《【書籍化】これより良い件はございません! ~東京・広尾 イマディール不産の営業日誌~》第二十一話 綺麗だと思われたい
をすると綺麗になるのは、彼に綺麗だと思われたくて頑張るから。
道路に面した一面だけはガラス張りの、4階建。2階の窓際には観葉植が飾られているのがガラス越しに見える。その建の1階のドアを開けると、私は元気よく挨拶をした。
「おはようございます!」
「おはよー」
「おはよう」
既に出社していた桜木さんと綾乃さんと「おはよう」と聲を掛け合った。自席に著くと、先ずはパソコンのスイッチをれる。そして、自分は給湯室へ。パソコンが完全に起するまでの時間を利用して、給湯室でコーヒーを淹れるのだ。インスタントコーヒーのをれたマグカップをポットの下に置く。ジョボジョボとお湯の注がれる音とともに、コーヒーの香りが漂った。
コーヒーのったマグカップを持って自席に戻ると、私の相棒(パソコン)は準備オッケーな狀態になっている。
私はマグカップをデスクに置き、ワークチェアに腰を掛けた。青いワークチェアは人間工學が何たらかんたらという、社長イチ押しの一品だ。
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いつものようにパソコンにIDとパスワードをれていると、橫から視線をじて私はそちらをパッと見た。綾乃さんが神妙な面持ちで、じっとこちらを見ている。
「?? どうかしました?」
「なんか……藤堂さんが最近綺麗になった気がするのよ」
「え?」
狼狽える私に、椅子に座ったままで綾乃さんはずいっと間合いを詰めた。綾乃さんのファンデーションのノリ合がしっかり見えてしまうほどの距離の近さ。
「うん、間違いないわ。綺麗になった。前より垢抜けたと言うか……ねえ、桜木もそう思うでしょ?」
綾乃さんは自分の正面に座る桜木さんに話を振った。
突然綾乃さんから話を振られた桜木さんは、パソコンから顔を上げて困した表を浮かべている。それでも、次の瞬間には話題になった私の顔を見た。黒目の大きな切れ長の瞳がこちらを見つめる。桜木さんにまっすぐに見られて、私は顔が急激に赤くなるのをじた。
いつも見つめられたいとは思っているけど、これは何かが違う。曬し者にされたような恥ずかしさをじる。
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「うーん、……そう…かな? 元々綺麗だと思うけど?」
「はぁ? あんたの目、節? 元々綺麗が益々綺麗になったの! 不産にしか審眼が働かないの??」
「え…?」
「あ、綾乃さんっ!」
綾乃さんが眉を寄せて桜木さんに文句を言う。私はそれを慌てて止めた。いや、もう居たたまれないからやめてくれ。
正直言うと、私の顔を見たまま眉を寄せた桜木さんを見て、嬉しさ半分、落膽半分だ。
『元々綺麗』と言われてお世辭でもめちゃくちゃ嬉しい。でも、ここは噓でも『益々綺麗になった』と言ってしかった。
そんな私の心のなど知るよしもなく、桜木さんはじっとこちらを眺め、ますます目を細めた。私は自分のまわりに視線を走らせ、咄嗟にデスクの脇に置いてあったファイルで自分の顔を桜木さんからパッと隠した。
「あ、ほら。審眼の無い先輩だから嫌われたー」
綾乃さんがからかうように桜木さんに言う。
デスク越しに凄い視線をじる。品を鑑賞すると言うよりは、珍獣を観察するような視線。私は耳にかけていた橫の髪のをおろすと、いつもより顔が隠れるようにコソッと直したのだった。
実は、綾乃さんの指摘通り、最近々と頑張っている。
朝の髪ののセットも念りにしているし、雑誌のメイク特集を見ながら自分なりにメイクの練習したり、つい先日は生まれて初めてまつげエクステをしてみたりもした。
何ものアイシャドーを重ねると、目元がいつもより大きく見えた。ピンクのチークをのせると、表がパッと明るく見えた。化粧品コーナーの容部員さんと選んだローズレッドのリップグロスはプルンとを艶やかに彩った。エクステで付けたお人形のように長いまつげがクルンと上を向いて、気分も上がる。
なぜって?
そりゃあ、好きな人にしでも可いと思われたいというのが乙心でしょう?
