「うっ……」

僕は聲をあげて、自分が倒れていることに気がついた。

確か、影と戦って隠しボスの部屋の壁をすり抜けたんだ。直前の記憶を思い出しつつ、僕は立ち上がる。

「ここ、どこだ……？」

目の前の景を一言で現すなら、暗闇だ。

空もなく地面もない。地平線の彼方まで暗闇が続いている。

「ダンジョンの狹間(はざま)」

ふと、頭によぎった言葉が口をついて出る。

聞いたことがあった。ダンジョンの外観は一見小さな建に見えるが、実際中にると、決まって巨大な迷宮になっている。つまり、外から見た面積と中の面積が一致してないというわけだ。

そのため、ダンジョンの中は、現実とは次元の異なる空間と言われている。それってつまり、ダンジョンの壁にを開けても外にでることができず、なにもない空間に辿り著くってことだ。それをダンジョンの狹間と冒険者たちは呼んでいた。

そう、目の前に広がっているこの暗闇こそがダンジョンの狹間なんじゃないだろうか。

「そうだ、オーロイアさん！」

そうだった。オーロイアさんと一緒に壁をすり抜けたんだった。そのことを思い出しつつ、暗闇のせいで何も見えないため地面をペタペタと手でりながら、なにかないか確かめようとする。

プニッ、とらかいが手を伝わった。なんだろうこれは？　と、プニプニとらかいものをりながら正を確かめようとする。

「ふぇ」

突然、甲高い聲が聞こえた。

「うわっ！」

驚いた僕はそのまま後ろに転倒した。

「もしかして、オーロイアさん？」

どうやら僕がっていたのはオーロイアさんのだったみたいだ。だけど、聲をかけても返事がないことから気を失っているみたい。

それより、さっきっていたのは隨分とプニプニらかかったけど、オーロイアさんのどこをっていたんだろう……？　まさか、無意識のうちにセクハラとかしていないよね……。うん、深く考えないようにしよう。

もうし周囲の報がしいなと思い、僕は手でなにかないか探ろうとする。

すると、壁のようなものが近くにあった。

恐らく、この壁を僕たちはすり抜けたのだ。だから、この壁の向こう側にはさっきまで戦っていた隠しボスがいるはず。

「困ったな。これじゃあ地上に戻れそうにない」

壁をすり抜けるには、モンスターに投げ飛ばされる必要がある。だけど、この暗闇にはそんな存在がいるようには思えない。

と、次の瞬間キラリ、と遠くでなにかがったような気がした。

ったということは、そこにはなにかがあるってことだ。

「行ってみよう……」

の正がなにかはわからない。

とはいえ、このまま立ち竦んでいてもなんの手がかりも得られそうにない。

だから、僕は迷いなくの正を確かめるために向かうことを決めた。

まだ気を失っているオーロイアさんを置いていくわけにもいかないため、背中に背負ってから僕は暗闇の中をひたすら進んでいく。

それから僕は途方も無い時間を歩き続けていた。周りの景が暗闇のまま変わらないから、余計そう思ったのかもしれない。途中、との距離があまりにもまる気配がないため、空に浮かんでいる星を目指して歩いているんじゃないだろうか？　と、考えたりもした。それでも僕はひたすらあるき続けた。

そして、力が限界を迎えそうだというとき、のあるところまで辿り著くことができた。

「魔石……？」

の正を見て、僕は真っ先にそれを思い出す。

モンスターを倒せばに必ず眠っている魔石。目の前のはそれに近いと思った。

だけど、今まで見てきたどの魔石よりも神々しい輝きを持っており、一回り大きい気もする。

魔石のようなは宙に浮きながらクルクルと回転して、歪な円形をしている魔石と違って、目の前のそれは立方の形をしている。その立方の周りには衛星のように、これまた小さな立方が回っていた。

じっくり観察してみると、魔石とは大分異なった形狀をしているな、と考えを改める。

魔石じゃないとしても、これの正には見當がつかないけど。

「そうだ、ステータスを確認すればいいんだ」

ふと、そのことに思い當たる。

所持したものなら、〈鑑定〉スキルがなくても、正を確認できる。

だから、僕は立方のに手をばそうとして――

◇◇◇◇◇◇

【警告】

未実裝データを手すると、重大なエラーを引き起こす可能があります。それでも手致しますか？

『はい』 ▶『いいえ』

◇◇◇◇◇◇

「なに、これ……？」

突然表示されたメッセージに戸う。

未実裝データー？　重大なエラー？　どちらもピンとこない言葉だ。

とはいえ、警告と書かれている以上、ここは慎重に考えたほうがよさそうだ。

ふと、僕は周囲を観察した。

暗闇が延々と続くだけで、この空間にはこの以外にはなにもないことがわかる。

なにが起きるかわからないけど、他にてがかりがあるわけでもない。だから、わずかな可能に賭けて僕は『はい』の位置まで手をらせる。

◇◇◇◇◇◇

未実裝データを手しました。

◇◇◇◇◇◇

と、メッセージが現れた瞬間、眩いを放ち始めた。

目が焼き切れるんじゃないかと、思うぐらい眩しいので僕は腕で必死に目を覆う。

「えっ……」

気がつけば、僕はダンジョンの外にいた。

背中にはまだ眠っているオーロイアさんがいる。そして、右手にはあの立方のがあった。

「結局なんだったんだ……？」

重大なエラーとか言っていたが、特にそれらしいことは起きていない。

起きたことといえば、こうして無事ダンジョンの外に飛ばされことだろう。

「一応、解決したってことでいいのかな？」

謎は殘ったままだけど、無事こうして帰ることができたんだ。だから問題は解決したってことでいいんだと思う。

元ネタはリメイクが決まったあれ。