《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》83.勇者、無自覚に魚人たちを壊滅させる
バーベキューをした翌朝。
俺は1人、海岸を歩いていた。
「早く起きすぎちゃったな……みんなが起きるまでしあるし……暇だなー」
そのときだった。
「ん? なんだ……誰か倒れてる?」
浜辺に人影があった。
近づいてみると、の子だった。
「下半が魚……【人魚(セイレーン)】か」
海に住む亜人種だ。
上半が人間で、下半が魚。深海に住むという。
「陸地に現れるなんて、何かあったのかな……?」
「う、うう……」
うっすらと、人魚が目を覚ます。
「早く……帰らないと……故郷が……」
それだけ言って、人魚は気を失った。
よく見ると、あちこち切り傷があった。
「怪我してるじゃないか。どれ」
治癒魔法でなおすと、人魚は安らかな寢息を立て始める。
「このまま置いてくのも忍びないし……送り屆けてあげるか。故郷とやらに」
転移を使おうとしたが、故郷がどこにあるか知らないので無理。
「この子ののにおいを辿っていくか」
俺は人魚をおんぶして、海に向かって【歩き出す】。
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周りに結界(バリア)を張る。
が浮遊しないように重力魔法を駆使しながら、俺は海底へと向かう。
ややあって。
海の底まで到著。
闘気(オーラ)で五を強化し、真っ暗な深海のなかも平然と歩く。
風魔法を応用し、海のなかで呼吸をしながら、俺はこの子の故郷へとたどり著いた。
「おお、立派な街だな。人魚の街って」
巖礁やサンゴを利用した、とてもしい都市がそこにはあった。
「ん? 誰かいる……あれは、魚人(サハギン)か」
2足歩行をする、巨大な魚のモンスターだ。
「確か昔は仲が良くなかったはずだけど……なんで人魚の街に魚人が?」
魚人が俺に気付くと、ぎょっ! と目をむく。
『なっ!? なぜ人間がこんな深海にいる!? どうやってここへ來た!?』
「なんでもなにも、普通に歩いて」
『そんなことができるもんか! 貴様さては、化け(もののけ)の類いだな!』
『くくっ、言い得て妙じゃないか。なぁ、勇者よ』
にいる魔王が楽しそうにつぶやく。
「人魚のの子を送り屆けにきた。こいつの両親の場所知らない?」
『なっ、そやつは【海神】の娘! いつの間に逃げやがった!?』
どうやら背負っているの子は、ウミガミさん家の娘さんらしい。
「そのウミガミさんってひとのとこ、良ければ案してくれない?」
『海神の関係者か! 死ねぇえええ!』
魚人は手に持った銛(もり)で、俺を突こうとする。
「あぶないぞー」
ボシュッ……!
銛が俺のに屆く前に、消滅した。
『なっ!? ど、どうなってやが……ぐわぁあああああ!』
銛を持っていた腕、そして魚人のが消滅した。
「あー、風のバリア張ってるから、れると危ないって忠告しようとしたのに」
俺は回復魔法【死者蘇生(レイズデッド)】を使用する。
『はぁ……! はぁ……! い、今のは……? おれは、死んだはずでは?』
「え、魔法で蘇生させたぞ? 數秒以ならノーリスクで復活させられるからな」
『ひぇっ! ひぃいいいいい! ば、化けぉおおおおおおおおお!』
魚人が超高速で、逃げ帰っていく。
「あ、おーい、おまえこの子の仲間じゃ……行っちゃった」
『勇者よ、なぜ魚人を殺さぬ? モンスターだろう相手は』
「え、人魚(このこ)の街にいるってことは、仲間なんだろ? 殺しちゃ悪いって」
逃げ帰った魚人が、大量の仲間を引き連れてやってきた。
『こいつだ! こいつがわれらを殺しに來た化けだ!』
「え、ただ仲間を送り屆けに來ただけなんだけど?」
すると魚人達が、さらに顔を青くする。
『わ、同胞(われら)を【地獄に送り屆けに】きただと!?』
『侵者だ! 殺せ! 殺せぇええええ!』
魚人達がいっせいに、俺に攻撃してくる。
銛を投げたり、酸の泡の線を吐いたり、高圧水流を飛ばしてきたりした。
バシュッ……!
