《【書籍化】俺は冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター~無駄な人材を適材適所に追放してるだけなのに、なぜかめちゃくちゃ謝されている件「なに?今更ギルドに戻ってきたいだと?まだ早い、君はそこで頑張れるはずだ」》24.追放ヒーラーと愚かな勇者【バルカン②】
ルーナ追放から幾日かの時が流れて、現在。
「……ハッ! お、おれは……いったい……」
勇者バルカンは起き上がり、周囲を見渡す。
一面の砂漠で、倒れていた。
「バルカン! 良かった起きたのね!」
隣には聖メアリーが座っており、彼の無事を喜ぶ。
「メアリー……? おれは……いったい……?」
『ゴギャァアアアアアアアアアン!!!』
びりびりと空気を震わせるほどの大きな鳴き聲。
振り返るとそこには、見上げるほどの巨大な地竜がいた。
「地巖竜(ベヒーモス)……っ! そうだ! 思い出した!」
現在、勇者バルカン達は、國からの依頼で、古竜の一種【地巖竜(ベヒーモス)】討伐へとやってきたのだ。
砂漠の國フォティアトゥーヤァまで足を運んだバルカン一行は、戦闘を開始。
しかし、地巖竜の強烈な一撃をもろにうけて、バルカンは気絶していたのだ。
「バルカンさん! お願いします! もうぼくたちじゃもちません!」
傷だらけになりながら、パーティメンバー達が地巖竜と相対する。
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彼らは攻撃をしていない、防もしていない、ただ、逃げているだけだ。
こちらの攻撃は通らず、むこうの攻撃を防ぐこともできずにいる。
さもありなん、ルーナの補助によって支えられていた勇者パーティは、彼を失い、大幅に弱化しているのだから。
「…………」
バルカンは、気を失う前のことを思い出す。
自分が自信満々に放った、強力な斬撃を、地巖竜は容易く防いだ。
……気づけば、バルカンの足は震えていた。
「ちょっとバルカン! 何ボサッとしてるのよ! さっさとあんなの倒しちゃってよ!」
「え……? あ……あぁ! やってやらぁ!」
ダッ……! とバルカンは剣を持って走り出す。
だが砂に足を取られて、まともに走れたものではない。
「くそっ! 死ね! 死ねやぁあああああああああああ!」
地巖竜の、まるで巨木のような足に向かって、剣を振る。
パキーン……! と乾いた音とともに、剣が半ばで折れてしまった。
「ふぇ……? なん、で……折れるんだよ……なんでだよぉお!」
それはルーナの質化の補助がないからだ、とは誰も気づかない。
『ゴギャァアアアアアアアアアアス!』
地巖竜は口を開くと、空気の塊を発する。
「地巖竜の【螺旋弾】! 空間を削り取るほどの強烈な風の弾よ! 避けて!」
だがバルカンの脇腹を弾がかすめる。
「い、ぎゃぁああああああ! いでぇええええええええええ! いでぇよぉおおおおおおおおおおお!」
「「「バルカンさん!」」」
パーティメンバーたちが、バルカンを引きずって、離させる。
「メアリー……早く、治癒をしろぉ~……治せよぉ~……」
「む、無茶言わないで……! さっき瀕死の傷を治したばっかり! そんな何回も大きな治癒は行えないわよ……!」
「ざっけんなぁ! ルーナなら治癒を連続で使えたぞぉ……! いでぇ……治せよさっさと!」
「だから無理なんだって! 治癒には神力を大きく使うんだから!」
ルーナは抜群の魔力制者(マナ・コントローラー)でもあった。
ない負擔で、最大威力の治癒を行えた。
確かに回復させる力は、聖の方が上かも知れない。
だが彼は神への負擔を考え、威力を制するような用なマネはできない。
さらに、頼まれたらホイホイと治癒してしまう。
一方でルーナは、治癒の必要がない淺いケガだと判斷した場合は、無駄な治癒は行わなかった。
治癒効果の威力の點において、聖には劣るものの、それ以外全てで、ルーナは勝っていたのだ。
