水月（すいげつ）退から、數週間後。

極東勇者パーティは、魔王國の東部に上陸していた。

リーダーである火賀（ひがみ）は、男子4人を引き連れて、東部の城塞【東壁】攻略に向かっていたのだが……。

「火賀様！　撤退しましょう！」

勇者パーティは、闇狼（シャドウ・ウルフ）の襲撃をけていた。

新しくった水の勇者が、火賀にそう進言する。

「はぁ！　なんでよ！」

「勢を立て直すべきです！　皆はもうボロボロです！」

水の勇者を含め、他の勇者達は、みな傷ついていた。

「チッ……！　の勇者は何をしているのよぉ！」

「瀕死の重傷をおっています！　撤退を！」

「くそっ！　なんでアタシが逃げなきゃいけないのよ……くそっ！」

だがしかし、の勇者を失うわけにはいかず、やむ終えず火賀達は撤退。

ややあって。

「何やってるのよこのぼんくら！」

森のなか、極東勇者パーティは野営を行っている。

火賀はの勇者に怒鳴りつけた。

「どうしてあんな雑魚相手にやられてるのよ！　こんなこと今までなかったじゃない！」

するとの勇者は申し訳なさそうに言う。

「もとより神流の剣は、戦闘力は低い、回復特化の剣でございます。敵に接近されるとなすすべがなく……」

「じゃあなんで今までは大丈夫だったのよ！」

「それは、水月（すいげつ）殿がいたからです」

パーティを追放したの名前が出て、カッとなって、の勇者の頬を叩く。

「なに！？　あののほうが好きっていうの！？　アタシより！？」

「そういうことが言いたいのではなくてですね……水月殿は後衛のカバーリングを行ってくれていたのです」

の勇者の言う通り、水月は前後のカバーを一人で行っていたのだ。

「じゃ、じゃああんたも水月と同じことやりなさいよ！　同じ水の勇者なんでしょ！？」

新りに向かって聲を荒らげる火賀。

「む、無茶言わないでください……そんなことできるわけないじゃないですか」

「はぁ！？　なんで！？　水月ができて、どうして同じ水の勇者であるあんたができないのよ！？」

「落ち著けリーダー」

年長者の土の勇者が、火賀をたしなめる。

「だ、だいたい無理なんですよ。火賀さんは後ろを無視して勝手に突っ込んでいく。そのフォローだけで手がいっぱいなのに、後衛の人たちも守るなんて、水神流の師範代でもできませんよ」

「そんな……じゃ、じゃあ……それをやってのけていた水月は、何者なのよ……？」

新しい水の勇者が加したことで、水月のレベルの高さが浮き彫りになる形となった。

同時に、彼の有能さを見抜けなかった、火賀の無能さもまた、呈したことになる。

「火賀さん、このまま戦い方を変えないと、パーティが全滅してしまいます。前に出過ぎないでください」

火賀は水の勇者に対してビンタする。

「うるさい！　何アタシに意見してるのよ！　新人の分際で！　このパーティのリーダーである火の勇者に！？」

火賀は聲を荒らげ、水の勇者をドンと突き飛ばす。

「あんたたちはアタシの言うことにはいはいと従ってればいいのよ！」

「そんなの……仲間(パーティ)じゃないですよ」

「うるさい！　アタシに意見するような駒は、出て行ってもらっても構わないのよ！？」

火賀は、脅すつもりで言った。

こういえば、パーティを出て行きたくないと、泣いて縋りついてくると思っていたからだ。

しかし、水の勇者はスッ……と冷めた表になる。

「わかりました。出て行きます」

「なっ！？」

予想外の反応に火賀は戸う。

「さようなら」

「ちょ、ちょっと待ちなさい！　どうしてそうなるのよ！」

「ぼくは、こんな最低のパーティで、やっていけません」

「最低のパーティですって！？」

水の勇者は蔑んだ表を浮かべてそう言い放つ。

「駒ってなんですか。ぼくらは共に戦う仲間でしょ？　こんな、獨裁者とイエスマンばかりのくそパーティが、極東の未來を擔っていると思うと反吐が出ますよ」

きびすを返して、水の勇者が出て行こうとする。

「ま、待ちなさいよ！　どこいくのよ！？」

「別に、あなたに関係ないでしょ」

「あ、あんたがいなくなったら、このパーティは、極東の未來はどうなるのよ！？」

「ローレンスってすごい勇者が、何とかしてくれるでしょ」

ローレンス勇者パーティ。北壁の四天王を撃破したという、尋常ならざるものたちの集まりだと聞く。

「あんたみたいな無能が頑張らずとも、彼がきっと魔王を倒します」

「～～～～～～！　ああそう！　わかったわ出て行きなさいよ！」

何度も馬鹿にされて、火賀は水の勇者追放を決意したのだ。

「さよなら、最低最悪の勇者さん。予言してあげますよ、あなたたちは近い將來、ひどい目にあうってね」

水の勇者は振り返ることなく、火賀たちを殘して去っていった。

「ま、まずいですよ火賀さま」「彼を引き留めないと」

「あ！？　なによ！　あんたたちまでアタシに意見するつもり！？」

殘りの勇者たちは青い顔をして首を振る。

彼らは火賀の不興を買い、勇者パーティのメンバーとしての地位を失うわけにはいかず、結果保守的な態度をとってしまうのだ。

「認めない、アタシは認めないわよ！　水月は無能の剣士なんだ。だからアタシが追放したことは、間違いじゃないんだから！」

……しかし水の勇者の予言は、見事に的中することになる。

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