《【書籍化】これより良い件はございません! ~東京・広尾 イマディール不産の営業日誌~》第二十二話 目黒通りとさんま祭り

目黒と言えば、さんまだよ。

脂がのって、味しいよ!

朝起きて窓を開けるとしだけひんやりした風が頬をでる。ついこの前まで日中の気溫が3日連続35℃超えが、とか、どこぞで過去最高気溫を更新したとか言ってたのに、いつの間にか秋の足音は著実に近づいて來ていた。私はしばらく窓を開け放って空気のれ替えをすると、パタンと窓を閉めた。

「夏も終わりかー」

ベランダを眺めたまま獨り言ちた。干し竿にぶら下げた雑巾がゆらゆらと風に揺れている。ここに住み始めたときはまだ春だったのに、時が経つのは早いものだ。

ぼんやりしているとスマホがピピッと鳴る音が聞こえ、慌ててアラームを止めた。時刻は『AM 7:00』を示している。

「やばっ、遅れちゃう!」

大急ぎで顔を洗い、パジャマ姿から私服に著替えた。

今日は日曜日。いつもなら9時近くまでのんびりと寢ているけれど、今日はそういうわけにはいかない。何故なら、今日はお出かけする予定なのだから。その行き先は『目黒のさんま祭り』だ。

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実は、目黒駅は私の住む場所からさほど遠くない。距離で言うと2キロ位。自転車なら10分でいけるし、頑張れば歩ける距離なのだ。

先日テレビの夕方のローカルニュースでその存在を知り、行かなかったことを悔やんでいたら、前に座る尾川さんが目黒のさんま祭りは2回行われることを教えてくれた。1回は目黒駅前の周辺で行われる、私がテレビで見たものだ。もう1回は目黒川沿いにある、目黒區の區民施設で行われるらしい。

この2つは全く別の獨立したお祭りのようだが、どちらも無料でさんまの配布が行われる。そして今回のものは區の施設で行われるが、區民以外も參加可能と聞き、參加することにした。

だって、気仙沼産のさんまの炭火焼きだよ?

無料だよ?

絶対に味しいに決まってる!

それに、さんまに多く含まれるDHAなるものは記憶力向上効果があるらしいから、宅建の勉強をする今の私にはぴったり!

なんて、後付けの言い訳も思いついた。

事前にホームページで10時過ぎから5000匹のさんまが配布されることを把握していた私は、9時過ぎには家を出発し、5分前の10時ちょうどには到著した。しかし、そこで言われたのは思いがけない言葉だった。

「おねーちゃん、悪いね。もう配布數量終わっちゃったんだよ」

ねじりはちまきをした日焼けしたおじさんの言葉に、私は目が點になった。

「配布って、10時からですよね?」

「そうだよ。電車の始発で來て待ってる人も多いからねー」

「そうですか……」

なんと言うことだ。要するに、私は出遅れたらしい。目の前には広場で炭火焼きの準備をする人達。なんてこったい。今からここで5000匹のさんまが味しく焼かれるというのに、お預けとは!!

項垂れる私に、ねじりはちまきのおじさんが申し訳無さそうに眉じりを下げた。

「あっちの建の裏で屋臺やイベントもやってるから、よかったら見て行ってよ。楽しめると思うよ」

「はぁ……ありがとうございます」

いや、もう燃え盡きた。

朝っぱらから燃え盡きたよ。

休日の朝早くに起きて、やる気満々でさんまを食しにてくてくと歩いて來たのに……まさかのお預け狀態とは!!

しかし、ねじりはちまきのおじちゃんに罪は無い。私はおじさんにお禮を言うと、教えられたイベント會場に向かう事にした。

この區民施設はちょうど、目黒川を挾むように位置しているようだ。さんまの配布場からイベント會場に向かう途中に橋があり、橋の下は目黒川だった。

東京都世田谷區、目黒區、品川區を流れるこの川は、川底も川岸も全てコンクリート壁で覆われ、水も殆ど流れていなかった。崖のように垂直な川岸は、5メートル以上はありそうに見え、川に人がることを理的に拒絶している。

目黒川と言えば都有數の桜の名所だ。てっきり私はせせらぎの音がする川の岸辺に桜並木があるのだと思っていた。

広尾のイマディール不産の近くを流れる渋谷川を広くしたような川の構造は、イメージとだいぶ違う。けれど、真っ直ぐな川の切り立つ人工壁の上には遙か遠くまで桜並木が続いていた。きっと、春にはこの川面をピンクに染め上げるのだろう。

屋臺では各地の産品や、ちょっとした食べが売られていた。ステージでは子ども達がフラダンスを披している。首に花をかけて、満面に笑みを浮かべて。見ていたらハワイに行きたくなった。ハワイに行ったことなんて、1度も無いけど。

時計を見ると、まだ10時半だ。そこで、私は前々から行きたいと思っていた場所を見に行く事にした。それは、目黒駅から目黒川を差するように通っている目黒通りという幹線道路。

実は、目黒通りの目黒駅から自由が丘の方向に進むエリアは家屋さんが集中しており、通稱『インテリア通り』と呼ばれている。

リノベーション件を売り出すときは家付きで売ることも多々ある。そこで気付いたのだが、家1つで部屋の印象はだいぶ変わる。アットホームな雰囲気だったり、クールな雰囲気だったり。そんなこんなで、最近オシャレなインテリアに興味津々の私は、インテリア通りをウインドウショッピングすることにした。

インテリア通りでは、片側2車線の道路の両側にインテリアショップが點在している。通常の家屋から、北歐風などのコンセプトを決めて家を集めているお店、アンティーク調など様々だ。各店ともにオーナーさんのセンスがっており、見ていて全く飽きない。こんな家を揃えたいなぁ、なんて、想像が膨らんだ。

最後にったお店は、照明専門のお店だった。店の中にあるのは暖系を中心とした照明の數々。シャンデリア風や、ランタン風、花などを模した変わり種まで揃っていた。

そこでシェードに絵が描かれており、電気を燈すと影絵になるミニスタンドライトを見つけ、私は目を奪われた。シェードの厚さを変えることで、過する量を調整して絵を浮き上がらせるのだ。

「そちらの商品は今、その1點のみになっています。可らしいですよね」

店員さんが気さくに話しかけてきた。値札をみると、『¥6,000』と書いてある。確かに可らしいけど、どうしようかな。私が迷っていると、店員さんが奧に行き、また戻ってきた。

「今ならこちらのLEDもお付けしますよ」

「買います!」

我ながらチョロい客である。でも、凄く気にったので後悔はなかった。

帰り際はスーパーに寄って夕食の買いをした。何を買ったか。それはもちろん、生さんまにかぼす、おろし用の大だ。

家に帰り、試しにカーテンをしめて買ったばかりのランプに燈りを燈すと、部屋の壁にはぼんやりとヨーロッパ風の街並みが浮かび上がった。空には妖(?)が飛んでいる。

「可いなぁ」

思わず獨り言を言ってしまうほどの可らしさ。普段使いにはやや暗すぎるけど、可らしさには文句なし。今日は寢る前に、このランプを燈してアロマでも焚こうかな。

でも、その前に。午後はしっかりと勉強して、夕食は自宅でビール片手にさんまパーティーをしよう。

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