……だが、ルーナの影の努力や工夫に、勇者達は愚かにも気づかなかった、否、気づこうとすらしなかったのだ。
「この間抜けぇ! 無能! さっさと治せバカぁ!」
「ば、バカって何よ! 勇者のくせにあっさり倒れてみっともない! さっさとあんなの倒しちゃいなさいよ!」
「ざっけんな! それができたら苦労しねえよ!」
ふたりが醜く言い爭いをする一方で、地巖竜がこちらに狙いをつけた。
「バルカンさん! 逃げて!」
地巖竜は前足を振り上げて、ふたりを押しつぶそうとする。
メアリーは腰が抜けてけず、バルカンは負傷していた。
「「ひえぇえええええええええええ!」」
二人がけない聲を上げた……そのときだった。
ザシュッ……! と音を立てて、地巖竜の足が、消し飛んだのだ。
「大丈夫ですの、あなたたち?」
真っ赤な髪をなびかせながら、軽鎧にを包んだが優雅に著地する。
「あ、あなたは! 【鮮のロザリア】さん!」
「【天與の原石】ナンバーワン、ロザリア・パーティが助けに來てくれたぞ!」
勇者パーティのメンバー達が歓聲を上げる。
ロザリアを始めとした、パーティメンバー達がそろい、戦闘態勢を取る。
なかには妖のミザリィ……そして……。
「なっ!? る、ルーナ!? どうしててめえがここに!?」
なんとルーナはロザリアのパーティにって活していたのだ。
「【煉獄業火球(ノヴァ・ストライク)】!」
ミザリィが極大魔法を放つ。
「ば、ばーか! いいか良く聞け! 地巖竜は魔法を無効化する外皮をもってるんだよ! そんなの食らうわけが……」
『グギャァアアアアアアア!』
妖の放った魔法は、地巖竜の外皮をぶち破る。
「なんだとぉおおおお!?」
地巖竜がズシャリ、と崩れ落ちる。
「さすがねルーナ! 【弱化(デバフ)スキル】、ドンピシャ!」
ルーナの使った補助スキルのおかげで、相手の外皮の魔法無効化スキルを打ち消していたのだ。
倒れたタイミングで、【捕縛(バインド)スキル】を、ルーナが発。
けないところに、ロザリアたちがいっせいに総攻撃を開始する。
「……圧倒的じゃないか」「……あいつら、勇者パーティでもないのに、古竜を圧倒してる」「……す、すげええ……」
パーティメンバー達が目を剝いている。
バルカンもまた、彼たちの凄さを痛する一方で、悔しい思いをしていた。
ややあって、ロザリアたちは地巖竜を討伐した。
「ありがとう、ルーナさん。貴のおかげで倒せましたわ」
ロザリアはルーナのもとへ行く。
「ほんと! ルーナさんナイスアシストぉ!」
「いえ、皆さんのおかげです。それに、補助の腕を磨いてくれた、アクトさんのおかげですよ」
「「「確かに、さすがギルマス!」」」
地巖竜を容易く倒して見せた……ロザリアパーティに、激しい嫉妬を向ける。
「お、おい! てめえら! なにおれらの獲を橫取りしてるんだよぉ!」
バルカンがわめき散らす。
リーダーのロザリアは、近づいてきて、頭を下げる。
「危機だと判斷し、助太刀にまいりました。ルーナ、彼に治癒を」
彼はバルカンに手をばす。
一瞬で、大けがを治療して見せた。
「んなっ!? なんだよその威力! 桁外れじゃねえか!」
治癒の威力にバルカン、そして聖も驚く。
「て、てめえ! こんなすげえ力隠し持っていたのか!?」
「別に隠してないし。アクトさんに、育ててもらったから、できるようになっただけ」
補助魔法で治癒の威力を底上げできると、アクトが練習に付き合ってくれたおかげで、自分の中の可能に気づけたのだ。
「救護の馬車を呼びましたので、それに乗ってお帰りくださいまし。我々はこれで」
ロザリアは一禮すると、仲間を連れて去ろうとする。
「お、おい! ルーナ! 待てよ!」
ちら、とこちらを彼が一瞥する。
だが彼を無視して、去って行った。
そのときバルカンは、自分の手から離れていった魚が、思ったよりも大きかったことに……ようやく気づいたのだった。
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