《【書籍化】これより良い件はございません! ~東京・広尾 イマディール不産の営業日誌~》第十一話 白金臺散歩

おかしい。

どうして勉強し始めると、急激に眠くなるんだろう??

6月も末のある休日、私は朝から今月始まったばかりの宅建試験の通信講座に取り組んでいた。

ローテーブルに置かれたパソコン畫面のなかでは、黒縁眼鏡をかけたおじさん先生が黒板をコツコツ叩きながら授業をしている。私はローテーブルに向かって座り、テキストに先生が説明したことを時々走り書きしながら聞いていた。

しかし、けないことに1時間を過ぎた頃には私はすっかり飽きていた。大真面目に取り組んでいるつもりなのに、おかしい。不思議なことに、しっかり寢たのにすぐに眠くなる。時計を確認すると、まだ午前11時だった。

「我ながら、集中力のなさがけない……」

私はローテーブルに額をついてがっくりと項垂れた。でも、飽きてしまったものをイライラしながら勉強しても効率悪いし……

數秒の逡巡ののち、私はし早いけれどお晝ごはんにすることにした。一昨日、作った煮を小分けに冷凍したことを思い出し、冷蔵庫から取り出すとレンジでチンする。お米も冷凍していたのでチンした。

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「うん。味しい」

私は1人でローテーブルに向かい、獨りごちる。だいぶ慣れては來たけれど、やっぱりちょっと寂しい。

私の趣味は料理だった。『だった』と言うのは語弊があるかも知れない。今も好きだ。だけど、のひとり暮らしで料理をしても、どうしても材料が余る。逆に余らないように作ると食べきれず、何日も同じメニューを食べる羽目になる。黙々と食事を終えた私は「ごちそうさまでした」と両手を合わせると皿を流しに持っていった。皿洗いしながら外を見ると、今日はとてもよく晴れている。

この時期になると、梅雨も本格的だ。毎日のように雨ばかりだから、こんな爽やかな晴れは珍しい。気分転換も兼ねて、私は出かけることにした。

「どこに行こうかな……」

マンションを降りた私は辺りを見渡した。

私の住むマンションは、広尾、恵比壽、白金臺という都心の人気地區の3駅のちょうど中心辺りに位置している。3駅はどれも距離にすると、ここから1キロちょっとだ。會社が広尾にあるので広尾方面に行くことは多いけれど、他の2つの駅の方面にはほとんど行ったことがなかった。

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し迷って、私は一昔前に『シロガネーゼ』と呼ばれる高級マダムが過ごす街として名を馳せた、白金臺の方向にお散歩することにした。

白金臺駅に向かうには、マンションを出て外苑西通りを南下する必要がある。途中で道路と差する首都高速道路の高架をくぐると、大通りの両側には銀杏の並木が現れた。

ここから白金臺駅までの區間、外苑西通りは通稱『プラチナ通り』とも呼ばれる。お灑落スポットして有名だけれど、実際に私が訪れたのは初めてだった。

緩やかなカーブを描く坂道を登ると、道の両側にはぽつぽつと店舗が現れ始める。軒を連ねるのは、スーパーマーケットやアパレルショップ、チョコレートなどのスイーツショップ。それらは全て路面店なので大通りから中の様子がよく見えて、お灑落だけれどもりやすい雰囲気だ。同じ商店街になるのだろうが、道路が広いせいか、広尾商店街とはだいぶ雰囲気が違って見えた。

途中、スーツ姿やドレス姿の若い人達が歩道に溢れているのを見つけた。目をやれば、通り沿いのレストランでは結婚パーティーを行っていた。そういえば、今は6月だからジューンブライドだ。

ランチタイムに合わせてパーティーを開催したのか、ちょうど終わったばかりのようで新郎新婦が出口でミニギフトを手渡しながら來賓の方々をお見送りしている。寄り添う新郎新婦は満面に笑みを浮かべており、とても幸せそうだ。

「いいなぁ。お幸せに」

純白のウエディングドレスを著て微笑む花嫁は、幸せの象徴のように見えた。たぶん、年齢は私と同じくらい。私は小さな聲で祝辭を述べ、その場を通り過ぎる。

その後も通り沿いにはお灑落で味しそうなレストランや、可い雑貨屋さんが続き、私は時々中を覗いたりしながらのんびりと歩いた。

プラチナ通りは、終點で目黒通りにぶつかる。白金臺駅はすぐそこで、目黒通りを東に向かえば白金高駅、西に向かえば目黒駅だ。どちらも、歩いても15分位で著く距離にある。

目黒駅方面は首都高速道路越しに駅前のビルとタワーマンションが見え、白金高駅方面は途中から下り坂になっているせいで遠くまで確認できない。

どちらに向かうかし迷い、私はスマホを取り出して地図を確認した。

地図上で今いる場所のすぐ近くに『國立科學博館附屬自然教育園』『東京都庭園館』という文字をみつけ、私はそこに向かうことにした。

プラチナ通りから目黒通りを西に曲がり、歩くこと5分。目的地にはすぐに辿り著いた。地図上では同じ緑の上に2つの文字が並んでいたので勘違いしていたが、『國立科學博館附屬自然教育園』と『東京都庭園館』は全く別の施設だった。2つの施設が、隣接して存在しているのだ。

「どっちにしようかなぁ」

數十メートル離れた2つの施設のり口を往復すること數回、どちらにるか散々悩み、結局私が選んだのは『東京都庭園館』だ。付で見學したいと告げると、眼鏡をかけたが代金と引き換えにチケットくれた。

ってみると、まず目にったのはアスファルトの大きな道。それを更に進むと、白亜の西洋風建築があった。この中では特別展示をしているようだが、料金が別なので私はチケットを買わなかった。

白亜の建を右手に見つつ更に道を進むと、そこには大きな彫刻などのアート作品が並んぶ芝生の広場が広がっていた。庭園館と言うくらいなので、庭園の中も館になっているようだ。

板を確認すると、庭園館の中は西洋庭園と和風庭園の2つの區畫に別れていた。

それぞれがテーマに合わせて趣向を凝らしており、例えば和風庭園では茶室が在ったり、小さな橋があったり。途中で立ち止まり、広い池を眺めると、紅葉の枝葉が池にせり出す合が、まるで1枚の絵畫のようにしく見えた。

たまたまなのか、そこからは周囲のビルも見えず、まるで大自然の中に設えられたしい庭園にいるかのような錯覚を覚える。

日本庭園の池沿いを壯年の夫婦が仲良く散歩しているのをしばらく眺めながら、私は耳を澄ました。いつもの車の音ではなく、鳥の囀りが心地よく響く。

以前は、私の中で都心はコンクリートジャングルの印象しかなかった。けれど、実際に住んでみると思っていた以上に緑がしい場所は多い。

一通り見學を終えた私は、途中にあったスーパーマーケットに寄って夕食のおかずを買った。そして、またプラチナ通りをぷらぷらと歩き、自宅へと向かう。

やっぱり自炊すると1人暮らしには量が多すぎるけど、今日はアレンジしやすいようにミートソースを作った。ミートグラタンにミートスパゲッティ、炒めに混ぜたり、サンドウィッチにしたり。しばらくは々なアレンジ料理が楽しめそうだ。

夕食後は、またパソコンに向かって放りっぱなしの宅建の勉強をした。気分転換したおか、今度は飽きずに目標のところまで勉強を進める事が出來た。

思った以上に満足度の高いお散歩だったから、またあっちには行ってみたい。その時は、今日行けなかった自然教育園に行ってみようと思った。

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