《【書籍化】俺は冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター~無駄な人材を適材適所に追放してるだけなのに、なぜかめちゃくちゃ謝されている件「なに?今更ギルドに戻ってきたいだと?まだ早い、君はそこで頑張れるはずだ」》79.悪徳ギルドマスター、家出した駄犬を迎えに行く
俺は魔王國から、拠點である町へと戻ってきた。
便利な馬車(ヴィーヴル)があると、魔王國までひとっ飛びだから、行き來が楽だ。
屋敷へと戻ると、使用人達が出迎えてくる。
「ご主人様おかえりなさいませ!」
わっ……! と駆け寄ってくる使用人達。
「今帰った。大事ないか?」
「そ、それが……そのぉ……」
「なんだ、トラブルか? 早く報告しろ。時間の無駄だ」
「実は、フレデリカ様が……行方知れずでして」
「なに? 行方不明だと?」
何をやってるのだあの犬は、まったく。
「これがお部屋に置いてありました」
使用人は封書を、俺に差し出す。
フレデリカの字で、こう書かれていた。
【マスターが構ってくれないので、実家に帰らせてもらいます。捜してください】
「……バカが」
俺はため息をつく。
「フレデリカ様、最近ご主人様が家を空けることが多くて、寂しそうでした……」
「たぶん構ってしいんでしょうね」
「ご主人様、いかがいたしましょう?」
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「やはり探しに行かれますか?」
俺は鼻を鳴らして言う。
「放っておけ」
「「「えー……」」」
「自分の職務を投げ出すような駄犬は必要ない」
「「「そんなー……」」」
俺は封書をポケットにしまう。
「しばらく俺は休暇にる。用事があるなら早めに言っておけ。俺は寢る」
不満そうな使用人達をよそに、俺は自分の部屋へと戻る。
長く開けていたというのに、部屋は完璧に掃除が行き屆いていた。
ホコリ一つなく、シーツはのりがきいてて、パリッとしている。
「……やれやれだ」
★
翌朝。
俺は食堂で朝食を取る。
「アクト様……」
「なんだ、リリ?」
料理長の娘、獣人の子供リリが、不安げに俺に尋ねてくる。
「フレデリカねえさま、もう帰ってこないの……?」
……使用人達はフレデリカを大層慕っている。
帰ってこなくて不安なのだろう。
やれやれだ。
「心配するな。すぐ帰ってくる」
「いつ……?」
「さてな」
俺は食事を取り終える。
「今日も素晴らしい仕事だったぞ」
「うん……」
浮かない顔のリリ。その頭を、俺はなでる。
「使用人達に言っておけ。し散歩へ行ってくると」
「! 探しに行くですね! フレデリカねえさまを!」
ぱぁー……! とリリが笑顔になる。
「勘違いするな。散歩だ」
「はい! はい! いってらっしゃーい! まってまーす!」
ぶんぶんと手を振るリリを置いて、俺は屋敷を出る。
懐から通信用の魔道を取り出す。
「俺だ。5分以に來い」
ややあって。
俺は邪神竜ヴィーヴルの背中に乗って、とある場所を目指していた。
『あのぉー……自分、馬車じゃないんすけどー……』
「馬車は無駄口を叩かない」
『とほほ……ひどいー……これでも自分、元・対超勇者用の最終兵だったんすよー……』
「殘念ながら貴様は、ローレンスパーティのなかで最弱だ。勝ち目はゼロだから、変な気を起こさない方がいい」
『わかってるっすよ! 自分だって命がおしいっす!』
ほどなくして、俺たちは窟の前までやってきた。
「ダンジョンっすかここ?」
人間の姿に戻ったヴィーヴルが、見上げながら言う。
「隨分遠くまで來たっすね。こんなとこになんの用っすか?」
「メイドを保護しにきた」
「ああ、フレデリカさん? でも、なんでこんなとこに?」
「やつは今、実家にいるらしいからな」
「実家……? まあいいや。もういいっすよね。じゃ! 自分帰るっす!」
きびすを返すヴィーヴル。
だが直して、その場からけなくなる。
「ぎゃー! 固有時間停止~! 死ぬー! 殺されるー!」
「貴様を殺してなんの得がある。時間の無駄だ。ついてこい。まだやってもらうことがある」
「……ちなみに斷ったら?」
「勇者パーティから一名退者がでるだけだ」