綾乃さんが気づいてくれたのだから、しは効果があったのだと思う。けれど、肝心の私の好きな人は、さっきから私が以前に比べて綺麗になったかどうかさっぱり分からないといった様子で眉を寄せている。
うーむ、まだまだ努力が足りないようだ。
「ねえ、藤堂さん。27歳ってね、の人が1番綺麗な時期なんだって」
髪で顔を隠して俯き加減でメールチェックをする私に、綾乃さんがコソッと話しかけてきた。私は綾乃さんを見て首をかしげた。
「そうなんですか? 初めて聞きました」
「昔、一緒に働いてた先輩に言われたの。外面のしさと、面のしさが1番バランスよく磨かれるんだって」
うふふっと綾乃さんは楽しそうに笑う。確かに、20代も終わりに近付いてくると、學生の頃よりは落ち著いたと思う。
「じゃあ、この後は下降傾向?」
「ちがーう! 何言ってんの! 外見の加齢はともかく、面のしさは何歳まででもしくなるんだよ。若いときにはなかった心の長みたいな? ほら、優さんとかで歳取っても落ち著いたしさがある人って多いでしょ?? 何歳だって、年相応のしさがあるんだよ」
悪い方に捉えた私をみて、綾乃さんは頬を膨らませた。
「とにかく、私は藤堂さんは綺麗になった気がするってことを言いたかったの!」
それだけ言うと、綾乃さんは自分のパソコンをカタカタと作し始めた。
『年相応のしさ』と聞いて、すぐに私の脳裏には先日ご約頂いた水谷様の顔が浮かんだ。凜とした佇まいと、ピンとびた背筋、落ち著いた口調。きっと、彼のあのしさは、彼自の努力と経験に裏打ちされた自信から來ている。
私は隣の席の綾乃さんを見た。綾乃さんも、とても綺麗な人だ。見た目が綺麗なのは勿論だけど、親切で優しいし、常に自分の考えを持っている。
私も次の誕生日が來たら28歳になる。上っ面の見た目だけでなく、中も磨かないとならないようだ。
でも、中ってどうやったら磨かれるのだろう? 読書? 勉強? マナー講座??
「私も綾乃さんみたいに綺麗になれるように頑張ります」
私もコソッと綾乃さんにそう伝えると、綾乃さんは目をぱちくりとしてから、照れくさそうに笑った。
「ありがと。藤堂さん、好きな人でも出來たの?」
「え? いないですよ」
私は両手を目の前でブンブンと振った。綾乃さんの質問を、咄嗟に否定してしまった。
好きな人はあなたの目の前にいる。まさに真正面の席だ。だけど、ここで『実は……』とぶっちゃけカミングアウト出來るほど、私は神経図太くない。
「そうなの? なんだ。綺麗になったから、好きな人でも出來たのかと思った」
綾乃さんは屈託なく笑う。さすが、だけに同のことに対して鋭い。
パッと視線を移させると、デスク越しにじーっとこちらを見つめる桜木さんとバチッと目が合った。
「ほら、もうすぐ宅建試験があるじゃないですか。だから、それどころじゃないです」
私はあははっと笑い、頭の後ろに片手をあてながらそう言った。
「ああ、そっか。來月下旬だっけ? 頑張ってね」
桜木さんは思い出したようにそう言い、ニコッと笑った。
桜木さんの笑顔、格好いいなぁとかに心の中で悶絶。初めて會ったときはちょっと格好いい人程度の印象しかなかったのに、今やめちゃくちゃ格好よく見えるのはのせる技か。
ああ、神様、ありがとう。今日も頑張れる気がするわ。
しかしながら、桜木さんのご指摘通り、宅建試験まではあと1カ月を切っている。あとし、ラストスパートをかけて私は勉強しなければならない。に現を抜かしてる場合ではないのだ。
「はい。勉強頑張ります」
私は元気に笑顔で返事する。
──それに、あなたにしは綺麗になったと気付いてもらえるように、頑張ります。
心の中でこっそり呟いた。
の『○歳が1番綺麗』は々と主張があるみたいですね。私がネットで見た限りでは20歳代後半が主流に見えたので、ここでは雪の年齢に合わせて27歳にしてます。
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