《【書籍化】俺は冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター~無駄な人材を適材適所に追放してるだけなのに、なぜかめちゃくちゃ謝されている件「なに?今更ギルドに戻ってきたいだと?まだ早い、君はそこで頑張れるはずだ」》35.悪徳ギルドマスター、悪行の限りを盡くす③

その日の午後、俺はユイとともに町長の元へ行って、ギルドへと帰ってきた。

ギルド會館の裏手に馬車を止めてもらい、ろうとしたその時だ。

「あれ? みなさん何してるんでしょうか?」

數人のギルメンたちが、しゃがみこんで何かを囲んでいる。

「あ、ギルマス!」

「裏口で何をしている貴様ら?」

「実はこの子を見つけまして」

ギルメンたちが指さす先に、小汚い貓がいて、隅っこで震えていた。

「わぁ! 可い貓ちゃん!」

ユイが目を輝かせて、貓を抱き上げる。

黒い貓だが、四肢が靴下をはいているように白かった。

「うちにつれて帰りたいのはやまやまなんですが、宿屋でして……」

「おれ獨りですし面倒見れなくて……」

ちらちら、とギルメンたちが俺を見てくる。

「なんだ、その目は?」

「いや、腹空かせてそうで、可そうだなーって」

「寒くて震えててかわいそうだなーと」

ユイは意を決したようにうなずく。

「わ、わたし、この子連れて行きます!」

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俺はユイから、子貓を取り上げる。

「バカ言え。おまえ、孤児院住まいだろ。貓なんて飼う余裕があるのか?」

「う……それは……」

「こいつは俺が処分しておく。ユイ、後処理は任せるぞ」

「あ……アクト様……」

しゅん、とユイが肩を落とす。

一方でギルメンたちがポンポン、と彼の頭をなでる。

「だいじょぶ、だいじょぶ」「ユイちゃん心配ないよ」

「どういう……?」

翌日。

俺が部屋で仕事をしていると、ユイがさっきから、チラチラと俺の様子をうかがってきた。

「なんだ、朝からチラチラと」

「いえ……あのぉ……昨日の黒貓ちゃんはどうしたのかなぁと」

「ああ、あの貓か。ちゃんと処理しておいたぞ」

「しょ、処理……? ま、まさか……殺……」

「まず熱いお湯にいれてやった」

「え?」

「次に貓の口に無理やりミルクをつっこんでやった」

「え、えっと……お風呂にれて餌まであげたってことですか?」

「勘違いするな。腹が減ったとやかましかったから、黙らせただけだ」

するとなぜかユイは表を明るくさせる。

そこへ、昨日のギルメンたちが、部屋へやったきた。

「ギルマスー! 貓ちゃんみせてくださいよー!」

「またか。きちんと自分たちの仕事をしたんだろうな?」

「ばっちりっすよ!」

ギルメンたちは俺の執務機へと近づいてくる。

「ユイちゃんもみたいでしょ?」

「え? いったい何を……?」

俺の足元に、箱が置いてある。

布と、暖を取るための水晶(魔道)に挾まれて、貓がすやすやと寢息を立てている。

「昨日の貓ちゃん!」

しゃがみこんで、ユイが子貓の頭をなでる。

「でも、処分したんじゃ?」

「俺が飼うことにした」

「ほんとですかっ! ありがとうアクト様!」

「勘違いするな。あのまま貓を捨てたら、貴様やギルメンたちの士気を下げることになったからな」

貓を飼うくらいの金銭的な余裕はあるしな。

「なんだかんだ言って、弱ってるも見捨てられないんだもんな」

「さすがおれたちのギルマス、人にもにもやさしいぜ」

ギルメンたちが貓の頭をよしよしなでながら言う。

「そーいやユイちゃん、ギルマスんちって行った事ある?」

「? いえ、ないですけど?」

「じゃ今度行ってみるといいよ。すげえから」

俺はため息をついて、しっしっと手を払う。

「貴様ら仕事に戻れ。貓の面倒を見るのは俺の仕事だ」

「「へーい」」

