警護の者から話を聞き、武一人を殘して四人で船に向かった。
船の中は騒然としており、護衛の者に囲まれた中に東宮と香麗妃がいた。東宮に肩を抱かれるようにして椅子に座っていた妃の顔が真っ青で震えていた。二人は船の真ん中よりし先端寄りの場所に椅子を置いて燈籠を眺めていたらしく、弓矢は座っている香麗妃の右腕から三寸程橫を掠め、後の船の壁に刺さったようだ。
「弓矢に毒は?」
「ありません。弓矢は通常のものより半分程の長さに折れていました(・・・・・・・)」
「折れていた?壁に刺さっていたのだろう?だとしたらいつ折れたんだ」
弓矢は放たれ、そのあと香麗妃の橫を通り壁に刺さる。折れるタイミングはどこにもないはずだ。
「分かりません。折れた矢は護衛の者が回収をして行きました」
「香麗妃の様子は?」
「私が確認しました。脈は早く転されていらっしゃいましたが、大事はありません。今は、醫と共に馬車で朱閣宮に向かっております」
韋弦の目線が僑月の左後で停まった。振り返ると、顔見知りの武がいた。以前、醫局に博文を捕まえに來た時にいた武で、僑月の姿を確認すると、ほっとした様子で足速に近づいてきた。
「良かった、ご無事でしたか」
「うむ、心配かけたな。それで、どこから矢がられたか分かったか?」
「はっきりとはまだ分かりません。ただ木の上で奇妙な燈りを見た、と言う証言をする者が何人かいました」
「場所は?」
武はまっすぐ北を指す。東から北に向かう時、船の先は北向きになる。燈りが見えた場所から真っ直ぐ矢を放てば、船首にいた東宮達を狙う事は可能だ。
(一度船を見てみたい)
そう思った時、後ろから聲をかけられ、振り返ると、意外な人達――明渓、青周、そして魅音を抱えている青周の部下がいた。
「どうしたんだ?宮に帰ったんじゃないのか?」
「いや……うん、そうなんだけど、何だ…か…気になって。侍ともはぐれてたし…」
簡潔に言えば好奇心を抑えられずここまで來たらしい。先程の宦は何処かでまいてきたのだろうか、ため息をつきたくなるが、まだ問わなくてはいけない事がある。
「で、この狀況は?」
「あっ、それは、ここに來る途中の階段の上で魅音に會ったんだけど、そこで魅音が階段から落ちてしまって。で、足を痛めて困っていた所に同じく船を見に來た青周様に會って……」
で、青周の部下が魅音を抱えて詰所に來たらしい。
「あの、その方の治療をいたしますので、詰所の中に運んでいただけますか?」
いつの間にか、そばに來た宇航が青周の部下に話しかけている。丁度よいからそちらは、彼に任せる事にしよう。
「青周様がわざわざこちらにいらっしゃったという事は、これから船の中を見に行かれるおつもりですよね」
「そうだ、と言ったら?」
「私も行きます」
そうだろうな、という顔であっさりと頷いてくれた。しかし、
「私も行かせてください」
「はぁ?」
「はぁ?」
明渓の申し出に、思わず聲を揃えてしまい、二人して気まずく顔を見合わせる。
「いや、明渓はだめだ」
「青周様のおっしゃる通りだ。魅音の治療が終わり次第今度(・・)は武に送らせよう」
流石に武相手に逃げる事はないだろと思う。確信はもてないが。
「青周様」
明渓は僑月をいない者として、青周を見る。
「青周様は、以前私に知っておいた方が良いとおっしゃいましたよね?」
「……あぁ」
以前とはいつの話だろうか、自分がいない場所で二人はどんな會話をわしているのだろうか、気になり出すとキリが無い。
さらに、もう一度明渓は真っ直ぐに、あの青周を見據えて斷言した。
「私も行きます」
「……分かった」
たじろぐ青周を見るのは、初めての事だと思った。
お読み頂きありがとうございます。
興味を持って頂けましたら、☆、ブックマークお願いします。
【書籍化】解雇された寫本係は、記憶したスクロールで魔術師を凌駕する ~ユニークスキル〈セーブアンドロード〉~【web版】
