《【書籍化】落ちこぼれだった兄が実は最強〜史上最強の勇者は転生し、學園で無自覚に無雙する〜》98.勇者、夏バテの弟を介抱する
肝試しから數日後。
早朝。
俺が目覚めて、屋敷の庭へ行くと、すでに弟が訓練をしていた。
「せやっ! せいっ!」
俺は離れた場所で、弟の剣舞を見やる。
弟の雙剣は、日に日に速く鋭くなっている。
「ふぅー……。せやぁあああああ!」
ガイアスの剣は、虛空を切り裂く。
空間のが開く。
「虛空剣を完全ににつけてるな」
だが、やはりというか、弟の剣は、彼の力に耐えきれず壊れる。
「ふぅー……」
ざっ……! と今度は、突きの構えを取る。
凄まじい魔力が、ガイアスの剣先に集中する。
魔力が、黒くる。
そのまま、突きを放とうとする。
ぱぎぃいいいいいいいいいん……!
技を出す前に、剣がぶっ壊れた。
「【崩壊剣(アルティマ・ソード)】までにつけてるのか。やるじゃあないか。なぁ、セイバー?」
俺はガイアスを見たまま、背後に立つ男に問いかける。
「私の気配に気づかれるとは、さすがはわが創造主」
「なんで気配消して近づいてきたわけ?」
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「後ろから、朝の抱擁をと思いまして」
ニコニコしながら、セイバーが隣に立つ。
「なぜガイアスに聲をかけないのですか?」
「訓練中だし、邪魔しちゃ悪いだろ」
「……前から気になっていたのですが、ユリウス様は、手取り足取りと教えないのですね」
「それじゃ勇者(ユージーン)2號を作るだけになるだろ?」
俺はガイアスを見て笑う。
「あいつはガイアス=フォン=カーライル。勇者ユージーンじゃない。俺の映し鏡を作るんじゃなくて、弟は弟のまま、最強になってしい。そのための手伝いがしたいんだ」
「……立派なお考え、誠に服いたしました」
セイバーが聲を震わせながら、俺の前に跪く。
「その無雙の力に恥じぬ、高潔なる神。やはり、わが使い手にふさわしい。ぜひとも私のマスターになってください」
「駄目だ。おまえのパートナーはガイアスだ」
「……左様でございますか」
実に殘念そうに歯がみすると、セイバーは立ち上がる。
「おまえも弟のこと、実は認めてるんだろ?」
「…………」
「どうした、目を丸くして?」
「……やはり我が創造主は、慧眼であられると思いまして」
セイバーはガイアスを見やる。
彼の剣はすでに常人の目では追えないほど速い。
橫に剣を振れば嵐が巻き起こり、縦に振り下ろせばかき消える。
「才能は認めましょう。ガイアスは天才です」
「ほら、認めてるじゃん。どうして力を貸してやらないんだ?」
「気にくわないのですよ。彼の、自分ひとりで強くなろうとする態度が」
ふんっ、とセイバーがそっぽを向く。
「なんだ、拗ねてるのか?」
「い、いえ……そういうことではなくてですね」
セイバーが目を泳がせる。
「弟もかたくななヤツだからな。し歩み寄ってやらんと心を開かんぞ」
「……しかし未だ道扱いなのは承服しかねます」
「お前も思ったより強だなぁ。似たもの同士だよ」
そのときだった。
ドサッ。
「なっ!? が、ガイアス……どうした!?」
突如として、弟がその場にへたり込んだのだ。
俺は慌てて近づく。
「良かった……ただの熱中癥だ。セイバー! 水を……」
突如、俺とガイアスは、水をぶっかけられた。
セイバーの手には、ホースが握られていた。
俺はガイアスを連れて、屋敷の部屋へと戻る。
濡れた服を著替えさせ、ベッドに寢かせる。
部屋の中の溫度を下げ、氷嚢を用意し、脇の下など太い管が通っている場所にあてがう。
そのほか醫學技能を使って、熱中癥対策を施した。
「醫學の心得もあるのですね」
「まあケガすることも、ケガ人をなおすこともしょっちゅうあったしな」
「さすがは我が創造主。萬蕓に秀でているのですね」
心したようにセイバーがうなずく。
「あとはこれで安靜にしていれば大丈夫だろう」
俺はホッと一息つく。
「ユリウス様。看病は私に任せて、シャワーをあびてきてください」
「…………」
俺はセイバーを見やる。
「どうか、いたしましたか?」
「いや、じゃあ任せた」
俺はいったん部屋を出る。
風呂にって、新しい服に著替え、また弟の部屋へと戻ろうとする。
『うう……ここは……?』
『目が覚めましたか?』
部屋の中から、セイバー達の會話が聞こえる。
『ボクは……どうなったんだ?』
『熱中癥で倒れているところを、ユリウス様がここへ運び、手當てしてくださったのです』
