《【書籍化】俺は冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター~無駄な人材を適材適所に追放してるだけなのに、なぜかめちゃくちゃ謝されている件「なに?今更ギルドに戻ってきたいだと?まだ早い、君はそこで頑張れるはずだ」》48.悪徳ギルドマスター、勇者の仲間をまだ早いと追い返す

ある日のこと。

俺がギルドで仕事をしていると、突然の來客があった。

「ギルマスぅうううう!」

泣きながらってきたのは、長い銀髪の男子。

勇者パーティの槍使い、【ウルガー】だ。

「何をしに來た貴様?」

「もう勇者パーティなんて辭める! 僕をまたここで雇ってくれたまえ!」

「駄目だ。帰ってくるにはまだ早い」

「そ、そんなぁ……! どうしてだい!?」

執務機にバンッ……! と手を突いて、ウルガーがを乗り出す。

「どうせローレンスの訓練が厳しいとか、そんなヌルい理由で、逃げてきたんだろ」

「なっ!? なんで……まさか鑑定眼!?」

「使わずともわかる」

ガシッ……! とウルガーが俺の腕を引く。

「頼むよ! あの脳みそ筋育會系バカ勇者は、ギルマスの頼みなら何でも聞いてくれるじゃあないか! 僕がしいから返せと言ってくれよぉう!」

「斷る」

「なぁあああんでさぁああああ!」

「そもそも貴様は、自分からここをやめて、勇者パーティへ行ったのだろうが。それで俺のところへ帰ってきたいだと? 々ムシがよすぎないか?」

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「ぐぬぬ……そ、それはぁ~……そのぉ~……」

さて、そろそろ來るかな。

「まぁ、貴様がどうしてもというのなら、考えてやらんこともないな」

「ほ、ほんとうかいっ! やった!」

と、そのときだった。

「ならんぞ、ウルガー!」

突如として、窓から金髪の大男が現れた。

「げぇ……! ローレンスぅうう!」

よいしょ、と窓枠から降りてきたのは、この國の勇者ローレンスだ。

「久しぶりだな、アクトさん!」

「ドアからってこい貴様」

「すまない! しかし空を走って來たのでな! ダイレクトで窓からってきたほうが早いと思ってな!」

「空は走るものじゃないよ君ぃ……!」

ウルガーが怯えた表で、俺の背後に回る。

「さぁウルガー! 大人しく帰るんだ! 訓練が待ってるぞ!」

「い、いやだぁ! 僕はもう勇者パーティを辭めたんだよぉ!」

「ならん! おれが認めてない! ぬぅん!」

ローレンスは空間を摑むような作をし、ブンッ……! と手元に引き寄せる。

「うひぃいいいいいい!」

突如ウルガーがすっ飛んでいき、ローレンスの手元に収まった。

「何をしたのだね君ぃ! マジックかい!?」

「闘気(オーラ)で手を強化し、空間を削りとることで、対象を吸い寄せたのだろう」

「うむ! そのとおりだ! さすがアクトさん! 慧眼だな!」

「レベルが高すぎて解説されても意味不明だよ!? は、離せぇ!」

ジタバタ、とウルガーが暴れるものの、しかしローレンスはびくともしない。

「さぁ帰って修行だ! 朝のノルマ素振り一億回が殘って居るぞ!」

「だから桁がおかしいのだよ! 死ぬ! 死ぬって!」

「大丈夫だ! おれも同じことやっているが死なん!」

「超人と僕を同列で語らないでくれないかな!?」

まだめているのか。

時間の無駄だな。

「さぁ帰るぞ!」

「嫌だね! 僕は、天與の原石に戻ってきたんだから!」

「なに? そうなのか?」

ぱっ……とローレンスが手を離す。

ウルガーは這いつくばって、俺の隣までやってきて、立ち上がる。

「そうさ! ギルマスがどーしても、僕という最高の槍使いに戻ってきてしいと泣きついてきて困るものでね」

さらっ……! と銀髪を手ですいて言う。

「なんと! そうだったか! それはすまない、アクトさん! どうぞお返しするぞ!」

ローレンスは笑顔で俺に手を差し出す。

「き、君ほんとギルマス相手なら何でも言うこと聞くね」

「うむ! ギルマスはおれの恩人だからな!」

ウルガーもローレンスも、かつてはこの天與の原石に所屬していた。

俺が育て、磨き上げた原石達は、世界中で輝きを放っている。

「恩など不要だ。俺は俺のために貴様らを育てただけだ」

俺は機に置いてあった新聞を広げる。

『ローレンス勇者パーティ、またも上級魔族を撃退!』

『【魔王國】へ乗り出す決意表明! 世界平和も秒読みか!』

『今最も魔王討伐に近い男、勇者ローレンスに聞く! 彼を育てた冒険者ギルド【天與の原石】のとは!』

彼らが活躍すればするほど、彼らを育てた天與の原石の評判が上がる。

結局は俺のために彼らを育てたと言ってもいい。

「しかし魔王國か。いよいよ貴様達も、本格的に敵地へ乗り込むつもりなのだな」

「うむ! そのための準備として、々訓練を厳しくしていたのだ!」

「あれで々!? 殺されるかと思ったよ君ぃ……!」

