《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》73.帝國・聖騎士団・王國軍、勇者討伐に向かう
転生勇者ユリウスが、テスト勉強をしている、一方その頃。
各國では、不穏なきを見せていた。
まず、王國の隣、【マデューカス帝國】にて。
帝都。
剣鬼ジョゼが、皇帝の前に跪いていた。
「なるほど……朕の不肖の【家出娘】は、王國貴族のもとにいると」
「ハッ! 皇帝陛下のおっしゃるとおりであります」
皇帝は長い髭をりながら、剣鬼を見下ろし「ふむ……」とつぶやく。
「しかもジョゼよ、相手は凄まじい強さを持った年だったと?」
「ええ、間違いありません。王國め……あのような【人外の生兵】を隠し持っていたとは……!」
ジョゼは皇帝に跪いて進言する。
「陛下、軍を率いる許可を。あの化けから姫を救うためには、數で押し切るしかありません」
「ふむ……卻下だ」
「しかしッ!」
「ジョゼよ、冷靜になれ。現在帝國と王國は休戦中だ。この程度のことで軍を率いたとなれば戦爭の火種になりかねぬ」
「しかし! 王國は休戦をいいことに、あのような人外の化けを作っていたのですよ! 我らとの戦爭に備えて!」
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「冷靜になれ。件の年が兵であるという証拠は? それはおぬしの勝手な判斷ではないのか?」
「本気を出した剣鬼を圧倒するなど! そんな人間が存在してはならぬのです!」
ふぅー、ふぅーと興するジョゼ。
一方で皇帝は冷靜に言う。
「ジョゼよ。40年朕に使え、多くの敵をお前は倒してきた。立派なことだ。……しかしその驕りが正常な判斷の邪魔をしている」
「……私が、冷靜さを欠いていると?」
「然り。今のおぬしは、その小僧に負けたことでプライドを傷つけられ、見返してやるという私怨を抱いてる」
うぐっ……! とジョゼは言葉に詰まる。
皇帝の指摘したとおりだったからだ。
「これしきで軍をかすことは認めぬ。ジョゼ、おまえにはしばらく休暇を與える。故郷でゆっくりするがよい」
「なっ! へ、陛下!? しかし!」
「話は以上だ。下がれ」
ジョゼは歯がみすると、皇帝の前から出ていく。
バタンッ……!
「くそっ! 陛下は事態の深刻さをわかっていない!」
ジョゼは謁見の間を出ると、苛立った表で廊下を歩く。
「剣鬼どの。どうなされた?」
「おお! アンドリュー殿!」
ジョゼの前には、太ったいかにも権力者然とした男がいた。
彼はアンドリュー。
皇帝の遠縁に當たる人だ。
「陛下に軍を貸していただけなかったとお見けする。……ならば力をお貸しいたしましょう」
「なに? どういうことですかな?」
「簡単なこと。我が輩の権限で兵をかす。我が輩は陛下より軍事指揮権の一部を任されているからな」
「おおっ! 頼もしい! しかしよいのですか?」
「なに、我が婚約者を連れ戻すためだ。協力は惜しまぬよ。それに王國の最強兵を潰したとなれば……くくっ!」
かくして、ジョゼたち帝國軍は、姫騎士ヘンリエッタ奪還のため、ユリウスのもとへ向かうのだった。
★☆★
続いて王都にある天導(てんどう)教會。
最高幹部たちが集まり、今後の方針を立てていた。
「13使徒を壊滅に追い込まれるとは……大悪魔ユリウス、おそるべし」
この教會をとりまとめる、トップの4人が難しい顔を付き合わせている。
「どうする! 今は報統制しているものの、いずれ13使徒が全滅したウワサは世間に広まるぞ!」
「聖騎士の辭職が後を絶たない。このままでは騎士団は壊滅、そして信者からの支持も失うぞ!」
天導教會は獨立組織だ。
教會に祈りを捧げる人たちのお布施や、貴族達からの寄付によって運営されている。
信者を失えば資金が途絶え、教會は潰れてしまう。
そうなれば最高幹部たるこの4人が失職の憂き目に遭う。それはさけたい。
「こうなったら一刻の猶予もない。聖騎士総出で大悪魔の討伐作戦を実行するのだ!」
最高幹部達が、神妙にうなずく。
「しかし聖騎士達はくだろうか。13使徒が瞬殺されたウワサは騎士団では周知の事実」
「なに、聖騎士は正義の強い輩が多い。大悪魔を野放しにすればいずれ世界が滅びるなどと軽く演説すれば、思い込みの激しい奴らのことだ。喜んで大悪魔討伐作戦に參加するだろう」
邪悪に笑う幹部たち。
彼らにとって聖騎士など、信者に金を支払わせるための裝置に過ぎないのだ。
「しかし13使徒を壊滅させた悪魔ですぞ? 聖騎士達だけで相手ができるだろうか?」
「いかに悪魔であろうと相手は一人。教會本部の聖騎士全員が神で武裝してかかれば、數で勝るのだ。負けるはずがない。絶対にな」
かくして、天導教會は、大悪魔ユリウス討伐に向けて、聖騎士たちを出させたのだった。
★☆★
一方その頃、王ヒストリアはというと……。
「マズいマズいマズい……! どうなってるのよ! ユリウス生きてるじゃない!」
王城の私室。
ベッドの上で、髪のをむしっていた。
「聖騎士のぼんくらどもは何してるのよ! さっさと倒しなさいよゴミ屑どもめ!」
コンコン……。
「失禮いたします。殿下」
ってきたのは、衛兵だった。
「ついにやったの!? ユリウスは死んだ!?」
「い、いえ……そのような知らせは屆いておりません」
「くそっ! ほんっと使えないわね!」
ヒストリアは衛兵を蹴飛ばす。
「ヤバいもう本格的に時間がない。ユリウスをどうにかしないともうお父様の我慢の限界がきちゃう……なんとかしないと……でも、どうすれば……?」
と、そこでヒストリアは、衛兵を見て、にやりと笑う。
「あんた、ちょっと顔貸しなさい」
「え? で、殿下……一何を……?」
王は衛兵のぐらを摑んで、ぐいっと顔を近づける。
「アタシの目を見るのよ!」
カッ……!
目がり、魅了の魔眼が発する。
その瞬間、衛兵の顔から生気が失せ、ヒストリアの言うことを聞く人形となる。
「城中の衛兵を集め、このアタシの前まで連れてきなさい。早く!」
り人形となった衛兵は、ふらふらと部屋を出て行く。
「こうなったらもうなりふり構っていられないわ。兵達を魔眼でって襲わせるの。なぁに、ユリウスを殺せればいいのよ」
ヒストリアは、とても一國の姫とは思えないほど、邪悪に笑っていた。
「幸い王城には腐るほど衛兵がいるわ。人形作り放題じゃない。數の暴力で押せば、いくらユリウスが強かろうと勝てるわけないわよ……!」
……この王の過ちは、たった一つだ。
ユリウスが、どれほど強い男であるのか。
きちんと実力を把握していれば、こんな間抜けな判斷と作戦は実行しなかっただろう。
かくして、ヒストリアは國王に無斷で、王國の兵士を魅了の魔眼でり、ユリウスを襲わせるのだった。
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