冒険者ギルドの掲示板には巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》について、こう書かれていた。

巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》は粘著のある糸を飛ばしてくる。

また、ピンチになると卵を産卵し子供蟻《ジャイアント・チャイルド・アント》を産む。

そして巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》はとどめを刺す際、鋼鉄でできたい糸を丸め、それを勢いよく噴する。この球は盾で防げても吹き飛ばされる可能が高いため、注意が必要。

僕はこの3つに書かれた攻撃方法を見て、プランタダンジョンを攻略することに決めたのだ。

鋼鉄の球を盾でければ、勢いよく壁に叩きつけられる。そうすれば、壁をすり抜けられる、と。

だが、実際に戦うと巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》は糸を吐く攻撃と子供蟻(チャイルド・アント)による追い打ちばかりで、肝心の鋼鉄の球を噴する素振りを全く見せてくれなかった。

「キシャァァァァッッッッッッッ！！！！」

巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》の金切り聲が耳をつんざく。

そう、今まさに巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》は鋼鉄の球を糸を丸めて生していた。

そういうことだったのか……。

足元にべったりついて離れない糸を見ながら、僕はそう思う。

なぜ巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》が、鋼鉄の球を全然噴してくれなかったのか？

目の前の景を見れば、答えにはすぐ辿り著く。

つまり、鋼鉄の球を生するには非常に時間がかかるのだ。

目の前では、巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》が懸命に糸を丸めては鉄球を作ろうとしている。

その姿はまさに攻撃をしてくれ、と言わんばかりに隙だらけ。

そのことは巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》自もわかっているのだろう。

だから、僕が糸を踏んでけなくなったとわかるまで、鋼鉄の球を作らなかったんだ。

子供蟻《ジャイアント・チャイルド・アント》が僕から離れようとしているのは、これから巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》が放つ攻撃に巻き込まれないようにということなんだろう。

「だったら最初から糸に絡まっておけばよかったじゃん……」

さっきまで糸から必死に逃げていたのはどうやら全部無駄だったらしい。

そうだとわかると、徒労でぐったりしてしまう。

「キシャァァァァッッッッッッッ！！！！」

どうやら球の生に終わったようだ。

銀に輝く球が巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》の口元にあった。

この方向なら報酬エリアに接した壁まで飛ばされるな。

戦っている最中、いつでも壁に叩きつけられてもいいように、常に報酬エリアに接する壁を背中ごしに戦っていたので方角もばっちりだ。

あとは攻撃に耐えるだけ。

〈巖の巨兵(ゴーレム)の小盾〉を前に突き出し、攻撃をける準備をする。

そして、鋼鉄の球が勢いよく噴された。

「グッ！！」

重い攻撃にうめき聲を上げてしまう。

ビリビリッ、と足と地面をくっつけていた糸が剝がれていく音が聞こえる。

そして、鋼鉄の球と一緒に僕のは壁に叩きつけられた。

「〈回避〉ッッ！！」

壁に接する瞬間、スキル〈回避〉を発させる。

すると、スッとが壁の中にっていく。

気がつけば、報酬エリアにいた。

「功した……」

安堵と共に息を吐く。

どうやら無事、壁抜けに功し報酬エリアに辿り著いたようだった。

「もう、この靴は使いにならないな」

靴にへばりついた糸を見て、そう口にする。恐らく糸を取るのは難しいのだろう。

仕方なく靴をぎ、靴下で地面に立つ。

思えば、糸に絡まってけなくなったとき、こうして靴をげば解決したんじゃ……。

まぁ、あのときは必死だったし結果こうして報酬エリアに來れたんだから、良しとしよう。

「肝心の報酬を確認しなくちゃ……」

僕は寶箱に近づく。

このプランタダンジョンの初回クリア報酬はなんと――

「2萬イェール分の金貨なんだよなぁ」

実にしょっぱい。

あのファッシルダンジョンの初回クリア報酬が3萬イェールで売れる〈旅立ちの剣〉だったことを思い出すと、いかにしょっぱいかわかると思う。

とはいえ、このプランタダンジョンは初回クリア報酬こそ大したことがないが、二回目以降のクリア報酬もそんなに悪くないのと、道中の巨大蟻(ジャイアント・アント)やボスの巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》を倒したら手にるドロップアイテムが意外と高値で売れるため、周回するダンジョンとしては冒険者にとって人気なダンジョンだったりする。

まぁ、僕の場合はこの初回クリア報酬しか旨味がないのだが。

とはいえ、下手に初回クリア報酬である〈旅立ちの剣〉を換金し続けたら、怪しまれてしまう可能が高い。

だから、こんな風にお金を直接貰うほうが安全だ。

それに巨大王蟻《ジャイアント・クイーン・アント》の攻撃パターンもわかったことだし、當分の間はこのプランタダンジョンを周回することにしよう。

ちなみに、プランタダンジョンから転移陣で外に出た後、真っ先にナイフと靴を購した。