《【書籍化】これより良い件はございません! ~東京・広尾 イマディール不産の営業日誌~》第八話 値崩れしないマンションとは

値崩れしないマンション?

そりゃあ、もう、買うしかないよね!!

あっ、先立つものが……(泣)

まだ5月の半ばなのに、毎日のように雨が続く今日この頃。もう梅雨りしてしまうのだろうか。

雨の中を通勤で20分歩くのが嫌にならないように、可い傘とレインシューズを新調した。クリームの初夏らしい合いのレインシューズに足をれ、大きな花柄の傘を開くと、途端に雨続きで暗くなる気持ちもパッと明るくなる。

「おはようございます!」

「「おはよう」」

私がオフィスに著いたとき、先に來ていた桜木さんと尾川さんは何かの本を見ながら話していた。挨拶すると2人とも笑顔で挨拶を返し、また何かを話し始める。向かい側の席からちらりと覗くと、その本は何かのテキストのように見えた。

「お2人とも何か勉強してるんですか?」

「僕が資格を取るのに勉強してるんだ。桜木さんにわかんないところを聞いてた」

「へえ……。何の資格?」

「宅建だよ」

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「宅建?」

私は聞き返す。宅建とは正式名稱を『宅地建取引士』と言う、國家資格だ。宅地建取引を行う上で必要な知識をもつ専門家であり、宅地建取引業を営む事業所にはこの宅地建取引士を配置する義務がある。私も一応、不産屋の窓口をしていたのでそれくらいは知っていた。

「すごーい。難しいですよね?」

「例年、合格率が15パーセント位みたいだね」

川さんはそう言いながら、顔を顰めた。15パーセントってことは、100人けても15人しかからないってことだ。やっぱり難しい。

「宅地建取引士には設置義務があって、事業所の規模に応じて必要な人數がいるんだ。今は社長と板沢さん、伊東さん、俺の4人居るんだけど、これから人を増やしたり事業所が増える可能を考えると尾川にも取って貰った方がいいと思ってね。藤堂さんもどう?」

桜木さんに宅建の案を手渡されて、私はそれを読んだ。試験の容がおおまかに書かれており、不産取引に関わる法律関係が多いようだ。

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「出來る仕事の幅も広がるし、合格すれば試験にかかった通信教育のお金とかも會社が負擔してくれるよ」

「あはは…」

見るからに難しそうなそれを見て、私は乾いた笑いを洩らしたのだった。

***

バスを降りて顔を上げると、見たことがないくらいに東京タワーが大きく見えた。建ち並ぶビルの中にエッフェル塔みたいにそびえ立つ姿が私の中では定番なだけに、し見上げないと頂上が見えないこの近さは初験だ。

「藤堂さん、行くよ。こっち」

桜木さんに聲を掛けられて、私は慌ててその後を追いかけた。今日は、リノベーションを施して転売するのに適した件探しをするのに同行している。

イマディール不産ではお客様から売卻を依頼されて、高く売るためにリノベーションを施すパターンの他に、自社で高く転売できそうな件を探し出して購し、リノベーションを施してから転売することもある。

今日は後者の件探しだ。

「藤堂さん。マンションの価値は何で決まるか知ってる?」

「うーん、分譲會社とかですか?」

歩きながら桜木さんに問いかけられ、私はし考えてからそう答えた。大手の不産會社が分譲するマンションはブランド名が付いていて、知名度も高い。結果的に高く売れるのは間違いないと思った。

「確かに、隣り合わせで大手不産會社のブランドシリーズと中堅不産會社の分譲マンションが並んでいたら、前者の方が高く売れるね」と桜木さんは頷いた。

「でも、最も不産価値に効いてくるのは、なんといっても場所なんだ。『不産』って言うくらいだから、かせないからね」

「場所?」

「うん、そう。ここは東京都港區だけど、港區は日本では最も不産価値が下がりにくい場所の1つなんだ。都心地區は不景気でも一定のニーズが絶えないから不産価値が下がりにくい。同じ築年數のマンションの価格変を見ても、それは明らかだ」

