《最弱な僕は<壁抜けバグ>でり上がる ~壁をすり抜けたら、初回クリア報酬を無限回収できました!~【書籍化】》―75― 買い
僕たちは富裕層が多い區畫にある商店街に來ていた。
金を持っていない人がここに來ると追い出されることがあるが、ここ最近はダンジョン攻略も順調なおかげで、お金はそこそこ持っているし、恐らく大丈夫だろう。
「なにかしいものがあれば気兼ねなく言ってくれ。できるかぎり買う努力はするから」
「そうですね……」
と、言いながら名稱未定は左右にあるお店を眺める。
名稱未定の好きな本屋もあるし、なにかしらしいものはあるに違いない。
「なんかジロジロと見られている気がします」
「あー、服裝のせいかも」
僕なんかはいつものダンジョンに行く格好だし、名稱未定も質素な服裝だ。
ここの通りは富裕層が多いため、通行人は皆高級そうな服にを包んでいる人ばかりだ。
おかげさまで、僕たちの質素な服裝が目立ってしまっているんだろう。
「とりあえず服屋に行って、もっと良さげな服裝に著替えようか」
早速服屋にると、店員に貧乏な子供と思われ追い出されそうになるが、貨が大量にっている袋を見せて黙らせることに功した。
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それから僕と名稱未定で著る服をする。
正直、服の知識が全くないため、どうすればいいのかさっぱりわからないから、テキトーに店頭に並んでいたものを試著しては、著たまま購する。
「どうですかね……?」
試著室を出た名稱未定がそう訪ねてくる。
フリルのついた白いブラウスにチェック柄のスカートをに著けていた。
「かわいいと思う」
と、素直に思ったことを口にする。そもそも僕の妹は、どんな服裝を著てもかわいいからな。
「かわいいですか。人間の価値観は名稱未定ちゃんには、よくわからないです」
照れ隠しでそう言っているならしは可げがあったんだけど、表から察するに、名稱未定に限っては本心でそう思っているみたいだった。
ともかく貧民には見られない服裝に著替えたところで、再び商店街にてショッピングを始める。
「これとこれとこれとこれとこれこれとこれとこれとこれを買うんです、人間!」
結局、名稱未定は本に興味があるということで、早速向かったのは本屋だった。
名稱未定が手に持っていたのは山積みになった大量の本。
そんなに大量に買ったら持ち歩けないでしょ、と言いかけて、〈アイテムボックス〉のことを思い出し、口をつぐむ。
〈アイテムボックス〉があれば、いくら買ったとしても問題なく持ち歩ける。
「わかったよ」
僕は頷き、名稱未定のしがった本を全部買おうとする。お金なら余裕をもって持ってきたし、足りないってことないだろう。
「隨分と聞き分けがいいですね。気味が悪いです」
「いや、お前が買えと言ったんでしょ」
「まさか、本當に全部買ってくれるとは思わなかったです」
「今日はお前のために一日を使うと決めたからな」
と言いつつ、會計を済ませる。
それから手分けして買った本を路地裏まで運び、誰にも見られていないことを確認しつつ、〈アイテムボックス〉を使用する。
「そんな便利なスキルを持っていたんですか……」
「最近手にれたスキルだよ」
しかも名稱未定が見ている前で手にれたはずなんだけど。
「そもそもお前は冒険者として強いんですか?」
「えっと、普通の強さだと思うよ」
し前までは最弱だったけど、今は長してきたしそんなこともないだろう。
「そういえば、僕が冒険者としてどんな活しているか、あまり話していなかったね」
「別に興味ないですから、話さなくて結構です」
「あ、そう」
「ただ、人間がなぜダンジョンの狹間に來ることができたのか? それだけはずっと気になっていました」
そういえば話してなかったな、と思う。
というか、壁抜けのことは誰にも喋ったことがない。下手にしゃべることで、もし広まったりしたから、他の冒険者からやっかみを買う可能が高いからだ。
ただ、名稱未定なら喋ってもよいかもしれない。別に彼のことを信用しているからというわけではなく、彼には僕以外におしゃべり相手がいないから、誰かにしゃべって広めるってことがそもそも不可能だろうって理由で。