だがその全ては、俺の張ってある風の結界に阻まれて消える。
「おいおいあんま騒ぐなよ?」
いまだ、背中では人魚のの子が眠っているのだ。
『さ、騒げば殺すというのか!?』
『プロだ! きっとプロの暗殺者だ!』
「え、ただの冒険者だけど?」
『噓をつけぇえええ!』
『こうなったら……おい! 寶殿にあった【魔法道】を持ってこい! それと、【王】に連絡だ!』
魚人がすっ飛んでいく。
その間も、攻撃が続いた。
「おーい、だからウミガミさん家に用事があるんだって。なんでひとの話聞いてくれないの?」
『くそぉ! 化けめぇ』
『もうしだ! もうし持ちこたえるんだぁ!』
すると魚人のひとりが、手に【寶玉】を持ってくる。
『寶殿から持ってきたぞ!』
『でかした! よし、食らええええ!』
ブンッ……! と魚人が寶玉を投げる。
攻撃ではないので、結界をすり抜ける。
「はいよ」
パクッ。
『はぁ!? く、食ったぁああああああ!?』
「うーん、あんま味くないなぁ」
『こ、古代兵を食いやがった! 何してるんだオマエ!?』
「え、だって食らえって言っただろ?」
戦慄する魚人達。
『ふ、ふん! バカめ! 腹の中で大発を起こして死ぬがいい!』
ドゴォオオオオオオオオン!
「けぷっ。うーん、炭酸きつくないこれ?」
『そんなバカなぁあああ!? それは古代兵【水弾(プルトン)】! 超強力な弾をけて、なぜ平然としてるぅううううううううう!?』
「え、これ弾だったの?」
『くくっ、頑強な勇者のを、こんなオモチャが傷つけられるわけなかろうが』
魔王が愉快そうに笑う。
「勝手に兵食って悪いな。ほら、返すよ」
俺は創魔法で、同じを作り出す。
『遙か古代の兵を、いとも容易く作り出すだとぉ!?』
『て、撤退だ! こいつ……我らを絶やしにするつもりだぁあああああ!』
そのときだった。
『騒々しい! 靜かにせよ!』
『『『【魚海王】さま!』』』
の大きな魚人が、奧からやってきた。
頭にサンゴでできた王冠をかぶっている。
『ふっ……なんだ、部下が大慌てしているから、悪魔や化けの類いがいるかと思いきや……下等生(にんげん)ではないか!』
魚海王とやらが、俺を見下してくる。
『これは傑作だ! 海神の娘め。牢を逃げ出しどこへ行ったと思いきや! 頼れるはこんな非力なサルしかおらぬとは!』
「どうでもいいけど、早くウミガミさんって人のとこに連れてってくれない?」
『良かろう……すぐに連れて行ってやる。地獄へなぁ……!』
俺をめがけて、魚海王が腕を振る。
だが、俺の結界に阻まれて、弾かれる。
バキィイイイイイイイン!
『そ、そんなバカな!? 上級魔神に匹敵するこのわれの拳をはじくだと!?』
「え、上級魔神程度じゃこの結界壊れないぞ?」
『くっ! こうなったら我が奧義! 食らえ、【海王拳】!』
魚海王の両の腕が、高速回転する。
それは渦となって、周囲の建や地面を削り取る。
勢いをつけて、魚海王の両のこぶしが、俺に向かってくる。
俺は剣を創生し、片手で、軽く振る。
「てい」
ズォオオオオオオオオオオオオオ!
『ひぃいいいいい! う、海が割れたぁああああああああああああ!?』
周囲に水はなくなる。
空が見えるようになった。
「渦なんて作ったら、せっかくのキレイな建が壊れて臺無しになるじゃないか」
水がなければ渦は発生しないからな。
『ひぇええええええ! 化けぉおおおおおお! 怖いよぉおおお! ママぁあああああああああ!』
『『『【魚海王】が逃げたぁ!』』』
文字通りしっぽを巻いて逃げる魚海王とやら。
「さて……と。おまえら」
『『『すみまっせんでしたぁあああああああああ!』』』
「この子の家を……って、行っちゃった。やれやれ、騒がしいやつらだ」
魚人どもが街からいなくなった、ちょうどそのタイミングだ。
「う、うう……」
背負っていた人魚が、目を覚ましたのだ。
「おう、起きたか」
「ここは……そ、そうだ! 人間様! どうか願いをお聞きください!」
「なに?」
「実は我が人魚の街が魚人によって占拠されているのです! 我が父である海神は捕らえられてしまい、壊滅寸前なんです!」
「へー」
「ですからわたしと一緒に街をお救いに……って、ぇええええええええ!?」
人魚は目の前の景を見て、驚愕の表を浮かべる。
「魚人が……いない! 1人殘らず! ど、どこへ……?」
「え、さっき帰って行ったぞ?」
「そんな! 魚海王は!?」
「そいつも逃げてったな」
愕然とした表で、人魚が俺を見上げる。
「あなたは……何者なのですか?」
俺は彼を見て答える。
「え、ただの人間だけど?」
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