《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》70.姫騎士(29)、勇者にピンチを救われる
転生勇者ユリウスが、弟と規格外の朝練をした1週間後。
聖騎士ヘンリエッタは、私服に著替えて、カーライル領地を訪れてた。
「…………」
その手に菓子折りを持ち、領地を歩いている。
「……ユリウス殿には大変ご迷をかけた。ついては、謝罪を申し上げるために參上した」
ぶつぶつと同じフレーズを何度も繰り返す。
「よし、完璧だ。そう、あくまで今回は迷を掛けたからその謝罪なんだ。別に彼にもう一度會いたいから口実を作っていくわけではないんだ決してこれは深い意味はないのだ」
とはいうものの、ヘンリエッタの足取りは軽い。
スキップをする聖騎士(29歳獨彼氏なし)など、見たことも聞いたこともないだろう。
「まぁ……【元】聖騎士なのだがな」
ヘンリエッタはここに來るまでのことを思い出す。
先日、天導教會の聖騎士団本部に、謎の大悪魔が襲撃した。
その際、対処に當たった13使徒は全滅。
死者は出なかったものの、全員が完全に戦意を喪失。辭職を申し出てきた。
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最強の聖騎士を12人も一度に失ったことで、騎士団は壊滅狀態になった。
その責任を追及され、ヘンリエッタは辭職に追い込まれたのだ。
リーダー・ファーストが、騎士団上層部に以下のことを報告したのだ。
『我らは勇敢に立ち向かったが、大悪魔の強力な神攻撃によって敗北した。あの場にはヘンリエッタが不自然にもいなかった。おそらく騎士団を乗っ取るために、悪魔を手引きしたのだろうと思われる。すべてはヘンリエッタが悪い』
もちろんファーストやそのほかの使徒たちがついた噓だった。
悪魔の前に恐れをなして逃げた、となればメンツが丸つぶれになってしまうからだ。
取り調べを行われたが、証拠が何もなかったので、極刑は逃れた。
それでもあの場に、ヘンリエッタが一人だけいなかったことは事実。
聖騎士が悪魔を手引きした、とうわさが流れると、清廉潔白が持ち味の天導騎士のイメージを損ねる。
よって騎士団本部は彼を追放したのだった。
「単に風邪をひいて寢込んでいただけなのに、なんでクビにならないといけないのだろうか……? くすん」
ヘンリエッタ(29歳)はさめざめと涙を流す。
せっかく聖騎士となるため、実家を無理やり飛び出てきたのに……。
「これからどうしよう。【城に戻る】しかないか。はぁ……」
実家に帰る前に、ヘンリエッタは迷をかけたユリウスに、謝りに來た次第。
「政略結婚の道にされるんだ。ピンチにさっそうと現れる、白馬の王子さまとの結婚は夢幻と消えたわけか……」
しょんぼり肩を落としながら、ヘンリエッタは領地にある村を訪れた。
「ん? なんだ……? 様子がおかしいぞ……?」
村からは煙が立ち上がっていた。
悲鳴も聞こえる。
急いで騒ぎの中心へと向かう。
「なっ!? ま、魔族だと!?」
犬頭の下級魔族ウルフが、部下の犬人(コボルト)を引き連れ、村を襲撃していたのだ。
「くっ! やめろぉ!」
ヘンリエッタは腰の剣を抜いて、ウルフの手下に切りかかる。
「あぁ!? なんだてめえ!」
「私は聖騎……通りすがりの騎士だ!」
聖騎士をクビになった以上、名乗ることはできない。
また追放された際、剣や鎧等、神は沒収されている。
「悪鬼め! なぜ無辜の民を襲うのだ!」
「はっ! そんなの憂さ晴らしに決まってるだろ!」
そんな理由で人を襲う。
なんてやつらだ、とヘンリエッタの正義の心は燃えていた。
「村を襲うのはやめて、おとなしく投降しろ」
「あぁ!? なんでてめえに命令されなきゃいけねえんだよ!」
「やっちまえ、てめえら!」
ウルフに命じられ、犬人たちはヘンリエッタを取り囲む。
「ふっ!」
ザシュッ!