ギルメンたちが部屋から出て行く。

俺は時計を見て時間を確認すると、魔法瓶からホットミルクを取り出す。

脂綿にミルクをしみこませて、子貓の口に近づける。

「ごはんですね」

「ああ。このくらいの貓は定期的にミルクをやらないと水で死ぬからな」

「詳しいんですね」

ニコニコしながら、ユイが俺を見る。

「なんだ?」

「いえ、手慣れてるなと思いまして」

「まあな」

「今日、アクト様のお屋敷に行ってもいいですか?」

「好きにしろ」

その日の仕事を終えて、俺はユイとともに屋敷へと戻る。

庭にある別邸にて。

「わぁ! もふもふがいっぱーい!」

多くの犬や貓たちが、俺たちめがけて走って來る。

犬も貓も、俺にをこすりつけたり、舌でなめてきた。

「おや、マスター、お帰りなさいまし」

「何をしているフレデリカ。貴様今日は非番だろうが」

「この子たちと戯れておりました」

俺はたちの餌を用意しに行く。

そのあとを、彼らがドドドとついてくる。

「フレデリカさま、あのわんわんたちは?」

待や捨てられていたたちを、マスターは保護し、飼っているのです」

「な、なるほど……だから手慣れていたのですね」

「ちなみにマスターの手によって立派に長したたちは、新しい里親に譲渡しているのです。結構好評で、國外からもマスターのしいと問い合わせてくるほどなんですよ」

俺はたちの狀態を鑑定眼でたしかめて、適切な量の餌を與える。

「アクトさまはとてもお優しい素晴らしい方ですね!」

「ええ、この世の誰よりも慈悲深い素敵な殿方だと思っております」

餌をやり終えたあと、俺は彼たちの元へ向かう。

「勘違いするな。別に慈善事業でやっているわけじゃない」

「どういうことです?」

「マスターは保護たちを使った喫茶店も経営しているんです。聞いたことありませんか? 貓カフェ」

「! 知ってます知ってます! 最近若い子たちにとーっても人気のあるやつですよね! 貓ちゃんと一緒にお茶が飲めるっていう……ま、まさかアクト様が経営なさっているんですか!?」

「そのとおり。全國規模で支店がある貓カフェをはじめとし、の譲渡を兼ねた様々な事業を展開しているのです」

フレデリカが自分のことのように、を張って言う。

「す、すごい……アクト様、冒険者ギルドのギルドマスターだけじゃなくて、経営者としても一流なんですね!」

あくまでも取扱事業は、々やっている事業の一つではあるが、なかなかリターンのあるおいしい仕事である。

競合相手は今のところゼロだし、若者からお年寄りまで、幅広い層が利用している。

を使った金もうけはなかなかに実りが良い。

「あの、この子貓も誰かに譲渡するんですか?」

「無論だ」

「……そう、ですよね。大事にしてくれる、ちゃんとした人にわたったほうが幸せですもんね」

ユイが寂しそうに子貓の頭をなでる。

「ユイ、その貓を飼う意思はあるか?」

「あります! けど……今は孤児院住まいなので……」

「あと數年すれば貴様も社會人となり、孤児院を出るだろう。そのときまで、うちで保護していてもいい」

「! ほ、ほんとですか!?」

「ああ。ただし、仕事終わりには必ず、この貓の面倒を見にここへ來ることが條件だ。できるか?」

「できます! やった! 貓ちゃんねこちゃーん!」

ユイが嬉しそうに、黒貓を抱きしめる。

「ありがとうアクト様!」

「良かったのですか、マスターもあの子をたいそう気にっていたのに」

「…………」

「おやおやマスター? いつものように『勘違いするな。別に気にってなどいない』と言わないのですかー? あいたっ」

「余計なことを言うな。貴様も捨て犬にするぞ」

「それは困ります。拾ったのはあなた様なのですから、最後まできっちり面倒を見てもらわないと」

フレデリカはそう言って、微笑むのだった。

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