桜木さんは私の顔を見ながら説明を続ける。

「ブランド力のある地域のマンションは値下がりしにくい。うーん、そうだな……例えば今いる港區、中央區、千代田區とかは『都心3區』と言って、固いね。港區、中央區、千代田區の都心3區に新宿區、渋谷區、文京區を加えた『都心6區』と言われる地域は昔から値崩れしにくいと言われているんだ。あとは、東京23區を出ても、スポット的に安定して人気な地域もある。例えば、吉祥寺駅や三鷹駅のあたりとかだよ」

桜木さんの説明によると、土地にはこれまでの取引実績の傾向から明らかに値下がりしにくい地域というものがあり、それらの地域を『ブランド力が高い地域』と呼んでいるようだ。都心6區と言うのは初めて聞いたが、今後のために覚えておこうと私は小さく復唱した。

桜木さんはさらに説明を続けた。

「あと、駅からの距離もマンションの資産価値には大きく影響する。境界は徒歩5分だね。都心地區で人気の駅から徒歩5分以マンションは大きな値崩れはしないと言い切れる。むしろ、値上がりすることもなくない」

「でも、値崩れしなくてもうちの會社はすぐに売っちゃうから意味ないですよね?」

私は首をかしげた。例えば5000萬円でマンションを買い、何年か住んでまた5000萬円で売れるのなら儲けものだけど、イマディール不産はリノベーションを施してすぐに転売しているのだ。あまりその恩恵はないようにじた。

「うーん。そうなんだけど、それは逆に言えばそれだけ市場で需要があるって事なんだ。手を出した時に、失敗するリスクが低い。資産価値がしっかりしたマンションをリノベーションして適正価格で売り出せば、売れ殘って負債になる可能は限りなく低い。うちみたいに大きくない會社では、とても大事な事だ」

真面目な顔で説明する桜木さんを見上げ、私は頷いた。イマディール不産は決して大きな不産會社ではない。マンションは取引価格も高いので、1件の売れ殘りが會社の業績に與える影響も大きいことは容易に想像できた。

「今日見に行くところ3件あるよ。築22年が2件と築21年が1件。この築年數は大事なんだ。マンションっていうのは居した瞬間に中古になる。中古は一般的に新築より安価で、築年數が経てば経つほど値が下がる。一方、大築20年を超えると値下がりが止まり、価値は橫ばいになる。それに、多くのマンションでは築20年を迎える前に大規模修繕を実施する。築20年を超えたマンションは管理制で雲泥の差が出るから、ひと目見ればだいたいどんな管理制か想像がつく。管理制がしっかりしたマンションを選ぶことも大事なんだ」

築20年──確かに、私の居したマンションも築24年だった。けれど、とても築20年以上経っているとは思えない位、手れは行き屆いている。きっと、そういうところを気にしながらあの件を選んだのだろう。

「ただ、あまり築年數が経っているとデメリットもある。例えば住宅ローン控除は築25年以下って縛りがあるし、築40年以上経つとせっかくリノベーションしても、すぐに建替えの話がでたりする。築20年過ぎが1番狙い目。まあ、億ションともなると住宅ローン控除がそもそも使えない富裕層の人達が購買層になるから、また変わってくるんだけどね。あとは、最近多いのは外國人の投資家。この人達も住宅ローン控除は関係ないことが多い」

桜木さんの説明を聞きながら、私はなるほどと頷いた。いつか私も、1人で購件の選定を手掛けることになるかもしれないから、こういう知識はしっかりと覚えておく必要がある。

「あ、築年數にはもう1つ大事な節目がある」

「もう1つ大事な節目?」

「うん。1981年に建築基準法が変わって、耐震設計の基準が変わったんだ。それ以前の設計のものは舊耐震、それ以降の設計のものは新耐震と呼ばれている。日本は地震が多いからね。耐震基準を満たしているか調べるのも手間だし、件を選ぶときは1981年以降に建ったものがいいよ」

「はい。わかりました」

私は信號で立ち止まったタイミングで鞄から手帳を取り出し、今聞いたことをしっかりとメモに殘した。

本日2話目の投稿です。

読む順番にご注意下さい。

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