《【書籍化】俺は冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター~無駄な人材を適材適所に追放してるだけなのに、なぜかめちゃくちゃ謝されている件「なに?今更ギルドに戻ってきたいだと?まだ早い、君はそこで頑張れるはずだ」》49.勇者パーティ、ギルマスと強化合宿する

ギルドマスター・アクトの元を去った、ローレンスら勇者パーティたち。

彼らは王都にある、勇者パーティ専用の訓練施設にいた。

「ふぅー……」

訓練室(トレーニング・ルーム)のグラウンドにたたずむのは、銀髪の青年ウルガー。

長い髪を後ろで束ね、その手には木槍が握られている。

「シッ……!」

彼が放った突きは、1000に分裂して見せた。

ただ速いだけでない、あまりに鋭すぎる突きは、遠く離れた部屋の壁を貫いていた。

「すごいです、ウルガーさん!」

彼に駆け寄っていくのは、と見まがうほど可憐な年、魔法使いのイーライだ。

「一瞬で同時に1000の突きを放つなんて!」

「ふはは! どうかね! これぞ僕の【千烈槍】! またひとつ人間の枠組みを超えてしまったようだね……!」

さらっ……! とウルガーは得意げに髪のを手ですいて言う。

「やるじゃんウルガー」

「この間、帰ってきてから目の変えて特訓してたけど、何かあったのかしら?」

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弓使いのミード、回復士のルーナが心したように言う。

「そう言えばウルガーさん、アクトさんのところへ行ったみたいですよ」

「「あー……」」

イーライの言葉に、得心がいったようにふたりがうなずく。

「またギルマスにやる気もらったのね」

「ほーんと、ギルマスって優しいよなぁ。でてった後も気にかけてくれてさ」

「そうですよね! ぼくも……ギルマスみたいな強くて優しくて、かっこいい男になりたいです!」

みな、アクトのもとを卒業して勇者の仲間となった。

彼らは知っている、彼らを背後から支えてくれた人の優しさを。

「うむ! みんな集まっているようだな!」

そこへ、彼らのリーダーたる青年、勇者ローレンスがやってくる。

「訓練が始まる前に自主練とは! 心だぞウルガー!」

「フッ……! まぁね! って、ローレンス!? 何しているのかね!?」

「うむ? なにかおかしいか?」

ローレンスは……宙に浮いていた。

「飛行魔法ですか?」

「違うぞイーライ! おれは腳力を鍛えるため、日常的に空を走る訓練しているんだ!」

ぞっ……と全員が青い顔をする。

「前から思っていたのだが、それはどうやっているのだね?」

「簡単だ! まず、軽くジャンプする」

一度著地し、びょんっ、と飛び上がる。

「そしてが沈む前に右足を素早く前に出す! そして右足が墮ちる前に左足を早く出す! こうすれば空を走れる! 簡単だ!」

「いやできないよ!」

「できる! さぁウルガーできるようになるまで晝飯は抜きだぞ!」

「できるかぁあああああ!」

逃げるウルガーを、ローレンスが追い掛ける。

「アタシたちは普通に訓練しましょ」

「そうですね」

後衛組は魔力を高める練習や、新しい魔法の習得、連攜の確認などをする。

「ぜぇ……! はぁ……! もう無理……」

ウルガーがその場に倒れ込む。

「どうした!? 空は走れてないぞ!」

「だから……それできるの……君だけだから……」

大汗をかいて倒れるウルガー。

「この程度で倒れていては、より強力な敵が現れたときに負けてしまうぞ!」

「いや……もう十分強いじゃないか。見ただろう、僕の千烈槍」

「うむ! アレは見事だったな! だが一瞬で一萬の斬撃を放つ敵が現れたらどうする! 一億の斬撃だったら!?」

「いやいないからソンな化け……」

ローレンスは木刀を手に取る。

「ぬぅん……!」

彼は上段に構えた刀を、ただ振り下ろしたようにしか見えなかった。

その瞬間……建の壁どころか、建が半壊した。

「わあっ! あ、あぶなぁい!」

イーライはとっさに重力魔法を使って、崩壊する建をピタッ……! と止める。

「ちょっと何をしてるのよバカァ!」

ルーナは壊れた建に修復の魔法を使うと、みるみるうちに元通りになった。

「なっ!? なにをしてるのだねぇえ!?」

驚くウルガーに答えたのは……ローレンスではなかった。

「やつは一億回、木刀を振るっていたぞ」

り口に、黒髪の青年が立っていた。

「ぎ、ギルマス!?」

「アクトさん! 早いな!」

ローレンスが輝かんばかりの笑顔で、アクトに向かって走って行く。

「アクトさーん!」

凄まじいスピードだった。

軽く音を超えるほど。

