《【書籍化】俺は冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター~無駄な人材を適材適所に追放してるだけなのに、なぜかめちゃくちゃ謝されている件「なに?今更ギルドに戻ってきたいだと?まだ早い、君はそこで頑張れるはずだ」》08.悪徳ギルドマスター、勇者パーティと模擬戦する
俺とユイは、ギルド所有の訓練場へとやってきていた。
ギルド會館の裏手に有り、暴れても問題ない作りと広さの、闘技場のような作りとなっている。
「うむ! アクトさん、何をするのだ?」
訓練場には勇者ローレンス、そしてパーティメンバーのウルガーがいる。
あの後すぐに捕まったらしい。
勇者たちが王都へ帰る前に、俺が呼び止めたのだ。
「ローレンス、おまえがどれだけ強くなったのか、手合わせして見たくなってな」
「そういうことか! 了解だ!」
するとウルガーが小ばかにした風に言う。
「ばっかじゃないの? ギルマス、あんたは非戦闘員だろ? 勇者ローレンスはボク以上の戦闘力を持つ。あんたじゃ死んじまうよ」
「そうか、ならローレンスも大したことないな」
「なっ!?」
勇者は目を丸くするが、「……そういうことか」とうなずき笑う。
「な、なにを言ってるんだね! ローレンスは強い! それは訓練で何度も手合わせしたボクがよーく知ってる!」
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「ローレンスは元々弱かった。その彼に負けてるだと? おまえの強さも大したことないな、ウルガー」
自尊心の強い彼は、顔を真っ赤にして、肩を震わせる。
「……調子に乗るな! おいギルマス! 一対一でボクと勝負しろ!」
「なっ!? なにを言ってるんですか! アクト様は戦闘員ではないんですよ!」
ユイが青い顔をしてぶ。
「良いだろう、手合わせしてやる」
「アクト様!?」
俺は羽織っていた外套をいで、ユイに渡す。
「後悔させてあげるよ、この槍の名手ウルガー様をコケにしたことを!」
ウルガーの得は長槍だ。
一方で、俺は素手で相対する。
「おやめくださいアクト様! ケガしてしまいます!」
「お嬢さん、それは大丈夫だぞ!」
勇者ローレンスが、ユイの肩をたたいて言う。
「でもウルガーさんは強いんですよね?」
「そうだな、なかなかの腕だ! アクトさんの教育により、Sランク冒険者以上の実力を持つな!」
「え、Sランク!? 最高位じゃないですか! アクトさん! やめてぇ!」
俺たちはユイから離れ、訓練場の中央にて相対する。
「いつでもかかってこい」
「はん! ほえ面かかせてやるよぉお!」
ウルガーは槍を構えて、俺に突進してきた。
「せやぁあああああああああ!」
彼の槍の一撃を、俺は半をひねってかわす。
「なっ!? なにぃ!?」
俺はウルガーの足を払う。
彼はそのまま、地面にダイブする。
「ふぎゃっ!」
「す、すごい……アクト様、あんな速い一撃を避けるなんて……」
ユイが俺を見て目を丸くしている。
「さすがアクトさんの時王の眼だな!」
時の流れすらも読み取れるS級鑑定眼。
常人を凌駕する視力を備えている。
ウルガーの攻撃を見切り、固有時間加速を使って、やつの攻撃をかわしているのだ。
「どうした? この程度か」
「くそぉお! このぉおお!」
接近し、連続で槍をついてくる。
「すごい、速すぎて同時に槍が100本あるように見えます。なのに全部を回避してるなんて! アクトさんすごすぎます!」
攻撃が見えている以上、加速を使えば全部回避することなんて簡単だ。
「この! このっ! なんでだっ! なんで當たらない!? くそぉ!」
焦ってきたのか攻撃が雑になってきた。