一応、周りに誰もいないことを確認してから、僕は話し出す。
〈回避〉を使ったら、壁を抜けたことを。それを使って、ダンジョンの狹間に來たことも。
「信じられないです」
説明を終えた後、一言彼は想をらす。
「ただ、人間が狹間に來られた以上、信じるしかないですね」
と、付け足すようにそう言った。
確かに、壁抜け以外であの空間に行く手段は僕には心當たりがない。
「スキルが意図しない挙をしたとかなんでしょうか。とはいえ、それって、この世界を創った神に欠陥があったとでも言っているようなものです」
「神か」
と、名稱未定の考察に心する。
この世界を創った神ね。もちろん、その存在を聞いたことはあるが深く考えたことはなかった。神がミスをしたせいで、壁を抜けることができるのは、納得できそうな説明ではある。
「それじゃあ、他に行きたいところはある?」
買った本すべてを〈アイテムボックス〉に収納したのを契機に僕はそう口にする。
「名稱未定ちゃんとしてはもう十分満足しましたけど」
「そう? でも、まだ時間はあるし」
今日は一日、名稱未定のために使うと決めていた。まだ日が暮れるには、時間が早すぎる。
「いえ、名稱未定ちゃん、疲れたのでもう帰ります」
と言って、名稱未定は帰ろうとする。
けど、すかさず名稱未定の手をとって、僕は引き留めようとした。
「勘違いだったら悪いんだけど、まだ満足していないように見えたから……」
引き止めた理由を説明した。
「なら、十分満足したしもういいですよ」
「だとしても、他に楽しいとこがあるかもしれないし、もうし見て回ろう」
「だから、そんな必要なんてないです」
「まぁ、そう言わずにさ……」
と、押し問答を繰り替えとしていくうちにきりがないと思ったのか、名稱未定が表を変えてこう口にした。
「だったら正直に言いますけど、お前と一緒にいても楽しくないんですよ」
「えっと……」
突然の言われように戸う。
「なんか気を悪くするようなことした?」
自分としては、そんな覚えはない。自分なりに名稱未定を楽しませようと努力したつもりなんだけど。
すると、名稱未定は「はぁ」と骨にため息をしてから、
「お前の本心がさっきからずっと駄々れなんですよ。これが名稱未定ちゃんじゃなくて、エレレートとだったら楽しかったんだろうな、ってずっと思っていることがわかっているんです。そんなやつといて、楽しいわけがないです」
そう言われて、僕は呆気にとらわれていた。
確かに、名稱未定の言った通りだ。
僕は今日、ずっと名稱未定が元気に買いをする姿を見て、これが名稱未定でなくエレレートだったら、どんなによかっただろうと思っていたし、そもそも今日に限らず、名稱未定が本を読んでいたり料理を作ったりする姿を見るたびに、そんなことを考えていた。
ただ、そのことはおくびにも出さないで過ごしていたつもりだ。
それは僕が、名稱未定の機嫌を損ねたくない、という一心でいていたからだ。
下手に刺激することで、名稱未定がエレレートのを使って良からぬことをするんじゃないだろうか、それが怖い。
だからこそ、彼の前ではエレレートの話を一切しなかった。こじれる可能が高いと思っていたから。
なのに、彼のほうからエレレートの話題を持ち出すんて。
「そ、そんなことはないけど……」
名稱未定の言葉を否定しようとして、あまりにも本心を隠しきれていない口調だったと自分でも気がつく。
當然、名稱未定にも見抜かれているはずだ。
「ごめん……」
だから、僕はすかさず謝罪の言葉を口にする。
「別に、謝る必要なんてないんですよ。お前にとって名稱未定ちゃんは、妹のを奪った憎むべき対象なんでしょうから」
「そんなことは――」
ない、と言い切ることができなかった。
心の底では、僕はそう思っていたのかもしれない。
「ふんっ」
と、名稱未定は鼻を鳴らすと、どこかに向かって走り出す。
それを僕はすぐに追いかけることはできなかった。
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