《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》80.勇者、リーダーを弟に任せ迷宮に潛る
泊まるところを確保した俺たちは、いよいよ、冒険者として活することになった。
やってきたのは、街からほど近いダンジョンのり口。
「このパーティのリーダーは、ボクがやるからね!」
弟のガイアスが、仲間達を見渡していう。
「はぁ? 何勝手に決めとるん?」
「リーダーはあにうえに決まってるです」
「せや、普通、一番強い人がなるもんやろ?」
「ぐっ……そ、そんなの誰が決めたんだよ! リーダーはボクがやるんだ!」
「やれやれ……聞き分けの悪い子ぉや。なあ、ユリウスはん。言ってやってぇや」
俺は弟に近づく。
「な、なんだよ……ボクがリーダーじゃ不服なのかよ! 確かにボクはアンタより弱いけど……けど!」
「おう、いいんじゃないか」
「「「へ……?」」」
弟の肩を、ぽん……とたたく。
「リーダーはガイアス。俺はそこに異論はない。むしろ推薦しようと思ってたとこだよ」
「「「ええ!?」」」
驚くサクラたち、と弟。
「に、兄さん……なんで?」
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「え、本當はリーダーやりたくないのか? 不安なら俺がやるけど」
バシッ! とガイアスが俺の手を払う。
「兄さんもこう言ってるし、ボクがリーダーな!」
「「「えー……」」」
「みんな、頼むよ。弟に従ってくれ」
「「「はーい!」」」
かくして、弟はこのパーティのリーダーとなった。
ダンジョンに潛る準備をしていると、エリーゼが近づいてくる。
「ユリウス君、いいの? リーダーをガイアス君に譲って」
「もちろん。むしろそのために冒険者になったみたいなとこあるから」
「どういうこと?」
「俺はガイアスに、より強くなってしいのさ。そのためにこれは必要なことなんだよ。あいつじゃ不安か?」
「ううん、そうじゃないよ。ガイアス君とっても強いし、安心できるよ。ちょっととっつきにくいけどね」
俺は笑って、エリーゼの肩をたたく。
「弟を頼むよ。……さて、じゃ行こうぜダンジョン」
「兄さんが仕切るな!」
そんなふうに、俺たちはダンジョンを潛っていく。
「まあでもヨユーです。だってぼくらとっても強いです!」
「そうやなぁ。うちらユリウスはんに鍛えられてめっちゃ強いし、モンスターとの戦闘なんて苦戦するわけあらへんわぁ~」
張のない二人に対して、ガイアスはピリピリした表で言う。
「気を抜くんじゃない! モンスターが出てきたときにそれじゃ困るぞ!」
「そうだな。それに、さっそくお出ましみたいだぞ?」
俺の指さす先に、ゴブリンが5現れた。
「ははっ! 今更ゴブリンとか、ちょーヨユーですー!」
「ばかっ! ミカやめろ!」
弟の制止を振り切って、ミカエルが指を向ける。
「どーん!」
【天の矛】が発。
超高エネルギーのレーザーが、義弟の指先から出される。
ドガァアアアアアアアアアン!
「「きゃぁあああああああ!」」
レーザーはゴブリン達を確かに瞬殺した。
だがその攻撃は迷宮の天井にぶつかり、崩れ落ちてくる。
「しまっ……!」
崩落した天井は、エリーゼ達のもとへ襲い來る。
ビタッ……!