やがて、ウルガーは立ち止まって、肩で息をする。
「やれやれ、この程度で勇者パーティか。レベルが下がったもんだな」
「ぐ……! ふざ、けんな!」
闘志をむき出しにして、ウルガーが俺をにらみつける。
「戦闘員でもない俺に手も足も出ない。それがお前の限界だ。の程を知れ」
「違う! ボクは、こんなものじゃない! ボクは、最強の槍使いなんだぁ!」
ゴォオ……! とウルガーのから、莫大な量の魔力が噴き出る。
天與の原石にいたときの、何倍もの魔力量だ。
「なっ、なんだ……ボクがこんな膨大な魔力をめていたなんて……まあいい! これなら勝てる!」
ウルガーは槍を構え、魔力を穂先に一點集中させる。
「食らえええええ!!!!!」
地面を穿ちながら、超高速でウルガーが突進してくる。
「良い一撃だ」
俺は加速し、飛び上がってやつの攻撃を回避。
ウルガーはそのまま壁に激突し、その場に崩れ落ちる。
「くそ、くそぉ~……」
大の字になって倒れるウルガーに、俺は近づき、見下ろして言う。
「勇者パーティにったと聞いて、どれだけ長したかと楽しみだったんだが、々期待外れだったな。昔の悪い癖が全部出ていたぞ」
「ちくしょぉ……」
非戦闘員(おれ)に負けたことが悔しいのか、ウルガーは歯噛みし、何度も地面を拳でたたく。
「こんな奴にいいように言われるなんて! くそ! くそぉ!」
俺はきびすを返し、彼のもとを去る。
「ま、まちたまえよ! もう一度勝負だ!」
「何度やっても無駄だ。今のお前では、たとえ1000回挑んでも、俺には勝てない。無様な姿をさらし続けるだけだ」
「~~~~~~!」
勇者の元へ行き、肩をたたく。
「後は任せる」
「心得た!」
ローレンスはウルガーのもとへ行き、しゃがみこんで言う。
「ナイスファイトだったぞウルガー! 特に最後の一撃はよかった! きちんと練習の果がでていたじゃないか!」
「ローレンスさん……」
「この調子なら、すぐアクトさんを超えられるようになる! おれと一緒に訓練を頑張ろうじゃないか!」
ウルガーはグスッと鼻をすすると、力強く言う。
「今に見てなよギルマスぅ! ボクはもっと強くなって、あんたをぎゃふんと言わせてやるからなぁ!」
★
後日、俺(ギルマス)の部屋にて。
「アクト様! 今朝の朝刊見ました? 勇者パーティが四天王の一人を倒したみたいですね!」
ユイが新聞を持って、俺の元へやってきた。
「記事には『新メンバーの槍使いウルガーの活躍も目覚ましく、とどめの一撃を四天王の心臓に突き刺したのも彼だ』ですって!」
俺は書類仕事をしながら、ユイの話を聞く。
「この間の模擬戦は、ウルガーさんにやる気を出させるため、わざとあんな煽るみたいなことをしたんですよねっ」
「考えすぎだ。ユイ、コーヒーを頼む」
ユイはコーヒーを淹れて、俺の元へカップを置く。
「さすがアクト様、ウルガーさんが真の勇者パーティのメンバーとしてやっていけるように、わざとあんな悪役を演じたんですね!」
「バカ言え。俺は単に勇者の今の力量を知りたかっただけだ。突っかかってきたのはウルガーの方で、それを払いのけた以上の他意はない」
ユイはニコニコと笑みを深めながら俺を見ていた。
「なんだ?」
「やっぱりアクト様は、世界最高のギルドマスターです! わたしアクト様みたいな良いギルマスになれるよう、一生懸命、勉強させていただきます!」
まだ俺を見本にする気なのか。
まあ反面教師という言葉もあるくらいだしな。
俺を悪い例として覚えてもらい、彼には最良のギルマスに長してもらおう。
「ユイ。しっかり俺の背中を見ておくんだぞ」
「はい!」
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