本丸である魔王の國へ乗り込んで、魔王を倒さなければ平和は訪れない。

だが魔王國は言うまでもなく敵地、魔族や魔はここ以上にたくさんいるだろう。

力をつけていかなければ、殺されるのが落ちだ。

「魔王討伐なんてやりたいヤツがやればいいさ。僕はこれ以上君のしごきには耐えられない。ギルマスはここに置いてくれるって言うし、他を當たってくれよきみぃ」

「ぬぅ……まあ、アクトさんがウルガーをしているというのなら、仕方あるまい。他を探そう。しかし見つかるかどうか……」

「そーだそーだ帰りたまえー!」

寂しそうに笑うと、ローレンスがきびすを返す。

「待て、ローレンス」

立ち止まった勇者に俺は言う。

「ウルガーの代わりの人員なのだが、実は一人心當たりがある」

「なに! ほんとうかアクトさん!」

ぱぁ……! と笑顔になるローレンス。

一方で、ウルガーは複雑そうな顔をしていた。

「ああ。ロゼリアというなのだが、これがまたできる剣士でな。どこぞの槍使いと違って」

ぴくっ……! とウルガーが肩をかす。

ローレンスは首をかしげるが「……ああ、なるほど!」と得心いったようにうなずく。

「おお! 鮮のロゼリアか! たしかに、彼ならウルガーの代わりを十分……いや、十二分に果たせるだろう!」

ぴくぴくっ……! とまたウルガーが反応する。

「あのは実に有能だ。強いだけでなく人柄も良い。任務を途中で投げ出すどこぞの腑抜けとは大違いだ」

「腑抜け……ははっ、ギルマスぅ……それは、僕のことかい?」

ぴくぴくっ、とこめかみに管を浮かべながら、キレる寸前の表でウルガーが言う。

「貴様を置いて他に誰がいる? 訓練程度で音を上げるような無しのくせに」

「ぼ、僕は無しじゃあないぞ!」

「どうだかな。逃げ出したくせに」

「うぐ……!」

俺はウルガーを無視して言う。

「ローレンス。こんなところで油を売ってないでとっとと帰れ。ロゼリアは後から貴様の元へ送る」

「うむ! そうだな! ではなウルガー!」

立ち去ろうとするローレンス。

一方でウルガーは、「待ちたまえ……!」と呼び止める。

「どうしたウルガー!」

「本気でその、ロゼリアを仲間にれるのかい?」

「うむ! そうだ!」

「や、辭めといた方が良いんじゃあないかい……? だってが前衛なんて無理に決まってる」

「アクトさんが【ウルガーの代わりは十分務まる】と太鼓判を押したんだ! なら大丈夫!」

焦りながら、ウルガーが俺を見て言う。

「ぎ、ギルマスはいいのかね!? たしかロゼリアはここのナンバーワン冒険者だったろ? 居なくなったら困るのでは?」

「別に困らん。代わりはいる」

うぐぐ……とウルガーが歯がみする。

「俺のギルドは【弱者】救済を標榜している。いいのだぞウルガー。いつでも帰ってきて。なぜならここは貴様のような【弱者】のためのギルドだからな」

ギリッ、とウルガーは強くをかみしめて言う。

「やめてやるよ! こんなギルドぉ!」

ウルガーは聲を荒らげると、ビシッ……! と俺に指を突きつける。

「なぜなら! このウルガー様は弱者ではないからだよ!」

「ほぅ、訓練を逃げ出した弱者の言葉とは思えんな?」

「逃げ出したんじゃあない! ちょ~っと古巣の様子を見に來ただけさ! 僕という超重要人が抜けたことで、ギルドが崩壊してないかなってね!」

「心配には及ばん。貴様程度の雑魚が抜けても、俺のギルドは揺るがない」

さらにウルガーは顔を赤くして、だんだん! と地団駄を踏む。

「どこまでも僕をコケにしやがって! 見てろよギルマス! 今に僕の槍が、魔王の心臓を串刺しにしてくれる!」

ウルガーは俺をにらみつけると、きびすを返す。

「さぁローレンス! 帰って訓練だよ! 僕らには魔王を倒す使命がある! 一秒だって無駄にはできない!」

「おお! ウルガー! やる気出してくれたようだな! うれしいぞ!」

フンッ、とウルガーはそっぽを向いて、部屋から出て行く。

取り殘されたローレンスが、ニコニコと笑いながら俺を見やる。

「さすがアクトさんだな! ウルガーの格をよく理解している! ああ言えば彼も発し、より一層鍛錬に勵むだろう!」

「何のことだ? 俺は事実を述べたまでだ。今のウルガーでは魔王に殺される。行くだけ無駄だ」

ふふっ、とローレンスが微笑む。

「【今の】ウルガー……か。やはりアクトさんは、彼の才能を誰よりも信じているのだな」

「無論だ。一誰がヤツをスカウトしたと思っている? 才能だけなら貴様にも匹敵する原石だ」

ローレンスは俺の前で、腰を直角に曲げて言う。

「アクトさん、ありがとう! ウルガーがやる気を出してくれた。これなら魔王討伐に手が屆きそうだ!」

「そうか。期待してるぞ」

「うむ! ではな!」

バッ……! とローレンスは窓から飛び降りると、空を駆けていったのだった。

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