※書籍化決定しました!! 詳細は活動報告をご覧ください! ※1巻発売中です。2巻 9/25(土)に発売です。 ※第三章開始しました。 魔法は詠唱するか、スクロールと呼ばれる羊皮紙の巻物を使って発動するしかない。 ギルドにはスクロールを生産する寫本係がある。スティーヴンも寫本係の一人だ。 マップしか生産させてもらえない彼はいつかスクロール係になることを夢見て毎夜遅く、スクロールを盜み見てユニークスキル〈記録と読み取り〉を使い記憶していった。 5年マップを作らされた。 あるとき突然、貴族出身の新しいマップ係が現れ、スティーヴンは無能としてギルド『グーニー』を解雇される。 しかし、『グーニー』の人間は知らなかった。 スティーヴンのマップが異常なほど正確なことを。 それがどれだけ『グーニー』に影響を與えていたかということを。 さらに長年ユニークスキルで記憶してきたスクロールが目覚め、主人公と周囲の人々を救っていく。
8 171キチかわいい猟奇的少女とダンジョンを攻略する日々
ある日、世界中の各所に突如として謎のダンジョンが出現した。 ダンジョンから次々と湧き出るモンスターを鎮圧するため、政府は犯罪者を刑務所の代わりにダンジョンへ放り込むことを決定する。 そんな非人道的な法律が制定されてから五年。とある事件から殺人の罪を負った平凡な高校生、日比野天地はダンジョンで一人の女の子と出會った。 とびきり頭のイカれた猟奇的かつ殘虐的なキチ少女、凩マユ。 成り行きにより二人でダンジョンを放浪することになった日比野は、徐々に彼女のキチかわいさに心惹かれて戀に落ち、暴走と迷走を繰り広げる。
8 180【書籍化・コミカライズ決定!】過労死寸前だった私は隣國の王子様と偽裝結婚することになりました
書籍化・コミカライズが決定しました! 情報は追ってお知らせいたします。 宮廷付與術師として働くフィリス・リールカーン。彼女は國內で初めて宮廷付きになった付與術師として活躍していた。両親を失い、多額の借金を肩代わりしてくれた婚約者とその家に恩返しをするため、日夜パワハラに耐えながら仕事に打ち込む。 しかしそんな努力も空しく、ある日突然信じていた婚約者から婚約破棄を言い渡されてしまう。知らぬ間に浮気されていたことを知り、悲しみと怒りが溢れるフィリス。仕事で朝帰りをしている時に愚癡を漏らしていたら、見知らぬ男性に聞かれてしまった! しかもその相手は、隣國の王子様だった! 絶體絶命の窮地に陥ったフィリスに、隣國の王子は予想外の提案をする。 「フィリス、お前は俺の嫁になれ」 これは無自覚な天才付與術師が、新天地で幸せを摑む物語。
8 52異世界でチート能力貰ったから無雙したったwww
とある事情から異世界に飛ばされた躄(いざ)肇(はじめ)。 ただし、貰ったスキル能力がチートだった!? 異世界での生活が今始まる!! 再連載してます 基本月1更新です。
8 59英雄様の非日常《エクストラオーディナリー》 舊)異世界から帰ってきた英雄
異世界で邪神を倒した 英雄 陣野 蒼月(じんの あつき) シスコンな彼は、妹の為に異世界で得たほとんどのものを捨てて帰った。 しかし・・・。 これはシスコンな兄とブラコンな妹とその他大勢でおくる、作者がノリと勢いで書いていく物語である! 処女作です。 ど素人なので文章力に関しては、大目にみてください。 誤字脫字があるかもしれません。 不定期更新(一週間以內)←願望 基本的に三人稱と考えて下さい。(初期は一人稱です) それでもよければゆっくりしていってください。
8 184姉さん(神)に育てられ、異世界で無雙することになりました
矢代天使は物心ついたときから、姉の矢代神奈と二人で暮らしていた。そんなある日、矢代神奈の正體が実の姉ではなく、女神であることを知らされる。 そして、神奈の上司の神によって、異世界に行き、侵略者βから世界を守るように命令されてしまった。 異世界はまるでファンタジーのような世界。 神奈の弟ラブのせいで、異世界に行くための準備を念入りにしていたせいで、圧倒的な強さで異世界に降り立つことになる。 ……はずなのだけれども、過保護な姉が、大事な場面で干渉してきて、いろいろと場をかき亂してしまうことに!? 姉(神)萌え異世界転移ファンタジー、ここに開幕!
8 106