だがきをアクトは完璧に見切って、半をよじって避ける。

発音とともにローレンスが建の壁を破壊する。

「あーもー、また壊すんだから」

ルーナは修復の魔法で一瞬で壁を治す。

「僕のパーティってみんなオカシイ奴らの集まりだよね!? 壁って一瞬で治せるものかい!? しかもとりわけ頑丈な素材だと聞いたよ!」

ウルガーを無視して、パーティメンバー達がアクトに近づく。

「ギルマス、おひさしぶりです! とっても會いたかったですー!」

ひしっ、とイーライはアクトに抱きつくと、笑顔で、スリスリと頬ずりする。

「元気そうだな」

「はい!」

「ちょ、ちょっとイーライ。ずるいわよ。アタシだってその……ギルマスに……もにょもにょ……」

つんつん……とルーナは人差し指をつきあわせ、口ごもる。

「姐さん姐さん、ギルマス好きがもれてるぜ~?」

「なっ!? そ、そーゆーあんただって、ギルマスのこと好きなの知ってるんだから!」

「へっ!? あ、あたいはそういうの……べ、べつに~?」

壊れた壁からローレンスが出てきて、アクトに握手する。

「今日からよろしく頼むぞ、アクトさん!」

するとウルガーは顔を真っ青にして、恐る恐る尋ねる。

「ろ、ローレンス……? いったい何の話かね? ギルマスがここにいるのと関係があるのかい?」

「うむ! みんな聞いてくれ!」

なんだなんだ、とイーライ達がローレンスに注目する。

「われら勇者パーティは、今日より強化合宿をする!」

「「「強化合宿?」」」

突然のことに、首をかしげる一同。

「我らは魔王の領土へと乗り込もうとしている! だが、今のままでは勝てないだろう! そこでアクトさんに訓練をつけてもらうことにした!」

「いや勝てるでしょ!? 一瞬で一億回の斬撃出す化けがリーダーなのだよ!?」

するとアクトはフンッ、と鼻を鳴らす。

「では貴様、ローレンスがもし仮に戦闘不能になったとき、どうするんだ?」

「そ、それは……」

ハッ! とウルガーを含めて、勇者パーティ達は気づかされる。

「そっか……確かにローレンスは強いけど、それ以外、つまりアタシたちは……まだ彼のレベルにまで達してない」

「もしローレンスと互角に戦う相手が複數人出てきたら、あたいらお仕舞いってことか……」

みな、額に冷や汗をかく。

一方でウルガーは、首を振る。

「いやいやいや! こんな規格外の化けがそう何人もいるわけないでしょ君たちぃ……!?」

「けどウルガーさん。相手の戦力は未知數な部分が多いです。もし魔王がローレンスさん以上の化けだったら?」

「そ、それは……確かに」

ローレンスを相手に一度も模擬戦で勝ったことがないウルガー。

彼が仲間であるからいいものを、もし彼が敵だったら……? と思うと背筋が寒くなる。

「我らには今以上のレベルアップが必要。そこで! おれからアクトさん頼んで、我らを鍛えてもらえることになった!」

「「「やったー!」」」

ローレンスを含め、全員が笑顔になる。

「うれしいです! またギルマスに鍛えてもらえるなんて!」

「やったやった……あ、で、でも……ギルマスいいの? 忙しいんじゃ……?」

「あたいら超しあわせだけど、他にも鍛えてもらいたがっているやつらごまんと居るだろうし、獨占するのは気が引けるよ」

子チームが不安げに尋ねる。

「勘違いするな。別に貴様らのためじゃない。魔王を倒してもらい、俺のギルドの名聲をあげるためだ」

きょとん……と目を點にするも、しかしおかしそうに皆笑い出す。

「やはりアクトさんは、優しくて素晴らしい、面倒見の鬼だな!」

「はい! 最高のギルドマスターです! ぼく……大好きです!」

ぎゅーっ、とローレンスとイーライがアクトにくっつく。

「あ、アタシにあそこまでの勇気があれば……」

「姐さんがんばろ。ライバル多いぜ?」

一方でウルガーは、ブルブルと首を振る。

「強化合宿だって!? これ以上やったら死ぬ! 本気で死ぬって!」

するとアクトは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「別にやる気のない腑抜けは參加しなくて結構だぞ?」

「むかっ……! ああやってやるとも! やってやろうじゃないか!」

「その意気だぞ! めざせ【億烈槍】!」

千烈槍の一億回バージョンのことを言っているようだ。

「い、いや……それはちょっと……」

「なんだ? その程度もできんのか? 勇者の仲間のくせに」

「で、できらぁ……! やってやるぅう! ……できるかな?」

アクトの指導により、翌日には、億烈槍をウルガーは習得していたのだった。

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