『そっか……』
中にるのをやめて、俺はその場を離れる。
相棒としっかり向き合ってしいと思ったからだ。
「夏バテに効く朝ご飯でも作ってくるか」
俺は廚房へ向かいながら、ふたりの會話を聞く。
闘気(オーラ)で聴覚を強化すれば、遠くの聲も聞こえるようになるのだ。
『兄さんはどこ?』
ガイアスとセイバーの會話を聞く。
『諸用で席を外しております。後の面倒をお兄様から任されましたので、致し方なく看病いたしております』
『相変わらずムカつくな……誰に似たんだか』
廚房に到著し、俺は料理を作る。
しばし沈黙が流れる。
ややあって、セイバーが口を開いた。
『……申し訳ございませんでした』
『な、なんだよ、急に……』
『練習メニューを々きつくしすぎました。そのせいで熱中癥になってしまった。私の責任です。すみませんでした』
ガイアスは、戸ったじで言う。
『急に殊勝になるなよ……調子狂うな』
『まあ創造主様に歩み寄ってみろと言われなければ、あなた程度に謙虛な態度は取りませんでしたが』
『この野郎……!』
ギリッ、と歯がみしていたガイアスが、ため息をつく。
『おまえが気にすることじゃない。こんな暑い中、水分補給を怠った、ボクのせいだ。おまえが気に病むことじゃない』
『おや、珍しい。あなた様も素直に頭を下げるのですね。可いところもあるじゃないですか』
『口の減らないクソ野郎だなおまえ……はぁ……』
仲良く會話する傍ら、俺は料理を作る。
『練習メニューにも別に不満はない。おまえはクソドSのばか剣だけど、お前のおかげでどんどん剣が上達している。そこは……まあ謝してるよ』
できあがった料理を持って、俺はできる限りゆっくり歩く。
『驚きました。あなた、人に謝する心を持っていたのですね』
『ほんっっと失禮だな!』
『失禮なのはお互い様でしょう?』
また、沈黙が流れる。
俺は心の中で頑張れ、素直になれよと弟に言う。
『その……さ。セイバー。ごめん』
『何についてですか?』
『初めてお前にあったとき……おまえにひどいこといったろ。道には心がないってさ』
すっ……とガイアスが、頭を下げたような気がした。
『すまなかった、セイバー。謝るよ』
『……なぜ、急に謝罪を?』
『急にじゃないよ。前から謝りたかったんだ。ちゃんと稽古をつけてくれるおまえからは、善意をじた。人の意思を確かにじたんだ。……おまえはちゃんとした一個人なんだって、思ったよ』
『ま、まったく……ならばすぐに謝れば良いものを。愚鈍にも程があるのではないですか?』
セイバーは、普段通りの口調だった。
だがしばかり、聲音が弾んでいた。
喜んでいるように、俺にはじた。
『わ、悪かったよ。言い出すきっかけがなかったんだ。でも……聲がさ、聞こえた気がしたんだよ』
『聲?』
『兄さんがさ、頑張れ、素直になれよって』
え、あれ?
心の聲、屆いてたのか?
どうやら無意識に、念話(テレパシー)を送っていたみたいだ。
『……なるほど。さすがは我が創造主。仲直りのきっかけを與えるために、ふたりきりにしたのですね』
『え、な、なんだよ?』
『いいえ、なんでもございません。そろそろ、ガイアスの大好きなお兄様が、帰ってくる頃合いだと思ったまでです』
『べ、別に兄さんのことなんか全然好きじゃないんだからね! ふんだっ!』
あれ……? とガイアスが言う。
『セイバー、おまえ……今ボクのことを……ガイアスって……』
『勘違いなされぬよう。別に私は、あなたに心を許したわけではございません。使い手であることを認めたわけでもない。誤解なきよう』
俺は苦笑して、弟の部屋のドアを開ける。
「弟よ、元気になったか?」
「兄さん……」
「朝ご飯作ってきたぜ。これ食って元気つけて、訓練頑張れ」
俺はテーブルの上に、料理をのっける。
「そんじゃ、あとは頼むぞセイバー。ガイアスにご飯食べさせてやってな」
「なっ!? そんな恥ずかしいこといいよ!」
「おまえまだ萬全の狀態じゃないんだから無理すんな。じゃ、頼む」
「お任せくださいませ、ユリウス様」
俺は手を振ってその場を離れる。
「ちょっと兄さん! 待ちなよ!」
「ガイアス、座りなさい。ほら、朝ご飯が冷めてしまいますよ」
「ああもう自分でできるよバカ剣!」
俺はうれしかった。
弟とその相棒が、し仲良くなれたからな。
仲良きことはしきかな、である。
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