「大丈夫か、ふたりとも?」
「ユリウス君!」
俺は重力魔法で、壊れた天井を空中で止めた。
そのまま創生魔法を使って、壊れたものを元通りにする。
「助かったわぁ~……ありがとうユリウスはん」
ホッと吐息をついたガイアスは、ミカエルに聲を荒らげる。
「おまえ! なにこんな狹い場所でレーザーぶっ放してるんだ! 危ないだろ!」
「がいあす何を怒ってるです? 敵を倒したからいいじゃないかです」
「お前の攻撃は強いけど加減が効かないんだよ! そのせいで今あの二人が危ない目にあったじゃないか!」
ガイアスに指摘されて、ハッ……! とした表にミカエルがなる。
「ご、ごめんです……ふたりとも……反省するです」
しゅんっ、とするミカエルを、ふたりは許してくれた。
「兄さん! あんたなんで何もしないんだよ! あんたがいればミカエルのレーザーを止められただろ!」
「おまえは俺に止めろと指示をしなかった。パーティに命令を出すのはおまえの仕事だろ?」
「それは……」
黙りこくる弟の肩をたたく。
「いこうぜ。ほら、先は長いぞ」
俺たちはダンジョンを下へ下へと向かっていく。
しかし……。
「きゃああ! 魔怖いぃいい! こ、來ないでぇ!」
「ばかっ! 勝手に魔法使うな!」
「あかん、毒になってしもうた!」
「ああくそ! なにやってるんだよ! ばかっ!」
道中出てくる、ランクEやD程度のザコにも、かなり苦戦を強いられていた。
「がいあす、めんどーです。天の矛ぶっぱなしていいです?」
「やめろばかっ! ボクら全員殺す気か!」
敵が出てくるたびに、ガイアス達は時間を取られていた。
ハッキリ言って連攜は全くとれていない。
だが俺は口を出さない。
ややあって。
俺たちは【安全地域(セーフゾーン)】までやってきた。
ダンジョンにはこういった、モンスターのって來れないよう、ギルドが設置した安全なエリアがいくつかある。
「あかん……予想以上に上手くいかんわ……」
サクラもエリーゼも、ぐったりとしていた。
「くそっ! 役に立たないなおまえら!」
ガイアスは子2人に聲を荒らげる。
「とくにエリーゼ! モンスターが怖いならダンジョンに來るなよ!」
「ご、ごめんね……」
「ちょっとそない言い方ないやろ? 上手くいってないの、全部アンタの指示がお末なせいやん」
「うるさい! もういい! ボクひとりで行く!」
ガイアスは安全地帯から1人、出て行く。
「お、追いかけないと……」
「俺に任せてくれ。おまえたちはゆっくり休んでくれ」
出て行った弟のあとを追う。
ややあって。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
ガイアスは倒したゴブリンを、雙剣で傷つけていた。
「無駄なことすんなって」
「兄さん……」
俺はハンカチを創生し、ガイアスの頬についた返りを拭き取る。
「仲間を置いて先に行くな。それはリーダーが一番やっちゃいけないことだぞ?」
「……うるさい。あんな足手まとい、要らないんだよ。さっさとモンスターに食われればいいんだ」
ガイアスのおでこに、俺はデコピンをする。
ドガァアアアアアアアアアン!
弟は凄まじい勢いで吹っ飛び、迷宮の壁をいくつも破壊していく。
「なにすんだよっ」
ガイアスは無傷で、転移魔法で俺の元へ帰ってくる。
「弟よ、さっきの発言はさすがに看過できない。仲間を大事にしないヤツに、リーダーの資格はない」
ギリッ、とガイアスが歯がみする。
「じゃあもうあんたがやれよ!」
ガイアスが俺を睨んでくる。
弟の肩をたたいて言う。
「おまえ、自分でやるって言ったくせに、もう投げ出すのか?」
「ッ!」
「そんな無責任なやつに、貴族の當主は務まらないぞ」
「そ、それは……」
うつむくガイアスに、俺は言う。
「おまえは確かに強い。だが自分と、俺の背中以外に、何も見えていない。それが全部を臺無しにしてる」
「……兄さんが何を言ってるのか、さっぱりわからないよ」
拗ねたように言う弟を、俺は抱き寄せていう。
「周りを見て、すべきことを考えろ。そうすれば、今よりもっと強くなれる」
ガイアスは俺を見上げて、目を閉じ、俺に腕を回す。
「……強く、なれるかな?」
「なれるさ。なにせ俺の自慢の弟なんだからよ」
にかっ、と俺が笑うと、弟は淡く微笑む。
「ガイアスくーん!」
セーフゾーンから、エリーゼ達が駆けつけてきた。
「遅いから心配して……って、ええ!?」
「がいあすズルいです。あにうえとイチャイチャしてっ」
抱き合う俺たちに、義弟がプリプリ怒って言う。
「ち、違う!」
バシッ! とガイアスが俺を押しのける。
「その……ガイアス君。さっきはごめんね。足引っ張っちゃって」
ぺこっ、とエリーゼが弟に頭を下げた。
「でもわたしも……強くなりたいんだ。だからもうし頑張らせて」
サクラが弟の前に來て、そっぽを向いて言う。
「うちも、ちょっときつく言い過ぎたわ。すまん」
「……別に良いよ。ボクも、至らない部分が多かった。ごめん」
素直に頭を下げる弟に、ふたりが目を丸くしていた。
「よし、じゃあ仲直りの握手だ。ほら、握手っ」
俺は弟と、エリーゼ達の手を握らせる。
3人はちゃんと、手を握ってくれた。
「さて、弟よ。これからどうする? 引き返すか?」
ガイアスは真剣な表で、首を振る。
「いったんセーフゾーンに戻ろう。連攜と陣形の確認をする。いいね、みんな?」
エリーゼ達がうなずく。
弟は仲間達を引き連れて、來た道をいったん引き返すのだった。
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