「ううー……わかったよぅ~……ついていきますよぉ~……ふぇえー……」
ヴィーヴルの同意も取れたので、俺はダンジョンの中を進んでいく。
「モンスターどうするんすか? 自分、こんな狹い通路のなかじゃ、竜の姿になれないっすよ」
「敵の當たらないルートを選んでいる。問題ない」
「ひゃー……鑑定眼すげーっすね……」
ほどなくして、俺は行き止まりまでやってきた。
「ありゃ、道間違えたんすか?」
「違う」
俺は壁にれる。
すると、視界がぶれて、別の場所へと飛ばされた。
「転移トラップ……まさか、ここ、隠しダンジョンっすか!?」
「そうだ。よく知ってるな」
世界に無數に存在するダンジョン。
難易度も様々だ。
ごくたまに、ダンジョン部に存在する、隠されたダンジョンというものがある。これを【隠しダンジョン】という。
「軒並み攻略難易度が高いって聞きますけど……まさか、ここが目的地っすか?」
「まだだ。もっと奧へ行く」
「ええー……引き返しましょうよぅー……」
「ダメだ。行くぞ」
なるべく敵のでないルートを選んで進む。
だが通常ダンジョンよりも敵の數も質も段違いだ。
當然敵と遭遇する。
「うひー! 死熊(デスベア)! Sランクモンスター! 死ぬー!」
見上げるほどの黒い熊が、俺をにらみつけている。
手には鋼鉄のかぎ爪があって、あれは鉄をも容易く引き裂くそうだ。
「グロォアアアアアアアアア!」
「ひゃー! 終わりっすー! 悪徳ギルドマスター、完!」
死熊の爪が俺の目の前で、ぴたりと止まった。
「こ、固有時間停止っすか……?」
「そんなもの、こんなとこで使わない。無駄うちも良いところだ」
「じゃ、じゃあなんで生きてるんすか……?」
ヴィーヴルが死熊を見やる。
がたがた……と敵は震えていた。
「ギルマスの目に、ビビってる……。Sランクモンスターを、にらんだだけで萎させるなんて……す、すげえ……」
「先を急ぐぞ」
その後も敵が出てくるが、大抵は俺がにらむと逃げていく。
「ローレンスさんが桁違いの化けで忘れてましたけど、アクトさんもだいぶ化けっすよね……」
ダンジョンは地下へ地下へと向かってびている。
「フレデリカさん家出したんすよね。こんなところにいるんすか?」
「ああ。やつにとって、この奧に実家がある」
「ふーん……大事にしてるんすね。わざわざ、こんな危ない場所に出向いてあげるなんて」
「ふん。勘違いするな」
俺は進みながら言う。
「あの駄犬がいないと、使用人達のパフォーマンスに支障をきたす。だから連れて帰るだけだ。あいつのためじゃない」
「はいはいツンデレツンデレ」
ややあって、俺たちは行き止まりまでやってきた。
否、正確に言うと……通路がここで途絶えている。
「なんすか、この大……? ひぇー……下が見えないっすよ……」
俺たちの目の前には、大があいている。
ごぉお……と空気が反響して、まるで魔の口の中のようだ。
「さ、さすがにこの下にいる、ってことないっすよね? まさかね、まさかね……?」
「この下に降りるぞ」
「や、やっぱり! ええー……どうするんすか? こんなとこから降りたら死んじゃうすよ?」
「なんのために貴様を連れてきたと思っているんだ?」
「あ、なるほど……」
邪神竜化したヴィーヴルの背中に乗って、の下へと潛っていく。
『あ、あの……めっちゃもぐってるのに、まだ著かないすけど、帰れるんすか?』
「さて、どうだろうな」
『えー!? 帰れないとかありえるんすかー!』
「奈落からは、【超越者】の許可がないと帰れない仕組みらしいからな」
「ちょーえつしゃー? って、なんすか?」
「駄犬の元飼い主だ」
ほどなくして、俺たちは最下層へとたどり著く。
「うひー……こんな奈落の底に、建があるっすよ。へんぴなとこにすんでる方もいるんすね」
暗いの奧底に、輝く宮殿があった。
懐かしい。ここを訪れるのは、10年ぶりくらいだろう。
「いくぞ」
人間化したヴィーヴルを連れて、宮殿のり口までやってくる。
「俺だ。迷い犬を引き取りに來た」
すると、扉が音もなく開く。
『やぁ、待っていたよアクト君。さ、中にっておくれ』
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