《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》57.勇者、魔族から勧される

俺は學園長とともに、理事長室へとった。

そこは王城にある、謁見の間に似ていた。

否。似ていた、ではない。

「魔王の部屋じゃないか。どうしてここに……?」

「魔王城が改裝される前に、空間転移を使って、まるごとここへ運んできたのですよ」

學園長アリシアが、ニコニコしながら進んでいく。

最奧には、魔王が座っていた玉座があった。

「いずれここに座るべきお人が、現れるとわかっていましたからね」

「やっぱ、あんた魔族だろ、學園長さんよ?」

アリシアは玉座の隣にたち、にこりと笑う。

「ええ、その通りです。さすが勇者神、慧眼でいらっしゃる」

恭しく、俺の前でアリシアは跪く。

「魔族を手引きしていたのもおまえだな?」

「よくご存じで。なぜバレたのでしょう?」

「いろいろ理由あるけど、決定的だったのは天使からの攻撃をけたときだ。あんた、を守る作すらしなかっただろ?」

弟は目を瞑り、手で頭を守ろうとした。

そうしなかったのは、自分に被害がないとわかってる、天使を使役したこいつのみ。

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「お見事です。さすが我が【破壊者】」

極まったように、アリシアが言う。

「破壊者? なんだよそれ」

「この世に1つ、有名な予言があります。……『魔王の死後ちょうど2000年後、世界に破滅をもたらす【破壊者】が復活するであろう。しかしそれに抗う【変革者】が現れ、世界に救いをもたらすだろう』」

予言……何度か耳にした単語だ。

「多くの人はこの【破壊者】を魔王の再臨と解釈しているようです。そして魔王沒後2000年後、カーライル家に生まれた男児が【変革者】……【予言の子】であると思われているようです」

しかし、とアリシアは笑う。

「わたしの解釈は違います。【破壊者】とは勇者神ユージーン、あなたのことですよ。現にあなたは、とてもよい働きをしてくださりました」

うっとりとした表で、アリシアが語る。

「あなたはこの世のあらゆる常識の枠組みを破壊し盡くしています。そしてその波紋は世界に広がっている。邪神ガンデスブラッドの復活を引き起こしたのはあなたです。そしてそれを契機に、魔なるたちは活を再開した」

「……何が言いたい?」

アリシアは俺の前までやってきて、うやうやしく頭を垂れる。

「あなたこそが破壊者。世界を破滅に導く、我々魔なるたちの、新たなるリーダーとなるにふさわしい方なのです」

スッ……とアリシアは俺に手を差しべる。

「ともに世界から害蟲(にんげん)どもを排除しましょう。魔のたちの楽園を築き上げるのです」

俺はアリシアの手を、強く払う。

バシッ……!

「斷る」

「訳をお聞かせ願いますか?」

「馬鹿かおまえ。俺は勇者だ。人間を救うのが仕事だ」

「なるほど……しかしユリウス君。果たして、この世界に勇者は必要でしょうか?」

「……なんだと?」

アリシアは立ち上がる。

「この世界には魔王は存在しません。勇者と完全に一化している以上、この世界で最も強き者は誰か? そう……あなたです」

にこりと笑う。

「愚かな人民どもは、いずれあなたを畏怖するでしょう。そしてこう言うのです。『この化けめ!』とね」

それは、何度も聞いたセリフだった。

2000年前も、そして、今も。

「転生してわかったでしょう? この世界のあらゆるものはあなたより格下。もとより最強だったあなたは、この世界における不穏分子(エラー)であり不適合者(イレギュラー)なのです」

「人間にとって、今度は俺が魔王になりかねない……っていいたいのかよ?」

「ご明察。さて、この世界において、誰が勇者(あなた)を倒せるのです? 答えは誰もおりません。それは、かつての魔王ヴェノムザードと、寸分違わぬ同じ狀況だとは思いませんか?」

アリシアの言葉を聞いて、俺はため息をつく。

「もう一度ご提案させていただきます。魔族を率いて、世界を手にれましょう。我々はあなたを歓迎します。世界の破壊者、新たなる魔王よ」

俺は真っ直ぐ彼を見て、即答する。

「斷る。俺は勇者だ。魔王になる気はさらさらない」

「……いずれ人間達から迫害されるとしても?」

「知らん。世界が平和なら、俺がどうなろうと、どうでもいい」

ふぅー……とアリシアは深くため息をつく。

「仕方ありません。手荒なまねはしたくなかったのですが」

「俺に真正面から挑んで勝てるとでも?」

「まさか。あなたを見くびる気はございません。……ですので、人質を取らせていただきます」

アリシアが酷薄に笑う。

「人質? もしかしてガイアスのことか?」

「もちろん。あなたと違い、彼は実に脆弱だ。わたしの放った蟲たちが、今頃捕縛していることでしょう」

パチンッ……! とアリシアが指を鳴らす。

「さぁ、蟲たちよ。かの勇者の弟を連れてきなさい。他の人間は皆殺しです」

しーん……。

「なっ!? ど、どうなってるのですっ!?」

「おまえ、知將気取ってくるくせに、かなりアホだろ」

俺は深々とため息をつく。

「あいつは勇者(おれ)の可い弟なんだぜ? なあ、ガイアス」

ドガァアアアアアアアアアン!

「兄さん! 助けにきたよ!」

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