《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》91.勇者、弟たちと花火をする

俺が天界から帰ってきた、次の日の夜。

同好會(サークル)メンバーたちと、浜辺で花火をしていた。

「あにうえー! 見て見てー!」

ミカエルは両手に花火を持ち、ぐるぐると回す。

「おー。あぶないから振り回しちゃだめだぞー」

「わかってるですー!」

義弟はそのまま砂浜を走っていく。

サクラとエリーゼは、しゃがみこんで線香花火をしていた。

「…………」

ガイアスはビニールシートに座り、ぼんやりしている。

「どうした、弟よ。花火しようぜ」

「うん……」

俺は弟に花火を手渡し、魔法で火をつける。

先端から鮮やかな火花が散る。

「あー……その、弟よ。俺、またなにかやっちゃったか?」

ガイアスは目を丸くする。

「なんでわかったの?」

「おまえがぼんやりしてるときって、たいてい俺のこと考えてるだろ?」

「まあ、そうなんだけどさ。なんかその言い方いやなんだけど」

「なんでだよ?」

する乙みた……なんでもないよ! バカ兄さん!」

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よくわからんが、また怒られてしまった。

「で、なにやったっけ?」

「……わかんないけど、兄さん。昨日、何かしたでしょ?」

「え、何で知ってるんだ?」

昨日の夜。

ラファエルが全人類を一瞬で殺す神を使った。

幸い夜だったので、ほとんどの人は、何が起きたのか気づいていないはずだ。

「一緒にいたエリーゼたちがさ、ぱたって倒れたんだ。……死んでた。その次の瞬間には生き返ったけど」

沈んだ調子で、ガイアスが言う。

「あれって、誰かの攻撃をけたんだよね。それを兄さんが助けた。違う?」

「おまえ、天使(ラファエル)の神が効かなかったのか」

「天使……そうか。あれは天使の技だったんだ。兄さんを真似て、24時間防結界を展開させておいたから、助かったんだね、ボク」

ガイアスは、実に悔しそうに、下をかみしめる。

「……なにも、できなかった。仲間の命を、理不盡に奪われたっていうのに」

ぽた……と弟の瞳から、涙がこぼれる。

花火が消える。

俺はガイアスの肩に手を回して、抱き寄せる。

明かりのない海辺。

さざ波と、遠くではミカエルの楽しそうな聲がする。

弟はしばし、俺にをゆだねていた。

その頭を俺はなでる。

長したな、ガイアス」

「……防結界のこと?」

「違う違う。そこじゃない。仲間を、大切にできるようになったじゃないか」

「え……?」

青い目を丸くするガイアスに、俺は言う。

「守れなくて悔しいって、そう思うくらいには、エリーゼたちが大事に思ってるんだろ?」

「それは……うん」

「それでいいんだ。それが、お前に足りなかったものだよ」

合宿前、ガイアスは自分と俺に追いつくということしか考えていなかった。

しかし今の弟は、エリーゼたちを、仲間を守れなかったことを、心から悔しがっていた。

「誰かのことを大切に思い、その人たちを守りたいと思う心。それをお前はに著けた」

「守りたいとおもう……心? そんなものが、重要なの?」

「ああ。ただ己の為だけに力をつけ、技を磨いても、何の意味もない」

利己的に鍛えていくと、ある一定の所までは強くなれるだろう。

けれど、そこに何も【載ってない】剣は、思いの乗った剣と比べて、はるかに弱い。

「おまえはこの合宿で答えを得ただろ? に著けた力の使い方を」

「…………」

ガイアスは顔を上げる。

「えりちゃん見て見て! 10連花火!」

「わー! 駄目だよミカちゃん! 危ないって!」

「だいじょうぶやん? 天使がこの程度で火傷なんてせーへんやろ?」

遠くで無邪気に笑う仲間たちを見て、ガイアスは目を閉じる。

「ボクは何も見えていなかったよ。兄さんを超えること以外、どうでもいいって思ってた。けど、間違いだった」

弟は決然とした表でうなずく。

「ボクは、守れるようになりたい。もう二度と、誰の命も、理不盡に奪われないように」

まっすぐに、ガイアスは答える。

「もっともっと、強くなりたい」

「うん……それで正解だ。また強くなったな、さすが俺の自慢の弟だ」

俺は弟の頭をなでる。

ガイアスは、嬉しそうに笑った。

「でもね兄さん。守りたい命っていうのは、ミカたちだけじゃないんだよ」

「え、どういうことだ?」

照れくさそうに、ガイアスは言う。

「いつか、兄さんのことも、守れるようになりたいんだ」

そんなこと、はじめて言われたから、驚いた。

俺は、ずっと先端に立って、誰かを守る立場にいたから。

みんなの命を守るのは、勇者(おれ)だけに與えられた、天命だと思っていたから。

「って、調子に乗ってるかな」

「いいや……」

俺は笑顔で、ガイアスを抱擁する。

「待ってるよ。いつかおまえが勇者(おれ)を追い越して、誰よりも強くなってさ。俺がピンチの時に、助けてくれよ」

ガイアスは目を丸くするが、微笑んで、俺のに手を回す。

「もっとも兄さんがピンチになる場面なんて、想像もつかないけどね」

「そんなことないさ。期待してるぜ、しの弟よ」

「……ばか。変なこと言うなよ。ほんと、馬鹿なんだから」

頬を赤らめて、うつむいていた……そのときだ。

「「「じー……」」」

仲間達と、バッチリ目が合った。

「あ……えっと……これは、その……違うからね!」

ガイアスは顔を真っ赤にして言う。

「「「ずるーい!」」」

エリーゼ達がいっせいに、俺に抱きついてきた。

「がいあす! ずるい! まーたあにうえとイチャイチャしてー!」

「べっ! 別にイチャイチャなんてしてないだろ! 変なこと言うなばかミカ!」

サクラがニヤニヤと笑う。

「ユリウスはん。より弟くんとイチャイチャしている方が多いんとちゃう?」

「してない! 斷じて!」

「ほんまにー? せやかてガイアス、あんたずっとお兄さんに抱きついたままやん。ガチのヤツやん」

弟は顔を真っ赤にして、俺を突き放す。

「ガイアス君、お兄さんと仲良しだよね!」

「がいあすの仲良しは何だか斷の匂いをじるです?」

「変なこと言うなよもぉおおおお!」

ガイアスは怒って、エリーゼ達を追いかける。

仲間達は笑いながら、弟から逃げていた。

「…………」

俺は手のひらに、火の魔法を展開する。

軽く放り投げると、夜空に大の花火が咲き誇る。

「わーきれー!」

「さっすがユリウスはん! 蕓達者やなぁ!」

立ち止まって、仲間達が花火を見上げる。

俺はしゃがみ込んで……笑っていた。

「あにうえ? どうしたです?」

ミカエルが俺の隣に座る。

「いや……無量って言うかさ。こうして友達と一緒に花火見るの……なんか、いいよな」

「もう、何これで終わりみたいなこと言ってるんだよ、兄さん」

ガイアスが笑いながら、俺に近づいて言う。

「夏は始まったばかりじゃないか」

「そうです! まだまだ遊び足りないですー! あにうえ、一緒にいっぱいたのしいことしよ? ね!」

ふたりの弟を見渡し、俺はニカッと笑う。

「そうだな。俺たちの夏は……まだまだこれからだ!」

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