騎士は一息で、その場にいた犬人10を切り捨てる。
「な、なんだこいつ結構やるぞ!」
「神が無くとも、腐っても元騎士だ。貴様らがいくらかかってこようと、私は負けることは絶対にない」
にやり、とウルフが邪悪に笑う。
「これを見ても、同じことが言えるかなぁ?」
「うえぇえええん! おかーさぁあああん!」
魔族ウルフの隣に、部下の犬人がやってくる。
その腕には、い子供が人質に取られていた。
「武を捨てな騎士。でないとこの子の命はないぜぇ?」
「くっ! 卑怯だぞ!」
「卑怯で結構! ほらどうするよぉ、あんたのせいでこの子はお母さんに會えなくなっちまうぜぇ」
ヘンリエッタはギリっと歯噛みする。
神があれば、一瞬でウルフたちを全滅させ、の子を救えた。
だが神によるアシストが無い以上、それができない。
「…………くっ!」
カランッ!
「ぐへへ、それでいいんだよぉ。おいおまえら、この騎士をひっとらえろ」
犬人たちが、武を捨てたヘンリエッタを、あっという間に捕縛する。
「な、なにをする! 放せ!」
「おっとぉ? 抵抗すればぁ? の子はミンチになるぜぇ?」
「くっ! くそっ!」
ヘンリエッタは諦めたように、力を抜く。
ウルフは下卑た笑みを浮かべて、近づいてくる。
「ひひっ! 騎士ってやつを一度凌辱してやりたいと思ってたんだぁ。よく見ればこいつ年増だが顔は整ってるし、つきも極上じゃねえかぁ。年齢はこの際目をつぶるぜ」
29歳は年増ではない斷じて、と反論しようとした。
だが反抗の意思を示せば、人質のの子は奴らによって殺されてしまう。
びりっ! びりびりっ!
「ひぅ……!」
ウルフに服を引きちぎられ、彼は半をさらす。
「おーおー、いいカラダしてるじゃねえかぁ。ババアのくせによぉ」
「くっ! こ、殺せ! おまえらに辱めをけるくらいなら死んだほうがましだ!」
「うるせえババア! おとなしくしてろ!」
犬人達に押さえつけられる。
ウルフはヘンリエッタにまたがり、今まさに彼の【初めて】は散らされる寸前だった。
「くっ……! これまでか……!」
ヘンリエッタが、固く目をつむった、そのときだった。
ボッ……!
突如として、ウルフをはじめとした、犬人たちが一瞬で消し飛んだのだ。
しかし彼は目を閉じているので、今起きたことに気づいていない。
「あのー」
「くっ! 父上、すみません。まさか異國の地で凌辱をけるとは」
「あのー聞いてるかー」
「これから私は屈強な犬達に襲われ、人とも魔のものとも思えぬ子供を産まされるのだ……」
「もしもーし?」
「しかし腐っても【皇帝の娘】。帝國の名譽を汚さぬよう、最後はその命を自ら」
「てい」
ぺちんっ。
「あうんっ。な、なんだ……って、えええ!? ま、魔族は!?」
「え、そんなのいた? 犬はいたけど」
「犬人たちは!?」
「ワンコロはなんかにげてったぞ?」
愕然とした表で、ヘンリエッタは彼を見やる。
「ゆ、ユリウス殿……?」
自分をお姫様抱っこしているのは、黒髪の年ユリウスだ。
「また會ったな」
「おねえちゃん! このお兄ちゃんちょーつよいんだよ! お空からやってきて剣でずばーって、魔族たちをいっしゅんでけしとばして、お姉ちゃんを助けたんだ!」
どうしよう。
どうしようどうしよう。
ヘンリエッタの心臓は、かつてないほど高鳴っていた。
14も年下の年に、窮地を救われ、彼はすっかりメロメロになったのである。
「あー、その、とりあえずウチくる?」
「いくー! お嫁さんになるぅ♡」
ユリウスの言葉を、俺と結婚しないか、とかってに思い込んでいるヘンリエッタ。
しかし実際のところ、彼が半をさらしているし、犬人の返りでびしょぬれだったので、カーライルの家で湯あみでもしないか? とったに過ぎない。
「やった! 王子さまみつけたよぅ♡」
「そういやあんた、名前は?」
「はいっ! 【ヘンリエッタ=フォン=マデューカス】です! あ・な・た♡」
眼にハートを浮かべ、とろけ切った表を浮かべる。
とても彼が、【マデューカス帝國】、皇帝の娘であるとは、思えないのだった。
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