《【書籍化決定】読家、日々是好日〜慎ましく、天に後宮を駆け抜けます〜》22.商隊 1

青周✖️空燕の組み合わせが書きたくて作った2話です。

この二人がいると筆が進みます。

推理なし、の日常なのでゆる〜くお読み下さい。

朱閣宮に鮮やかな裝が運び込まれてきた。

裝だけではない、簪や首、指、公主達のおもちゃや絵本もある。

後宮にいる者は外に出られず、娯楽がない。

その為に年に數回、近隣の商家や異國の商隊を呼ぶことがある。妃嬪や侍の中にはこれを楽しみにしている者も多くいる。

明渓も後宮にいた頃、中央の池を取り囲むように並ぶ鮮やかな品々を遠目に見たことがあった。余りの人の多さに近づく気にはなれなかったけれど。

ちなみに、高位の妃の宮には直接商隊が訪れるのが通例だ。

そして、商隊は朱閣宮にも訪れる。

本來は後宮の為に呼ばれているのだけれど、商人達の希もあり皇居にも訪れるようになったらしい。

商魂逞しいことこの上ない。

皇后が亡くなり、妻がいるのが東宮だけの今、朱閣宮には例年より多くの品々が運び込まれている。

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部屋の隅には侍向けの裝まで用意されており、紅花(ホンファ)達が橫目でチラチラと気にしていた。勿論、侍が品を選べるのは、主人の買いが終わってからだ。

の買いは時間がかかる。香麗(シャンリー)妃の場合、三人の子供に加え腹の中にいる子の分まで選ぶからさらに時間が必要だ。

始めは珍しさにはしゃいでいた公主達も、目當てのおもちゃを買ってもらうと品選びにすっかり飽きたようで、裝の裾で隠れん坊を始め出している。

紗(ヨウシャー)様、雨林(ウーリン)様、外で遊びましょうか」

見かねた明渓が聲を掛けると、二人は買ってもらったばかりの異國の人形を抱いて走り寄ってきた。

外に出た二人は早速、庭木の花や草を集め彼達なりの料理を作り始めた。人形は赤ちゃんのようであやしたり、口に草を持っていき食べさせる真似をしている。

明渓がし離れた場所から二人を見守っていると、真後ろに人の気配がした。

その異変に気づいた瞬間、背後から二つの腕が明渓を捕まえようとびてくる。

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もう、それは條件反だった。左足を軸に半回転すると上げた右足の膝で、後に立つ男の鳩尾を蹴り上げる。

グブっと言うき聲と共に、巨を屈めるその隙をついて、肘で元を突き……刺そうとした所を、もう一人の男に手首を摑まれ止められた。

「だから止めとけといっただろう」

明渓は頭一つ分上にある聲の主を見上げる。柳の眉に切れ長の目、すっと通った鼻梁。皆が見惚れる丈夫の呆れた顔が間近にある。

「青周様……」

この距離にいるだけで、頬を赤らめる者も多い中、明渓の顔は何一つ変わらない。それでも、目をパチクリとしているのだがら、反応はあった方だろう。

明渓はそのままおずおずと視線を橫にずらすと、先程自分が蹴り上げた男が誰かを確認する。

(まずい!)

今度は顔が変わった。青に。

「だ、大丈夫ですか? 空燕(コンイェン)様」

空燕が屈めていたをゆっくりと起こす。背は青周と変わらないが、腕も肩ももしっかりと筋がついているので一回り大きく見える。

「いやぁ、メイの蹴りは効くなぁ」

腹を抑えながら笑顔を向けてくる。

蹴った時の覚からさほど効いていないと明渓は思っていたけれど、なかなか鍛えられているようだ。

「あの、何をしようとしたのですか?」

「メイを拉致ろうとした」

「……異國のことは知りませんが、この國でそれは犯罪です」

「安心しろ、異國でも犯罪だ」

次の瞬間、がふわりと浮かぶ覚がした。間近に迫った地面が凄い速さで後ろに流されて行く。

空燕が明渓を脇に抱えるように抱き、全速で走りだしたのだ。

「ちょ、ちょっと! 何するんですか? 下ろし……」

「喋ると舌噛むぞ」

その言葉と同時に明渓のが宙に放り出された。

落ちる!!

そう覚悟したけれど、いつまで経ってもに痛みが來ない。その変わりにふわりと香の匂いがする。

顔を上げると、間近にある黒曜石のような瞳と目が合った。先程とは比べにならない近さである上に、全を青周に預けるように倒れこんでいる。

明渓は慌てて著していたを離し立ちあがろうとするも、後ろから大きな手で肩を押さえられた。

「頭ぶつけるぞ。馬車はもう走っているし、東宮にも許可はとっている。安心して拉致られておけ」

そう言うと日に焼けたから白い歯を覗かせ豪快に笑った。周りを見れば、そこは皇族が乗る馬車の中だ。

どうやら馬車の中に放り込まれ、先に乗り込んでいた青周にけ止められたらしい。それにしても、青周はいつの間に馬車に乗り込んだのだろう。空燕と話している隙に乗ったのだろうけれども、あまりの息の合い様にむしろ心してしまう。

「世の中に、安心して拉致られる事があるなんて初めて知りました」

「何ごとも経験だな」

の端に意地悪な笑みを覗かせ、隣で呟く丈夫も共犯である事に間違いない。

「強引に連れて行くと聞いていたが、これ程とは思わなかったんだ。いい加減機嫌を治せ」

馬車を降りてもなお不貞腐れている明渓に、これは流石にやりすぎたと青周は弁解を始めた。

「今更何言ってるんだ、相棒」

「だから、俺を巻き込むなっ」

そんな二人の応酬を無視して、明渓は見慣れぬ建の門を潛る。連れて來られたのは、空燕が住む虎吼(フーホウ)宮だ。

宮にった瞬間に目が輝きだす。

「空燕様、これはもしかして象の牙ではないですか!?」

り口付近に無造作に置かれた牙をキラキラした目で見つめる。

「象牙の品は見た事があるのですが、牙とはこんなに大きなでしたかぁ!! っても宜しいですか?」

「あぁ、好きにしろ!」

「あっ、あの壁に飾っている鹿に似た角がある生きはもしかして……」

「トナカイの剝製だ。頭だけだがな」

「あっ、あれは…………」

………

「メイ、悪いが見せたいのはこれじゃ無いんだ」

どれぐらいり口(そこ)に居ただろうか。苦笑いを浮かべた空燕は奧へと明渓を促した。

空燕が扉を開けた部屋にると、そこにはずらっと服と簪が並べられている。

とは言っても、朱閣宮に運ばれてきたような豪華なではない。侍の普段著やちょっとした他所行きに丁度よい程度の服だった。

「香麗妃から聞いた。お前は侍の服しか持っていないのだろう?」

青周が明渓の背を押し、裝の前に立たせる。

そう、明渓は普段著を持っていなかった。

もともとは妃嬪としてしている。

その際には、裳や簪もそれなりに持ってきたけれど、侍となった今は分不相応で付けることが憚られる。

そして、侍になってからは仕事著が數枚與えられただけだ。普段著を買いに行こうにも、街に出かける服がないという困った狀況だった。

明渓が今まで外出しなかったのは、本を読んでいた事もあるけれど、そんな事もあってのことだった。

紅花の実家に行く際には、事を説明して紅花の服を借りたのだけれども、その話が香麗妃の耳にりこの狀況に至っている。

「好きなを選べ。他の侍の目もないから遠慮や気兼ねは無用だ」

明渓は目をぱちくりしながら、得意気に微笑む青周を暫く見つめていた。

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