仕事にやりがいがあると、毎日が楽しい

先日、尾川さんが擔當していて契約が決まった超高額件が無事に新しいオーナーさんに引き渡された。販売価格1億4000萬円というこの超高級マンションの新しいオーナーさんは、投資目的の外國人の方だという。

イマディール不産のお客様は、自分が住むための件を探す方がもちろん多いけれど、それと同じくらい多いのが投資目的の購の方だ。

そういう投資目的の富裕層を更にイマディール不産の購者に引き込むため、我が社も新しい取り組みの立ち上げをすることになった。桜木さんが社長に掛け合って実現と相ったそれは、ずばり、バーチャル覧だ。

バーチャル覧とは、インターネット上に畫を掲載し、まるで本當に自分で覧をしているような験が味わえるようにしたサービスのことを指す。會社によってはウェラブル機を裝著し、4Dのバーチャルリアリティ験がきるようだが、イマディール不産では流石にそこまではやらない。あくまでweb畫面上のサービスになる。

しかし、それでも室外をくまなく畫で撮影し、見たい場所を拡大したりも出來るようにはする。都件を中心に取り扱うイマディール不産なので、これにより超高額件購者を都外からの取り込む作戦だ。

通常、このバーチャル覧のための撮影のやサイト作は専用ソフトを購して自力でやる方法と、プロの業者さんにお願いする方法がある。私達は初めてと言うこともあり、プロの業者さんにお願いした。

この場合、撮影は業者さんが行うが、発注者側も撮影に立ち合う。場所毎に々なコメントをれたり、例えば、ここのクローゼットは開けた所まで撮影して下さいとか、細かい指示を行うためだ。

今日は、そのバーチャル覧のための撮影が行われるため、私は桜木さんと一緒に立ち合いにやってきた。

「こんにちは。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

マンション前で待ち合わせした大きな荷を抱える業者さんと挨拶をすると、早速マンションの中にる。あの大きな荷が撮影機材なのだろう。

業者さんはもう何ヶ所もバーチャル覧の撮影を手掛けたことがあるようで、テキパキと設営と準備を行うとあっという間に撮影を始めた。

「なんか、凄い早いですね」

「だね。お金はかかるけど、プロに頼んでよかった。これを始めから自分達でやろうと思ったら、１日がかりだ。そもそも編集できないし」

あまりの素早さに呆気にとられる私に、桜木さんはニコリと頷いた。うまく撮影出來るかとどきどきしていた私ののなどいざ知らず、イマディール不産初のバーチャル覧用の撮影は、設営から撤収までものの１時間もかからずに終わったのだった。

編集に関しては、ほぼ完全に業者さんにお任せする事ができる。しかし、細かい部分は発注者側の確認作業がる。

１週間ほどすると、まず撮影された畫が初校として業者さんから屆く。それを桜木さんと２人で確認し、ここはもっと寄りの映像を殘そうとか、ここのこの映像はいらないから別に畫像だけれようとか、ここでこんなコメントを挿しようとかを決めてゆく。

そのフィードバックをまた業者さんにメールで戻し、１週間程でそれらを反映させた第２校がくる。それを私達はまた確認して、最後は業者さんと打ち合わせしながら修正する。

そんなやり取りを経て、イマディール不産の最初のバーチャル覧映像は完したのだった。

「へえ、凄い！　こんなに細かく確認出來るんだ」

「本當だ。凄い」

完して実際にホームページにはめ込まれた映像をみて、イマディール不産の営業チームメンバーは大盛り上がりだった。

「キッチン回りは結構細かいところもれたんだ」

「はい。料理する人は見たいかなと思って」

隣の席で映像を確認していた綾乃さんに聞かれ、私はしだけ微笑んで頷いた。今回の件は85平方メートルの3LDK。購者は恐らくファミリーだ。子供のいるファミリー層なら、きっと料理をする。だから、キッチン回りをしっかり見たいはずだと思ったのだ。

「営業チームメンバーの評判は上々だけど……。新しいお客様、來てくれるといいね」

「そうですね。それなりにお金がかかったし、効果があるといいのですね」

私と桜木さんは目を合わせて小聲で囁きあった。そう、このバーチャル覧の撮影にはそれなりの費用がかかった。効果がないと、困ってしまうのだ。最悪、バーチャル覧はこの１件でお終いになる可能だってある。

＊＊＊

バーチャル覧の映像を公開し始めてから３週間ほどしたある日、お客様をご案しに行った尾川さんに「藤堂さん！」と聲を掛けられた。

「今日、例の件にお客様をご案して來たんだけど、即決で決まったよ。事前にあの映像見て、いいと思ってくれてたみたい」

「本當ですか？」

「うん。海外赴任から戻ってくるお客様で、あれがあったおかげで離れた場所でもイメージが分かって凄く助かったって言ってたよ。藤堂さんが言ってくれたおかげで、キッチン回りとか風呂回りもかなり細かく映像を載せたんでしょ？　奧さんの方が褒めてたよ。『ありがとうございました』って」

「よかったー！」

イマディール不産にって、私がお客様に褒められるのは初めての経験だった。前の會社でも、『窓口の方が親切でした』と褒められたことはあった。けれど、今回のように自分の仕事の結果出來上がった果を誰かに褒められたことは、初めてだ。まさに、社會人になってから初験なのである。

やったぁ！　と、私の中で達のようなものが生まれる。今までじたことがないような、目の前の山を登り切ったような、或いは難しい數學の問題を解ききったような、なんともいえない満足。

「やったじゃん」

後ろからポンと肩を叩かれ、斜め後ろを見上げると桜木さんがこちらを見下ろしていた。私と目が合うと、桜木さんの口の端がにんまりと持ち上がる。

「ありがとうございます！」

私もなんだかとても嬉しくなって、口の端を持ち上げた。

「今日、２人の初バーチャル覧果祝いで飲みに行こうよ」

隣に座る綾乃さんは早速飲み會の計畫を練り始めた。

「お前、飲んでばっかだな」

呆れたように桜木さんが綾乃さんを見る。綾乃さんはあっけらかんと「いいじゃん。桜木も主役の１人なんだから、行くでしょ？」と言った。

「まぁ、行くけど」

桜木さんがボソリと言うと、チームメンバーからどっと笑いが起きた。

私は今まで、仕事はお金のためにするのものだと思っていた。けれど、初めて仕事の果を誰かに褒められた験は想像以上に甘な味がした。仕事が楽しい。

──私、この會社にってよかったな。

自然にそう思えて、私は口元を綻ばせた。